469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:52:50.37 ID:K8/zrCv3o



――…


私たち三人は風を受けて走り続ける。

数メートル先で姫ちゃんたちが待っていた。


風子「負けない……!」

夏「風子さん、姫子さんの所まで勝負しましょう!」

澪「私も参戦だ!」

風子「よーい」

夏澪「「 どん! 」」


シャーー!


凄い勢いで走っていった。


私は一人でゆっくりとペダルを漕ぎ続ける。


風子「私は自分に負けない、って意味だったんだけど」


夏ちゃんが人差し指を天に向けていた。


みんなの待っている場所へ辿り着く。


風子「ごめんね」

夏「先に謝るのってズルイ」

澪「二人、一生懸命だったんだぞ」

風子「負けた私は何をしようか?」

姫子「罰ゲームは受けるんだ」

夏「じゃあ、夕飯は風子さんが……って、ほとんどやってたっけ」

澪「そうだな。……うーん」

冬「とりあえず、走りながら考えたらどうでしょう」

風子「お手柔らかに、ね」


あと3kmくらいで着くかな。



――…



私は一人で買い物に行くことになった。

キャンプ地が早めに決まったこともあって時間に余裕もある。

最後の夜はゆっくりと過ごせそう。



470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:55:11.90 ID:K8/zrCv3o



――― 塘路湖 ―――


テントに着くと既に料理の準備が出来ていた。


風子「それじゃ、さっそく取り掛かるね」

姫子「あ、わたしがやるからいいよ」

風子「ううん、私がやりたいから」

夏「それじゃ、あたしも手伝います」

澪「私もやるぞ」


みんなでやったほうが早いのかな。


冬「わたしも頑張りますね!」

夏姫子澪「「「 それは駄目(だ) 」」」

冬「そんな……」

風子「……」


フォローができない……。
ごめんね、冬ちゃん、涙を呑んでもらうよ!


風子「私と姫ちゃんで料理するから、ね?」

澪「わ、分かった」

夏「そ、そうですね」

冬「……料理したいですよ」


落ち込み気味の冬ちゃん……。


風子「夏ちゃんが帰ったらたくさん食べたいって言ってた!」

冬「……そうします」

夏「――え」

姫子「そうなんだ、それじゃ、洗い場に行こう風子!」

風子「うん!」


急ぎ足で洗い場へ。


471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:57:44.98 ID:K8/zrCv3o



姫子「それで、何を作るの?」

風子「鮭のちゃんちゃん焼き」

姫子「……うん。冬に触らせてはいけない料理だね」

風子「ごめんね、冬ちゃん」


下ごしらえに鮭を切り、ネギを刻み、キャベツ、もやしを洗う。


姫子「このメニューは買い物の時に思いついたの?」

風子「うん。北海道といったら鮭だよね」

姫子「そう言われれば、食べてなかったっけ」

風子「日本酒に合うんだって」

姫子「それが目的だよね」

風子「そうです」


タマネギの皮を剥いてスライスに切る。


姫子「風子、この小さい魚はどうするの?」

風子「それはイワシ。塩焼きにしようと思って……」

姫子「……ふぅん」

風子「ウロコの落とし方……分かる?」

姫子「やったことないよ」

風子「……私も」


まずは実践あるのみ。


ちゃんちゃん焼きの下準備は終わったので、先に行ってもらった。


私はイワシと格闘すること10分。

2匹しか落とせていない。

あと……8匹!


風子「……っ!」


ジョリジョリ

難しい。

こんなことなら母に教わっておけばよかったな。


風子「……ふぅ」

「あらやだ! ウロコ落としてるの~!?」

風子「ッ!?」


後ろから大きな声でかけられて体が震えた。

472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:59:00.75 ID:K8/zrCv3o



「あら~、驚かせてごめんね~! どぉしたの? 困ってるの!?」

風子「は、はい」


対応にも困っています。


「貸してごらんなさぁい!」

風子「えっと……」


包丁を取られる。でも、教えてもらえるなら嬉しい。


「こうやって、頭をしっかり抑えるの! 魚の側面から右から左に小刻みにね!」


ジョリジョリ!


澪「おぉ……」

「おほほ! さぁやってごらんない!」

風子「はい!」


ジョリジョリ


「ん~、まぁまぁね。でも、さっきより上手くなったんじゃない?」

風子「そうでしょうか?」

「えぇ。それと、簡単に落とせる裏技。ペットボトルのキャップを使うといいわよぉ?」

澪「おぉー」

「んふふ。それじゃあねぇ~」

風子「ありがとうございました」


助言をくれて良かった。


ジョリジョリ


澪「今の人、誰?」

風子「分からない。困っていた私に声をかけてくれただけだから」

澪「鱗の神様だな」


鱗の神様?


