439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:19:03.02 ID:T7Yrl8t/o



風子「光ちゃんと一緒じゃないと、意味が無いかな」

澪「……うん」

光「あ……もしかして、私に気を遣って?」

風子「そういう訳じゃ……ないんだけ…ど」

夏「?」

姫子「……」


私と澪ちゃんはさっきの光ちゃんの態度が気になっていた。


姫子「光の一人旅だから、邪魔になるよ」

風子「あ……そっか」

光「じゃ、邪魔という訳じゃ」

冬「……」

光「えっと……どうしよう……参ったな」

風子「ごめんね、困らせるつもりは無かったんだけど」

光「そうじゃ無いんです……――。」


顔を伏せながら呟いた言葉は私に伝わることは無かった。


冬「残りの旅路、頑張ろうね」

光「……うん」

風子「ガンバロウ」

光「うん……?」

姫子「……?」

風子「ガンバロー」

姫子「!」


バンガローを指差すと、からかわれていると気付いた姫ちゃんは一瞬だけムッとなった。


姫子「……どうしようかな」

澪「何を悩んでいるんだ?」

姫子「風子への仕返し」

風子「飲み会でたくさんお酒を飲ませるとか?」

姫子「得してるでしょ」

冬「クラス会とか、していますか?」

姫子「うん。ネコ娘が企画を立ててくれるから」

澪「……ふふ、そうか」

夏「メールしよっと」


夏ちゃんが携帯電話を操作する。

澪ちゃんが目を細めて焚き火を見つめ、懐かしんでいる。

440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:20:24.49 ID:T7Yrl8t/o



冬「わたしも会いたくなりました」

風子「帰ったら、一緒に騒ごうね」

姫子「騒ぐのが目的なんだ」

風子「もちろん」

夏「ふっふっふ」

光「……」

風子「あ、ごめんね、私たちだけで……」

光「……いえいえ」

澪「光、もう一回弾いていいかな」

光「どうぞどうぞ」

澪「ありがとう」


澪ちゃんは一つ一つ、とても大切そうに音を奏でる。


澪「……♪」

光「……」


光ちゃんは、またさっきと同じ表情になる。


風子「光ちゃん」

光「はい……?」

風子「一緒に行けない旅路だけど、応援しているからね」

光「はい」


気になるけれど、一緒には居られない。

それぞれの道があるから。

だけど、応援はできる。

ここで出会ったのも大切な縁だから。


ジャジャン ジャジャジャン


姫子「この曲知ってる」

冬「有名な曲ですよね」

夏「……なんだっけ」

風子「……」


海外の男性アーティストが歌っている曲。


光「歌えますか?」

風子「もちろん」

姫子「本当に?」

澪「う、うん。それじゃ、僭越ながら……」


441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:23:26.94 ID:T7Yrl8t/o



優しいメロディが流れる。

その音に声が重なり歌となった。


トン トン

 ジャジャラ ジャ ジャ ジャン


澪「 If I can reach the stars
   Pull one down for you
   Shine it on my heart
   So you could see the truth
   That this love I have inside
   Is everything it seems
   But for now I find
   It's only in my dreams 」


