憂「おはようお姉ちゃん朝だよ。起きないと遅刻しちゃうよ?」

唯「ふにゃ……」

憂「ここにタオル置いておくね。朝ご飯はもう出来てるから」

唯「いつもありがとう憂~……」

憂「気にしないでお姉ちゃん。先に下で待ってるからね」

唯「あい~」

唯「(じょおおおだんじゃないッ! よくもまぁ我が妹ながら毎度毎度私にナメきった態度を取ってくれるッ! 私を介護を必要としたジジィとでも思っているのか!?)」

唯「(しかし! それに坑えず甘えている私がいるのもまた事実ッ! 情けないィ……)」

唯「(覚えていろ憂ィ! いつか証明してやるからな! 私はやれば出来る子なんだと! 普段はやらないだけなんだと!)」

唯「(しかしどうやって証明する? 恥ずかしい話だが今の私では憂に勝る可能性は髪の毛一つほども無い)」

唯「(だが努力している時間はなぁい! なぜならば無いからだッ!)」

唯「(ならば残された手段はただ一つ……)」



唯「人間を……やめるッ!!」

あれから私は調べに調べた。

楽して力を得る方法を、何者にも負けない圧倒的な力を得る方法を。

しかしそんなものはいくら文献を紐解こうが見つからなかった。

当然だ。たかだか一般の女子高生なんぞに見つかるようではこの世は崩壊してしまう。

だが私は諦めなかった。

憂に勝ちたい。その一心でただただ調べた。

そして私はある一冊のアルバムを軽音部の部室で見つけたのであった。

唯「何をやっているんだ私は……。こんな物置を探した所で力を得られるはずが無いのに」

唯「しかしそれは私がそれ程までに焦っているということッ!」

唯「この一週間、方々で手は尽くしたが何のヒントも得られなかったという事実が! 私を焦らせているッ!」

唯「クソッ! 忌々しい!」ボギャアァ!

