521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:37:43.64 ID:+dEPnVKoo



風子「楽しくなさそうに笑うんですね」

「?」


眼鏡をかけた子が言ったのか?


夏「ツバメ、アンタだよ」

「え、……え?」


俺が笑ったのか……?
それも、楽しくなさそうに……?


「ごめん、よく分からない」


大事な箇所を聞き逃したのか、理解できない話ばかりで困惑してしまう。


姫子「高校時代に、楽しいから笑う。それをそのままを表現していた人がいました――」


友人の話。なぜ、それを……?


夏「ツバメ、アンタもあたしとの約束を守ったのはそういうことなんじゃないの?」

「――ッ!」


すぐに否定しなければいけない。

が、出来ない――



よく知らない人間ほど怖いはずだ。

それなのに彼女達は俺をなんなく輪の中に引き入れた。

この焼かれた野菜を食べれば、知りたいことが解るのか……?


「いただき…ます……」

姫子「……」

「……からいな」


塩辛い。なんだ……これは。



姫子「冬……、野菜になにかした?」

冬「はい。塩もみをしました」


そりゃ辛いはずだ。



家族で食卓を囲んで以来、こんな風に大人数で食事をしたことはなかった。

兄、義姉さん、俺の三人はよくあったけれど。
その場ですら俺は遠慮していた。

だけど、彼女達には遠慮していない自分がどこか懐かしくて、なぜか温かさを感じていた。

522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:39:42.49 ID:+dEPnVKoo



……




姫子「澪、もう眠る?」

澪「うん、もう眠る」


そろそろ退散するか……。


「それじゃ、俺も失礼するかな。ごちそうさま」

夏「ヒナをよろしく」

「うん。おやすみ」

姫子「……おやすみ」


テントに戻ってヒナの気配を探る。

寝ているみたいだ。


「……人とあんなに話したのは……いつ以来だ」


急速に冷えていく。体が、心が。

温かいから冷める。暖かいから冷える。


こんな感覚、持っていないほうが幸せなんだろう。

持っている俺は不幸せか。


幸せになりたいのか、ふざけるな。


「……」


寝る支度をするか……。


「……?」


焚き火へ戻ると誰も居なかった。


火は管理していないと危ない……。面倒だけど……しょうがない。


「……」


高校に入るまで、兄とキャンプしたな。

火を着けるのは俺の役目だった。
いや、無理やりこの役を取ったんだ。
兄に勝てるかもしれないという希望があったから。


「……」


綺麗な思いでも、今は罪悪感で苦しい。

痛い。忘れたい。逃ゲたイ。消エタイ。

死ンダラ楽ニナレル――


523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:40:52.07 ID:+dEPnVKoo



ダダダダダッ


冬「はぁっ、はぁ」

風子「あれ……?」

「っ!?」

夏「なにしてんの?」

「びっくりした……」

風子「ほら、冬ちゃん」

冬「寒かった~」

「火に薪を入れていただけ…だが…」

風子「どうしてですか?」

「いや……、留守番というか……」


まずい、落ち着かない。


冬「はぁ、あったかいです」

夏「まだ寝ないのなら、話でもする?」

「……寝るから、いい」


ここにいては駄目なんだ。


冬「袖触れ合うも他生の縁、といいますよ」

「……」


俺にはそんな縁は無い。


「……そんな縁、持たないほうがいい」

風子「……」

冬「え……?」

夏「?」

「おやすみ」


トイレに寄って顔を洗う。

歯を磨いて、空を見上げる。


「……」


さっさと寝よう。



――♪



――♪


524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:42:37.21 ID:+dEPnVKoo











夢を見た。

真っ黒な少女と、その横をパタパタと飛ぶ白猫の夢を。



ヒナはまだ寝ていた。



テントから出て、湖まで歩く。


「……」


しずかだな。

俺はこれからどうするべきなのか。


携帯電話の電源は切った。

捨てないところが惨めだ。



イイコトヲシヨウ。


木ノ枝ヲ集メテ火ヲ起コソウ。


死ヤ破壊ノ象徴。昔カラ惹カレタエネルギー。

丸デ命ノ様ダ。吸イ込マレソウニナル。



パキパキパキ


「……」


自分デモ危険ナ状態ダト分カル。

願ワクバ――周リヲ巻き込マずに。

それが唯一の願いだ……。


夏「ふぁぁ~、早いなぁ」

「……?」


名前は……まぁいいか。


「火を見ていてくれ。餌の時間だ」

夏「あたしも餌をあげるとこ、見たい」

「……」

525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:44:11.66 ID:+dEPnVKoo



ヒナを持って来いと言っているのか。
断る理由もないけど、理由が解らないな。

テントに戻ると箱から鳴き声がした。


雛「ぴぃぴぃ」

「起きたか……」


昨日の夜に少しあげただけだから、相当お腹すいているだろう。

袋を開いて一匹ずつ与える。


「……」


早く餌を採取しなければすぐに尽きてしまう。

あの子に任せてみるか……?



