566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:55:29.32 ID:EyoMeYwAo



こんなモノで人と人の縁を切ろうとしている。


姫子「つばめ…………彼の様態は」


必死で声に出していた。


祖母「後は、彼の気力次第になります」

姫子「…………」


燕は生きる気力を無くしている。


姫子「…………っ」


気分が悪い。

これは事故の影響なのか、この場から逃げたい気持ちがそうさせるのか。


看「大丈夫?」

姫子「…………うん……」


相当顔色が悪いのだろう。
自分でも血の気が引いているのが分かる。


祖母「ここの病室は空いていません。費用は出しますから向こうの病院へ――」


ナニカガキレタ。


姫子「お願いですから……彼の支えになってください……」


怒鳴る気力も無く、立ち上がる気力も無く、目の前のお金を叩き返す気力も無く、
ただ、声を必死で搾り出しながら相手を責める。


姫子「死にたがっていました……呪われているって……」

祖母「…………」

姫子「支えが無いから……彼は…今……本当に危ないんです…………」


言葉の断片だけを零していく。

それでもこの人の冷たい目は動かなかった。


限界だった。


「お祖母ちゃん……!」

祖母「……どうしてあなたがここに」

「見つかったって、どうして教えてくれなかったの……!」

祖母「……」


しずかに怒りをぶつけて、休憩室から出ていった。


誰だろう。

……心配してくれる人がいると知れただけ、救われたかもしれない。

567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 12:57:55.46 ID:EyoMeYwAo



一枚の紙を取り出してわたしの連絡先を記す。


姫子「回復したら連絡をさせてください。お礼を言いたいので」

祖母「……分かりました」


――――帰ろう。


姫子「彼が目を覚ましたら、伝えてください」

看「えぇ……」


看護師さんに、伝言を残しておく。


「また、どこかで――。」




――あなたになら出来る。あなたにしか出来ないことがある。

――まだ姫子が知らない事がどこかで、姫子にしか出来ない事がどこかで、待っているんだ。



この言葉を支えに頑張ってきた。


だけど、わたしには何も出来ないみたい。


それに気付くと今までの疲れが一気に押し寄せてきた。


燕の病室の前で心配している女性が話しかけてきた。


「あなたが一緒にいてくれた人?」

「…………」

「ありがとう」

「……」


頭を下げられたけれど、わたしは何もしていない。


「燕を…………燕の支えになってあげてください」

「え……? あなたは……?」

「帰ります。事故の原因はわたしにあります。申し訳ありませんでした」

「え……あ…………」


深く頭を下げる。
赦されることではないと解っているけど。

だけど、そうすることしかできない。


「意識を取り戻すと、信じています」


それは疑わない。

568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 13:01:10.29 ID:EyoMeYwAo





悲しみしか残らない結末はいらない。


映画のBADENDが苦手だった。


希望が無いから。


ヒカリの失われた世界が寂しいから。



自分が無力であっても。


何か出来ると信じていた。




張り詰めていた線が切れてしまった。




由美さんのいる病院に戻る。



バイクの前に一人の少女がいた。


「光……?」

「あ、身体は大丈夫ですか?」

「うん……どうしてここにいるの……?」

「ダニーに教えてもらって。お別れを言いに来ました」

「……帰るんだ」

「はい。もう心残りはありませんからね」


残照で儚く見える光の姿。


「もっと旅をしていたかったけれど、怒られちゃいましたから、いきます」

「うん……元気でね」

「これ、受け取ってくれますか?」

「押し花のしおり……?」

「リンドウという花です」

「どうして?」


――旅の中で見つけた最高のものですから。


そう言って、彼女は去っていった。

569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 13:04:16.79 ID:EyoMeYwAo



「姫子ちゃん、身体は大丈夫?」

「……はい」

「一つ、訊いていいかしら」

「……」

「恋愛感情なの?」


由美さんに問いただされる。

わたしの中にも浮かんだ疑問。

わたしの行動基準が解らなかった。


「燕を好きだという感情は……ありません」

「そう……」


それは確かなこと。

ただ、旅仲間として一緒に楽しみたかった。

わたしは一目惚れが出来ない性格なんだと思う。


「それなら帰りなさい」

「え……?」

「迷っていたんでしょう?」

「……」


わたしのせいで燕は生死の境を彷徨っている。

それなのに、わたしは明日船に乗って帰ろうとしている。

なにが正しいのか解らない。だから、由美さんに頼るためここに来た。


「恋愛感情があれば、それは簡単に答えを出せたわ。
 だけど、男女の友情や仲間意識なら、複雑になってくる」


納沙布岬での好奇な目を思い出す。


「彼のことを忘れるなんてできないでしょ?」

「……そうですね」


あれだけの事故。

一生忘れられないだろう。命の恩人なのだから。


命を救ってくれた人がいる。そう、胸に秘めて生きるしかない。


「さようなら、由美さん」

「元気でね」


570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 13:05:33.14 ID:EyoMeYwAo