唯「うん? なんだこれは……アルバム?」

唯「ずいぶん薄汚れているな……」

唯「こ、これは!?」


私が目を落としたページに残されていた一枚の写真。

そこには奇妙な面を付け、髪を振り乱しながらギターをかき鳴らす女が写っていた。

それだけで目を引くには充分だったが、特に私の目を引いたのはその女が付けている面だった。

何故か心が惹かれたのだ。

唯「何故だ? 何故かは分からないがこの面……欲しい!」

唯「この私の心を捉えて離さない! それはつまりこの面にこそ力を得る何かがあるということッ!」

唯「面! 手に入れられずにはいられないッ!」

ガタッ

唯「!」

澪「あれ? 唯来てたのか。ここで何やってるんだ?」

唯「え? あ、ああ……何やってたんだっけ? あはは」

澪「なんだそりゃ」

唯「(しまったッ! とっさにアルバムを後ろ手に隠してしまった!)」

唯「(これでは私がまるでやましいことをしているみたいではないかァーーーッ!?)」

唯「(そしてその事実をもし突かれようものなら私はたちまちコソコソ何かをやっていた女子高生というレッテルを張られるに決まっている!)」

唯「(アキヤマァ・ミオー……! この屈辱、忘れんぞ!)」

澪「……なんでそんなに怖い顔してるんだ?」

唯「してないよぉ~」

唯「(頼むからさっさとここから出ていけ! 私がこうまで懇願しているんだぞッ! 早くしろ!)」

澪「ま、いいか。向こうでムギがお茶をいれてるから唯も早く来いよ」

唯「うん、楽しみだな~♪」

唯「……」

唯「フシュウウウウウ……」

唯「危なかった……すんでの所で私のプライドが砕け散る所だった」

唯「しかし思わぬ収穫だ。まさか自分の中で最も身近とも言える場所に答えが隠されていようとは」

唯「フッ……フハハハハハハハハハハァ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

唯「UIYYYYYYYYYYーーーーーーッ」

澪「さっきからうるさいぞ、何やってるんだ?」

唯「YYイィィィ!? ッホ!ゲホッ!ゴホッ!」

唯「ち、ちょっとボーカルの発声練習を……」

唯「さて、この写真に写っただが……どうにも見覚えがある」

唯「それもよく知っている人物のような気がするな」

唯「ふむ」

コンコン

唯「はい?」

憂「入っていい? お姉ちゃん」

唯「いいよ、どうしたの?」

憂「学校から電話。お姉ちゃんにだって」

唯「私に? なんだろう……」

憂「ま、まさかお姉ちゃん……何かやったの……?」

唯「そ、そんなこと覚えが無いしやってないよ! 多分連絡網とかじゃないかな?」

憂「そ、そうだよね、ごめんなさい。でも私はお姉ちゃんのことが大好きだしずっと味方だからね?」

唯「ありがとう憂。私も憂のことが大好きだよ!」

憂「えへへ……//」

唯「ははは……」

唯「(……このYUIが憐れみを受けただと?)」

唯「(恐らくそれは貴様が私に勝っているという自信から来たものだろうが……)」

唯「(調子に乗るなよ! いつまでもお前の足元に這い蹲っていると思うなッ!)」

唯「(現に私は手に入れた! 不確かながら力へ至る道筋をッ!)」

唯「……」

憂「電話、出ないの?」

唯「出るに決まってるだろう!」

憂「えっ?」

唯「で、出るよ~」

憂「……」

憂「(一瞬、お姉ちゃんの口調が変わった……?)」

憂「(な、なんだったんだ…?…)」

唯「はい、もしもし……」

さわ子『もしもし唯ちゃん?』

唯「なんださわちゃんか、どうしたのさ?」

さわ子『貴様見ていたなッ!』

唯「!?」

さわ子『見たんだろう? 私のアルバムを……』

唯「なんのことだか……」

さわ子『お~っとォ、とぼけるのは無しだぜユゥイィィィ……』

さわ子『私には何もかも分かっている』

唯「(な、なんだこの電話越しからでも伝わる力はッ!?)」

唯「(嫌だッ! 怖いィ! 逆らってはいけないと本能が告げているッ!!)」

唯「み、見ました……」

さわ子『やっぱり? だと思ったわ。今日の唯ちゃん挙動不振だったし、何より私が処分しようとしていたアルバムからあの写真だけ無くなっていたもの』

さわ子『どうせ良からぬことでも考えたんでしょう?』

唯「良からぬ? 違うね、私は純粋に力を求めているだけだ」

唯「私はあの面が欲しい」

さわ子『どうして?』

唯「どうして? どうしてだとォ!?」

唯「お前に分かるかァーーーッ!? 子供の頃から妹と比べられ、出来ない方だと評価され続けた私の気持ちがッ!」

唯「あの時の経験は私に巨大なコンプレックスを植え付けたッ! 見返したいと常に願い続けながらそれが叶わぬ絶望の日々!」

唯「私は力が欲しい! けして憂に負けることの無い過ぎたまでの力をッ!」

唯「それにはこの体では不十分なんだよ、この貧弱な体ではッ!」

さわ子『それであの写真に目をつけたのね』

唯「そうさ、理由は分からないがあの写真に写っていた仮面には私を惹きつける何かがあった」

唯「直感で感じた。この仮面こそに私の求めているものがあると!」

さわ子『いいセンス持ってるじゃない』

唯「なぁ、あのアルバムの持ち主はさわちゃんなんだろう?」

唯「ならば知っているはずだ、あの仮面について!」

唯「なんでもいい教えてくれ! あの仮面はなんだ!? どこに行けば手に入る!?」

さわ子『その質問には答えない』

唯「なんだとッ!?」

さわ子『焦らないでってこと。明日の朝、部室に来なさい』

さわ子『きっと唯ちゃんの期待に応えられるはずよ』

唯「そ、そうか……」

さわ子『貴方の力に対する貪欲な願い、確かに聞き届けたわ』

さわ子『それじゃあね♪』

唯「うん! ばいばーい♪」



憂「……」

憂「(き、聞いてしまった……!)」

憂「(あんなに優しくて頼れるお姉ちゃんがそんなことを考えていたなんて……!)」

憂「(それにやはりさっきお姉ちゃんが一瞬放った乱暴な言葉遣いは聞き間違いでは無かったッ!)」

憂「(わ、私の恐ろしい想像がもし当たっているなら……)」

憂「(あれこそがお姉ちゃんの本性……!?)」

憂「(違う! 何を考えているんだ私は!)」

憂「(お姉ちゃんと過ごした16年間を疑うと言うのかッ!?)」

憂「(辛く厳しくも楽しかった現在進行形で進んでいる青春の日々をッ!)」

憂「(疑う、というのは人間の行いの中で最もやってはいけないこと! 否定は何も生み出さない!)」

憂「(私は信じる! きっとさっきの電話も電話越しに劇の練習とかやってたんだ多分!)」

憂「お姉ちゃん!」

唯「……聞いていたのか!?」

憂「な、なんのこと? 私はたったいま上から来たんだよ」

唯「なんだそっかぁ、ちょっと学校で恥ずかしいミスしちゃってさ。もし聞かれてたら恥ずかしいなって」

憂「もお~、何したのお姉ちゃん?」

唯「言えません!」ふんす!

唯 憂「あはははは!」

唯「(ウゥゥイィィ……! 笑っていられるのも今だけだ)」

憂「(お姉ちゃん……私は信じるよ)」

唯「(もう平沢姉妹の駄目な方とは呼ばせん!)」

憂「(けど、もしやっぱり今のは全て真実で……)」

唯「(私は明日力を得る! そして見事使いこなして見せた……)」

憂「(私がお姉ちゃんを知らず知らずに傷つけてしまっていたのなら……)」



唯 憂「(その時はッ!!!)」ズギャーンッ!


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