508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:37:21.00 ID:+dEPnVKoo



死にたいはずなのに、命を拾った


死神が命を育てる


そんなの馬鹿げている。


雛「……ぴぃ」


いや……。


これは罪を軽くするためだ。



帯広の、広くて蒼い空を眺める。


この雛が、


この大空に、翼を広げて飛べたのなら、


俺は死神ではなく人間であると証明ができる。


だから自分の命を――捨てられる。


大丈夫だ。


動物だけは死なせたことが無い


酷い話だ。

こんな言葉が浮かんだ自分に嫌気が差す。


心まで腐ってきている。









509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:03:43.44 ID:+dEPnVKoo



コンビニに辿り着き、店内へ入ろうとした時、視線を感じた。


冬「ツバメさんだ……」

夏「あ、ほんとだ……」

風子「ツバメさん?」

「?」

冬「はい、雛鳥の親ツバメです」

「キミ達……誰?」

夏「若年性健忘症かぁ」

「失礼だな……」

風子「……」


どうして赤の他人にこんなことを言われないといけないのか。

さすがに気分が悪い。


虫を採るのと、ヒナが棲む箱を作っているうちに忘れていた。

どうでもいいな。


夏「ヒナは?」

「バイクに乗せてるけど……」

夏「見ていい?」

「今開けると元に戻すのが面倒になるから遠慮してくれ」

夏「ケチだなぁ」

「……」


なんだ、これは。


いや、さっさと用事を済ませて去ろう。



「じゃ、じゃあな」

冬「あの、ツバメさん」

ツバメ「ん?」

冬「あのバイク……ホーネットに載ってる荷物はキャンプ用ですか?」

ツバメ「そうだよ。って、誰がツバメだ」

夏「反応したじゃん」

「……昔のあだ名…というか、……つい…な」


ツバメ。

小さい頃、隣に住む友達にに名づけられた。

いや、それはいい。


さっさと買い物を済ませよう。


510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:05:50.34 ID:+dEPnVKoo



夏「この道を走ってるって事は、屈斜路湖?」

「あぁ、そうだけど」


なんなんだ、いい加減にしろ。


夏「じゃあさ、先に行ってあたしらの場所取って置いてよ、和琴半島でしょ?」

冬「なつ!」

「なんで俺が?」


やめろ、構うな。


夏「いいじゃん、あたし等もキャンプするんだけど、ちょっと間に合いそうにないんだよねー」

風子「……」

「知らないな、そんな都合は。それに和琴へ行くなんて言ってないだろ」

夏「えー、じゃあ和琴にすればいいじゃん」

「五月蝿い、俺に構うな」


関わらないでくれ、頼むから。


夏「待ってよ、アンタが幸福駅で取った態度、許せないんだよね」

「……?」

夏「言葉で言えば分かるでしょ、女性にさせることじゃないよね」

「ヒナから見れば、餌を与えてくれる存在の性別なんて問題にならないんだが?」


命を育てることに人間の作った倫理なんて関係ないんだよ。
そう教えただろう。


夏「追い払うような言動だったじゃん」

「……」


この子もそれが解ったのか。
倫理どうのこうのの話じゃなくなる。


夏「あたし達を追い払うために理念を通そうとしたのが気に入らないって言ってんの」

「……」

夏「あんたさ、人をなんだと思ってんの?」

「……!」

冬「夏、もう止めて」



意識してソレを出していた。
だから感じ取られたのだろう。たいしたことではない。

無関係のヒトにソレをされると誰だって嫌なものかもしれない。

511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:07:13.30 ID:+dEPnVKoo



夏「……」

「キミの言うとおりだ。俺は追い払いたいがために、ああいう態度を取った。不快にしたなら謝る」

夏「別に、あたしはいいですけどー」

「悪か――」

「なにしてるの?」


幸福駅で会ったということは、ヒナをすくったヒトもいるってことか。

アノ、見透かすような目を――


風子「あ、姫子さん」

姫子「?」


ドクン。


心臓が嫌な音を立てた。


「――!」


――――――――――怖い――――



「え、えっと……じゃ」


急いでバイクに乗り、その場を後にした。



ナニガコワインダ。


ドルルルルルルル


視界が嫌にクリアだ。


アドレナリンが分泌されている。


ナニカラ逃ゲテイルンダ。



交感神経が興奮している。

動物が闘うか逃げるか、その選択に迫られたときに分泌されるホルモン。


逃げるという反応は生きたいと願うからだ。


「くそっ……!」


死神の俺が生きたいと――


「そんなこと願っているのか!! くそっ!!!」


アクセルを思いっきり回す。


運が悪ければ死ねる。

512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:08:48.34 ID:+dEPnVKoo




だけど、俺は運が善かった。



少し開けた路肩に誘導される。


「あなた、死にたいの?」

「……」


誘導した女性が俺を諭そうとしている。


「あたしの名前は榊 千歳。あなたは?」

「……」


少しずつ落ち着いていくのが分かる。

興奮状態から抜け出している証拠だ。


千歳「あたし、こう見えても長いこと北海道を走ってるんだ。
   だから色んな人と出会う」

「……」


どうして止まったりしたんだ。

あのままいけば――


千歳「何かを探している人もいれば、忘れようとしている人もいた。
   求めているものを追いかけている人もいれば、あなたのように……」

「……」

千歳「死に場所を探している人もいた」

513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:09:29.13 ID:+dEPnVKoo



「……いや、死にたいわけじゃ無い」

千歳「嘘ね」

「……ッ!」

千歳「引っかかった」

「!」


カマかけたのか、この女。



千歳「アドレナリンでも出た?」

「どうして……」

千歳「私を追い抜くときに、ね」

「……」


その時、気付いたのか?