テントを張って寝るか、民宿か、ビジネスホテルか。


寝床を探そうとしたけれど、止めた。


バイクを走らせて、釧路港へ向かう。




………

……







日付が変わる前に到着した。


自動販売機でオレンジジュースを買って、ベンチに座る。



柑橘系の香りが心地よかった。



二日目終了


571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 13:10:16.21 ID:EyoMeYwAo



三日目



眠れない。


ベンチに横になって、海の音を聞いていた。



一人でテントを立てて、焚き火をして、おいしいご飯を食べて。
その楽しい出来事をノートに書いて過ごすはずだった。

やりたいことが山ほどあった。行きたい場所がたくさんあった。
けど、一つも実行できていない。


納沙布岬へ行って運命が変わった。


後悔はしていない……。
本当にしていない?


この自問自答が何度も繰り返されていた。


572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 14:00:06.22 ID:U4RYnOL9o



携帯電話を開いて時間を見る。


まだ1時。


眠くは無いけど、一つ気になることが出来た。

女が一人でここにいるってどうなんだろう。
今までそれには気付かなかった。幸い、ここを通る人がいないから、横になっているけれど……。
朝陽が昇ったらどうしよう。ここは東の空が広く見える。
太陽のヒカリが眩しすぎて眠れないだろう。

胸ポケットから貰った押し花のしおりを取り出してみる。

暗くてよく見えない。

友達のお土産を買うのを忘れていた。
あと、家族の分と、バイト先の分。

また、忙しい日々が始まるんだ。軽く憂鬱になる。

お金を貯めて次はどこへ行こう。
北陸地方がいいかもしれない。富山とか、金沢。
今から楽しみだな。


東の空にヒカリが昇り始める。

体を起こして背もたれに身を委ねる。
固い感触で座り心地は良くない。寝心地だって良くなかった。

港のターミナルにお土産屋があるはず。開店まで待ち遠しい。
開くのは10時かな……。

こういう時の為の携帯ゲーム機なのに、充電切れで役に立たない。

音楽プレイヤーももう少しで切れるから、節電していたけれどヒマでしょうがないから使うことにした。


ジャカジャカ


いつもは楽しい音が今ではわたしの心を素通りしているみたいだ。
バイクに備えてあるカバンのポケットからガムを取り出す。

モグモグ。

どうしてくしゃみが出るんだろう。
おかげで少し元気が出た。船が到着するまで持つだろう。

573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 14:02:34.68 ID:U4RYnOL9o



まだ4時。

時間の流れが遅すぎる。
ビールでも飲んで、気を紛らわそうかと思ったけれど、止めた。

それでもここに居るのは限界だから、近くのコンビニに寄ることにした。


店員の挨拶。

今のわたしの格好、変じゃないかな。一度化粧室に行ってみてこなくてはいけない。

ちょっと顔色が悪い……。
そういえば、晩御飯食べていなかった。

何を食べようかと考えていると、せっかく釧路に居るんだから、海鮮物を食べたいという欲が沸いた。

雑誌コーナーで色々見てみるけれど、わたしの好みに合う本は見つからなかった。
しょうがない、ファッション誌を取って時間を潰そうとした時。

気になる雑誌を見つけた。
北海道の面白い話、と書かれたタイトル。

なげる、とは?

知ってる。北海道の方言でなげるは捨てると同義語になっている。

だから本州から来た人に、これなげといて、と言ったら放り投げたという笑い話があるという。
ゴミ箱に放り投げたから、間違ってはいない。
こういう言葉のズレは面白い。地域によって言葉の意味が変わってくる。
この本はそういう類の話がたくさん載っていた。

ついつい、3分の1まで読んでしまった。
隣で知らない人が困っていたので、慌ててその場から離れ、飲み物を買ってコンビニを出た。

時間はまだ7時。
もう一度、コンビニに入ってあの本を購入した。

近くの公園で読み続けることにした。


グゥ~


お腹が鳴ったのを聞いて、本を閉じる。

今の時間なら市場に行って勝手丼が食べられる。だけど、気分が乗らなかった。
さっきのコンビニに寄ってサンドイッチとおにぎりを買って、釧路港に向かうことにする。


本を読んでいたおかげで大分時間を消費できた。
内容はまぁまぁといった印象。

ターミナルに入って券を購入。

お土産屋で色々探してみた。
バイト先、家、友達。お菓子でいいだろう。わたしが食べたいものが反映されていたけど、気にしない。
キツネのキーホルダーも特別に買っておく。ネコ娘にあげよう。


