606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:40:20.09 ID:WmJAPMKKo



律「鼻で笑ったな!」

梓「いたっ! 痛いですよ!」

律「私の怖さを忘れているようだからなー! 思い出させてやる!」

梓「痛いですってー!」

風子「……」


頭をグリグリとされて、はしゃぎ気味の梓ちゃん。
私たちと一緒にいるときはしない笑顔。

私たちの方がりっちゃんより付き合っている年月が長いのに。
少し、妬けたりする。


律「髪を下ろしただけで大人ぶるなよ!」

梓「……そうですね」

律「大人の落ち着きか!?」

梓「ちがいますよ!」


サッ

後ろへ跳ねてりっちゃんの手から逃れた梓ちゃん。

足元には黒猫がいた。



黒猫「ニャー」

梓律「「 え……? 」」

風子「?」


黒猫の一鳴きに、二人は身動きしなくなった。

よく分からないから口を挟まない方がいいのかもしれない。
少し、眺めていよう。


風子「……」

律「梓、コイツを知ってんのか……?」

梓「……ゴウト……ですよね」

律「な――!?」


ゴウト?


律「なんで名前を知ってんだよ!」

梓「……そ、それは」

ゴウト「ニャー」

梓「あ、あれ? 違うんですか」

律「……はぁ?」

ゴウト「ニャー」

梓「じゃあ、別人……いえ、別猫?」

律「おい、どうして聞こえるんだよ」

梓「!」

607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:41:31.92 ID:WmJAPMKKo



りっちゃんの声のトーンが下がり、梓ちゃんが萎縮する。


律「今、ゴウトは、襲名した、と言ったんだ」

梓「!!!」

律「ゴウトの言葉が、聞こえる、のか?」

梓「そ、それは……!」


梓ちゃんの顔に動揺が広がっていく。


律「ちゃんと答えろ、梓」

梓「っ!」

ゴウト「ニャー」

律「お前は黙ってろ。事と次第によっちゃ、許さないからな」

ゴウト「……」


鋭い目つきでゴウトと名の付く黒猫を睨みつける。
やっぱり、会話ができるんだ。

知床で出会った蝙蝠の羽を持つ黒猫を思い出す。


律「どうなんだよ、梓」

梓「……5年前の夏、ヴェガに乗った時のことです」

律「……」

梓「律さん、夏目を覚えていますか?」

律「あぁ。あの夏に出会った人たちは忘れられないからな」

梓「その夏目と関係しているんですけど。
  ヴェガが運行した、大阪から、広島までの間の記憶ってありますか?」

律「あぁ、当たり前だろ。……広島でお好み焼きを食べて」

梓「どうして最終駅まで乗ったのか、理由をちゃんと言えますか?」

律「それは……」


未知子「あ、律さんと梓ちゃんだ」

多恵「ほんとだ……、って真剣な顔してるよ」

文恵「……」

風子「あ……いらっしゃい」

未知子「どうしたの、あの二人」


私に気付いて話しかけてくる。


風子「真面目な話。さ、入って」

多恵「……入り口で?」

文恵「……変なの」

風子「うん、変なの、あの二人。注文はマスターに言ってね」

未知子「うん」


そして、ドアをそっと閉める。

608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:42:48.67 ID:WmJAPMKKo



律「それで催眠術か……」

梓「そうです。記憶を消したわけじゃないですから、何かの拍子に思い出すかもしれません」

律「……」

梓「その前兆を見抜いたのが、えっと……名前が出てこない」

律「ライドウ、だな」

梓「そ、そうです。京都でそこのゴウトと似た、黒猫も一緒に会いました」


話が飛んでて分からない。


律「……なるほどな」

梓「常識の上書きで、聞こえるようになった……という説明を受けました。
  だから、ゴウトの声は私にも聞こえます」

律「……」

梓「……逆に聞いていいですか?」

律「ん? うん」

梓「どうして、ライドウの名を知ってて、律さんもゴウトの言葉が、聞こえる、んですか?」

律「私がライドウの名を代理で継いでいるからだよ」

梓「え!?」


あ、澪ちゃんだ。


澪「……!?」


りっちゃんを見て驚いてる。


澪「……!」


一瞬だけ、りっちゃんを睨んで、


澪「……」


私に軽く手を振って中へ入っていった。

二人はそれに気付いた様子はないね。


律「今は奏が理事をしている宮神学園なんだけど、そこに行った時のこと覚えてるか?」

梓「はい」

