428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/22(土) 23:58:27.11 ID:1caGwVu4o



光「両親は私が小学校のときから喧嘩ばっかりしてて、こんな――自転車で一人旅するような性格だから、
  学校でも浮いてて。あ、別にいじめられていたわけじゃないですよ」


言葉を繕いながら微笑む顔に寂しさがあった。


光「初めてのキャンプの夜、それがあんなに楽しかった」


ヒカリを浴びて瞳を輝かせる彼女に、太陽のような存在だと思った。


風子「太陽みたいだね。なんだか眩しい」

光「?」

風子「光ちゃんが」

光「え……そんなこと言われたの初めてですよ……」


照れくさそうに頭をかいている。


光「太陽ですか、いいですね。憧れます」


空に輝く太陽を仰いでいる。


風子「――!?」


一瞬だけ、光ちゃんの姿が見えなくなったような気がした。


光「?」


私の視線に気付いて不思議そうな表情を浮かべている。
多分、気のせい。


風子「地球の自転が止まったら、長期間の間、朝か、昼か、夕方か、夜か……になるよね。どっちがいい?」

光「???」


強引に話題を変えたので光ちゃんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。


風子「そう考えたら、毎日朝が来るんだから地球は凄いよね」

光「……そう…ですね」

風子「自転していない星ってあるのかな」

光「月……とか……?」

風子「月は自転しているそうだよ」

光「……」

風子「太陽の自転の周期は28日。月の満ち欠けは28日周期。……なんの話だっけ」

光「……その」

風子「?」

光「風子さんって、変な人ですね」

風子「この性格はお祖母ちゃん譲りだから」


どこか誇らしげに言葉が出てしまう。

429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 00:02:04.49 ID:T7Yrl8t/o



光「ふふっ、初めて会いましたよ、風子さんみたいな人」

風子「ありがとう」


褒め言葉として受け取ります。
荒涼とした世界で、昨日あったばかりの私たちは笑いあった。

北海道に来て、本当に良かった。

気持ちの良い北の空の下で、大きく息を吸う為に両腕を広げて、
あの言葉を思い出していた。


風子「永遠は刹那に去っても、風はいつか生まれる」


その意味が分かったような気がした。

右手の甲に柔らかいような固いような感触が伝わった。


姫子「いっ!」


伸ばした私の右手は姫ちゃんのお腹に衝撃を与えていた。


風子「ご、ごめんね」

姫子「ビックリして大きな声出しただけ、痛くないよ……」

冬「大丈夫ですか?」

姫子「……うん」

夏「なにしてんだか……」

澪「ッ……グフッ」

姫子「澪、笑いすぎ……」

澪「だって……っ…ずっと隣にいたのに気付かないで……ッ……タイミングがっ」


故意じゃないよ。


風子「事故だよ」

姫子「笑ってるよね。本当はワザとなんじゃないの?」

風子「ううん、全然気付かなかった。どこから話を聞いてたの?」

姫子「地球の自転の辺りから」

夏「変な話してるなーって」

冬「……入り込めませんでした」

風子「そうなんだ」

澪「……フフッ」

姫子「はぁ……なに、この澪のテンションは……」

澪「バイクの初乗りが楽しくて……なっ」

光「なんだか楽しそうで――あ」

「ママーはやくはやくー」

「待って、走ると危ないから待ってー!」


光ちゃんの視線を追うと、小さな男の子が駆けてくるのが見えた。
つたない走り方にハラハラしながら一所懸命に追いかけてくるお母さん。

430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 00:06:10.37 ID:T7Yrl8t/o



子「わぁっ――!」

風子「あぶない!」


地面に足を取られて転んでしまった。


冬「あぁー!」

夏「うわっ!」


私たちは駆け寄り、男の子の体を起こす。


子「ぅ~~っ!」


じわーっと目に涙が溜まっていく。
痛いのとビックリした感情が混ざり合い、安らぎを求め駆けつけたお母さんの方へ視線を向ける。


ママ「だから走ったら駄目って言ったでしょー」

子「うぅ~~っ」


軽めの叱りに居場所を無くした男の子の目に涙が溜まっていく。


光「ほら、痛くないよね?」


服に付いた埃を優しく叩いて落とし、声をかける。


子「……ぐすっ」

光「負けるな、男の子」

子「……ぅ…ん」

光「よぉし、良い子良い子~」


涙を堪え、痛みに耐えたご褒美をあげるように優しく頭を撫でる。


ママ「ほんと、すいません~」

子「……っ」


お母さんはヒョイと抱え上げる。
男の子は恥ずかしいのか、私たちから顔を背けてしまった。


夏「家族で旅行ですか?」

ママ「そうです。あっちで一心不乱に写真を撮ってるのがパパです」

澪「……」


少し離れた場所で撮影ポイントを見つけたのか、文字通り一心不乱にシャッターを下ろしていた。


ママ「それでは、私たちはこれで。ほら、摩耶もあいさつして」

摩耶「……」


頭をお母さんの肩に乗せて身動きしない。

男の子でマヤという名は珍しい……ような。……もしかして。

431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 00:07:43.26 ID:T7Yrl8t/o



