唯「わ、わからないよ!和ちゃん!わからないよ!」グズ……グズ……


和『……私達が生まれた時代には地上から絶滅に追い込まれたウイルスよ……

  人間というものは身勝手で……救いのない生き物……自分たちが悪いと思ったものは一方的に排除する……

  あぁ。このゲームのコンセプトは、虐殺されたウイルスたちの人類に対する反撃……ということでいいかしら?

  プ。冗談よ。私は別にウイルスに操られているわけじゃないわ。

  でも、実は、天然痘ウイルスは上野のパンダより大事に守られてきたの。

  アメリカのCDCとロシアのVECTORという研究施設で、この反逆の時を待ちながらね。

  私はあなた達がのほほんと受験勉強をしている間、CDCからウイルスの変異株を買ったの』


和は静かに語り続ける。


和『みんな楽しそうに遊んでいた。私も混ぜて。ふふふ

  天然痘の歴史は古いわ。古代エジプトのファラオのミイラから痘瘡の痕跡が見つかったそうよ

  日本にも、シルクロード経由で古代オリエント世界からやって来た

  仏教と一緒に大陸から持ち込まれたらしいわよ

  人類の歴史は天然痘と共にあったの。何千万、何億という人間がこのウイルスで生命を落とした

  貴賤を問わず人間を殺し続けるウイルスは、時の権力者をも震え上がらせ、歴史を何度もひっくり返す

  スペインの新世界侵略でもインディオ虐殺に使われたわ。菌で汚染されたタオルを部族長に送りつけたり

  バイオテロの歴史はみんなが考えているよりも古く、深いのよ』


和『しかし、一人の救世主が現れた

  エドワード・ジェンナーよ。彼が編み出した牛痘ワクチンは……人類にとって、聖なる鎧

  ワクチンがあの憎きWHOにより全世界で使われるようになって、

  ついにウイルスは21世紀を迎える事なく地上から消えた

  ジェンナーは真の英雄よ。プロメテウスは人類に火を与えた。その偉業に並ぶ人類に対する貢献

  でも、ここで疑問じゃない?

  同じくワクチンのある結核や、麻疹、ポリオはあいかわらず地上にはびこっている

  そう。天然痘ウイルスは、誰よりも人類と共にあった。

  人類の細胞でしか増殖できない彼らは、居場所を奪われ、どこにも逃げられずに滅びた

  私の考えじゃ、天然痘ウイルスは、神が遣わせたヒトの最も古い相棒なの。

  どこからやって来たのか、どうして彼らがヒトと共に生きようと思ったのか

  私には理解出来ないけどね』


和『飛沫感染や接触感染によりヒトからヒトへと伝播し、大流行を引き起こす

  40度近い高熱の後、皮膚に豆粒状の丘疹をつくり、

  全身に広がった後、化膿し、消化器、呼吸器を犯し重篤な呼吸器不全で死に至る。

  死亡率は思いの外低く、10~30%程度。長い歴史の中で、生き残った人類の子孫は免疫を獲得していたから。

  生き残った後は、顔に醜い瘢痕を残すため、みんなのような美人の天敵だったのよ。

  でも安心して。今回のウイルスは品種改良された強毒株だから。核兵器を作った連中たちの、ほんのお遊び。

  まあ、感染者の90%は死ぬでしょうねえ。ふふふ。』


おぞましい話を続ける和の話に聞き入り、私たちは、混乱の極みにいた。
言葉を失い、体を微動だにせずに、頭の中はあの透き通った声にこねくり回されていく


和『私が自分で打ったのも、その強毒天然痘ウイルス。大体3日でそこにいる私のようになって死ぬわ。

  この強毒株に対するワクチンも一般には開発されていない。

  当たり前よ。天然痘自体もうとっくに絶滅した過去の友人なんですから。

  それに天然痘のワクチンなんて、今はアメリカがちょろっと備蓄しているくらいでしょう。

  さて、ここで本題。あなた達は、このウイルスに感染します。

  この密室に10時間も一緒にいれば……別の実験では95%が感染したわ。

  あなた達が、このゲームから降りて、日本に帰れば、パンデミックが起きるでしょうね。

  今の時代、あっという間に全世界に広がる。

  だから、あなた達は英雄になるために、選択していかなくちゃいけない。

  人類を守れるのは、あなた達だけよ。

  さあ、何か質問は?』


律「目的は?」

澪(りつぅ~助けてくれ!!)