律「その時に、二度も助けられたんだよ」

梓「……あ、その時にも黒猫の話を聞きましたね」

律「うん。梓たちが異次元に神隠しに遭った時と、旅館で操られた時の二度助けられた」

梓「……」

ゴウト「……」


二人を挟むように、ゴウトちゃんは座っている。

私がここに居ることを忘れているよね。

609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:43:30.36 ID:WmJAPMKKo



律「その借りを返すために……な」

梓「そうですか……」

ゴウト「ニャー」

律「いや、でもな」

梓「向こうの世界ってなんですか?」

律「知らなくていい世界だ」

梓「教えてください……!」

律「余計なことを言うなよ、ゴウト」

ゴウト「ニャー」



あ……。

掌を大きく振りかざす人影がりっちゃんの背後に。


「ハイタイアタック!」

律「うおっ!?」


スカッ


「避けたね、りっちゃん!?」

律「あっぶね! 久しぶりの再会で何すんだよ!」

風子「唯さん……」

唯「連絡をよこさない友達に愛の制裁を――あっずにゃん!」

梓「あぶないっ」


サッ

両手を広げて駆け寄った唯さんを、身の軽さを活かして梓ちゃんは避けた。


唯「うぉぉお!?」

梓「そういうのは卒業してください」

唯「永遠に新入生だよ!」

梓「意味が分かりません」

律「はは、相変わらずだな……」


これで4人揃った。

あとは一人。

610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:44:19.75 ID:WmJAPMKKo



唯「風ちゃん、久しぶりだね~」

風子「うん。唯さんも元気そうだね」

和「風子?」

風子「……あ」


ドアを開いて顔を覗かせる和さん。


和「何をして――唯」

唯「和ちゃ~ん!」

和「久しぶりね、元気にしてた?」

唯「すっごい元気だよ~!」

和「幼稚園の仕事はどう?」

唯「うへへ、楽しいよ~」

和「そう……」


まるで母親のような雰囲気で唯さんを包んでいる。


律「……幼稚園って?」

梓「唯さんの職場ですよ」

律「えー! 唯が!?」

唯「りっちゃんには教えてないもんね~」

風子「……」

和「ここで立ち話もなんだから、入って」

唯「はいよ~、あずにゃんも風ちゃんも入ろうよ」

梓「私は少し話がありますので……」

風子「……うん」

律「いや~、久しぶりだな和」

梓「待ってください、まだ話は終わってません」

律「ちっ」

和「律はあとで話があるわ」

律「なんか怖い」

唯「わぁ~! みんな揃ってるね!」

和「それじゃ、案内よろしくね」

風子「うん」


ドアが閉まる。


律「どうして聞きたいんだよ」

梓「それは……」

611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:45:22.28 ID:WmJAPMKKo



圭子「こんな所でどうしたの?」

しずか「……?」

春菜「久しぶりだね」

風子「うん。さ、入って」

圭子「そっちの二人はいいの?」

風子「いいの」

しずか「???」

春菜「ん~?」

風子「大事な話をしてるから、ね」

春菜「分かった……。それじゃ後でね」

風子「マスターに――あ」


言い切らない内にドアが閉まった。


律「分かった。けど、風子もいるからあっちで話そうぜ」

風子「仲間外れ?」

律「いや、不可解な話だからさ、梓でも理解できるかどうか」

風子「大丈夫」

律「その根拠はどこからきてんだよ……」

梓「えっと、風子さんは死神に会ったそうです」

風子「うん」

律「……え」


引いてるね。

だけど、あれは本当にあった出来事。

おかげで私はお祖母ちゃんにお別れをすることが出来た。


律「……」

風子「……?」


私の目をじっと見つめるりっちゃんに、少し戸惑う。

変なことを言って騙そうとしている、と思われているのかな。


612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:46:10.25 ID:WmJAPMKKo



律「分かった。けど、私の話を全て鵜呑みにしないでくれ」

ゴウト「ニャー」

梓「……分かりました」

風子「……」

律「実はな……」

風子「あ、ちょっと待って」

律「?」


こっちに向かって歩いてくる4人の姿を見つけた。


律「おー、つかさに愛ちゃんに俊美に……みど、じゃない」

