病院の中庭。
いつまでも病室に居座っていても怪しまれるので
梓とエリは中庭のベンチへと移動していた。

二人は今後の作戦を話し合うはずだったが
お互いにいい案はまったく浮かばなかった。


エリ「……」

梓「……」

エリ「……ごめんね」

梓「え、何がですか?」

エリ「私がしっかりしなきゃいけないのに……
   こんなダメな先輩で」

梓「別にそんなことないですよ」

エリ「昨日だって……みんなが捕まっちゃったのも、
   私のせいで……」

梓「何言ってるんですか、エリ先輩のせいじゃありませんよ。
  偽物作戦なんて誰も予想できなかったんですから」

エリ「でも……」

梓「……」


梓「かーっ!!!」

エリ「!?」

梓「もう、今さらグチグチ言ってもしょうがないでしょ!
  今考えなきゃいけないのは、これからどうするか! 未来の話です!」

エリ「あずにゃん……」

梓「あなたはARCHのリーダーなんですから
  リーダーらしく堂々としててください!
  ルルーシュも言ってましたよ、まず王様から動かないと部下がついてこないって」

エリ「……」

梓「とにかくまだ負けたわけじゃないんですから、
  私たちにできることをやりましょう。
  弱音は負けてから吐けばいいんです!」

エリ「そうだね……ごめんねあずにゃん、
   私ちょっと弱気になっちゃってたよ」

梓「分かればいいんです。
  あとあずにゃんって呼ぶのやめてください。
  そう呼んでいいのは唯先輩と
  二人きりの時の澪先輩だけです」

エリ「よーし、今日中に澪ファンクラブをやっつけるぞ!」

梓「おー!」



エリ「で、何をしたらいいだろう」

梓「うーん……そこが問題ですよね」

エリ「ぶっちゃけ手詰まりなんだよねぇ……」

梓「うかつに行動を始めると
  澪ファンクラブに見つかって捕まるでしょうし」

エリ「もう出生証明書を大量にコピーしてばらまくか」

梓「唯先輩と同レベルの発想ですね……
  てゆーかもう最初からそうしとけばよかったなあ」

エリ「今からやろうとしても実行前にファンクラブに捕まるのがオチか」

梓「間違いないですね」

エリ「うーん……」

梓「……」

エリ「んんー……」

梓(ファンクラブの過激派を排したがっているという和先輩……
  もう律先輩が言ったとおりに、そっちに賭けてみるか……?
  いや、もし罠だったら取り返しが付かないし……
  でもこのままじゃどっちにしろ……)




地下壕。
ロープを解いてやった澪は
4人の口から澪ファンクラブのこれまでの悪行の数々を聞かされていた。


澪「う、嘘だろ?
  律をトラックで轢いたのがファンクラブの人だなんて」

唯「本当だよー。あずにゃんが見てたもん、
  トラックの運転手がファンクラブのバッジ付けてたの」

澪「ば、バカ言え……なんでそんなヒドイことするんだよ」

佐藤「そうやって反体制者を処分し、
   他の生徒達に恐怖を植えつけて
   誰も澪ファンクラブに逆らえなくする……
   それがあなたたちのやりかたでしょう」

紬「澪ちゃんだってずっとそのおかげで調子乗ってたじゃない。
  今さら知らぬ存ぜぬは通用しないわよ」

澪「う……で、でもトラックは知らなかった……
  まさか律にそんな……
  それにトラックで轢くだなんて、いくらなんでもやりすぎだよ」

姫子「それだけじゃない、
   バレー部の豊崎さんが窓から落ちて骨折したのも
   団地妻研究部の寿さんがライオンに食われたのも
   澪ファンクラブの仕業だとARCHの調査で判明しているわ」

澪「そんな……!」

佐藤(秋山さんは澪ファンクラブの過激な行いを知らなかった……
   むしろ知ってショックを受けているような感じだわ。
   ファンクラブのこれらの行動は秋山さんの意志に関係ない
   一部のメンバーの暴走……だとすれば
   秋山さんをこっちに引きこむことができるんじゃ……?)

澪「まさか澪ファンクラブが
  そんな酷いことまでしてたなんて……」

唯「私たちもファンクラブに捕まって監禁されてたんだよー」

澪「えっ、てことはみんな……反体制者?」

佐藤「そうよ。
   あなたの澪ファンクラブを潰そうとして
   逆にこっちがやられてしまったの」

澪「な、な、な……じゃあ私のこともどうにかしようってのか?
  ひー、ロープ解くんじゃなかった!!」

佐藤「落ち着いて、秋山さん。
   あなたにはなにもしないわ。
   私たちが倒すべき敵はどうやらあなたじゃなさそうだし」

澪「そ、そうか……良かった」

佐藤「ところで秋山さん。
   あなた、在日朝鮮人なのよね?」

澪「な、なななな、な……!?」

澪「もしかして私の出生証明書を盗んだのって、
  佐藤さんたち……!?」

佐藤「そうよ、今持っているのは私たちじゃないけど」

澪「……」

佐藤「秋山さん……澪ファンクラブはね、
   今あなたの出生証明書を取り戻そうと躍起になってるわ。
   でもそれはあなたを思ってのことじゃない」

澪「え……?」

佐藤「あなたを利用した権力構造を守るためよ。
   澪ファンクラブはもうあなたを応援するための団体じゃない。
   権力を欲する野心家たちの集まりでしかないのよ!」