  僕は世界を変えることができる

  僕が君の世界の太陽になるよ
 
  君は僕の愛が本当に心地よいものだと感じるだろう
 
  もし僕が世界を変えることができたなら



歌詞の一部がタイトルになっているので、夏ちゃんも思い出したみたい。


ジャン


澪「途中だけどここまでなんだ」

夏「えぇー」


ゆっくりと流れていた時間の突然の終幕。


姫子「最後まで聞きたかった」

冬「はい」

風子「うん。聞きたい」

澪「ここから先は、勉強不足なんだ……」

光「……ふふ」

夏「なんでも歌えますね」

澪「なんでもってことはないけどな。暇を見つけては弾いていたんだ。
  サークルのキョージュが覚えろって言うから、しょうがなく」

風子「楽しくやってるんだね」

澪「……うん。楽しい」


ジャ ジャジャン

続けて奏でるメロディ。アコースティックギターのBGMがとても贅沢に感じる。


442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:24:35.80 ID:T7Yrl8t/o



光「姫子さんの車種はなんですか?」

姫子「バリオスⅡだよ」

夏「どうしてこの車種を選んだの?」

姫子「……えっと」

冬「意味がおありなんですね?」

風子「姫ちゃんが尊敬している雑誌記者がね、同じ車種なの」

夏「あ……ただのミーハー」

姫子「ミーハーじゃないからっ!」


ビシッ


夏「いつっ」

冬「失礼だよ、夏」

夏「じゃあ理由があるんですね」

姫子「じゃじゃ馬は可愛いって言うでしょ?」

夏「乗らないと分からないじゃん」

姫子「……」

風子「一目惚れしてたよ」

姫子「言わなくていいからっ」

風子「もちろん、事前に情報はもっていたんだけどね、お店で並んでいるあの子を見て、
   目を輝かせていた。本当に、文字通り輝いていたからね」

光「そうですか。分かりました」

夏「ミーハーなんて言ってすいませんでした」

冬「運命ですね~」

風子「しばらく見つめて動かなかったから。あぁ、この子を選ぶんだろうな。って、直感したよ」

夏「あははっ」

光「ふふっ」

姫子「笑うところじゃないでしょ……。ハァ……」


443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:28:05.60 ID:T7Yrl8t/o



BGMはまだ止まない。

続いて私の昔話。


風子「縁側で、ジッとセミの幼虫をお祖母ちゃんの言いつけ通り、遠くから観察してたんだけど……」

冬「羽化する直前ですね」

風子「途中で夕飯を食べなきゃいけなくて、目を離したの」

夏「羽化してしまった、と」

風子「ううん。まだ羽化していないから、観察を続けたよ」

姫子「……」

風子「夜の10時くらいになっても羽化しなくて。眠りたいけど頑張って起きていました。……ところが」

光「どうなりました?」

風子「諦めて寝なさいと言う母と一緒に近寄って見たら、抜け殻だった」

夏「?」

風子「お祖母ちゃんがすり替えてたの。本物の幼虫と抜け殻をね。私が夕飯を食べている間にね」

冬「抜け殻をずっと観ていたんですね」

姫子「騙されたんだ」

風子「うん。この子はまた騙された、って朝ご飯を食べるときにみんなに笑われたよ」


これは小学校低学年の頃の話。


澪「いい思い出だな」


ちょうど、弾き終えた澪ちゃんが話しかけてきた。


風子「いい思い出なのかな」

冬「その時のふぅちゃんさんには悪いですけど、今、楽しく話しているのはその証なんだと思います」

風子「うん……そうだね」


時計を右手で包んで、気持ちが落ち着いていくのが分かる。


姫子「そろそろ寝ようか」

夏「うん」

冬「ふぁぁ……」

澪「今日はガンバ……バンガローでみんな一緒に寝ることができるんだな」

風子「うん。テントも洗濯できたから、丁度良かったね。ガン……バンガローがあって」

姫子「はいはい。後片付けして寝るよー」

光「今日はありがとうございました」


急にお礼を言われて、私たちは戸惑ってしまう。


姫子「ど、どうしたの?」

光「本当は、傷心旅行だったわけですが、みなさんと一緒で楽しめました」


お辞儀をして、顔を上げた光ちゃんの表情には穏やかなイロが映っていた。

444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:30:30.80 ID:T7Yrl8t/o



――…


バンガローで5人横になって話をしている。

