482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 22:07:14.58 ID:K8/zrCv3o



風子「気をつけてね。一人旅なんだから」

姫子「三日間だから、大丈夫だって」

冬「あ、ダメですよ、油断しては」

夏「そうそう、ただでさえ運が悪いんだから、気を抜いては痛い目に遭いますよ」

姫子「わかった」

風子「……そろそろ時間だから乗ろう」


列車に乗るとそれぞれの日常へ戻っていくのを実感する。


澪「姫子!」

姫子「?」


澪ちゃんは手を掲げ――


姫子「うん、今度は地元で会おう」

澪「うん!」


パァン


――ハイタッチを交わした。



夏「なんだか、かっこいいですね」

澪「ふふ、そうだな」

姫子「なつ!」

夏「え?」


姫ちゃんが投げたボールは弧を描いて夏ちゃんの手元へ。


夏「え……?」

姫子「そんなに驚かなくてもいいでしょ」

夏「ずっと一緒にいたから、練習はしてないはず……」

姫子「あのね……」

夏「また、キャッチボールしましょうね!」

姫子「うん」


また会おうと、約束が交わされる。


姫子「冬も、体に気をつけてね」

冬「……はい!」

姫子「じゃあね」

冬「本当に、ありがとうございました。姫子さん」

姫子「わたしも、楽しかったよ」


これが最後の挨拶ではない。
私たちはまた会える。

483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 22:09:08.86 ID:K8/zrCv3o



prrrrrrrrrrrrrrr


発車のベルが構内に鳴り響く。



風子「くれぐれも気をつけて」



できれば、笑っていて。



姫子「うん。安全には気をつけるよ」


風子「……」


姫子「風子……?」



選んだことを信じて。



風子「姫ちゃん」



私は親指を立てた右手を突き出す。



風子「グッド・ラック」

姫子「――!」



―― リン。 ―― チリン。



プシュー



列車の扉が私たちを隔てる。



姫ちゃんも私と同じように右手で親指を立てる。



ガタン ゴトン


ガタンゴトン



少しずつ私たちの距離は開かれ、


いつも隣にいたその人の姿は、


あっという間に見えなくなった。


484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 22:10:58.22 ID:K8/zrCv3o



夏「あー、なんか終わったーって感じだ~!」

冬「終わっちゃったね」

風子「まだだよ」

夏「え?」

冬「?」

澪「家に帰るまでが旅だからな」

冬「そうですね!」

夏「なんとなく分かるかも」

風子「ただいま、って言うまでが旅だよ」

澪「そうそう」

夏「それじゃ、もう少し続くわけですね」

冬「ふぁぁ……」

澪「とりあえず、座ろう」



ガタンゴトン

 ガタンゴトン



目的地まで走り続ける列車。


私はこれから家に帰り、ありふれた日常へ戻っていく。


夏「風子さん」

冬「ふぅちゃんさん」

風子「?」

冬夏「「 ありがとうございました 」」


二人の重なった声が私の胸に届く。


夏「誘ってくれて!」

冬「楽しく過ごせました」


笑顔の二人に、私の心が満たされる。


夏「サボってた分、授業の遅れを取り戻すのが大変だなー」

冬「すぐに取り返せるよ」

夏「手伝ってよ、冬ねぇ」

冬「……わたしも大変なんだよ?」


二人は並んで、これからの計画を立てている。

この光景がとても眩しい。

いつまでも一緒に。

485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 22:13:37.85 ID:K8/zrCv3o



ガタンゴトン

 ガタンゴトン


澪「なんだか、奇跡みたいだな」

風子「?」

澪「ここに私たちがいることが」


しずかな重みのある声。


澪「今まで、別々の人生を歩いていた私たちが、一つの列車に乗って共に過ごしている」



澪「この一時が、奇跡みたいだ」


その言葉と流れていく景色にちょっとの感動を。



外の景色を見つめて。

これからの出会いを大切にしていきたいと望む。


486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 22:14:35.77 ID:K8/zrCv3o




そして、私は目を閉じる。



「幸運を――」



私の旅は終わった。



これからは、

姫ちゃん、あなたの望む方へ。




隣にいなくても、ずっと傍にいるから。




大切な人だから。




私は、





あなたの幸運を祈ります。






― ―  高橋風子  ― ―

             End


487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 13:47:41.04 ID:+dEPnVKoo