風子「女の…子……ですか?」

ママ「ふふ、女の子よねー、摩耶~?」

摩耶「……」

光姫子「「 えっ! 」」


男の子の服を着ているから先入観から間違えてしまったね。


光「ごめんね~」

摩耶「ん~」


少し拗ねているような声。


ママ「ほーら、そんな顔しないの~」

姫子「ご、ごめんね」

摩耶「……ん」


姫ちゃんがぎこちなく謝ると、仕方ないと言った声が返ってくる。
許してくれたのかな。


ママ「この子、少し人見知りするので」

夏「そんな感じですね」

冬「これだけ知らない人に囲まれたら、戸惑いますよね」

ママ「ふふ、ほら、パパが呼んでる。みなさんに、ばいばーい、して」

摩耶「……」


なかなかこっちを見てくれない。
注目されて恥ずかしいのかもしれないね。


光「ばいばーい」

冬「ばいばい」

摩耶「……ば…ばいばぃ」

ママ「それでは」

風子「はい、それでは……」

姫子「……」


女の子はこっちを向いて手を振り続けている。
冬ちゃんと光ちゃん、澪ちゃんはそれに応え、姫ちゃんは難しい顔をしていた。

432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 00:09:44.40 ID:T7Yrl8t/o



風子「どうしたの?」

姫子「……子どもって凄いよね」

夏「なにが凄いの?」

姫子「あの子にとって、私たちは未知の世界の住人でしょ?」

風子「異星人?」

姫子「いや、そういう意味じゃなくて、ハードルを越えたっていうか」


よく分かりません。


夏「冬ねぇ、あっちに行ってみよう」

冬「う、うん……」

風子「10分くらい経ったら集合しよう」

冬「分かりました」

夏「江戸時代にはこの辺り歓楽街で武家屋敷もあったらしいよ」

冬「海の底に、今も存在してるのかもしれないんだね」


二人は歩いて行く。


光「私もそこら辺を歩いてきます」

風子「うん、後でね」

澪「五里霧中 道に迷っても 即興で軌道修正……うん」

姫子「……」


創作活動を続けている、澪ちゃん。

姫ちゃんは考え事をしているみたいなので……そっとしておこうかな。

私たちはそれぞれの時間を楽しむことになった。

433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 00:55:25.05 ID:T7Yrl8t/o



――…


尾岱沼キャンプ場に戻ってきて、自然と役割分担が行われ、それぞれの仕事に取り掛かる。


光ちゃんは外でテントを張るというので、私たちもお邪魔します。


風子「私たち邪魔してるかな」

光「そんなことないですよ?」

姫子「はい、邪魔してます。って言えないでしょ」

風子「そうだよね。一人で過ごしたいのなら言ってね」

光「えぇと……」

姫子「だから、困らせるような言い方しないでよ」


姫ちゃんの忠告を心に受け止め、私は食材を焼き続ける。




――…


食事を終えて三人で火を囲む。


澪「邪魔じゃなかった?」

光「邪魔でした。でも一緒に旅することに後悔はないです」

澪「……そうか」

風子「どうして一緒に?」


ジャン ジャジャン

澪ちゃんが弾いているギターは光ちゃんが自転車と共に走ってきた大切な相棒だと聞いた。


光「……形見なんです」

澪「――!」


音を奏でていた澪ちゃんの手が止まる。


光「澪さんほど上手くなかったけど、不思議と落ち着く音を――」

澪「ご、ごめん。気安く弾かせて欲しいって……無神経だった」

光「いえいえ、いい音奏でた方が楽器も嬉しいでしょうから、遠慮なく弾いてください」

澪「うん……」

光「アイツの隣が……唯一の居場所だったのになぁ……」

風子「……」


膝を抱えて表情を隠してしまう。
澪ちゃんはその手を止めない。


光「ありがとう……。隣に居てくれるような気がして…落ち着く……」


434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 00:59:25.84 ID:T7Yrl8t/o



