第1会議室。
桜が丘高校で最も大きな会議室であるこの部屋は、
すっかり澪ファンクラブに私物化されていた。

和「澪のパンツはー!」

佐「縞パンツ!」

幹部「縞パンツ!」
幹部「縞パンツ!」
幹部「縞パンツ!」
幹部「縞パンツ!」
幹部「縞パンツ!」
幹部「縞パンツ!」
幹部「縞パンツ!」

和「全員揃ってるわね」

澪「なあ、この挨拶やめにしない?」


今ここには澪ファンクラブ会長の和、
そして幹部の面々と秋山澪がいる。
澪ファンクラブの幹部会議が行われるのだ。
議題はもちろん、澪の出生証明書がARCHに奪われたことについて。

議長は和だが最終議決権は澪にある。
またこの場に集まっている幹部たちはみな佐々木派の人間であるので
この会議に和の意向が反映される余地はない。


和「みなさんも既に聞いていると思いますが、
  秋山さんが在日だということの証拠である
  出生証明書が反体制組織ARCHに奪われました」

幹部「奪われた者の責任は?」

和「それは今話し合うべきではありません。
  まず早急に考えなければならないのは、今後の対策」

幹部「あれが公表されると命取りだ」

幹部「ファンクラブは崩壊する」

幹部「なんとかして取り戻さねば」

幹部「しかし本当にARCHの手に渡っているのか」

和「立花姫子がARCHのメンバーだった。
  それを考えるとARCHに渡ったと考えるのが妥当でしょう」

幹部「ならば早く手を打たねばなるまい」

幹部「ARCHが動き始める前に」

佐「待ちなさい。そう焦ることもないわ」

幹部「どういうことか」

幹部「説明を求む」

佐「そう、やつらは出生証明書を武器に動き出す。
  つまり逆にやつらを釣ることも出来るわ」

幹部「なるほど」

佐「ARCHの過激派は夏休み前の吹奏楽部大逆事件で一掃できた。
  となれば今のARCHは穏健派が主流ということになるわ」

幹部「となるとどうなる」

佐「吹奏楽部大逆事件のような無茶な行動はしない。
  やるならしっかりした確実な方法で来るわ。
  そして仲間を助けるために、迅速に」

和「だとしたら、狙いは澪ね」

澪「え、私?」

佐「でしょうね……
  出生証明書で秋山さんをARCH側に引きずり込もうとする。
  それが一番確実な方法だものね」

和「考えられる作戦としてはこうね。
  澪を一人でくるようにメールで呼び出して
  のこのこやってきたところに出生証明書を突きつける」

澪「じゃあ、呼び出されても行かなきゃいいんだな?」

佐「いや……逆に利用させてもらいましょう」

和「利用?」

佐「ええ。秋山さんの偽物を立てるのよ」

幹部「偽物なんて用意できるのか」

幹部「秋山さんのそっくりさんなどいるのか」

佐「うちのクラスに居るわ、高橋風子さんって言ってね。
  メガネを外してちょっと釣り目に見えるようにメイクすれば
  あっという間に秋山さんよ。
  背格好も同じくらいだし、髪型なんて秋山さんそのもの」

和「そんなに似てたかしら」

佐「彼女もファンクラブの会員だから、協力してくれるわ」

澪「高橋さんなら騙せそうだな。
  じゃあそれで頼むよ」

佐「ええ、分かったわ」

和「ところで高橋さんを影武者にしている間、
  ホンモノのほうはどうするの?」

幹部「地下壕にでも隠れていてもらえばいい」

幹部「秋山さんが二人いるのはおかしいからな」

和「地下壕って……」


ここに集まった幹部連中は
もはや澪への忠誠心など持ち合わせていない。
佐々木と同じく権力に固執するだけの者たちだ。
だからこそ澪を地下壕にぶちこめ、などという
乱暴な提案も平気でできる。


佐「秋山さん、それでいいわよね?」

澪「えー……まあ、仕方ないな……」

佐「賛同してくれてありがとう。
  早いうちに出生証明書を取り戻して自由にしてあげるわ」

澪「ああ、頼むよ……
  私もあれを公にされたくはないからな……」

和「……本当にいいの? 澪。
  嫌なら嫌って言ってくれていいのよ」

澪「嫌だけど、仕方ない。私はみんなを信じてるから、
  きっと早くあれを奪還してくれるって」

佐「ええ、秋山さんのために、一刻も早く奪い返してみせるわ」

和「……」

佐「ではこの後、秋山さんには早速地下壕に行ってもらうから」

和「じゃあ今日の幹部会議はここまでね。
  最後に澪ファンクラブの歌を歌って解散にするわ」




地下壕。

澪「いつ来ても不気味だなあ、この地下壕は……」

佐「不気味なのは廊下だけよ。
  部屋の中はちゃんとしてるから」

澪「それならいいんだけど」


佐々木は地下壕の一番奥、
扉にビップルームと書かれた部屋に澪を案内した。
その部屋は床に絨毯が敷かれ、綺麗な壁紙が貼られて、
ベッド、ソファ、マンガやゲームなどが揃っていた。