「エサやり、やってみる?」

夏「ごめん、遠慮するよ」

「な……」

夏「うん?」


好奇心だけだったのか……。

いや、この子は最初から乗り気でもなかった……。

笑えるな。他人に頼ろうとするなんて、滑稽だ。


夏「どうしたの?」

「なんでもない」

夏「あたしが捕ってこようか?」

「え……?」

夏「虫を」

「手間が省けるから……助かる」

夏「じゃあ、虫網貸してくれない?」

「……」


そりゃそうだ。素手で捕まえるわけがないんだから。


「いや、やっぱりいいや」

夏「?」


関わらないようにするべきだ。


風子「夏ちゃん、おはよう」

夏「ふぅちゃんさん、おはようございます」

「……じゃ」


親鳥も楽じゃないな。

526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:45:43.60 ID:+dEPnVKoo



夏「待ってってば」

「……!」


後ろから服を引っ張られる。


「なに……?」

夏「火の番よろしく」

「なんでだ」

夏「火付けたのアンタでしょ」

風子「夏ちゃん、それは……」

夏「さ、お手洗い行きましょう」

「……」


なにもかもが上手くいかない。


焚き火の前に座ってヒナが入った箱と虫の入った袋を交互に持ってエサを与える。


雛「ぴぃぴぃ」

「……」


早く大きくなれ。



他に考えることもなく、単調にエサを与えるだけの作業。

あと数匹しかいない。

捕ってくるより、買った方が早いかもしれないな。


風子「お待たせしました。今から私たちが番をしますから」

「……」


自由にしていいって事か。


「……それじゃ」


立ち上がって、振り返ると、


夏「もう終わり?」

「休憩……」

夏「ふーん……たくさん果物貰ったから、お裾分け」

「……」


そう言ってパイナップルを渡される。

527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:47:27.18 ID:+dEPnVKoo



「いや、困るって」

夏「じゃあ、食べていけば?」


駄目だ、疲れるこの子……。

でも、昨日の恩があるからな……。無碍にも出来ない。


「……うん」

夏「エサを与えるタイミングってあるの?」

「……まぁ」


曖昧に答えておく。


雛「ぴぃぴぃ」


どうして拾ったのか。

忘れてしまった。


夏「飛ぶところみたいなー」

風子「夏ちゃん、鳥が好きなの?」

夏「鳥というか、成長して巣立つ姿が見たいだけっていうか、それだけだったりします」

風子「そうなんだ……」


俺はこれからどこへ行くのか。

この雛が飛び立ったらどうするべきなのか。


そういえば……最東端に……。


夏「ねぇ、アンタはどこに行くの?」

「さぁな」

夏「まぁいいや、冬ねぇ起こしてきますね」

風子「うん」

雛「ぴぃぴぃ」

「……」

風子「……」


この子、他人の前では自分を造るタイプだな。


風子「決めてないということですか?」

「……納沙布岬……かな」


兄が行きたかった場所だ。
バイクを借りてるんだ、これくらいのことはするべきだろう。


風子「納沙布……」

「……」

528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:49:55.71 ID:+dEPnVKoo



朝ごはんをご馳走になるお礼に、買っておいたチョコレートを渡す。

気を遣われるのも嫌だから、適当に合わせただけの会話。

これで終わりだと思ったら、言葉が出てくる。

俺は調子のいい人間だった。



エサを捕りに行って戻ってくると彼女達は後片付けをしていた。


