エピローグ!
和『……二時間!残念。あなた達は、乗客を救えなかった。』
和が死んだ後、私たちは力なく座り、画面から目を背けていた。誰も言葉をかけるものもいない。
和『……これであと4時間後に、成田につく。ねえ、みんな、まだ遊びたいかしら?』
和の問いかけに誰も応じない。和はもう死んだ。
工具を使って壊された和の骸は、静かに席に置かれ、それに触れるものもいない。
和『……どうやら、私は死んだようね。
でも、あなた達は生きている。』
和『……ウイルスに侵された体で、日本の地を踏む?
天然痘のパンデミック、あなた達は英雄になれないのよ?
まだ遊びたいなら、返事をして』
律が、一番疲れているように思われた。虚ろな目をして、和の骸を律だけが見つめている。
ワクチンの番号はB。それだけが私の頭の中にこびりついたままだった。
『当機はただ今、日本の上空を飛行しております。
これより高度を落としますのでシートベルトのご着用をお願いいたします』
無気力な機長のアナウンスが響く。
唯「ねえ。りっちゃん。ワクチンを打って。
りっちゃんは、生きるのにふさわしいよ……今まで本当にありがとう。」
紬「私からもお願い。りっちゃん、ワクチンを打って。
私たちの分も、これから生きて。幸せに……生きて……」
梓「……律先輩、ありがとう。本当に、ありがとうございました。
私は、きっとあなたに出会えたから、救われたんです……」
澪「……律。私からも…みんな。私は、もうここで死ぬ。
本当にありがとう。天国で待ってるよ……この体、生き残ってもみんなに迷惑をかけるだけだ」
唯「澪ちゃん……」
私は、Aのシールが貼ってある注射器を取り、自分に打つ。シアン化カリウム。
唯も、ムギも梓も、B以外の注射器を取り、自分に打つ。意識を失うようにして倒れていく。
律はそれを見届け、静かに立ち上がり、Bの注射器を取り出す。
それを自分に打つ。そうだ、全てはそれでいいんだ。
律「……楽しかったよ、ありがとう」
彼女は最後にそうつぶやいた。
和『……おかえりなさい。日本に到着、おめでとう。
あなたは英雄よ。シャワーを浴びたら、服を着替え、ドアを出て、エントランスへ向かうのよ。
協力機関の方が迎えに来ているから。あなた達のことは丁重に扱うよう、指示してあるから安心して。
まず家族に会いたいだろうけど、しばらくはホテルで暮らしてもらうわ。
機内は十分に殺菌しておくから、ウイルスが広がる事はない。
私は、自分の名誉と魂にかけて誓うわ。あなたに自由と、身分を保証する。
本当におめでとう。あなたは無事、英雄となったのよ。人類を救ったのよ!』
私は静かに立ち上がり、全てが行われたファーストクラスを後にする。
横たわる5つの友の死体を踏み越えた。
虐殺が行われたエコノミークラスは見たくもなかったが、
シャワーを浴びて空港へとつながる通路へいくには、そこを通らなければならない。
全ての客は死んでいた。凍りついていた。
私はよろめきながら、飛行機を後にし、地上へ降りる。
明るいエントランス・ホール。私は生きている。
秋山澪は英雄なのか?シールを貼り替え、ワクチンを手に入れた。
それ以外、私は何もしていない。何かしたのは、他のみんなだ。
―いや、あなたは爆弾の承認をしたのよ、澪―
耳をつんざく爆音。私は振り返る。
誰だ?和か?和のいう、協力者?
いいや、まだプラスチック爆弾の承認をしていなかったのは……
律か?律は怪物だ。律は全て読んでいた。でも……まあ、いいか。
この世にワクチンを打った人間は私一人。
終劇
最終更新:2013年01月05日 20:41