佐「食事は一日三回、他の会員に持ってこさせるから。
  あ、授業中と完全下校後は無人になるからね」

澪「ええっ!? 誰もいなくなっちゃうのか?」

佐「音楽でもかけてれば怖くないでしょ。
  あと、この部屋から出ちゃダメよ。絶対に」

澪「う、うん」

佐「着替えは明日高橋さんに持ってきてもらうから。
  それまでは制服で我慢して。
  じゃあ私はこれで」

澪「ううー……早く解放してくれよー……」




翌朝、秋山家。

風子「おはようございます、お父さん、お母さん」

母「え、ああ、おはよう……」

風子「朝御飯はいりません。
   それでは私、学校へ行きますので」

母「行ってらっしゃい……」

父「いってらっしゃーい」

母「ちょっとあなた。
  昨夜からなんだか澪の様子がおかしいんだけど」

父「そうかあ? 普通だろ」

母「いやいや絶対普通じゃないニダよ」

父「大丈夫だって。お前は心配しすぎなんだよ。
  中学の時もなんかアニメに影響されて変な感じになってたろ。
  また別のアニメにはまったんじゃないのか」

母「まったく、高校生にもなってアニメだなんて」




学校。
風子が校門をくぐると
待機していたファンクラブの会員たちが風子の護衛についた。
ちなみに澪と入れ替わっていることは、一般の会員たちは知らない。


「秋山さん、お荷物をお持ちします!」

風子「ええ、お願い」

「秋山さん、最近反体制者が活気づいているとの噂があります! お気をつけください!」

風子「あなたたちが守ってくれるんでしょ」

「秋山さん、今日の時間割は現国、数学、体育、世界史、英語、生物です!」

風子「体育はサボるわ」

「秋山さん、今日は一段と可愛いですね///」

風子「ありがとう」



そんな風子たちを見つめる反体制者たち。

梓「やはり警備は厳重ですね」

佐藤「大丈夫、私たちの作戦なら成功するわ」

エリ「決行は今日の昼休みだよ。いいね」

梓「はい」




そして昼休み。

「秋山さん、パン買ってきました!」

風子「ありがとう……ん、メール?」


風子が持っているのはもちろん澪の携帯。
携帯をひらくと唯からのメールが届いていた。
文面は以下のとおり。


『澪ちゃん、突然こんなメールしてごめんね。
 どうしても澪ちゃんに伝えておきたいことがあるの。
 大事な話だから、二人きりで言いたい。
 昼休み、東校舎の屋上に一人できてくれる?』


風子はそのメールを読んで、
携帯の画面を佐々木に見せた。


風子「すごいわね、本当に呼び出しが来たわよ。
   反体制者の連中も単純ね」

佐「まだ喜ぶのは早いわよ、
  その反体制者どもを一掃するまでが計画なんだから。
  これが成功したらあなたを幹部に昇格させてあげるわ」

風子「そう、それは頑張らなくては」


携帯を閉じる。
風子は不敵に微笑んで、
東校舎の屋上へと向かう。



昼休み、東校舎屋上。
ここは校舎内に出入りする扉以外は何もない……はずなのだが、
今は屋上の一角に大量のダンボール箱が積み重ねられていた。
その陰に梓、紬、エリ、アカネの4人が隠れて様子を伺っている。
かなり怪しい。

屋上にやってきた風子もダンボールに気づいたが
あえて無視して、すでに到着していた唯の方へと歩み寄っていく。


唯「あ、来てくれたんだ」

風子「うん、約束通り一人で来たよ。
   それで大事な話ってなんなんだ?」

唯「澪ちゃんにだけ伝えたかったことなの……」

風子「え、それって……///」

唯「……」


風子による澪の口調の模倣は完璧であった。
目の前にいる唯も、遠くから見守る梓たちも、
この澪が偽物だと疑いすらしない。
唯は唯で、完全に澪を騙せていると思っている。
梓たちも作戦の成功を信じて疑わない。

