佐「それにしても佐藤さん、瀧さん、
  あなたたちがARCHの一員だったなんて。
  毎日同じ教室で授業を受けていたのに全然気づかなかったわ」

佐藤「一員どころじゃないわ。
   私は副リーダーで、エリはリーダーなのよ」

エリ「アカネ……」

佐「へえー、まさかリーダー自ら最前線に出てくるとはね。
  吹奏楽部大逆事件の時にも思ったけれど、
  あなたたちは本当に愚かしいわね。そして面白い」

梓「……」

佐「それで、出生証明書を持っているのは誰なのかしら?
  リーダーの瀧エリさんかな?」

風子「多分そこのちっこいツインテの子よ、佐々木さん。
   この平沢さんはその子を呼んだもの」

佐「ふーん、あなたねぇ。まだ2年生か」

梓「く……」

佐々木は少しずつ梓ににじりよっていく。

佐「私は下級生だろうと、反体制者には容赦しないわよ。
  はやく出生証明書をこっちに渡しなさい。
  それさえ取り戻せれば澪ファンクラブは永遠に無敵なのよ!」


佐藤「おらぁっ!」

佐「ぎゃっ!」


佐々木が梓に掴みかかろうとした瞬間、
すきを見てアカネがタックルをかました。
それをモロに食らってしまった佐々木は尻餅をつき、
その上からアカネが抑えこむ。


エリ「あ、アカネ!」

佐「くそっ、何をするの! 私にこんなコトして、ただじゃおかないわよ!!」

佐「はやく逃げて、エリ!
  ARCHのリーダーであるあなたまで捕まってしまったら、
  今度こそ本当にARCHは……!」

佐「どきなさい、この卑しい反体制者め!」

佐「私には構わないで、はやくっ!」

佐「ちょっと高橋さん! 助けなさい!」

風子「は、はいっ」


風子は佐々木のほうへと駆け寄ろうとしたが
その場からは一歩も動くことができなかった。
風子が捕まえていた唯が、今度は逆に風子をしっかりと捕まえていた。


梓「逃げましょう、エリ先輩」

エリ「で、でもっ……アカネが……ムギや唯だって」

梓「今ここで全員が捕まってしまうより
  仲間を見捨ててでも私たちが生き残るべきなんです!」

佐藤「梓ちゃんの言うとおりよ、
   琴吹さんもそろそろヤバそうだから……今のうちに逃げてっ」

エリ「でも、でもっ」

梓「デモもストライキもありませんっ!
  ほらっ!」


おろおろとうろたえるエリを見かねて、
梓はその手を強引に引っ張って
屋上から校舎内へと逃げていった。
紬が力尽きたのはそれとほぼ同時であった。


紬「も、ダメ……」ばたん

佐「ええい、いいかげん離しなさい!」がばっ

佐藤「ぎゃっ」

佐「戦闘員は今すぐあの2人を追いなさい!!
  どんな手を使っても捕まえて、粛清してしまうのよ!!」

「はっ!」




律の病室。

ガラッ

梓「……」

エリ「ただいま……」

律「おー、おかえり。
  その調子じゃうまくはいか……なかったみたいだな」

梓「ニセモノ作戦にしてやられました……」

律「……他のヤツらはどうした?」

エリ「多分捕まっちゃったと思う……」

律「そうか……出生証明書は?」

梓「それはまだここにありますけど」

律「そうか、それならまだ大丈夫だ。
  今度はちゃんと作戦を練って、ファンクラブをぶっ飛ばして、
  唯やムギ、アカネを助けだしてやろうぜ!」

梓「はいっ」

律「ほら、エリも」

エリ「そ、そうだね……
   いつまでも落ち込んでても仕方ないよね、うん」

律「そーだぜ、エリが落ち込んでるのなんて似合わねーよ。
  お前がARCHのリーダーなんだし、
  元気なくしてたら他のメンバーも困るぜ?」

エリ「うん、ありがとう律」

律「今日はとりあえず二人とも休めよ。
  また明日から行動を開始すればいい」

梓「そうですね……今日はちょっと疲れました。色々ありましたし」

律「はやく帰って寝たほうがいいな」

梓「はい、そうします」

エリ「ちょ、ちょっと待って!」

梓「え、なんですか?」

エリ「家に帰るのはヤバいよ。
   私たちのこともう向こうにバレちゃったから……
   家の前に張り込んでるに決まってる」

梓「あっ、そうか……!」

律「じゃあどうするんだ?」

エリ「ここに泊まろう」

梓「えっ」

エリ「いいかな?」

律「私は別にいいけど……
  病院の人に見つかったら叩き出されるぞ」

エリ「バレないようにするから~」

律「えー……
  まあ他に行くとこないんじゃ仕方ないか……」

梓「すみません、ありがとうございます」

律「まあいい、今日は一日中作戦会議だ。
  今度こそ澪ファンクラブをやっつけるぞ!」

梓「はい!」

エリ「おう!」

律「で、なにかいい案はあるかね」

梓「ありません!」

エリ「うーん……明日中には行動を起こしたいんだよね……
   みんなを助けたいし」

律「まずみんなを助けるのを優先するか」

梓「そうですね、洗脳されちゃう前に……」

梓「でも助けるって言っても……
  捕まったみんなはどこに連れてかれたんでしょうね」

エリ「さあ、それが謎なんだよね……
   ARCHでも前から行方を追っているけど、
   全然見つからないんだよ」

律「澪ファンクラブしか知らない秘密の場所、か」

エリ「校内であることは間違いないんだけど」

梓「学校の地下に秘密基地でもあるとか」

エリ「あはは、いくらなんでもそれはないよ」

梓「ですよねぇ」

エリ「うーん……どうすればいいんだろ」

