その頃、3年生の教室。

紬「いきなり持ち物検査だなんて」

唯「澪ちゃんの出生証明書、
  りっちゃんに預けといてよかったねー」

紬「しーっ、唯ちゃん声大きい!!」ガッ

唯「む、ぐがぐぐ……」

瀧エリ「……」




生徒会室。

幹部「澪のパンツは!」

佐「縞パンツ! ……で、
  あなたの教室では見つけられたの?」

幹部「いえ、例の封筒や書類は誰も……
   制服のポケットからペンケースの中、
   ノートや教科書の間まで徹底的にさがしましたが」

佐「そう、やはり持ち歩いている人はいないのね……」

幹部「それで、どうするんです?
   今度は学校中を探して回りますか」

佐「それしかないでしょうね。
  真鍋さんもそれでいい?」

和「そんなに結論を急ぐこともないわ。
  今後のことも含めて今日の幹部会議で話し合いましょう。
  学校中を捜索するよりももっと効率のいい方法があるでしょうし」

佐「そうね。じゃあ放課後、緊急幹部会議ってことで
  他の幹部にも伝えておくわ」

和「ええ、お願い」




放課後。

今日も律の見舞いにやってきた軽音部の3人。
しかし今日は昨日とは違い、先客がいた。
瀧エリと佐藤アカネである。


エリ「やあ、おじゃましてまーす」

佐藤「どうも」

唯「あれー、エリちゃんにアカネちゃん、どうしたの?」

エリ「ちょっとお見舞いにね」

律「お前らも座れよ」

紬「はーい」

梓「……」

唯「どーしたの、あずにゃん」

梓「この人達、ファンクラブの人じゃないんですか?」

唯「ええっ!?」

梓「まさか、あれがここにあることを探り当てて……!?」

唯「そ、そんなー! 私があのときうっかり口を滑らせたから?」

エリ「あー違う違う」

佐藤「秋山さんの出生証明書がここにある、
   っていうのを平沢さんから聞いてやってきたのは当たりだけどね」

エリ「私たちはあなたたちの味方よ」

唯「え、どういうこと?」

梓「まさか……ARCH?」

エリ「ぴんぽーん、大正解」


ARCHとは澪ファンクラブを打ち倒すために
密かな活動を続けている地下組織だ。
瀧エリはそのリーダー、佐藤アカネが副リーダーであった。
また先日捕まった立花姫子も構成員の一人である。


梓「実在したんだ……」

エリ「いやー、もっと目立った活動が出来ればいいんだけどね……」

佐藤「現状ではファンクラブに叩き潰されるだけだしね。
   メンバーもファンクラブに比べて少ないし……」

律「まー仕方ねーよ。
  今はファンクラブの力が圧倒的だしな」

エリ「そうだね。でもそんな状況を
   覆せてしまうものが、ここにある」

梓「……」

唯「澪ちゃんの出生証明書のこと?」

佐藤「そうよ、それが今のところ、
   澪ファンクラブに対抗できる唯一の手段」

エリ「そこでお願いなんだけど、
   その出生証明書を私たちに渡してほしいの

紬「ええっ!?」

エリ「お願い。このままじゃみんなまで戦いに巻き込むことになっちゃう。
   それだけは避けたいから……」

唯「……」

紬「……」

エリ「だめかな……」

唯「いやいや、むしろ巻き込んで欲しいくらいだよ」

エリ「え?」

紬「うん、私たち、りっちゃんのカタキを取るって決めたもの!」

唯「そうだよ、むしろエリちゃんたちだけで戦うほうがダメだよ。
  私たちにも戦わせて欲しい」

エリ「二人とも……ありがとう!」

唯「あずにゃんも、それでいいよね?」

梓(いやいや絶対よくないし。なんでそんな簡単に信用しちゃってるの。
  この人たち澪ファンクラブの回し者かも知れないのによく笑顔で一緒に戦いたいとか言えますね。
  ARCHだっていう確たる証拠もないし。少しは警戒心ってものがないんですか。
  こんなんじゃこの先マジ不安なんですけど……
  って言っちゃおうかな)

困った梓はちらっと律の表情を見やる。
律は梓の考えを見抜いているようだった。


律「仲間が増えるのは心強いな。
  でもこの出生証明書はエリやアカネには触らせない。
  梓にだけ持たせておく。
  それが、私たちが協力する条件だ」

佐藤「うーん、仕方ないわね。
   信用してもらえないのは覚悟の上だし……」

エリ「うん、それでいいよ。
   それが私たちの武器にできるのは変わりないし」

梓(うーん、まあいいか……
  この人達が本当にARCHなら協力しないのは惜しいし
  もし違ったら出生証明書持って逃げたらいいんだ)