千歳「あたしも経験あるから分かるよ、必死になって走った時だから。
   あなたは何から必死になったの?」

「……」


それを聞くのは興味本位なのか。
他人の心に踏み込む速度が普通じゃない。


「怖いから、逃げただけ……だ」

千歳「ふぅん……」

「それじゃあな。……頭冷えたから、助かった」

千歳「……」


バイクに跨り、エンジンをかける時、女の声が耳に入る。


千歳「――何が怖いのか、見極めてみたら」


ドルルルルン



514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:11:46.38 ID:+dEPnVKoo



――…


和琴半島。

俺は生きたいのか、死にたいのか。

ただ、知りたかった。

自分で判断できないのが情けない。


風子「残照もあるから――」

「あー、悪いけど、ここに建てちゃダメだよ」

冬「……あ、ツバメさん」

「あ、キミたちか」

夏「うわっ、なんでアンタがここにいんの!?」

「……」


見極められないから、答えが欲しい。
今の俺の頭の中は支離滅裂だ。


「……嫌ならしょうがないな」

夏「だから、嫌だって言ってんじゃん!」

「まぁ、好きにしてくれ」



彼女らを残して自分のテントへ入る。

2、3回……兄と建てたことがある。


「……」


仰向けになって寝転がる。


「餌……とってこないとな……」

雛「ぴぃぴぃ」


~♪


「……!」


寝ていたのか、俺……。

ケータイが鳴っていた。

今まで鳴らなかったケータイが鳴っていた。


着信は



――――祖母



ゾクリと背中が冷えた。


「っ!」

515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:13:18.12 ID:+dEPnVKoo



ピッ

ツーツーツー


そのまま電源を落として。外に出る。


「はぁ……ッ……はぁっ」


心臓が気持ち悪いくらいに早く音を立てる。


「はぁ…………はぁ……」


ゆっくり、しずかに、息を吸っては吐く。


そうだ。

エサを捕りに行かなくては……。



バイクを押して歩く。


婆ちゃん……ごめん。



「早いね……」

風子「?」



頭が真っ白になった。

無意識に話しかけていたから。



冬「どこかへ出かけるんですか?」


適当に合わせよう。

頭がボンヤリするけど。


「うん、弁当を買いに」

姫子「……え」


非常識なことを言っている、リアクションがそう告げていた。


「な、なに?」

夏「なにって……、キャンプで弁当って……」

姫子「人それぞれかな……」

風子「そうだね」

澪「?」

冬「なにか、あったんですか?」

「――ッ!」


頭が醒めた。
見透かされたような目に怯んでしまった。

516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:15:21.74 ID:+dEPnVKoo



夏「キャンプに来て弁当って……。キャンプの醍醐味を9割5分見失ってるなぁ……」

冬「そうですよ」

「――そっちか」

姫子「……」

風子「……」

「別にいいだろ」

夏「良くないよ、隣で虚しく弁当食べられたら嫌だっての」

姫子「……確かに。聞いちゃったから、気まずいね」

「き、気まずいのか」

冬「少し遅れますけど、ご一緒にどうですか?」

夏「えぇー!?」

「……」


何が言いたいんだ、この子。


「いや……」

姫子「ほら、行こう」

風子「そうですね、急ぎましょう」

「遠慮しておくよ」

冬「なにかの縁かもしれませんよ」

「……」

冬「すいませんが、お留守番お願いしますね」

夏「えぇー……」


彼女らは俺の意見をお構いなしに歩いていった。


「……縁、か」


そんなの……。

餌を集めるついでに、薪も拾うか。


……




火起こしは兄と同じくらいだった。


「嘘、だろ」


ここでも兄の姿を探すのか。

さすがに……参った。

517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:17:02.86 ID:+dEPnVKoo



「やっと来たか」

姫子「……」

澪「……火だ」


助かった。

他人を意識していれば忘れられる。


テントに入って何かを持って出てきた。

初めて見るモノだった。


「?」

姫子「……これは、少人数用のコンロ」

澪「これに薪を入れるんだな」

姫子「違う。火のついた炭、熾を入れる」

澪「おき……。そうか、赤く燃えた炭を熾というのか」


意識を外せた。