描きたかった風子の物語が終えて、次は姫子の短い3日間です。

ここで注意事項(?)
今までの世界観を壊す話が始まります。
スッキリしない展開が続き、読者をもやもやさせるかと思います。
嫌な気分にさせるかもしれません。

拙い文章ですが、姫子の旅の終わりまで見守ってくれると嬉しいです。

488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:08:34.08 ID:+dEPnVKoo



― ―  ツバメ  ― ―


「ぴぃぴぃ」


一羽の雛が俺の足元で鳴いている。


「……」


視線を上に向けると鳥の巣があった。
兄弟達が忙しなく鳴いている。


「ぴぃぴぃ」


助けを求めているのか、腹が減っているのか、落ちた拍子にどこか怪我をしたのか、
兄弟がいない事に寂しいのか、血の繋がった家族に捨てられて哀しいのか、

思い当たるのはこんなにあるのに、どれを訴えているのか判断がつかない。
そんなのは人間の俺には分かるわけがない。


ただ、生きようと懸命に鳴いている。

それは、たしかなこと。


「……」


俺はその場を後にする。


誰かに拾ってもらえばいい。


「ぴぃ」


鳴き続けていれば、誰かにその意思が届くだろう。

生きようとする本能を捨てさえしなければ。


人間の俺はそれを捨てているのに、死ぬことができない。



「……」



――五年前の秋に両親を失った。

489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:09:31.78 ID:+dEPnVKoo



高校二年生の時。


駅まで迎えに来てくれた両親。


しとしとと降る雨。


吐く息が白い。

夜中には雪に変わるとクラスメイトが話をしていた。

積もったら大変だな、とか言ってた。

日本で早めに降る地域だから雪には慣れていて、はしゃぐことは無い。


去年のように近所の友達を誘って冬山へ滑りに行こう。

なんて、予定を立てていると、車のライトが道路の向こうから走ってきた。
見慣れた車だ。


「やっときた……」


駅前の道路に止まりクラクションを鳴らす。


プップー


「はいはい」


鳴らさなくても分かるのにな、と含み笑いで車に駆け寄る。


駅から無駄に離れたところに家があり、歩いて帰るには1時間はかかる。


助手席のドアを開けようとしたけど、後部座席に変えた。


「迎え、ありがと。母さんもいたんだ」

「うん、駅に向かう前に買い物をしていたの」

「他に買うものとかないか?」

「大丈夫よ」



運転席で母の気を遣う父。



「あ、予約したCDを受け取りに行かないと」

「明日にしろ、早く帰って試合の続きをみたいんだオレは」

「録画してあるから大丈夫じゃない」


リアルタイムで見るから面白いんだけど、母さんに味方になってもらう為、それは口に出さない。


「―ちゃん、昨日のテレビで演奏していた曲なんだけど、分かる?」

「……分かるよ」


未だにちゃん付けで呼ぶ母に嫌気がさしていたけど、抗議はしなかった。

490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:10:27.02 ID:+dEPnVKoo



「仕方ない、駅の反対側だったな」

「サンキュー」

「ありがとう、お父さん」


線路を渡って走る車はCD店へ。


「ふぁぁ……」

「図書館で勉強しなくても、家で頑張ればいいのに」

「……うん」

「今から張り切りすぎても良くないだろう」

「……うん、そうだね」

「お前の兄はいつも遊び呆けていたぞ」


兄は俺と違って友人が多いから、毎日のように出かけては遅くなって、
母を心配させ、父には怒られるという日々を過ごしていた。


「……」


携帯電話を胸ポケットから取り出して、母さんが欲しがっている曲を探す。
ネットで検索をするとすぐに出てきた。
世界的に有名な曲だけど、その時の俺は歌手を知らなかった。


「母さん、これを店員に見せてくれればいいから」

「まぁ、ありがとう」

「ついでに、この紙を見せて、CD受け取ってきて」

「おい、―。」


さすがにここは怒るところだ。
自分の我侭でCD店に向かっているのに、眠たいからと人頼みしている息子を叱らないと。


「いいのよ、お父さん」

「甘やかしすぎだろう」


そう呟きながらも、仕方が無いと言った風で怒りをおさめてくれた。
父もなんだかんだで甘かった。
それを承知の上で、後部座席で横になっている俺は狡賢いこと他ならない。


