454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:39:51.50 ID:K8/zrCv3o



――…


塘路湖へ向かう車の中。

おにぎりの包装紙を解いて運転する澪ちゃんに渡す。


風子「はい」

澪「ありがと」

夏「うまうま」

冬「ふぅちゃんさん、これどうぞ。澪さんの分もです」

風子「ありがとう~」


ストローがさされた容器を渡される。


澪「もぐもぐ」

夏「緑が活き活きしてていいなー」

冬「うん。綺麗」

風子「空気も澄んでておいしそう」

夏「空気がおいしそうって初めて聞いた」


私も初めて言ったかもしれない。


455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:42:38.68 ID:K8/zrCv3o



――…


ザザッ


『ね、見た?』

澪「?」

夏「何を?」


姫ちゃんの突然の問いかけに私たちは疑問符を浮かべる。


『リス。反対車線ですれ違ったよ』

冬「そうですかぁ」

澪「よし」


ガチャ 


風子「……えっと?」


ハンドルを握る澪ちゃんは左に車を寄せ、ユーターンを始めた。


夏「み、澪さん?」

澪「私は……見たいんだ」

風子「……うん」


あまりにも真剣だったから、私は言葉を失った。

向こうから走ってくる姫ちゃんとすれ違う。


冬「姫ちゃんさーん」


『いまの冬だよね。どうしたの?』

夏「リスを見に行きます」

『……あ、そう』

夏「どのくらい戻ればいいの?」

『100か200くらい……』

澪「……」


私は助手席でリスの姿を探す。そろそろかな……。


風子「……あ」


いた。けど、すぐに左の森の中へ消えて行った。


澪「いた?」

風子「……うん。停めて探してみよう」

澪「分かった!」


キキッ

456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:43:54.56 ID:K8/zrCv3o



私たちは降りて目的の獲物を探す。


冬「森の中へ入っていったのでしょうか」

夏「木の上にいるかも」

澪「出てこーい」

風子「ちっちっち」


動物を呼ぶ声はこれでいいのかな。


ドルルルルン


姫子「いた?」

夏「いえ、まだ。エゾリスですよね?」

姫子「多分ね。数秒だったから」

澪「相手は野生だからな、警戒しているのかもしれない」

冬「お茶をどうぞ」

姫子「ありがと、少し休憩しようか」

風子「そうだね」


それから20分、姿を見せることはありませんでした。


457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:45:55.63 ID:K8/zrCv3o



――― 釧路川 ―――


尾岱沼から約2時間のドライブで到着。


冬「あの~、ガイドの方ですか?」

ガイド「はい、そうです。予約された立花さんでよろしいでしょうか?」

姫子「は、はい。よろしくお願いします」


走ってきた姫ちゃんが息を切らしながら応える。


姫子「すいません、遅れました」

ガイド「いえいえ、このくらいの遅れは構いませんよ」


笑って許してくれたガイドさんに私たちは胸を撫で下ろす。


ガイド「何かありましたか?」

澪「リスを……探していました」

ガイド「その様子だと、見つからなかったみたいですね」

澪「…………はい」

ガイド「釧路川にはたくさんの生き物が生息していますから、期待していてください」

澪「はい!」

夏「煌いた」

冬「煌きました」

姫子「煌いたね」

風子「うん」


煌く星のような笑顔でした。



458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:48:06.17 ID:K8/zrCv3o



――…


ガイドさんにしっかりとレクチャーを受け、出発。


私たち5人は二つの船に分かれる。

私の乗る船は夏ちゃんを先頭とした二人乗り。
もう一つは澪ちゃんが先頭、冬ちゃん、姫ちゃん。
ガイドさんは専用のカヌーで誘導してくれる。


天気は快晴。
日差しが強くて、風も穏やか。
夏を感じることができて、とても気持ちがいい。



息を合わせて漕ぐ。

ゆっくりゆっくりと進んでいく。


姫子「鹿だよ、澪」

澪「鹿か……」


お気に召さない様子。

走っている車の中で何度も見ているから感動は薄いのかもしれない。


姫子「……」

風子「どんまい、姫ちゃん」

姫子「訳の分からない励ましはやめて」


オールを漕ぎながらの会話。今まで味わったことのない体験だから、新鮮で楽しい。


キキキ~!