明日のこと、カヌーのこと、別の場所のこと。

私は光ちゃんの事を考えていた。


風子「……」

姫子「どうしたの、風子? しずかだけど」

風子「光ちゃん、太陽に憧れるって言ってた」

姫子「太陽、ね」

風子「どういう意味だと思う?」

姫子「みんなのヒカリになりたいとか、そういう意味かな……?」

風子「……」


本人に聞こうにも、隣にいないんだからそれは叶わない。
それに、触れてはいけないような事かもしれないから、きっと聞けない。


風子「おせっかいだよね」

姫子「……かもね」


光ちゃんについては、もう考えるのをやめる。
また会えたらいいな。

冬ちゃんの話に耳を傾ける。
三人で民話について語っているみたい。


冬「今、わたし達が住んでいる旭川の近くにですね、天人峡がありまして、
  そこには羽衣の滝という名所があるんですね」

澪「ほぅ……。北海道にもあったのか」

姫子「沖縄にもあるらしいね」

冬「羽衣伝説というのは、全国にありまして、話も大体似通っているんです」


大体のあらすじとしては。

 湖に降り立った天女が水浴びをする
 男性が天女の美しさに心を奪われ羽衣を隠してしまう
 帰れなくなり困ってしまう天女
 男性と結婚をして子を授かる
 天女は羽衣を見つけて天に帰ってしまう


冬「天女の気持ち――家族を残していく側の気持ちを考えると、複雑になるんです」

夏「男がずるいなぁって、あたしはいつも思う」

冬「でも、家族が出来たんだよ?」

夏「そうだけどさ……」

澪「どういう気持ちだったと思う?」

冬「そうですね……」

風子「故郷と家族を天秤にかけた想い。だけど、天女は前者を選んだ……」

姫子「結果的にはそうだね」

冬「でも、わたしはこう想うんです」

445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:33:47.83 ID:T7Yrl8t/o



誰かを残して往く気持ち――


冬「きっと、また会える。って」

風子「!」


知床で姫ちゃんが言ってくれたのと同じ。


冬「なんて、ただの夢想なんですけど」

姫子「あながち、外れてもいないと思うよ」

冬「そうだといいです」

夏「あ、もうこんな時間」


夏ちゃんの声に反応してつい、癖で左腕を確認してしまった。

時計を外して枕元に置いて、見つめてしまう。


風子「……」

姫子「風子、ランタン消すけど、いい?」

風子「うん」

姫子「みんな消すよー」

澪「いいよ」

夏「ふぁぁ……」

冬「お願いします」


灯りが消え、小屋の中は静けさが漂い始める。

誰かが身じろぎ、服の擦れる音が聞こえた。


配置は、私が真ん中で、左に姫ちゃん、右に澪ちゃん。
頭側に二人が横になっている。

澪ちゃんが落ち着かない様子。

どうしたのかな。


澪「……リ…………」


り?


澪「リコピーン」


風子姫子「「 え? 」」


私たちは体を起こして何が起こったのか、状況を確認する。

446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:35:21.56 ID:T7Yrl8t/o



冬「デコピン?」

夏「どうしたんですか?」

澪「な、なんでもないっ!」


タオルを被って顔を隠した。


風子「澪ちゃん?」

澪「忘れてくれっ」

姫子「なんて言ったの?」

冬「デコピンと……」

夏「違うよ、リコピンだよ」

冬「トマトのリコピン効果ですね……」

姫子「え、ここでダイエットの話?」

澪「くかー」

冬「何か暗号でしょうか」

夏「意図が解らないんだけど」

澪「くかー、くかー」

風子「帰ったら聞いてみよう」

澪「やめてくれっ!」


しばらく頭の熱を冷ましながらの澪ちゃんに説明を受ける。


澪「言わなきゃよかった……」


空気が違うから、どうしようもないよね。


冬「すぅ……ふぅ……」

夏「ねむ……」

風子「朝起きたら、姫ちゃんの髪の毛が逆立ってたりして」

姫子「やってもいいけど、怒るよ?」


それ、やるなと言ってるんだよ。


澪「……おやすみ」

姫子「おやすみ」

風子「おやすみ」




一周忌の春に再び時を刻みだしたこの時計。



もう動かなくなってしまったけど、この旅の終わりまで一緒に。




六日目終了


450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:30:58.74 ID:K8/zrCv3o



七日目



あれ、今……何時……?