風子「みど……?」

律「えっと……」

ますみ「私の名前を忘れてる」

律「ち、違うんだぜ?」

梓「矢田ますみさんです」

律「そうそう、ますみな」

つかさ愛俊美「「「 ひどい 」」」

律「緑と似た雰囲気だからさ、度忘れしちった、てへ☆」


ウィンクをして誤魔化そうとしている。


梓「た、確かに……似てるかも……」

ますみ「緑って、誰……?」

俊美「さぁ?」

律「アハハ」


笑って誤魔化そうとしている。


ますみ「梓ちゃん、緑って誰?」

梓「えっと……友達……です」

ますみ「ふぅん……」

風子「中へどうぞ」

つかさ「風子さんは入らないの?」

風子「うん、案内してるから。マスターに注文してね」

愛「う、うん。分かった」

律「すいませんでしたぁー」

ますみ「……別にいいけど」

俊美「わー、結構集まってるねー」

風子「……」


中を覗いてみるとみんな思い思いに楽しんでいる。

幹事として、この光景はとても嬉しい。

613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:47:33.42 ID:WmJAPMKKo



律「ますみ達と違和感なく喋ってるよな、どうしてだ?」

梓「……クラス会に時々参加させてもらっているので」

律「へぇ……」

風子「私が強引に連れて行っているんだけどね」

律「それでも付いて行ってるんだろ?」

梓「はい……」

律「なんか、すげぇ……」

一子「私もお邪魔するねー」

曜子「あ、澪さんが居た」

風子「あの人がマスターだからね」

一子曜子「「 分かったー 」」

風子「……あと5人かな」


それで元3年2組の全員が揃う。

次々と元クラスメイトたちが集まってきていた。

忙しい時間に予定を合わせてくれたことがとても嬉しい。


キミ子「久しぶりだね」

律「おーキミ子! 元気してたか?」

キミ子「うん。律さんも元気そうでなにより」

響子「卒業式以来だよね」

律「そうだな。けいおん部の連中とも同じくらい会ってないからな」

響子「そうなんだ。みんなと会うことが出来て良かったよ」

律「あぁ、今日はいい同窓会だぜ~」


あと三人。


梓「探偵……。律さんに務まるの?」

ゴウト「ニャ」

律「探偵を生業にしているってだけで、本業はそれじゃないぜ」

梓「……そうなんですか」

律「話を始めるぜ……?」

風子「?」


私を横目でみている。話すことを迷っているみたい。


風子「私が理解できそうに無かったら、空想話として片付けるから、気にしないで」

律「それはそれで、アレなんだが……まぁいいや」

梓「あ!」

風子「あ……!」

律「ん?」


りっちゃんの背後に忍び寄る一つの影。

614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:48:28.18 ID:WmJAPMKKo



梓ちゃんの表情が華やいだ風に吹かれたようになったのは、とても親しんでいる人だから。

髪の長さが短くなっていた。


「だ~れだ♪」

律「うぉっ!?」

「うふふ」

風子「む――」

梓「むぎ先輩!」

紬「あずさちゃん、シー……」

律「いや、もういいから、離してくれむぎ」

梓「髪を切ったんですね!」

紬「うん、そうなんだけど……目隠ししたのに名前を言ったらバレちゃうわ」

梓「あ、えっと、すいません」


イタズラが失敗に終わって、口を尖がらせてがっかりしている彼女に子どものような雰囲気を感じる。


彼女の名前は、琴吹紬。
愛称はむぎと呼ばれ、周りを不思議な空気に変える人。
軽音部でキーボードを担当していた。
高校時代、繋がりが浅かった一つ下の梓ちゃんと今でも付き合っていられるのは、むぎさんのおかげ。

615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:49:14.38 ID:WmJAPMKKo



律「いやぁ、澪かと思ったら、むぎだったのか」

紬「そうです。りっちゃん、練習してきた?」

律「あぁ、バッチリだぜ」

梓「むぎ先輩、……律さんと連絡を取り合っていたんですか?」

紬「えぇ、一年前にドイツで会っていたの」

梓「そうだったんですか……」

律「ぴぃ~ぷぅ~」

梓「別に責めたりしませんから、誤魔化そうとしないでください」

律「会ってた、なんて言ったら怒るだろうなってさ……」

梓「なんでですか」

紬「私ね、その時に思い出したの。夏目さんに声を取り戻してもらったこと」

梓「!」


声を……?