外に出ると大きな船が到着していた。

574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 14:04:24.02 ID:U4RYnOL9o



手続きを済ませ、バイクを車両甲板へ移動させる。

余計なことを考えず、船に乗り込む。


部屋に着いて、携帯電話の充電を始めた。


頭がズキズキするのはどうしてだろう。気のせいかな。


ゆっくりと、意識が堕ちていく。


出航の合図も聞かずに。


……




目が覚めると船は揺れていた。

窓から外を眺めると船は海の上を進んでいた。


去り行く大地を見逃していた。


……




お風呂から出て、レストランでご飯を食べる。

味が分からなかった。


……




携帯ゲーム機で時間を潰す。


いつもならしない行動を今は取る。

ゲームの世界の住人、全員に話しかける。

お金を稼いで、経験値を貯め、身に纏う最強の装備でラスボスと戦う。

あっさり勝つ。

破滅の世界で見つけた小さな希望。

それがこの冒険の結末だった。

エンディングロールが流れ、THE ENDの文字。


今まで楽しかったけれど、ゲーム自体に飽きたのか。

ゲームも卒業かもしれない。


……



575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 14:06:03.30 ID:U4RYnOL9o



外は夜の暗闇。

船は揺れを増していく。

外の天候は荒れていた。


わたしは天井を見上げて、音楽を聴いていた。


……




リンドウの花言葉を検索で調べる。



……




行きより帰りの方が短く感じる。

船は到着していたけれど、動く気にはなれない。
車両甲板から出るのはわたしが最後だから余裕があった。

もう少し横になっていよう。

10分位経ったら、移動しよう。



背伸びをしたけれど、身体に異常は無い。

いつもどおりだ。

問題は無い。


バイクに跨って、船から下りる。


初夏から梅雨へ。

季節は遡っていた。

576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 14:19:56.02 ID:Cx3SUZqHo



ザァーーーー


雨が降っていた


今から防水の服に着替えるのも面倒に感じたのでそのまま外に出る


雨宿りするべきか、それともこのまま走るべきかそのどっちかなのに

わたしは屋根のない場所にバイクを止めて降りた


周りには誰もいない


乗客はとっくにそれぞれの目的地へ移動したのだろう


ヘルメットを脱いで雨に打たれる


今の心の中を洗い流して欲しかったから




疲れた




こんな終わり方を望んではいない


赤いタンクに付いた一線の縦傷をなぞる


わたしは――――――


577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 14:21:18.72 ID:Cx3SUZqHo



ザァーーーー



降りしきる雨


立っていられない


バイクに手を付いて、座り込みそうになった


「おかえり」


雨が止む


傘で雨を防いでいた


「おかえり、姫ちゃん」

「光に会ったよ」

「良かった。彼女、なんだか気になってたから」

「リンドウの……押し花を貰った」

「……そうなんだ」


花言葉を受け取った。


「燕にも……会ったよ……っ」

「うん……」

「わたしにはどうすることも……出来なかった……」

「うん…………」


ただ頷いて聞いてくれた

578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 14:22:17.61 ID:Cx3SUZqHo




人が幸せになる

それは支えてくれる人がいて始まる


燕にはいるのかな……


「なにもっ……なにも……!」


なにも出来なかった


「ぅ……っ……うぅ……」


涙が止まらない

風子を抱きしめていた


「ごめん、ふぅ……こ……!」

「……気にしないで」


わたしはいつもひとりじゃなかった



燕にもそんな人がいたらいいな……


居ないのは寂しい……


嫌だな……



こんな終わり方は望んでいなかった


わたしの旅は


終わった





― ―  立花姫子  ― ―

             End

579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/29(土) 18:02:37.77 ID:AmXg8dhyo



あれから二年。


わたしの生活は安寧の日々を繰り返していた。


ドルルルルン


バイクを止めて、キーを抜いた。

ヘルメットを脱いで髪を振りほどく。


化粧室に寄り、髪型、化粧をチェック。


お守りの鈴を胸ポケットに入っているのを確認する。

未だに大事に持っていた。





待ち合わせの18時、丁度。


建物の一室……看板を確認して扉を開ける。



ドン! ドン! ドン!


クラブミュージックが流れてきた。

この曲を前に聴いたとき、いいな、と思っていた。


カウンターの中にいるマスターと、その席でお喋りをしている客に軽く会釈を交わして、
友人達のいるテーブルへ歩いていく。



「お疲れさまー」

「……おつかれ」

「仕事お疲れ様」

姫子「仕事って言ってもバイトだけどね」


エリ、いちご、和。


偶に会うメンバーが揃っている。



時間は止まることなく流れていた。



姫子「グッド・ラック」 44