姫子「すぅ……」

夏「くー……」

冬「ふぅ……」

澪「すー……」


携帯電話を取って時間を確認すると――


風子「え……!」


8時!?

寝過ごした!


やっぱりみんな、旅の疲れが出ていたんだ。


風子「起きて、起きて」

姫子「ん……」


寝返ってしまった。

姫ちゃんは後にしよう。


風子「澪ちゃん」

澪「……すぅ」


おかしいな、今まではすぐに目を覚ましたのに。余程疲れているみたい。


風子「リコピン」

澪「――!」


カッと目が開いた。


風子「冬ちゃん、夏ちゃん」

冬「ぅ…ん……」

夏「……ん」

澪「んー……あいつの顔が出てきた……なんの夢だ……?」


三人は起きてくれた。後は……。


451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:32:53.53 ID:K8/zrCv3o



姫子「すぅ……」

風子「みんな、顔洗ってきて。時間が無いよ」

夏「うわ、8時になる……!」

冬「たいへん」

澪「姫子は?」

風子「ちょっと工夫をした起こし方で……」

夏「どうするの?」


好奇心からか期待した表情になっている。


風子「一度、外に出よう。電話で起こすから」

冬「わ、分かりました」

澪「ん?」


入り口の扉の下に、一枚の紙があった。

夏ちゃんが拾上げる。


夏「……」

風子「?」


覗き込むと、


 一緒に過ごせてとても楽しかったです。

 先に出ますね。また会えると嬉しいです。
 さようなら。

                   光


ちゃんと挨拶したかったな。

さようなら、光ちゃん。



風子「さ、みんな外に出て」


そう促して私たちは姫ちゃんを残して外に出る。


冬「なにを……?」

風子「電話して、起こすよ」


ピッピッピ


trrrrrr


452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:35:02.84 ID:K8/zrCv3o



澪「部屋の中から着信音が鳴ってるな」

夏「まさか寝坊するなんて……」

冬「うん……」

夏「冬ねぇはいつもでしょ」

風子「……もしもし?」

『……な、……なに?』

風子「おはよう。もう朝だよ」

『ん……なんで、電話?』

風子「起こしても起きなかったから……」

『……いまどこ?』

風子「近場の温泉。今、出てきたところ」

『……』


あ、いけない。罪悪感が沸いてきた。


ドアを開けて、嘘だと伝える。


ガチャ


風子「嘘だよー」


ゴッ


姫子「いつっ!?」

夏「え!?」


鈍い音が鳴り、頭を抑えた姫ちゃんの姿が……。
悪ふざけが過ぎた。


風子「ご、ごめんなさい」

姫子「ん……? もう帰ってきたの?」

風子「ううん、私たちもさっき起きたばかり……」

姫子「???」


状況を把握できていないみたい。

姫ちゃんの額の一部が赤くなっている。


風子「ちょっと待っててね」


患部に濡らしたハンカチをあてて冷やそう。


453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/27(木) 08:36:13.30 ID:K8/zrCv3o



澪「冬が行ったから、待ってて」

風子「あ……うん」

夏「失礼~」

姫子「……?」


夏ちゃんが腕を伸ばして姫ちゃんの額に掌をあてる。


夏「手当て」

姫子「……手当て?」

夏「手を当てるだけの治療法。昔、冬ねぇによくされたから」

姫子「そう……でも、恥ずかしいからいいよ」

夏「ですね」

風子「本当に、ごめんね」

姫子「いいよ……。間が悪かっただけだから」

夏「運も悪いような気がする」

姫子「…………うん」

冬「どうぞ、使ってください」

姫子「ありがと」


冬ちゃんのハンカチを額に当てる。


やりすぎたと反省。



姫子「グッド・ラック」 35