律「ほれ梓、これ」

梓「はい、預かります」



唯「それで、これからどーするの?」

佐藤「私たちとしてはなるべく早く行動を起こしたい。
   姫子を助けたいから」

紬「そうか、捕まっちゃってるのよね」

律「つーか何日も家に帰らなかったら
  流石に親が怪しむんじゃねーのか?
  警察に通報されたりしたら終わりだろ」

佐藤「緊急で部活の泊り込み訓練が
   行われるってことにしてるらしい」

律「無理あるだろ」

唯「そういえば捕まったらどうなるの?
  殺されちゃうの?」

エリ「さすがに殺されはしないよ。
   ウワサによると、不快な音を何日も聞かせ続けて脳細胞を破壊し、
   秋山さんに忠誠を誓うよう洗脳されちゃうらしいよ」

紬「な、なんて恐ろしいの……」

エリ「だから、姫子が洗脳されちゃう前に早く助けたいの」

梓「うーむ、それは急いだほうがいいですね」

佐藤「やっぱりこの出生証明書を
   放送部を通じて公開するのが一番効果あると思う」

エリ「でも放送部は完全に澪ファンクラブに支配されてるよ。
   放送部だけじゃなくて、新聞部とかも」

唯「でも、なんとかスキをつけば」

梓「無理でしょう、向こうだってこっちの動きを読んで
  部活動中は警備を固めてるに決まってます」

紬「じゃあ誰もいないときに放送室に忍び込むってのは?」

エリ「鍵が手に入らないよ」

唯「職員室の先生をちょこっと騙くらかして借りればいいよ」

エリ「危険だよ。今や教師は半分以上が
   澪ファンクラブ会員だって言われてるし、
   放送部員以外が放送室の鍵を借りるなんて
   こっちのやること見抜かれて終わりだよ」

唯「よし、じゃあもう放送室のドアをぶち破って……」

梓「あそこセコムついてるからすぐバレますよ」

唯「えー、じゃあもう八方塞がりじゃん!!」

律「あのー」

エリ「なに、りっちゃん」

律「澪が在日だってのを公表するんじゃなくてさ……
  まずその弱味につけこんで
  澪をこっちに引きこむっていうのはどうだ?」

梓「澪先輩を脅迫するってことですか?」

律「脅迫とか言うと人聞き悪いけど。
  澪をこっちの味方にしたほうが、色々うまくいくだろ?
  ファンクラブの最高権力者ってのは会長の和じゃなくて、
  結局は澪なんだからさ」

佐藤「うん……いいかもしれない。
   秋山さんが一人でいるところを狙って
   出生証明書を突きつけて、
   言うことを聞かなければこれを公表する、と脅す……
   成功すればファンクラブに対してかなりのアドバンテージになるわ」

唯「すごーいりっちゃん、頭いいー。
  和ちゃんみたーい」

梓「でも澪先輩が一人になる時なんてあります?
  いっつもファンクラブの人に囲まれてるじゃないですか」

佐藤「まあ確かに……トイレに入ってるときくらいか」

唯「あ、じゃあ学校中のトイレに張り込んでれば!」

梓「もっと考えて発言してください!」


紬「うーん、じゃあ澪ちゃんの一日の行動を観察して、
  一人になるタイミングを研究するとか……」

エリ「そんな気の長いことやってられないよ、
   姫子を助けなきゃいけないのに」

紬「あ、そっか」

唯「うーん、むずかしーなー……
  澪ちゃんに出生証明書を誰にも邪魔されず、
  確実に見せつける方法か~」

エリ「うーん……」

佐藤「結局のところ、
   秋山さんに出生証明書を突きつければいいのよね」

唯「そーだね」

佐藤「じゃあ、秋山さんを一人で呼び出すのはどうかな?
   大事な話がある、ふたりきりで言いたいから
   誰にもついてこさせずに、一人で来てくれ、とか言ってさ」

梓「いいですね、それが一番手っ取り早いです」

律「本当に澪をひとりにできるかどうかが問題だが」

紬「そっか、逆にファンクラブは澪ちゃんを囮として利用するかも。
  澪ちゃんが一人でやって来たように見せかけて、
  そして集まった私たちを、隠れていたファンクラブの人たちが一網打尽……」

梓「ありえますね」

エリ「それなら東校舎の屋上に呼び出せばいいよ。あそこなら何も隠れる場所がない」

律「よし、じゃあそれで決まりだ」

エリ「秋山さんを呼び出すのは、唯に任せていい?」

唯「え! 私?」

エリ「秋山さんも唯が相手なら、警戒心薄れるだろうし」

唯「うーん、そうかなー。ていうかそれどういう意味?」

佐藤「じゃあ平沢さんが秋山さんをメールで
   大事な話があるって言って東校舎の屋上に呼び出す。
   念のため秋山さんへの呼び出しを掛ける前に
   先に私たちが東校舎の屋上に行っておいて、
   ファンクラブに先回りされないようスタンバイしておく。
   あとは一人でやってきた秋山さんに……」

梓「うん、完璧な計画ですね」

律「任せたぞ、私は病院から応援してるからな」

エリ「おうよ!」


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