「さて、と」

姫子「……燕さん、どこへ?」


近くに販売機があったはずだ。


姫子「燕さん?」

「……ん? あ、俺か……なに?」

姫子「どこへ……行くのかなって」

「雛の餌を取ってくる。俺の飯はいいから」


次の言葉を待たずに、背を向ける。



自動販売機に群がる虫を捕らえる。


こんなに簡単に命を狩る。


狩ると思い込んでいる。

腐ってるな、俺は。



テントに戻る途中、焚き火で知らない男二人がいた。


姫子「すいません。迷惑です」

「うっわ、きっつー」

「京都の盆地より――」


ナンパか。

わざわざここでやる理由が分からない。

518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:23:51.14 ID:+dEPnVKoo



「なにか用?」

「ちっ、野郎連れかよ」

「なんだよ、行こうぜ」


姫子「……」


視線が俺の持っている袋を捉えている。


姫子「それは?」

「ヒナの餌。自動販売機の光に寄せられて虫が集まってくるから一網打尽だ」

姫子「……なるほど」

「……じゃ」


飯を買い忘れたけど……いいか。

食欲が沸かない。


姫子「雛のお礼にどうですか」

「要らない」


~♪


携帯電話の着信メロディが流れる。

どうして鳴っているんだ……?


そうか、習慣のアラームで電源が入ったのか。


どういうことだ。

義姉さんと表示されているディスプレイ。


「……」


心臓がまた速く音を立てている。

やっぱり取るべきか……。



姫子「後で持って行きますから」

「?」

姫子「些細なお礼ですけど」

「……ハァ。要らないって言っただろ」


また助けられた。

俺は着信を切り、電源を落とす。

519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 15:27:52.27 ID:+dEPnVKoo



姫子「その曲の和訳されたタイトルを知っていますか?」

「……?」

姫子「……」

「……たしか、〝さよならを言う時〟 だったか」


これは、英語の訳だ。元はイタリアの曲。


「言っておくけど、気に入っているから登録した訳じゃないんだ」

姫子「?」

「俺の罪だ」

姫子「――ッ」



母さんが好きになった曲。

テレビの演奏を聴いて、翌日俺を迎えに来たついでにCD店に買いに行った曲。

この曲がなければ……いや、違う。

この曲を俺も好きになっていれば良かった。

時間のズレで母さんは今も生きていたはずだ。

大切な人はこのグループに、
罪の意識を忘れないようにこの曲を登録した。


俺が殺したも同然なのだから――



姫子「……っ」

「!」


一滴、頬を伝う。


姫子「……!」


彼女はあわててそれを拭った。

どうして泣いたんだ……?



夏「アンタねえッ!!」

「!」


俺の胸倉が掴まれる。


夏「なにやってんのよ!」

「……!」

姫子「ちがっ、違うよ夏!」


本気で怒っている
それほどのことなのか
敬愛する人を俺は傷つけたのか……

520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 18:35:46.05 ID:+dEPnVKoo



夏「アンタの境遇なんて知らないけど! それを理由に他人を傷つけるなよッ!」

姫子「夏ッ!」

「……」

夏「独りで生きてるって顔してるのが気に入らない!」

「……」

夏「近い人を傷つけてるだけだっての!」

「……」

夏「この世で独りって顔してんなよ!」


一つ一つが胸を抉る。


冬「お待たせしました~、ご飯にしましょう~」


背後から届いた、間延びした声に救われる。


冬「どう…したんですか……?」

姫子「……夏、違うからさ」

夏「……あたしはどっちでもいいから、……アンタの好きにすればいい」

「……」

夏「独りで生きていくのは諦めろ」


答えはくれないようだ。

厳しい……な。



「なんだか、悪いな」

夏「これくらいのことを悪いと思わなくていいから、ヒナをよろしく」

「あぁ、動物関連にだけはしぶといから」


嫌な言葉を漏らしてしまった。

けど、誰にも気付かれないだろう。



同じライダーの子、眼鏡の真面目そうな子。

双子の子達。

少し距離を置いて見守っている子。


不思議とバランスが取れている。



「面白いな、キミ達は……」


自分がどうしたいのか、知りたい。

思えばどれだけの出会いがあっただろうか。
善い奴もいれば嫌な奴もいた。

望んだ出会いだったか。


姫子「グッド・ラック」 40