何かの泣き声が聞こえた。


冬「ヒスイが鳴いてる」

夏「翡翠って宝石の?」

冬「ううん。カワ――」

風子「上見て、あの鳥だよ」


私が指した鳥はヒスイより大きな鳥。低空飛行していてより大きく見えるね。


ガイド「……」

澪「うわ、近い!」

姫子「え、あれワシじゃないの?」

風子「学名ではヒスイって言うらしいよ」

冬「……」


いいのかな、って表情で困っている冬ちゃん。可愛いから、そのままにしよう。

459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:50:56.32 ID:K8/zrCv3o



姫子「……嘘っぽいな」

澪「すごいな~」

ガイド「左側の木々の間に一羽の鳥がいますよ」

澪「!」


木から木へ飛び移る声の主――カワセミがいた。


キキキ~


姫子「あれがヒスイだよね」

冬「……はい。別名、カワセミです」

姫子「カワセミとヒスイね」


姫ちゃんの視線を感じるけど、ガイドさんに訊きたいことがあるので流します。


風子「さっき飛んでいたワシはオジロワシですか?」

ガイド「そうですよ。詳しいですね」

風子「写真でしか見たことありませんでした」

ガイド「他にも観察できると思いますよ。ベニマシコ、オオジュリン……見つけてからにしましょうか」

風子「……そうですね」


その時に説明を聞いたほうがいいよね。


夏「あ、熊!」

澪「……」

ガイド「えぇ!?」

夏「すいません、嘘です」

ガイド「はぁ……びっくりしました」

冬「夏……」

夏「ごめんごめん。澪さんを驚かそうとしたんだけど」

姫子「反応無かったね」

澪「熊は怖くないぞ」

風子「危機管理を意識しているガイドさんには複雑ですね」

ガイド「あはは……」

姫子「実際に遭ったら危機意識が変わるかも」

夏「遭ってからじゃ遅いでしょ」

澪「タンチョウはまだかな」


私たちの心配をよそに、本人は川の流れに身を任せていた。


ガイド「運が良ければ観察できますよ」

夏「楽しみ~」

460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:52:43.02 ID:K8/zrCv3o



水を前から後ろへオールで漕いでいく。

みんなで力を合わせて進んでいく過程が楽しい。


ガイド「二千種もの貴重な動植物が生息する、野生生物の楽園です」


ここで生きる命が輝いている。


ガイド「平成5年にはラムサール条約にも登録され、世界的にも自然保護の重要性を持つ湿原です」


ここはいつまでもそのままで在って欲しい。


冬「ずっとこの時間が続けばいいですね」

夏「繰り返されてきた時間だからね」

風子「また来たいね」

姫子「……」

澪「あれはコムクドリかな?」


植物や川に棲む魚の話もたくさん聞けて世界が広がっていった。

結局タンチョウには会えませんでした。


461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:56:42.17 ID:K8/zrCv3o



――…


冬「よいしょ、よいしょ」

夏「よいしょ~」

風子「ゴール」

澪「到着!」

姫子「面白かった」

ガイド「みなさん、お疲れ様です」


ゴール地点に辿り着き、3時間のカヌー体験は終わってしまった。


ガイド「足元気をつけてくださいね」

風子「はい」

夏「はいよっ」

澪「よいしょ」

姫子「……」


一人一人、岸へ上がっていく。

最後に冬ちゃん。


冬「よいしょ、と」


右足が岸へ移った時、カヌーが揺れた。


冬「おっと」

姫子「冬っ!」


冬ちゃんの体が川の方に傾いたとき、姫ちゃんの手が追いついた。

けど、


姫子「っと――!」

冬「ひめ――きゃ!」


ザッブーーン


風子「ひ、姫ちゃん!?」

夏「冬ねぇ!!」


二人はそのまま川に落ちてしまった。


姫子「あぁー……」

冬「す、すいません……」


底は浅いようで、二人はずぶ濡れのまま立ち上がった。

大事には至らなかったみたいで、一安心。


462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:34:31.08 ID:K8/zrCv3o