全員(駄目だ、まだ笑うな……)




唯「で、話って言うのがね……」

風子「うん」

唯「あずにゃん」

梓「はい」


唯に呼ばれて、出生証明書を携えた梓が
ダンボール箱の陰から歩み出る。


風子「な、なにやってるんだ梓、
   こんなところで……」

梓「澪先輩に、見せたいものがあって」


一歩一歩、風子に近づいていく梓。


梓(これを澪先輩に突きつけて脅せば
  澪先輩をこちらに引きこむことが出来るはずだ……
  でもこんなことくらい向こうも予測しているはず……
  このタイミングでファンクラブのヤツらが飛び出してきて
  私たちを一網打尽にすることも……いや、
  そんなことがないようにこの東校舎屋上を選んだんだ。
  誰も隠れられる場所はない……
  ファンクラブのヤツらなんていないはずなんだ……
  でもなんなんだろう、
  この嫌な胸騒ぎは……)

風子「……」



梓「っ!!」

梓はピタリと脚を止めた。
さらに大きく目を見開いて、わなわなと唇を震わせる。
冷や汗が頬を伝う。
尋常ではない様子の梓に、唯が問いかける。

唯「ど、どうしたの? あずにゃん」

梓「……に、偽物です」

唯「え?」

梓「その澪先輩は偽物です!!
  唯先輩、はやく逃げてください!!」

唯「ええええっ!?」

風子「……」

紬「偽物ってどういうこと?
  どう見ても澪ちゃんじゃ……」

梓「おっぱいが2cm足りません!!
  私の澪っぱい観察眼は確かです、はやく逃げて!」


梓に言われて慌てて逃げようとする唯の腕を
風子がガッシと捕まえた。


風子「ふふふ……バレてしまってはしょうがないわ」

唯「ひいいいいい!」

風子「出てきなさい、お前たち!」


風子の号令と共に
校舎の外壁に張り付いて隠れていた
ファンクラブの会員たちが一斉に屋上へと上がってきた。
その数およそ20。


風子「澪のパンツは!」

会員達「「縞パンツ!」」

紬「なっ、そんな場所に隠れてたなんて」

エリ「まるで忍者だねっ」

佐藤「そ、そんなこと行ってる場合じゃないでしょ!!」

風子「さああなたたち、出生証明書を出しなさい。
   おとなしく言うことを聞かなければ……
   どうなるか分かってるわよね」

梓「くっ……こうなったら」

風子「ふふん、ここにいる戦闘員たちに出生証明書を見せつけても無駄よ。
   こいつらはみんな佐々木さんの直属部隊、
   秋山さんへの崇拝心なんかかけらも持ち合わせていないからね」

佐藤「ど、どうするの?」

エリ「どうするって言ったって……」

紬「……」

風子「こちらに従う気はない、ということね……
   ならばこちらも遠慮なく行かせてもらうわ。
   お前たち、やっておしまい!」


風子の命令一下、20人の戦闘員が
エリたちを取り囲み、一斉に襲いかかった。


紬「オラオラオラオラオラオラ」

唯「すごい、ムギちゃんが20人相手に互角に戦ってる!」

風子「なんですって!?」

佐藤「私たちは今のうちに逃げよう!」

エリ「えっ、でも唯とムギが!」

梓「今は私たちが逃げるのが先決です!」

紬「あまり時間は稼げないわ……
  私のことはいいから、はやく逃げて!!」

エリ「む、ムギ……!」




そのとき校舎内に通じるドアが開き、
佐々木曜子が姿を表した。


佐「ごきげんよう」

エリ「佐々木さん……!」

佐「あら、もうとっくに全員捕まえられてるもんだと思ったのに。
  20人じゃ足りなかったかしら?」

風子「大丈夫よ、今は琴吹さんが粘っているけれど……
   すぐに力尽きるでしょうから」


20人の戦闘員に囲まれながらも
必死に戦っていた紬であったが
明らかにバテてしまっている。
もはや気力だけで戦っている状態だ。


佐「ふふん、もうボロボロね。
  おとなしく諦めたほうがいいわよ……
  琴吹さんだけじゃなく、あなたたち反体制者もね」

梓「だ、誰が諦めるもんですか!」

佐「反骨心だけは立派ね。褒めてあげてもいいわ。
  でもそれだけじゃどうにもならないって、
  もう身に染みて分かったでしょう?」

梓「ぐぬぬ」



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