夏「あれ、アンタ、片づけないの?」

「どうしてだ?」

夏「さっき、ふぅ……子さんとこの辺りの名所の話をしていたでしょ?」

「うん……、そうだけど」

夏「……あ、いや、なんでもない」

「?」


眼鏡の子と話したのは納沙布のことと、この辺りの観光場所について。

大した話ではない。


気になるけど、大したことではなかった。


俺もバイクを押して歩き出す。

三人の見知らぬ誰かと会話をしている。


袖触れ合うも他生の縁、か……。


「……」




――――嫌な言葉だ。



「それじゃ、元気で」


駐車場に辿り着いた。


もう会うことはない。

他人といるのが楽だと思ったのも事実だけど。



冬「気をつけてください」

「あぁ……」

夏「転ばないように」

燕「……うん」

澪「えっと、お元気で」

「うん」

風子「良い旅を」

「……」

529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:50:36.94 ID:+dEPnVKoo



旅。


「分からないな、俺の旅なんて」

夏「それがアンタの旅なんでしょ」

「……考えてみる」

姫子「……雛の事、よろしく」

「任せてくれ」


ヘルメットを被るが、すぐに外す。


「あ……」


ヘルメットを外し、


「久しぶりに楽しめた……のかもしれない」

冬「そうですか、よかったです」

「さよなら」

夏「じゃあね」

澪「さようなら」

姫子「さよう…なら……」

風子「バイバイ」


ドルルルン


ドルルルルルルル



ああ言ったほうが、嫌な気分にさせないだろう。

彼女達に嫌な思いはさせたくなかった。


530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:51:33.44 ID:+dEPnVKoo




ヒナは育っていく。


少しずつ、でも確実に。



「雛を育てながら旅してるのか、なんかいいなぁ」

「……」



「あれ、鳥の雛の鳴き声が聞こえない?」

「え、どこどこ?」

「……」



「これって、何の鳥?」

「……」



「見せて見せてー!」

「……」



「あとどのくらいで飛ぶの?」

「……」



「昔飼ってたことあるよ~、元気に巣立っていったときは感動モノでさぁ~」

「……」



「見て、ツバメのヒナだって」

「わぁ~ちゅご~ぃ、かわぃぃ~」

「……」



「ツバメの雛なんて珍しいな」

「……」



「何? テレビかなにかの企画?」

「……」



「保温対策ってどうやってるの?」

「……」



「育てられるの~?」

「……」

531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:52:49.41 ID:+dEPnVKoo



色んな人に話しかけられる。



「名前はなんていうの!?」

「……」



「ぴぃぴぃ!」

「おまえ、鳥語使えるのかよ」

「……」



「頑張ってるんだね、お兄さん。これ、飴玉あげる」

「……」



「これ食って頑張れよ! 酒のつまみだけどな! ダッハッハ!」

「……」



「ずっと一緒なんだぁ! なんか素敵~!」

「なんだと!」

「……」



「ふーん」

「コイツこう見えて動物好きだから、気にしないで」

「……」



「ケータイの着信音かと思ったわ~ アッハハ~」

「……」



「ちゃんと清潔にしてるんだな、住み心地よさそうだ」

「……」




「病気にかかってないか?」

「……?」



フンを毎日見ていたのに、気がつかなかった。



「足だよ、足」

「……あ」

「ぴぃぴぃ」


脚弱症……!