梓「てゆーか私たちが反体制者ってバレちゃいましたし
  もう普通に学校にいくのも無理ですよねぇ」

エリ「ああ、そっか……
   学校でみんなを探し出すってのもムリなんだ……」

梓「やばいですねぇ」

エリ「ファンクラブに見つからないようにこっそり……
   っていうのも難しいか」

梓「やっぱりあれですね。
  みんなを助け出すには澪ファンクラブそのものを
  潰すしかないのかもしれません」

エリ「でも……二人でやれるかなぁ」

梓「やるしかないです。やってやるんです……
  ていうか他のARCHの隊員って協力してくれないんですか」

エリ「先の吹奏楽部大逆事件のせいでみんなビビッちゃって。
   今日も協力を呼びかけてみたんだけど、誰も」

梓「そうだったんですか……」

エリ「うーん……私がリーダーに向いてないのかな……なんちて」

梓「そんなことないですよ」

エリ「えへへ、ありがとう……」

律(他のARCHメンバーの協力は得られない……
  となるとマジで動けるのはこの2人だけか。
  これじゃいくらこっちに出生証明書があるとはいえ
  流石にヤバいんじゃないのか……?
  こうなったら……いやダメダメ、何考えてんだ私)


その後もろくな作戦が思いつかないまま
時間だけがいたずらに過ぎていった。
面会時間が終わっても梓とエリは病室に残り、
ナースが来たときにはベッドの下に隠れてやり過ごした。




その頃、地下壕では尋問……
いや、世にも恐ろしい拷問が
絶え間なく続けられていた。

拷問を受けているのは
捕虜収容室にぶちこまれた唯、紬、アカネ、
前からここにいた姫子。

佐々木、風子、和は部屋の外から様子を観ている。
風子は今日の作戦の成功を認められて晴れて幹部に昇格、
地下壕に出入りできるようになったのだ。


佐「うーん、ときめきシュガーは効果がないみたいね」

唯「澪ちゃんの恥ずかしい詞には
  免疫ついてるから平気だよー。ね、ムギちゃん」

紬「そうそう、表に出ている歌詞よりも
  何十倍もの量を読まされてきたんだから」

佐藤「あなた達すごいわね……
   私はもうときめきシュガーだけで……うえっ」

姫子「う……思い出しただけで頭痛が」

佐「やり方を変えましょう。
  DVDとモニターを持ってきなさい」


佐々木が部下に命じた。
それを聞いた部下は顔色を変える。

会員「ま、まさかアレをやる気ですか……!?
   アレは危険度ランクSの拷問、
   施された全ての人間が精神崩壊したというシロモノですよ」

佐「うるさいわね、つべこべ言わずに用意しなさい」

会員「は、はいっ」

和「DVDにモニター……まさか、アレ?」

佐「そう、アレよ。
  約40人の反体制者を廃人にして
  ファンクラブへと寝返らせたアレを使うわ」

風子「アレ……?」

唯「あ、アレって何?」

佐藤「知らないけど……なにかすごい物みたいね……」

紬「40人もの反体制者を廃人にして洗脳したって……」

姫子「ま、まさか……私たちをビビらすために
   大げさに言ってるだけに決まってるわ」

会員「佐々木さん、用意できました!」

佐「ご苦労。早速はじめてちょうだい」

会員「はっ!」


部下はモニターとDVDを部屋の中にセットして、
再生ボタンを押した。

モニターに映し出されたのは
軽音楽部の学園祭ライブの映像だった。
澪がふわふわ時間を歌っているので、
2年前のものである。


唯「ああ、澪ちゃんがパンモロしたときのやつだね」

佐藤「秋山さんのパンツを見せて廃人にしようって?
   そんなのにかかるわけないでしょう」

紬「澪ちゃんがパンツ見せるシーンなら
  私たちもDVDで何度も見てるわー」

姫子「何が出てくるかと思ったら、こんなのか……」

佐「ふっ……余裕こいていられるのも今のうちよ」

和「高橋さんは見ないほうがいい……刺激が強すぎる」

風子「へ?」


モニター内では既に演奏が終わっていた。
ひとしきり拍手喝采を浴びた後、
澪が観客席に背を向けて、
退場しようとしたところで
ついうっかりコードに足を引っ掛け、
そのまま転んでしまい……


唯「……あれっ?」

紬「止まった?」


そう、映像は止まってしまったのだ。
澪が体制を崩してパンツが見えるその直前で。

佐「ふふん」


映像が自動的に巻き戻される。
演奏終了後からまた再生され、澪が後ろを向いて足を引っ掛けて
転ぼうとした瞬間、また映像は止まってしまった。


唯「ああっ! また止まったっ!」

紬「これじゃパンツが見えないじゃない!」


その後も何度も何度も巻き戻され、
何度も何度も同じシーンで停止した。

和「……この映像を見る人間は無意識のうちに
  澪のパンツが見えるシーンをクライマックスに置く。
  当然そのクライマックスに向けて見る者の心は高ぶっていく……
  しかしその直前で寸止めを食らうことによって
  消化されなかった期待感がストレスとなって蓄積される。
  そのストレスを解消するには澪のパンツを見るしかない……
  澪のパンツというクライマックスを迎えるために映像にかじりつき、
  そうなるほどに余計ストレスが溜まって最終的に精神が崩壊する……恐るべき拷問だわ」

風子「なんやそれ」




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