473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 10:03:45.30 ID:K8/zrCv3o



焚き火に戻るとちゃんちゃん焼きはすでに出来上がっていた。


姫子「鱗の神様?」

澪「そう、なんというか、凄かった」

姫子「……そんな人がいるんだ、わたしも教えてもらいたかったかも」

夏「それより早く食べましょうよ」

冬「どうぞ、ふぅちゃんさん」

風子「ありがと~♪」


冬ちゃんが取り分けてくれたお皿を受け取る。

良い匂い。上手く焼けたみたい。


夏「いただきまーす」

澪「いただきます」

姫子「ん……おいしい」

冬「ほふっ」

風子「熱いから、気をつけて」


イワシを網の上に乗せる。


ジュジュー

炭焼きだからおいしいだろうな……。


姫子「風子」

風子「? ありがとう」


カップを渡され、以前貰ったお酒を注がれる。


なんて贅沢な時間。


夏「あたしにもください」

姫子「へぇ、飲むんだ?」

夏「今日は、ですよ」

澪「それじゃ、私もいただいていいかな」

風子「どうぞ~」

冬「もぐもぐ」


今日はいつもよりのんびりしている。

明日には帰るから。

今から慌てても、もう周れる場所は無理をしなければいけない。

次、来たときのお楽しみとして取っておこう。

474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 10:05:45.74 ID:K8/zrCv3o



風子「はい、冬ちゃん」

冬「い、いただきます」

風子「一口だけでいいからね」

冬「はい」

夏「それじゃー」

姫子「待って、乾杯の前に一言ずつ今日までの感想を言おう」

夏「えー……」

澪「ふむ……」

冬「感想ですか」

風子「感想……」

姫子「言いだしっぺのわたしから」


みんなの注目が集まる。


姫子「最初は、正直、5人で旅をすることに不安があった。
   それぞれ行きたい場所があるだろうし、生活を共にするわけだから、ね」


友達だからといって礼節は忘れてはいけない。

親しき仲にも礼儀あり。この諺をみんなが理解していた。


姫子「だからといって、遠慮して、行きたい場所を抑えて相手に合わせるだけというのも寂しい。ね、風子」

風子「う……」


知床に行きたいと言わなかったことを指摘しているんだね。


姫子「みんな我侭を言ってくれたし、ちゃんと相手を思いあっていたから楽しかった。
   ちゃんとお礼を言いたかった。みんなのおかげで楽しく過ごせた数日だった。ありがとう」

澪「……」

冬「……」

夏「……」

風子「……」


パキパキパキ


燃える音が小さく響く。


姫子「次……澪」


空気に耐え切れなくなった姫ちゃんが指名する。

475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 10:08:41.52 ID:K8/zrCv3o



澪「うん……。……楽しかった。風子」

姫子「ちょ……!」

風子「私も楽しかった。夏ちゃん」

夏「楽しかった」

冬「わたしも楽しめました」

風子「それでは……!」


「「「  かんぱーい! 」」」


西の空が赤く染まる黄昏時、
キャンプで過ごす最後の夜が始まった。


姫子「ズルイよ?」

澪「いや、だって……」

夏「うん……」

冬「わたしも同じことを想っていたので」

風子「ぷはっ」


今まで飲んだ中で一番おいしい。

私はこの味をずっと忘れることができない、と確信する。


食が進み、お酒の量も増えていく。特に私の量が。


夏「強いですね、二本目ですか」

風子「うん。買ってきちゃった」

冬「なんだか羨ましいです」

姫子「お酒は適量が一番だから、真似したらダメだよ?」

冬「はぁい」

澪「ふぅ……、少し休憩」


容器を置いて、右手で膝の上をリズムよく叩いている。心地よい音楽が流れているのでしょう。


姫子「風子」

風子「うん」


コツッ 軽く乾杯。


風子「何に乾杯?」

姫子「これからもよろしくってこと」

風子「うん、よろしくね」

姫子「おいしいよね、頂いたお酒」

風子「うん。私だけ飲むのもったいないから、別のお酒も買ってきたけど、これもおいしいよ」

姫子「これの次に飲んでみる」


何気ない会話。
今までと変わらない会話は場所が違うだけでとても特別な気がした。

476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 10:12:59.21 ID:K8/zrCv3o



冬「ちゃんちゃん焼き、とってもおいしいです!」

夏「イワシもうまいですよー」

澪「もぐもぐ、神様は偉大だな」


中々会えない友人がいる。

みんなと共に過ごせているこの時間が終わる。

だから、楽しいって気持ちが溢れていく。


姫子「……ふふっ」

風子「……ふふっ」

冬「?」

澪「???」

夏「なんですか、二人とも」

姫子風子「「 あははははっ 」」」


特別面白いことが起きたわけじゃない。

ただ、楽しいから、笑ってしまった。

おかしな二人だった。


冬「なにがあったんですか?」

夏「訊かないほうがいいんじゃない? あたし達には理解できないよ、きっと」

澪「そんな感じだな」

冬「気になる……」

夏「そういえば、今日は誰にも会いませんでしたね」

風子「そうだね、キャンプの夜から……違うかな、北海道で過ごす最初の夜からゲストがいたよね」

姫子「……うん」

風子「初日は私たちがゲストだね」

夏「そうですね~。ジンギスカン、また食べましょうね」

風子「うん♪」

澪「冬、これにイワシと野菜を載せてくれないか」

冬「はい。……これくらいでいいですか?」

澪「ありがとう」

姫子「……」

風子「どうしたの?」

姫子「ううん、なんでもない。……みんな行きたかった場所ってある?」

風子「沖縄かな」

姫子「道内で」

477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 10:19:53.82 ID:K8/zrCv3o