532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:54:35.33 ID:+dEPnVKoo



「ビタミン不足か、なにかの病気か判断できないか?」

「……エサには気を使って……いました」

「私は獣医をやっているから、ウチに来なさい」

「……」

「ぴぃぴぃ」


車を運転するその人の後を追いかける。

獣医か……。


「さ、入ってくれ」

「……」

「金を取ろうとは思っていないよ。保護施設だから」

「ぴぃぴぃ」


検査をしてもらっている間、俺は辺りを見回していた。

捨てた夢がここにあった。


それから数十分。

一枚の紙を渡される。


「嘘だろ」

「事実だ。どうする?」

「……っ!」

「ぴぃぴぃ」


どうして、いつも……。


「このヒナは捨てられたんだな」

「……」

「ふぅ……。連れて帰りなさい」

「……いや、でも」

「君が親だ」

「ぴぃぴぃ」

「……っ」

「よく鳴くな、このヒナは」


頭を下げて、お礼を言い、その場を後にする。


走り続ける。


最後の目的地へ向かって。


533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:55:52.90 ID:+dEPnVKoo




俺は、



死神。



また事実を突きつけられた。



あぁ……息が詰まりそうだ



ここは苦しいな



くるしい



クルシイ




誰か




だれか




ダ レ カ




タス ケ テ クレ――――




「あれ、燕?」

「……」

「どうしてここに……って、風子か」

「……」

「ね、女の子いなかった?」

「……」

「自転車で旅をしている女の…子……どうしたの?」

「……」

「?」

「ぴぃぴぃ」

「箱、開けていい?」

「……」

「顔色悪いけど、大丈夫?」

「……どうして、俺だって解ったんだ?」

534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:57:15.03 ID:+dEPnVKoo



俺は顔を上げずに下を向いている。

ここに着いてからずっと。

もう、辿り着いたから、顔を上げる理由が無かった。


「ホーネットだから、それと、格好と雰囲気で」

「……どんな雰囲気なんだ?」

「近づくなっていう空気」

「……察してくれ」

「……」

「か…ま……う……な」


絞り出した声は相手に届いたのか。


「あ、大きくなってる」

「ぴぃぴぃ」

「……」

「飛べるようになるまで頑張れ」

「ぴぃぴぃ」

「……むりだ」

「え?」

「そのヒナは」

「ぴぃぴぃ」

「消化器官が感染でやられてる……」

「……」

「ぴぃぴぃ」

「足も弱ってるからいづれ……」

「……」

「ぴぃぴぃ」

「――死ぬ」



午前中に渡された紙に書かれている。



「……そう」

「ぴぃぴぃ」

「……」

「燕がそうなってるのも、そのせい?」



そのせい?

そのせい……と、言ッタカ

ナニヲイッタコノ女

535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 19:01:45.67 ID:+dEPnVKoo



「……は?」

「……」


睨み付ける。

育てたヒナが死ぬという事実で俺が落ちていると思っているのか。


「お前に、何が分かる……」

「……」

「……いや、いい。忘れてくれ」

「……」


必死で感情を消した

ヒナの命を冒涜された
それに対して怒りが沸いた

それも一瞬のことだ


「消えてくれ」

「……分かった。じゃあ、ね」


足音が遠のいていく。


「……ふざけてるのか、あの女」


苛立ちが止まらない。


「……チッ!」


舌打ちをして、走る。



「……待て」

「……」

「ヒナをどうするつもりだ」

「……育てる」

「ぴぃぴぃ」



この女……!



「おまえ……、話を聞いていたのか?」

「そういえば、自己紹介してなかったっけ」

「あ……?」

「わたしの名前は――」


536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 19:02:39.53 ID:+dEPnVKoo



― ―  立花姫子  ― ―



姫子「――立花姫子」

燕「……」



537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 19:06:52.44 ID:+dEPnVKoo



一日目



まずは、虫を捕まえる。


近くの雑草の中へ入ってそれを探す。


姫子「……いないのかな」


ザッ ザッ

草を乱暴になぎ倒すけれど、一匹も出てこなかった。



数メートル先で燕が柵にもたれている。


わたしは覚悟を見せたかった。

口だけじゃないって。


命を冒涜してしまったから。
だからわたしは、最後までヒナの面倒を見る。

憶測だけど、痛みに耐えられなかったのだと思う。
だから、燕はあんなに憔悴しきった顔をしていた。

これも憶測だけど、燕にはこういう時に支えてくれる人がいない。
頼れる人がいない。

わたしにはいる。
支えてくれる人が、辛いときに声をかけてくれる人がいるから、強くなれる。

今がその時。


姫子「……いた」


草が肌をも切る鋭さを持っていること、しばらく忘れていた。
両手が小さな傷だらけだ。


姫子「……」


唾を飲み込む。

克服できたわけじゃない。


けど、


姫子「……ッ!」


思いっきり手を振った。


姫子「うっ……!!!」


右の手の中でモゾモゾと蠢いている。


離したい離したい離したい!


小走りに駆け寄って、どうすればいいのかを訊く。


姫子「グッド・ラック」 41