「家に着いたら起こしてあげるから。おやすみ、―ちゃん」

「帰ったら母さんの手伝いするんだぞ、―。」

「……うん」


そう言って俺は眠りに堕ち、意識を取り戻すまで1日かかった。


――目が覚めたとき、両親はすでにこの世には居なかった。

491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:12:00.61 ID:+dEPnVKoo



葬式の日。


喪主は兄が務めた。


母の友人。

父の仕事仲間・友人。

俺のクラスメイト。

兄の数多い友人。

沢山の人が参列してくれた。


「このたびは誠に残念なことでございました。お悔やみ申し上げます」

「……っ」


この言葉を聞く度に涙が溢れた。


涙が枯れることなんて無いだろう、その時の俺は頭の隅でそう感じていた。


親族は一人も来なかった。


母は孤立無縁で生きてきた。


施設で育って、働きながら学校へ通い、自分の力で歩いていた先で父と出会い、

兄が生まれ、俺が生まれ、

これから幸せな人生を歩もうとした、その時、道は閉ざされてしまった。


父は親戚との縁を切っていたので、当然、祖父も祖母も姿を現さなかった。

幼い頃に会った祖母は怖いという印象だけが残っていた。

492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:12:50.19 ID:+dEPnVKoo



「―。こっちへ来てくれ」

「……はい」


父の友人に呼ばれ、席を外す。

この人と父は付き合いこそ古くは無いが、それでも信頼関係は厚く、
よく家に通ってはお酒を交わしているのを見ていた。


「おまえたち、これからどうするんだ」

「……」

「……。まだ考えきれないか。俺が後見人になってもいいと、おまえの兄に伝えておいてくれ」

「……」


父が診療所として経営しているこの家は、近所ではそこそこ名が知れ渡っていた。

この人、もしかして。


「死んだアイツの夢、オレは知っている」

「……!」

「おまえが頑張っていることもな」

「……」


家の財産を奪うつもりか、と疑った俺をぶん殴りたかった。

この人の涙の痕を見過ごしていたから。



――葬式の3ヵ月後、生まれ育った俺たち家族の場所は売り出される。祖母の手によって。


兄の夢は父の診療所を継ぐことだった。

その為に勉強を必死で頑張っていたが、時間の合間を見つけては遊びにも行ってもいた。
一浪で医大に受かった時は父と同じくらい尊敬した。


「あれで落ちていたら、あなたが継ぐ番でしたが……まぁいいでしょう」

「……」


合格の知らせを伝えた祖母の反応はそんなものだった。

継ぐというのは父の診療所ではなく、それより規模の大きい病院。

その院長は俺たちの面倒を見てくれている祖父であり、その分野では知る人ぞ知る人物。

同族経営で、兄か俺に継がせようとしている。


「あなたには期待をしていますからね」

「……」


俺の返事も聞かずに歩いていった。


すぐ近くで働く母と父の影響を受けて、治療を施す仕事に深く感銘を受けていた兄。

だから、兄の夢を蔑ろにした祖母に対して気分が悪かった。

 
俺も医者になろうと必死で勉強している。そう思い込んでいる祖母に心の中で嘲笑った。

493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:13:32.89 ID:+dEPnVKoo



――両親の葬式の3年後、祖父が他界した。


急性心不全。


俺の目の前で倒れ、そのまま息を引き取った。


通夜の席で耳にする言葉。


「病院の跡継ぎはどうするんだ」

「あの土地の所有権は」

「遺された株は」

「金は」


眠る祖父の横で起こる骨肉争い。

兄と黙って聞いていた。


そして、祖母の一言により敵意がこっちに向けられる。


「跡はこの方に継がせます。異論は聞きません」

「し、しかしお祖母様!」

「いい加減になさい。これ以上の醜態を晒すのであれば、
 それなりの覚悟を持ってもらいますよ」

「ぐっ……」


兄を指しての決断に、親族の悪意が一つに固まる。

その悪意に微塵も怯む様子を見せない兄を不思議に思った。

