ある日。

澪「おい律、そのケーキくれよ」

律「え、なんでだよ。やだよ」

澪「ふーん……私に逆らうんだ」

律「うっ」

澪「いいのかなー……ファンクラブの人たちが黙ってないと思うんだけどなー」

律「ちっ、分かったよ。やるよ、ケーキくらい」

澪「いいのか? ありがとう、ははは」

律「……」



別の日。

澪「梓ー、喉乾いたー」

梓「ふうん」

澪「喉乾いたんだってば」

梓「ファンクラブの人たちに、ジュースでも買ってきてもらったらどうです?」

澪「私は梓に買ってきて欲しいんだよ。
  ほら、早く行ってきて」

梓「えー……」

澪「逆らったらどうなるかくらい分かるよな?」

梓「……何がいいんですか?」

澪「梓に任せるよ。
  でももし私の口に合わないものを買ってきた場合、
  ファンクラブの人に愚痴っちゃおうかなー」

梓「くっ……」



これまた別の日。

先生「えー……じゃあこの問2の日本語訳を、
   秋山さんにやってもらおうかな」

ジロッ
ギロリ

先生「ひっ、なんだこの突き刺さるような視線は」

「秋山さんを指名するなんて……この鬼教師!」
「秋山さんは照れ屋さんなのに、みんなの前で答えを言わせるなんて」
「澪ファンクラブの名にかけて、秋山さんを困らせる者は……」
「もしもしファンクラブ本部ですか? この教師への攻撃許可を」

先生「ひいいいいいいい!」

澪「すみません先生、私のファンクラブの人たちが……
  でも命が惜しかったら、授業中に私を当てないほうがいいですよ☆」

先生「うう、分かったよ……じゃあ代わりに平沢さん」

唯「わかりません」



2年前の秋に発足した秋山澪ファンクラブ。
最初は一部の生徒たちによって構成された
小規模な地下組織であったのだが、
みるみるうちに勢力を拡大していった。
その力で2代目会長・真鍋和を生徒会長に就任させると
生徒会権力を自由に振り回すようになり、
ついに桜が丘高校を完全に支配してしまったのだった。


律「くっそ、澪のヤツ……完全に調子に乗りやがって」

紬「やめたほうがいいわよ、りっちゃん。
  どこでファンクラブの人が聞いてるかわからないんだから」

律「でも黙ってらんねーよ。
  お前も色々やられただろ?」

紬「まあ……消しゴムとか、珍しい色のペン取られたりとか」

梓「小学生ですか」

律「あーあ、ファンクラブなんて無くなっちまえばいいんだ。
  そうすれば澪も元の澪に戻るってのに」

紬「りっちゃん……」

律「私はファンクラブなんかに屈しねー!
  ファンクラブ消えろー!」


「…………」




放課後、帰り道。

唯「友達とずっと遊んでーたーい♪」

紬「見た目よさ気な女子が来たとしてもー♪」

律「僕は困らなーい♪」

梓「……」

紬「どーしたの、梓ちゃん?」

梓「いえ……あのトラック、なんかおかしいなって」

唯「え。どれ?」

梓「あそこの……」


トラック「ブロロロロロロロ」


唯「うわっ、こっち突っ込んでくるよぉー!」

紬「いやああああ!」

トラック「ドッカーン」

律「ぎゃああああああああ!」

梓「律せんぱああああああああい!」



トラックはそのまま走り去っていった。
律は跳ね飛ばされて血まみれになったが
かろうじて息はあった。

紬「り、りっちゃん、大丈夫!?」

律「う、うぐぐ……」

唯「あわわわ、きゅうきゅうしゃ、きゅうきゅうしゃ……!
  9、9、……あれっ救急車の車って何番!?」

紬「と、とにかく応急処置をしないと……
  梓ちゃんも手伝って」

梓「……」

紬「梓ちゃん、どうしたの?」

梓「さっきトラック運転してた人……
  澪ファンクラブのバッジ付けてました」

紬「ええっ!?」

律「ま、マジかよ……ぐはっ」

梓「許せない……これが澪ファンクラブのやり方……
  ちょっと澪ファンクラブの文句を言ったくらいで……!!
  律先輩の敵は私が取ります……だから律先輩、今は安らかに……!」

律「まだ生きてるよ」




数日後。
律は一命をとりとめてしばらく入院することになった。
澪ファンクラブへの復讐を誓った梓ではあったが、
敵はあまりにも強大であり、卑劣である。
自分一人では立ち向かうことさえも難しい。


梓(そういえば、反澪ファンクラブを掲げる
  謎の組織があるって聞いたことがある……
  けど、どうせただのウワサなんだろうな)


そんなことを考えながら
校舎と校舎をつなぐ渡り廊下を歩いていると、
どこからか声が聞こえてきた。


「待てー、反体制者め!」
「それをこっちに渡せー!」
「にがすな、追え追えー!」


ああ、またどこかで狩りが行われているのだな、
と梓はうんざりした気持ちになった。
狩りとは澪ファンクラブに逆らう人間を
徹底的に追い立てて逮捕し、粛清をおこなうものだ。


梓(どこの誰だか知らないけど……逃げ切れますように)


見知らぬ人のために祈る梓。
そのとき校舎の影から何者かが現れ、
梓の前に走り寄ってきた。
どう見ても、何かに追われている様子である。


梓「ど、どうしたんですか?
  まさかさっき狩りにあってたのって……」

「いいから、これを!」


追われていた人……綺麗な茶髪の3年生は、
膝に手を付き、肩で息をしながら
梓に向かって封筒を突き出した。


梓「え? え?」

「これをもって早く逃げて、早く!!」

梓「は、はい!」


何が何だか分からない。
しかしただごとではない様子だ。
梓はその彼女の手から封筒を受け取り、
踵を返して全速力で突っ走る。

十秒もしないうちに、
先程の彼女の悲鳴と、
澪ファンクラブの人たちらしき声が聞こえた。
おそらく捕まってしまったのだろう。
一瞬脚を止めたが、
梓はすぐにまた走りだした。



梓「はあはあ……
  ここまでくればもう大丈夫かなァ……」

梓「それにしても、さっきの人、なんで追われてたんだろ」

梓「それからこの封筒……」

梓「中身何が入ってるのかな」

梓「見ちゃえ」


勝手に封筒を開けた。
中を覗くと紙切れが一枚。


梓「なんだろう、この紙」ぺらり

梓「秋山澪……?」

梓「み、澪先輩の出生証明書!?」

梓「嘘、澪先輩の両親が朝鮮人だなんて……!!」


偶然にも、秋山澪が在日朝鮮人だという秘密を掴んでしまった梓。
これを公開すれば、澪ファンクラブは……
自身が手にした力の大きさに、梓は思わず身震いをしてしまう。
そして梓は改めて、澪ファンクラブと戦う決意をするのだった。


梓「勝てる……これさえあれば!!」


   「アキヤマに告ぐ」 第1話おわり



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