――…


姫子「くしゅっ」


ガイドさんが貸してくれたタオルに身を包んだ姫ちゃんのくしゃみ。


冬「どうぞ、お茶です」

姫子「ありがと……冬の服はもう乾いたの?」

冬「はい。軽装ですから」

風子「姫ちゃんはまだ乾かないね」

姫子「うん……くしゅっ!」


この日差しで服もすぐに乾くと思っていたけれど、姫ちゃんの服装は水分を含みやすい素材になっている。

乾く前に風邪をひいてしまわないか心配。


出発地点に戻るにはガイドさんの車に乗らなくてはいけない為、ここで足止めになっていた。


夏「冬ねぇ~!」


ガイドさんと話をしていた夏ちゃんが声を上げながら駆け寄って来る。


冬「どうしたの?」

夏「塘路駅にレンタサイクルがあるんだって、自転車で行けるところまで行ってみようよ!」

冬「うん……でも」

姫子「いいんじゃない? 午後は……って、もう午後だけど、夕飯までは自由行動にするってのはどう?」

澪「いいんじゃないかな」

風子「……」


もしかして……。


風子「多和平に行くの?」

姫子「う……うん……」

澪「それじゃ、別行動だな」

冬「澪さんはどうしますか?」

夏「一緒に行きましょうよ」

澪「どこか行きたい場所でもあるの?」

夏「コッタロ展望台はどうかなって」

澪「……どうしようかな」

風子「そこでならタンチョウも見られるかもしれないよ」

澪「行く」

風子「それじゃあ、今日は……最後の夜は塘路湖キャンプ場で決まりだね」

姫子「うん……って、風子はどうするの?」

風子「考え中」


私たちの最後の目的地が決まった。

463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:35:59.78 ID:K8/zrCv3o



――― 多和平 ―――



ドルルルルン


塘路湖からバイクで40分で到着。


ただいまの時間、午後3時半。


まだまだ陽は高い。



風子「過ごしやすいね~」

姫子「ほんと、いい季節だね」


駐車場から展望台への道。

私たちは並んで歩き出す。


その途中で姫ちゃんがわたしに問いかける。


姫子「ねぇ、風子……」

風子「?」

姫子「どうして、此処に来たの?」

風子「えっと……場所はどこでも良かったんだけど、姫ちゃんの後ろに乗せてもらって、
   北海道の道を楽しみたかったから……です」

姫子「……うん。……そうじゃなくて」

風子「???」


姫ちゃんにしては珍しく戸惑っている。
余程聞きにくいことなのだろう。

私たちは歩き続ける。

464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:38:15.35 ID:K8/zrCv3o



姫子「どうして、北海道に来たの……ってこと」

風子「……」


最初は姫ちゃんが読んでいた雑誌を見て、いいな、程度だった。

沖縄に気持ちが傾いていた。
友達と一緒に沖縄旅行へ行くはずだった。


だけど、私は此処にいる。


それは――


風子「なんとなく……かな」

姫子「そっか」

風子「あ、本当は深い意味があって誤魔化したのかもしれないよ?」

姫子「それだったら、今、言ってたでしょ?」

風子「まぁ、ね」

姫子「地平線が見える大牧場多和平」


看板の文字を読み上げている。

階段を昇れば絶景が私たちを待っている。


風子「沖縄に興味は無いの?」

姫子「今のところは無いかな」


そっか、残念。


階段を一段一段踏みしめ、展望台に上がっていく。


目の前にある地平線。


大地の緑と空の青のツートンカラーの世界、
どこをみても地平線、どっちを向いても空と大地。視界のほとんどが空。


風子「…………すごい……」

姫子「……うん…………」


360度の地平線。


やっぱり写真で見るのとは全然違う迫力がある。

圧巻される景色に私たちは言葉を忘れた。




3分ほど。

465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:41:33.00 ID:K8/zrCv3o



風子「あれが雄阿寒岳かな」

姫子「……うん」


数日前にも雄阿寒岳を見たけれど、今日は別の角度からその姿を確認している。