二つ上なのに、子どもっぽくて、おちゃらけてて、それでいて決めるところはしっかり決める。
そんな兄を心から尊敬していた。



兄と同じ医大に合格した俺は、どこか白々しさを感じていた。


「なぁ、お前、なんで医大になんか入ったんだよ」

「……いや、そうしないと婆さんがうるさいだろ」


兄の責めるような問いかけに、言い訳がましく俺は答えた。

二人で居る時、俺と兄は祖母のことを婆さんと呼んでいた。


「獣医になりたかったんじゃないのかよ」

「なりたい……けどさ」

「経済面で婆さんに文句を言われないように、ってオレが頑張ってんだぞ?」

「そうだったのか……?」

「嘘だ」


とても真面目な顔で冗談を言うので、怒るよりも力が抜けてしまう。

これが兄の持つ魅力でもあった。

494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:18:00.52 ID:+dEPnVKoo



「で、どうすんだよ」

「……」

「父さんと母さんだって、それは気付いてただろ」

「……そうだけど、さ。兄貴はどうなんだよ。あの診療所、もう無くなってんだぞ」

「場所が無くなっても、父さんの夢は無くならないさ。オレ達が生きているかぎりな」

「それが医者になるってことなのか?」

「まぁ、それもある」

「聞いただろ、爺ちゃんの御通夜であんなこと言ってたヤツ等だぞ」


医者になることは尊敬するけど、あの病院の跡を継ぐってことは理解できないでいた。

爺ちゃんは俺たち孫を大切にしてくれていたから、爺ちゃんなんて親しみを込めて呼べているけど、

婆さんを取り巻く人たちには嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

親族なのに。いや、親族だからこそだ。


「じゃあ、オレは夢を捨てなきゃいなくなるな」

「そ、それは……」


俺たち兄弟が生きていくにはどうとでもなる。

だけど、医大に通える程の経済力も財産も無い。


「オレが院長になった暁には、アイツ等を路頭に迷わせてやるんだ」

「……はぁ」

「冗談じゃなくて本気だぞ。何十年かかるか分からないけどな」

「……」


兄が院長になるころ、ソイツ等はまだ医者を続けているのだろうか。

そして、俺も医者になっているのか。

そんな不安定な未来を想像していた。

495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/28(金) 14:18:30.40 ID:+dEPnVKoo



祖父の一周忌が過ぎてしばらく経ったある日。


ニヤついた表情の兄が俺の部屋をノックした。


「なんだよ?」

「ちょっと来い」

「は? 見て分かるだろ、勉強してんだけど」

「いいから、来いアホ。いいもの見せてやる」


ギリギリで大学に受かった兄にアホと言われるとさすがにカチンとくる。

けど、俺は兄より勉強は出来ても、それ以外で勝るところは何一つとして持っていない。


「どうよ、このバイク」

「……免許、持ってるのか?」

「高校の時に取得済みだ」

「何時の間に……」


確かに、兄が高校二年生の時は寝る間も惜しむほど忙しそうだった。

最近も暇を作っては出かけていたみたいだけど。


「バイトでもしてたのか?」

「少し違うけど、そうだ」

「?」

「友達の伝手でさぁ、手頃な値段で譲ってくれる人を紹介してくれたんだよ」


そう言いながらシートを撫でている仕草は、とても慈しむかのようで、なんとなく羨ましかった。

俺にはそんな風に大事にするものが無いから。


「でも、金が無いからな。その人の仕事の手伝いをした結果がここに至るわけだ」

「……なんの仕事?」

「バイク屋。……ようやく手に入れた」

「……」


昔から、兄の顔の広さには驚かされている。

バイクが欲しいから仕事を手伝わせてくれ、なんて言われて、いいぞ、と答える人はそうそういない。

それなら、どうしてここにそのバイクがあるのか。

それが兄を尊敬しているところだった。


誰とでも本気で付き合える。

真剣に相手とぶつかれる。

自分を隠さないその性格が人を惹きつける。


それは俺には到底手に入らないものだった。


心から尊敬し、憧れた人物が、兄だった。


姫子「グッド・ラック」 38