和『……律。……私はただ、あなた達とゲームがしたいだけ。

  けいおん部の団結力を持ってすれば、きっと英雄になれるわ!!

  必要なのは、人類愛と、自己犠牲の精神よ!それを忘れてはいけないわ……

  さあ、何か質問は?』


紬「こんな馬鹿げたゲーム、誰が首謀者なの?何が目的なの?何の意味があるの?」ゼエゼエ


和『……ムギ。……世界の人口は増えすぎたと思わない?

  これもきっと、ジェンナーとWHOのせいだわ。

  私たちは再び天然痘ウイルスと共に歴史を歩まなくてはいけない

  さあ、何か質問は?』


澪「私達を助けろ!助けろ!」

唯「和ちゃん!私達友達だよね?助けてくれるよね?いじわるしないで!ねえ、答えてよ!」

梓「このヒトデナシ!ゴキブリ!」


和『質問がないようなので、早速第一のゲームに移ります。

  席の番号はE4。座席の下の金庫の番号は37564。忘れないで。ミ・ナ・ゴ・ロ・シ。

  番号を間違えれば、二度と金庫は開きません。

  ……私はいつもみんなの隣にいる。その事を忘れないで。』


私たちはしばらく固まったまま動けなかった。




律「なあ……どうする?」

紬「……私達、無事にお家に帰れるのかしら」

澪「……クソックソッタレ……なんで私がこんな目に……」

律「落ち着け、澪。幾つか不可解なことがある。

  目的はわからないが、きっと助かる道は残されている。

  みんなで頑張るんだ。生き残ってまた、一緒に大学でバンドを組もうぜ!

  さ、和の言うことをとりあえず聞いておこうじゃないか。

  生き残るんだ。ウイルスなんかにこのりっちゃん大王は負けねえぜ!」


梓(空元気……足が震えてますよ、律先輩。それとも武者震い?)

唯「ねえ、この金庫……開けたら爆発したりしないよね?」

梓(唯先輩ッ……ここでまた澪先輩を震え上がらせるような事をっ……)

澪「律、開けるのは止めよう」キッパリ

律「……」

紬「多分大丈夫だと思う……」

梓「どうしてですか?」

紬「和ちゃん、なんだか楽しそうに待っている。画面の中で。

  こんな簡単に私達を殺そうと思うなら

  こんな周りくどいことしないでとっとと殺していると……」


ムギは泣き出し、しゃくりあげ、言葉を最後の一滴まで絞るように力を振り絞って話した




律「3、7、5、6、4、エンターと。お。開いた……注射器だ……」


和『やっと開いたのね。これで物語は再び進む。

  5本の注射器があるわよね。ABCDEと番号のついたシールを貼ってあるわ。

  実はこのうち一本は、今回の天然痘ウイルスのワクチンなの。今打てば助かるわ。

  生き残りたい人は打ちなさい。たぶん、あなた達が手に入れられる最後のワクチン。

  でも、残り4本はシアン化カリウムを混ぜている。

  マウスを10万匹、ヒトを5000人殺せる量の猛毒よ。

  口蹄疫を防ぐ一番有効な手段は殺処分。

  4人は死ぬ。実は天然痘、発症前は感染力はほとんど0なの。

  だから、今の内に死んじゃえば、英雄になれるわ!

  さらにラッキーな1人は生き残れる。

  生き残った1人には仕事があるけど……

  もし注射が打たれた事を確認したら、30分後に外へ通じるドアが開く。

  それから汚染された4人……私を含めて5人をロシアの広大なタイガに捨てなさい。

  そのあとで通路のドアが開くから、

  その先のシャワーでウイルスを洗い流して服を着替え、何食わぬ顔で元の客席に戻るのよ。』


冗談だろ?私は今すぐ和を地獄に突き落としてやりたい。



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