数ヶ月前のような気がしてくる。


姫子「与えられた自由、か」

風子「?」


視線を下ろし、羊の群れを見つめている。

思い出した。
姫ちゃんが尊敬している記者がここを訪れた時の記事を。

それは自由について。


風子「あの羊は柵を越えたら自由になるよね」

姫子「うん。……でも、生きていけるかどうかは、分からないよね」

風子「……そうだね」

姫子「自由ってなんだろね」


手すりにもたれて考え込んでいる。

答えを求めているわけじゃなく、ただ気になるという声だった。


466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:45:23.65 ID:K8/zrCv3o



――…


塘路湖へ向かう途中、見慣れた3人の姿を見つけた。


夏「あ、偶然」

風子「どうしたの?」

澪「休憩中なんだ」

冬「……はい」

姫子「コッタロ展望台は――」

澪「タンチョウいた!」


それはもう少女のように。


姫子「そ、そう。良かったね」

澪「綺麗な姿だったぞ!」

風子「他には?」

澪「あぁ……うん」


テンションが急降下?


夏「キタキツネは人に慣れてますから、しょうがないですよ」

澪「うん……でも……ショックだ」

姫子「そんなにショックなことがあったの?」

冬「えっと……澪さんは、草陰の隙間からこっちを警戒している場面を浮かべていたそうです」

夏「あ、いた! って指を差したらササッと隠れるような、そんな野生を見たかったそうです」

風子「……うん」

澪「ところが、だ。私たちを後ろから追い越していったんだ」

冬「タッタッタ……と」

姫子「……へぇ」

澪「ネコかと思ったら……キツネだった」

夏「野生の血はどうした、って言ってましたね」

澪「観光客に餌付けされてて人間に慣れてるそうだ」

風子「危険な寄生虫を持ってるから、危ないね」

姫子「触ってないよね?」

冬「だいじょうぶです」

澪「うん」

夏「タンチョウ、カメラで撮ったけど……自信無い。返します」

姫子「ブレてるって意味?」

夏「……まぁ、そんな感じで」

風子「冬ちゃん、交代しようか」

冬「え……?」


467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:49:35.85 ID:K8/zrCv3o



私はヘルメットを外し、冬ちゃんに渡す。

自転車を漕いでみたかった。


冬「あ……お願いします。ちょっと疲れちゃってて、澪さんに迷惑かけてしまいました」

風子「ううん、私も自転車に乗りたかったから」

澪「ちょっと待って、もう少ししたら、あの線路を電車が通るはずなんだ」


指を差したのはここから少し離れた線路。

ここは見晴らしがいいからいい光景が見られそうだね。


姫子「電車ってことは――」

風子「コッタロ」

姫子「ノコッタ電車……違う、えっと!」

夏「ノロッコ電車」

姫子「そう……ノロッコ…………ハァ」


大きな溜め息が零れる。


澪「ノコッタノコッタ、相撲か」

風子「電車同士で……それは大事故になるからダメだよね」

夏「あははっ」

姫子「……」

冬「あれ、今何時ですか?」


携帯電話を開いて確認すると、


風子「4時過ぎだよ」

冬「あ……もう釧路駅到着してます」

澪「そうか、残念だ」

468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 09:50:58.92 ID:K8/zrCv3o



釧網本線を走る電車。


秋は釧路駅から川湯温泉駅までを走り、
夏は釧路駅から塘路駅区間までしか走らない。

そう、


風子「塘路駅を過ぎたこの地点はノロッコ電車、走らないよ」

夏「あ、そうなんですか」

澪「そうか……」

冬「……ふふ」

夏「なんだか」

冬「わたしたち」

澪「間抜けだな」


三人で笑い合っていた。


姫子「ふふっ、さぁ、行くよ」

冬「はい! お願いします!」

風子「私たちも姫ちゃんに負けないように頑張ろう!」

夏「いやー、無理です」

澪「やってみないと分からないぞ!」

風子「エンジン相手に無理だよね」

澪「おぉい!」

姫子「先に行くよー」


ドルルルルル



姫子「グッド・ラック」 36