扉の向こうから和の声が聞こえた。


佐藤「まっ……真鍋さん!?」

姫子「やばいっ、バレたよ。どうする?」

唯「和ちゃーん、ここから出してぇー」

和「ええ分かってるわ。最初からそのつもりよ」

佐藤「えっ?」

唯「わーい、ありがとう和ちゃん」

姫子「まさか何かの罠じゃ……」

和「そんな邪推しないでほしいわね。
  私は純粋にあなたたちを救ってあげたいと思って来たのよ。
  私以外には誰もいないから、安心して」

佐藤「……」

和「まあ、ちょっと恩を売るつもりではいるけど」

佐藤「なんなの、その恩っていうのは」

和「私に協力しなさい」


扉越しに会話する6人。


姫子「やっぱりね……ただで助けてくれるわけがないわよね」

佐藤「真鍋さんが私たちに協力……?
   なにを協力することがあるのかしら、
   私たちは敵同士でしょう?」

和「澪ファンクラブを潰したい気持ちは、貴方達と同じよ。
  佐々木さんをどうにかしなければ、
  この学校は本当にマズイことになってしまう」

佐藤「佐々木さんを?
   諸悪の根源が佐々木さんだとでも言うの?」

和「そうよ。私は佐々木さんによって祀り上げられた
  ただのお飾りの会長でしかないわ。
  ファンクラブの実権は佐々木さんにあるといってもいい」

佐藤「……」

紬「ど、どうするの?」

姫子「どうするって言ったって……
   信じていいのかな」

唯「和ちゃんは嘘つくような子じゃないよぉー」

澪「私もそう思う」

佐藤「でも、だからって……
   罠の恐れがゼロなわけじゃないでしょう」

和「いいこと?
  あなたたちが私を信じないのは勝手よ。
  でもそれはあなたたちにとっても不利益なのよ」

佐藤「どういうこと?」

和「今の状態のあなたたちじゃ何も出来ないでしょ。
  誰かに助けられるのを待つにしても、誰が来てくれるのかしら」

佐藤「う……」

和「私と一緒に澪ファンクラブを潰すわよ。
  早く決断しなさい。
  もう時間がないわ、早くしないと昼休みになって
  ファンクラブの連中がここにくる」

姫子「ど、どうするの? アカネ」

佐藤「えっ私が決めるの!?」

唯「アカネちゃん!」

紬「アカネちゃんっ!」

澪「佐藤さん……!」

佐藤「うーっ……
   このままだとどうせ無理だし……
   うううう……」



佐藤「わ、分かった、協力するわ。
   だから早くここから出して」

和「ありがとう、信じてくれて嬉しいわ」ガチャ

唯「おー、日光だ日光」

紬「ここって西校舎の裏……?
  こんな場所にあったのね、全然気づかなかったわ」

澪「ここはほとんど人が来ないからな」

和「あれっ、なんで澪もあなたたちと一緒にいるの?」

姫子「捕虜収容室に迷いこんできて、
   いろいろ話してるうちにこっちの味方してくれることになって」

和「そう、話が早くて助かるわ。
  じゃあもう行きましょう、時間がない」

唯「行くってどこへ?」

和「放送室よ。
  ファンクラブ会長として声明を発表するわ。
  もちろん、澪と、あなたたちARCHも一緒にね」

佐藤「……一体何を言うつもりなの?」

和「まだ内緒よ」



和「ところで澪の出生証明書は?」

佐藤「ここにはないわ。どこにあるかは……」

和「律のところかしら?」

唯「な、なんで知ってるの?」

和「憂に色々調べてもらっていたのよ」

唯「う、憂が……」

和「まだ梓ちゃんが持っているんでしょう?
  早く呼んでちょうだい」

澪「えっ……まさか放送室で公表する気じゃ……」

和「当たり前でしょう。
  佐々木さんたちを打倒するにはそれしかないわ。
  秋山澪、出生証明書、ARCH。
  使えるコマはすべて使わないと」

澪「い、言ってることは分かるけど……」

唯「でも澪ちゃんが在日だってのは内緒にしとくって
  さっき約束したんだよ」

和「はあ?」

和「あのねえ澪、佐々木さんたちに加担していた時点で
  あなたも同罪なのよ。
  自分だけ無傷で助かろうなんてそうはいかないわ」

澪「う……」

佐藤「……それを言うなら、真鍋さんもじゃない?」

和「分かってるわよ。
  だから今から自分の責任を果たしに行くの」

佐藤「……」

唯「み、澪ちゃん……」

姫子「在日だってことを明かさない約束で
   秋山さんはこっちに協力してくれることになった。
   それを裏切るのは……」

澪「……いや、和の言うことのほうが筋が通ってる。
  私が律を轢いたようなもんなんだしな……
  梓に出生証明書を持ってくるように行ってくれ」

和「ありがとう、澪。
  私の携帯使っていいから梓ちゃんを呼んでくれない?
  急いでくるように言って」

唯「あずにゃんの電話番号って何番だっけ」



ぷるるるる ぷるるるる


唯「あっ、繋がった」

梓『はい、もしもし……』

唯「あずにゃん? 私だよー」

梓『ゆ、唯先輩!?
  捕まってたんじゃ……』

唯「和ちゃんが助けてくれたんだよー」

梓『和先輩が?』

唯「それで和ちゃんと一緒にファンクラブを倒すことになったの!
  だからあずにゃんは出生証明書を学校に持ってきて!」

梓『和先輩と? ファンクラブを潰す?
  話の流れがさっぱり読めないんですけど』

唯「いいから持ってきて!
  頼んだよ、急いでね!」プツッ

和「……」

唯「これですぐ持ってきてくれるはずだよ」

和「ホントでしょうね……」



和「ところで律のいる病院からここまでどれくらいかかるの?」

唯「うーん、20分くらいかな」

和「20分……昼休み始まるまでは間に合わないわね……
  仕方ないわ、こっちはこっちで放送室に急ぐわよ。
  昼休みになれば放送室にも人が来ちゃうし、その前に先手を打っておかないと」

唯「なんか面白くなってきたねー」

姫子「のんきだね……」

佐藤「ところで真鍋さん、佐々木さんは真鍋さんの動向を見抜いていないのかしら?」

和「見抜いてるでしょうね、私に監視をつけてくるくらいだから」

紬「えっ、じゃあ……」

和「大丈夫よ、さっきトイレに行ったとき通気口からこっそり抜けだしてきたの。
  今は監視は付いていないわ。もっと早くこられればよかったんだけど」

唯「へー、スパイみたいだね」

澪「スッパイしなくてよかったな。スパイだけに」

和「……」

唯「……」

姫子(なんでこんな人にファンが付いてんだろ)





その頃、3年2組では。

教師「えー、であるからここの訳はこのようになるのであって……」

佐「……」

風子「佐々木さん」こそっ

佐「なに?」

風子「真鍋さんの帰り、遅くない?」

佐「ああ、大きい方なんじゃないの?
  今朝からお腹の調子が悪いって言ってたし」

風子「それならいいんだけど……
   なんだか嫌な予感がするわ」

佐「嫌な予感?
  バカね、真鍋さんに何が出来るって言うの?
  監視も付けてるし、大丈夫よ」

風子「……
   あまり油断しないほうがいいわよ」

佐「ふん、あなたに言われるまでもないわ」

風子「……」



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