ゴウト「ニャー」

紬「あら、ゴウトちゃんもお久しぶりね」

ゴウト「ニャッ」

梓「むぎ先輩、ゴウトの声が……?」

紬「えぇ、聞こえるわ。京都で出会ったゴウトちゃんとは別なのよね」

ゴウト「ニャ」

梓「……っ」


ニコニコと話すその表情に、困惑気味の梓ちゃん。


紬「ふぅちゃんも卒業して以来ね」

風子「……うん」

紬「? どうしたの?」

風子「ううん。なんでも……」

紬「?」

風子「……」


少しだけ、気後れしてしまった。

五年ぶりの再会で、気まずさがあった。


律「丁度いいや、むぎ、あの時のこと話すぜ?」

紬「う、うん……?」

梓「……」


私は一歩退がる。

616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:50:19.17 ID:WmJAPMKKo



律「梓、此処とは違う、もう一つの世界があるって言ったら、信じる?」

梓「もう一つ……?」

律「あぁ。例えば――むぎの声が出なくなる世界、とか」

梓「――!」

紬「……」


梓ちゃんの表情が強張り、むぎさんとりっちゃんの表情も真剣さを増していく。

そこから読み取れることは、出鱈目な話ではないってこと。


律「私はまだ思い出せないけど、梓の話では夏目に取り憑いた妖怪がむぎの声を奪ったんだったな」

梓「……はい」

紬「……」

律「此の世界では、夏目に助けられた。それなら、もう一つの世界ではどうなるか」

梓「……っ……考えたく……ないです」

律「……そうだよな」

梓「!」

紬「ごめんね、あずさちゃん」

梓「……き、聞きます。続けてください」

律「まぁ……結論から言うとさ、不安要素は取り払ったんだ」

梓「……」

律「その、さっき梓が言っていた妖怪……あぁ、そっか」

紬「?」

梓「律さん……?」

律「広島の厳島神社に封印したんだ……!」


宮島の世界遺産……。


律「あー、やっと思い出したぁ……。シーサーの言ってたことはこれだったのか」

紬「シーサー……って?」

律「私の守り神だよ。随分と助けられたんだ。なるほどなー……」

梓「……」


全然分からない。

617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/30(日) 13:51:29.87 ID:WmJAPMKKo



律「あ、ごめん。それで、どうしてもう一つの世界のことを知っているかと言ったら、
  ある人物に助けを求められたから、なんだ」

梓「ライドウに……ですか?」

律「いや、ライドウにはもう会ってない。もう一人の私に、だ」

紬「りっちゃんが二人いたわ」

梓「軽く凄いことをいいますね。……ということは、むぎ先輩もその場にいたんですね」

紬「そうなの」

律「向こうの私は――むぎの声が治るように――って、世界を聖地巡礼していた」

紬「……」


複雑な表情を浮かべているむぎさん。


律「此処では、私も世界に興味があったから歩いていてさ。
  そこで偶然ゴウトに出会って、葛の葉の代理をやってたんだ」

ゴウト「ニャー」

律「はは、まぁ、おかげで身を守ってくれていたけどな」

梓「……」

律「聖地巡礼をして、何をしていたかって言ったら、太陽神の開放だ」

梓「太陽神……?」

紬「三年前にペルーで日食があったのを覚えてる?」

梓「は、はい」


私も覚えている。

北海道に行った年にペルーで金環日食があって、その次の年にはインドで皆既日食が起こった。


風子「インドのヴィシュヌ……」

律「そうそう、ヴィシュヌには世話になったぜ。……って、詳しいな。付いて来れるのか、こんな話」

風子「……」


否定も肯定もできない。


梓「それじゃあ、向こうの世界に行ってきた……?」

律「ううん、違う。此処と向こうの中間、異次元だ」

梓「……」

律「亜空間とか言ってたけど、私にはそこら辺さっぱり分からん」

紬「……」

梓「なぜ太陽神の開放……?」

律「それがライドウに借りを返すことに繋がってるんだ」

梓「あの時、神隠しで助けられたの私たちなのに……」

律「そこは……まぁ、気にすんな。私の気持ち的なものもあるからさ」

梓「……」


姫子「グッド・ラック」 47