唯「どういうつもりなんだろうね、和ちゃん。」

律「……」

梓「……ここまでやって、死ねってことですか。意味がわかりません。」

紬「……次の選択を待てば…ねえ、和ちゃん!質問!次はどれくらい待てばいいの!」


和『……ムギ。

  ……その質問には答えかねるわ』


紬(何それ。じゃあ、この爆弾が最後かも知れないって事……それはないと思うけど……

  この禍々しい死神と、いつまで向きあえばいいの?)

澪「……和。質問だ。この天然痘ウイルスは、ここ以外どこにもないんだよな。

  もう二度とこんな事やらないんだよな?」


和『……澪。……良い質問ね。

  ……明日、あなた達から見て昨日、

  アメリカとロシアの研究施設は秘密裏に、保持していた天然痘ウイルスを破棄する予定よ。

  他の国・組織の保有天然痘ウイルス株も、私が責任を持って破棄させた。

  私たちは最後の感染者。そして最初の感染者。英雄になるためには最後の感染者になるしかない。

  さあ、頑張って!勇気を!彼女たちにもっと光を!』


澪「おい!もう二度とこんな事はやらないのか、と聞いている!」


和『……澪。

  ……答えはイエス。』


澪「魂をかけて誓え!そんな紋切り型の答えは求めてないんだ!

  絶対に、二度とこんな目にあう人間を……」


和『……澪。

  ……答えはイエス。

  ……答えはイエス。

  ……誓うわ。あなたに…ザザ……

  ……答えはイエス。

  ……誓う……ザザ…‥

  ……答えはイエス。

  』


澪「なあ。もうやめにしないか?」

唯「それはどういう意味?澪ちゃん。」


澪「ハハ。もう疲れた。突然の事で頭がこんがらがって……何が正しいのかもわからなくなって……

  誰を信じていいかも……ここでこの凶悪なウイルスごと葬れるなら、私の命なんて安いもんだろ……

  だってさ、これから先、私の人生で、こんな人類の為に役に立つ事なんてないんだ……

  普通に結婚して、子供を育てて、毎日家事をして、テレビを見て、

  流行りのものにはまって、年をとって、一人ぼっちになって

  死んでいく……

  そんな人生の最後に比べて、ここで死ねば……たくさんの人を救える

  なあ、みんなも子供の頃、ヒーローに憧れたんだろ?私は、今、そんな気分だよ」


唯「み、澪ちゃん!待って、早まっちゃ……」

紬「……私も。もう。澪ちゃんの気持ちがわかる。

  きっとここから先、もっと過酷な選択しかないわ。

  あの約束が本当かもわからない。

  だけれども、今私達にできるのは、ここでウイルスを食い止めることじゃない?」



ピ。



ムギが手を置いた。私も、ムギの手の上から、重ね合わせるように画面に手をおき、

ムギが手をゆっくり引くと、画面が音をたてた。

私たちは手を握り合った。



梓「ちょ、待って下さい!澪先輩。さっきはワクチン打とうとしてたじゃないですか!自分だけ!」

律「……」

梓「それなのに、それなのに、なんて不合理な…」

澪「……梓。きっとさっき和が言っていたとおりだと思う。

  私は早く死んで楽になりたかったんだ。エゴイストだと思う。でも……」

梓「なら、この飛行機の他の無実の一般人はどうなるんですか!?

  さっき、律先輩が聞きましたよね。他に客がいると。

  こんな爆弾爆発させたら、絶対飛行機ごと落ちますよ。

  あの人達は無実だ。何もしていない!私たちは殺人鬼になろうとしているんです!」


澪「……ごめん、みんな……でも……」

紬「……ごめんなさい。みなさん。……けど、私達だって、何もしていない。

  何もしていないのに、こんな酷たらしい目に合わされようとしている」

律「……」

唯「ねえ。あずにゃん。あずにゃんも気がついているんでしょ?私たちは決して救われないって。

  私たちは誰も悪くない。悪いのは、和ちゃんと、その裏にいる大人たちだ。

  こんな理不尽な目に合わされているけど、一体どうしたら助かるのかもわからないけど、

  私達にできること、今出来ることは、逃げているだけかも知れないけど、

  ここで感染を食い止めることなんじゃないかな?」






澪「ゆ、ゆい~」ポロポロ

紬「ゆいちゃん……」ポロポロ

唯「ね。何も怖くないよ。此処から先、更に残酷な遊びに付き合わされる方が、絶対に嫌だよ。」

梓「ゆ、ゆ"い"ぜん"ばい"……許して…グズン……

  ゆるじてもらえまずかね……あの人達に……パパとママに……」

唯「うん。あずにゃん。いいこいいこ。

  大丈夫。きっと。大丈夫。私たちは。わかってくれるよ、神様は」

梓「みおぜんばい……ヒッグ、ヒッグ」

澪「あずざ~、不甲斐ない先輩でごめんな」ダキ



ピ。



梓「むぎせんぱい……押しました。これで……」



しーん


澪「りつぅ~どうした?」

律「……」

唯「りっちゃん?」

紬「りっちゃんはどう思う?」

梓「律先輩も……早く押して下さい」

律「……押さねーし。」

澪「え?」



律「……ふざけるなよ。私達をこんな目にあわせておいて。

  絶対に生きて帰って復讐してやる。数万倍むごたらしい目にあわせてやる。

  なあ、みんな。お前たち、ここで連中のおもちゃになって満足してんのか?」

紬「なにいってんのりっちゃん。」

律「ちくじょー!!許せねえ!!百万回殺しても足りねぇ。

  唯、澪、ムギにこんな辛い決断させやがって。

  可愛い後輩の梓に、こんな苦しい思いをさせやがって!」

梓(かわいい……)

律「というわけだ、みんな。

  私は死ぬくらいなら、生きる可能性の僅かにあるさっきの注射を打つよ。」


みな、律の気迫に毒気を抜かれていた。じっと、自分の掌を見つめ、

自分の先ほどまでやろうとしていた行為の意味を考えていた。


紬「で、でも……もう…」

律「それにな、ムギ。私たちは肝心なことから目を背けていたよ。

  そこに置いてある和の死体……

  本当は生きてるんじゃないか?」

澪「……」

和「……(正解)」




前編おわり



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