夏「あたしは霧多布岬、アゼチの岬、ピリカウタの三つ」

姫子「周ろうと思えば行けた範囲だね……冬は?」

冬「わたしは、行きたいところ周れましたので、特には」

風子「こうしたかったな、とかは無い?」

冬「そうですねぇ、サロベツのお花畑で……そのぅ」

澪「どうした?」

冬「好きな人とおしゃべりとか……するのが夢になったなぁって」


顔を赤らめて、可愛い。


風子「好きな人いないの?」

冬「……」


あれ、視線がどこかへ飛んでいった。


風子「……」

夏「……」


夏ちゃんも視線を外した。


風子「……」

澪「……っ!」


話を振られたくないのかな、全力で逃げられた。


風子「……」

姫子「?」


まぁ、ね。姫ちゃんだもんね。


姫子「澪は?」

澪「これといって無かったんだ。前知識として勉強していなかったからな」

風子「どうして?」

澪「見たその場で自分がどう感じるのか、それが目的だったというか」


それは分かるかもしれない。


姫子「なるほどね……うん」

風子「私には訊かないの?」

姫子「知床でしょ?」

風子「本当はもう一つあります」

姫子「どこ?」

風子「それは――」


運命が変わってしまう場所。

478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 10:22:56.79 ID:K8/zrCv3o



――…


日付が変わるまで私たちは尽きないお喋りをしていた。


夏「ふぁぁ……ん~、もう限界」

澪「片付けも終わったよ」

冬「終わりました」

姫子「さて……そろそろ寝ようか」

風子「……うん」


焚き火が消え、楽しかった一時が終わったことを実感させる。


風子「それじゃ、明日」

澪「うん、おやすみ」

夏「おやすみ~」

冬「おやすみなさい」

姫子「おやすみ、みんな」


三人はムーンライトテントへ。


私たちはツーリングテントへ。


風子「相棒の調子はどう?」

姫子「うん、全然問題なし」

風子「そっか……」

姫子「やっぱりあっという間だったねー」


テントの中に入って、今日の出来事をノートに記していく。


一つ一つ細かく。

479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 10:26:00.39 ID:K8/zrCv3o



風子「……」


ページを遡っていく。

船から降りたときのこと。

和琴半島でキャンプをしたこと――


風子「ねぇ、姫ちゃん」

姫子「うん……?」

風子「どうして、北海道に憧れたの?」

姫子「……雑誌を読んで、期待が沸いたから」

風子「何を、期待したの?」

姫子「……さぁ、なんだろ?」


自分でも解っていないといった声。


風子「多和平で、なんとなく、って言ったけれど……本当は姫ちゃんの憧れが移ったから」

姫子「……」

風子「私には姫ちゃんがいた、姫ちゃんがいたから、冬ちゃん、夏ちゃんと出会えた。
   これだけは忘れないでね」

姫子「――うん」

風子「あ……あと澪ちゃんも」

姫子「ついでじゃないんだから」


ランタンの灯りを消す。



風子「ありがとう」



私は、今まで支えてくれた人に感謝の気持ちを伝えた。


代わりのきかない私の相棒。


なんて。



おやすみ。



七日目終了


480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 22:02:21.21 ID:K8/zrCv3o



八日目


朝、テントを叔母さんの家に届ける。
その時にもう一度会えるかと期待をしたけれど、仕事に出ていたので書置きを残した。


釧路駅の近くにあるレンタカーへ車を返却。
ずっと私たちを運んでくれたもう一人の旅仲間。

お疲れ様とありがとうを伝えてお別れ。


481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 22:04:33.09 ID:K8/zrCv3o



――― 釧路駅 ―――



夏「ハンカチ落としてない?」

姫子「うん。大丈夫」

冬「知らない人に付いて行ってはダメですよ?」

姫子「分かってるって」

澪「運転には気をつけて、な」

姫子「安全運転で走るよ。過信もしない」

夏「睡眠はちゃんと取ってよ」

姫子「はいはい」

冬「ゲームは一日1時間ですよ」

姫子「ここまで来てしないよ」

澪「ちゃんとご飯食べるんだぞ」

姫子「食べるのが楽しみなところあるから、食事を抜くことはないよ」

風子「姫ちゃん……っ……ガム、食べる?」

姫子「今……?」

風子「ひっくしゅん!」


どうしてペパーミントガムを噛むとくしゃみが出るのかな。


風子「さっき買ったけど、やっぱりあげる」

姫子「う、うん……ありがと」

澪「全部?」

風子「うん。……くしゅっ」

夏「熱が出たんですか?」

冬「た、大変」

風子「アレルギーなのかな。大丈夫だよ」

姫子「どうして買ったの……」


私たち4人は電車に乗る。

澪ちゃんは札幌へ。

冬ちゃんと夏ちゃんは旭川へ。

私は千歳空港から飛行機に乗って地元へ。


姫ちゃんは――


姫子「グッド・ラック」 37