澪「そっ、そんな……そんなの嘘だっ!
  ファンクラブの人たちは……私をっ」

姫子「……当然、純粋にあなたを慕う会員は大勢いる。
   でも澪ファンクラブの上層にいるのは、
   あなたのことなんて何とも思わない人たちばかりよ」

澪「っ……」

佐藤「このままだと、田井中さんのような被害者が
   これからも何人も出ることになってしまうわ。
   私たちはそうなってしまう前に、
   澪ファンクラブという腐敗した権力を打ち倒したい」

佐藤「そのために、秋山さんにも協力してほしいのよ」

澪「わ、私に……?
  私に澪ファンクラブを裏切って、
  反体制者になれっていうのか?」

佐藤「そうよ」

紬「澪ちゃんは良いの?
  りっちゃんや豊崎さんのように、
  澪ファンクラブに逆らったってだけで
  大怪我させられちゃう人がいても……」

姫子「私なんてこの地下壕で拷問されたわ……
   あまりに苦しくて何度も吐いちゃった」

澪「う……」

佐藤「秋山さん、お願い。
   あなたもこんなの間違ってるって思ってるんでしょう?」

澪「わ、分かった……協力する。
  その代わりに」

佐藤「代わりに?」

澪「私が在日朝鮮人だっていうのを秘密のままにしておいてくれ」

佐藤「……」

澪「それが協力する条件だ」

佐藤「……分かったわ、
   あなたが在日であるのを公表することは
   澪ファンクラブを倒す手段の一つでしかないし、
   秋山さんが協力してくれるならそれで」

澪「ああ、ありがとう」

唯「てゆーかおなかすいたー」

姫子「そういえばもう4時限目ね」

佐藤「ところで秋山さん、長々とこんなところで喋ってて大丈夫なの?
   そもそもなんで秋山さんがここにいるの?」

澪「高橋さんが影武者になったから、私はここに隠されて」

佐藤「ああ、そういうこと……」

唯「はっ、まさかこの澪ちゃんも風子ちゃん!?」

姫子「ええっ!?」

紬「大丈夫、このおっぱいは間違いなく澪ちゃんよ」

唯「そっかぁー、よかった」

澪「どこで判断してんだっ」



佐藤「そうだ秋山さん、秘密のルートとか知らない?
   見張りの連中に見つからずに外に抜け出せるような……」

澪「さあ、知らない。
  けど抜け出したいなら今行けばいいんじゃないか?」

佐藤「え?」

澪「この地下壕、昼休みと放課後以外は誰もこないから」

佐藤「えっ、そうだったの!?」

澪「うん、みんなも授業でなきゃいけないしさ」

姫子「そ、そうなんだ……見張りなんていないのね」

唯「じゃあもうさっさと外に出ちゃおうよ。
  もうこんな場所に閉じ込められてるの嫌だよー」

佐藤「ええ、そうね……
   早く脱出して、エリたちと合流したい」

姫子「エリ、捕まってないわよね……」


5人は周りを伺いながら捕虜収容室を抜けだした。
澪の言ったとおり地下壕内には人の姿はなく、
迷路のように入り組んだ地下壕を5人は
出口を求めて歩き始めた。




唯「あっ出口あったー」

佐藤「展開はえー」

姫子「でも鍵かかってるわよ」

紬「澪ちゃん、鍵持ってない?」

澪「持ってないよ……ファンクラブ幹部の人しか持ってないんじゃないかな」

佐藤「携帯でその幹部の人を呼び出せない?」

澪「私の携帯、高橋さんが持ってるし」

佐藤「そう……
   それじゃあアレをやるしかないわね」

唯「アレとはまさか……
  テレビでよく見るアレですか!?」

佐藤「そうアレよ!
   鍵のかかった扉を体当たりでぶち破るアレよ!」

姫子「刑事ドラマかよ」

紬「私、鍵のかかったドアを体当たりでブチ破るのが」

佐藤「よし、早速やるわよ」

紬「最後まで言わせてよ」



姫子「待ってよ。
   そんなことやって大きい音出したら
   怪しまれちゃうんじゃないの」

唯「そっか。いくら授業中とは言え
  私たちが逃げたのバレたらみんな来ちゃうよね」

佐藤「じゃあどうするのよ。
   このままじゃ捕虜収容室から脱走したのがバレて
   またロープで縛られてしまうだけよ」

姫子「それは……うーん」

澪「あっ、もしそうなったら私がロープで縛るのやめてって頼んでみるよ」

佐藤「たぶん意味ないと思う……
   ていうか私たちと通じたってファンクラブの人たちに知れたら
   秋山さんもやばいと思うんだけど」

澪「ええっ!?」

姫子「そうね……秋山さんがファンクラブを裏切って
   ARCH側についたとなれば、
   ファンクラブは秋山さんを処分するでしょうね。
   向こうには高橋風子っていう影武者がいるわけだし、
   秋山さん亡き後は彼女を立てておけば……」

澪「ひいいい!」



「ちょっと、あなたたち」




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