風子「……」

澪「……」


私は静かに立ち上がり、澪ちゃんに頷きその場を後にした。


光ちゃんの心の中にはその人が居て、澪ちゃんがギターを弾くことで想いが溢れているのだと思う。

なんとなく、あの場にいるのは無粋だと感じた。


洗い場で片付けをしている三人の元へ私は心なしか急いで向かう。


姫子「大人が子どもをよく、凄いね、よくできたね、って褒めるでしょ?」

冬「はい、よく聞きますね」

夏「小さい頃、そんな風に言われたよね」


話の邪魔にならないよう、少し離れていることにしよう。
三人並んで背を向けているから、姫ちゃんは私に気付かないまま話を続ける。


姫子「わたしはアレって教育方針だと思ってたんだけど」

夏「教育方針……?」

姫子「なんというか……褒めて伸ばすっていうのかな。
   もちろん、褒めることに嘘を吐いているわけじゃないんだけど、
   本心で褒めているってこと……だけど、上手く言葉にできないな」

冬「子どもが今まで出来なかった事、それが出来るようになった。
  大人はそれを成長の証として心から感激して子にそれを伝えた、ということですよね」

姫子「うん。大人は子どもの一瞬の成長を常に見守っているということ。
   だから、その言葉は今までは教育方針だと思っていたんだけど、そうじゃない……と思った」

夏「昼の親子だよね」

姫子「あの子はわたし達を……極端な話、怖かったわけでしょ? 見知らぬ人だから」

冬「照れていたというのもありそうですけど、そうですね。
  それを頑張って克服して、わたし達に挨拶してくれました」

姫子「そう、あの子はその時に成長した」

夏「……そうですね、うん。あたしぐらいになるとやっかいな人見知りだけど、あの子は出来た」


終わったかな?
驚かしてみようかな、後ろからカエルでも放り込めばきっと――


姫子「風子って子どもでしょ?」


う……。頭の中の行動を指摘された。


夏「そうですね」

冬「……はい」


同意された。


435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 01:01:40.64 ID:T7Yrl8t/o



姫子「子どもは一つずつ階段を上って成長していく。ゆっくりと、だけど確実に」


姫子「ある程度大人になると、一段飛ばして上がっていくものだと思う。
   一つずつ上がっていく時間と余裕が無いから。だけど、風子は……」

冬「一つずつ階段を上っている……?」

姫子「うん。通り過ぎた大事なことを見て見ぬフリをしないで、ちゃんと振り返って……。
   だから、凄いって思う」

夏「……?」


ナニカを感じたのか、振り向いた夏ちゃんと目が合う。
気まずいので人差し指を口元へ。


夏「……」

冬「トドワラで難しい顔をしていたのはそれを考えていたんですね」

姫子「まぁね」

夏「どうしてそんな話を?」

姫子「あの親子と風子を見ていて感じたことが重なったから、なんとなく」

夏「そうですか」

冬「……?」


同じように人差し指を口元へ。
立ち聞きもよくないから引き返そうかな。


冬「……」

姫子「自分が出来ないことだから、それを教えられた」

夏「姫子さんと風子さんの関係って一言で表すと……?」

姫子「姫と町娘」

冬「身分違いの友情ですかぁ……とてもいいです!」

夏「……姫……ですか……そうですか」

姫子「違う。あっちが姫でわたしが町娘だから」

夏「……」

冬「……」

姫子「ちょっと……!」


姫ちゃんが声を高めるけど、二人は笑ってる。

本当の姉妹みたいで微笑ましい。


三人の雰囲気を邪魔したくないので、辺りを散歩しよう。


436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 01:05:43.11 ID:T7Yrl8t/o



――…


満ちていない月灯りの下。


今日一日の出来事を思い返しながら歩く。


朝起きて。

スープを作って。

一人で知床五湖まで運転して。


そこで、少女と召使と出会って……召使だったかな。

そして、別れを受け入れた。

受け入れたのは、自分勝手な解釈……?


ううん、そうじゃない。

お祖母ちゃんは別れの言葉を遺してくれた。

それに応えられたから、ちゃんとお別れが出来たんだ。


風子「ちゃんと振り返って……」


姫ちゃんが言ってくれたこと。

それを聞けただけでも、この旅に意味はあった。



慌しい数日。

それが明日で終わる。


これからの時間の中で糧となる道だった。



風子「ここからは海なんだ……」


目の前に海がある。潮の香り。

いつの間にか、ここまで来ていた。



あの死神は私の幻想だったのかもしれない。

自分が創りだした幻。

別れを受け入れられない自分自身にけじめをつけるため。



風子「……なんて」



あの一瞬が現実なのは間違いないけど、どこか自信が持てない。


腕時計を確認して、みんながいる場所へ戻るため、来た道を戻る。


437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:16:12.10 ID:T7Yrl8t/o



――…


パキパキパキ


薪が燃えている。

私は木の枝を折って、少し離れている火の中へ放り込む。


風子「……うん」

姫子「……」


まっすぐに飛んで吸い込まれていった。


風子「はい、姫ちゃん」

姫子「……いいから、わたしは」


枝を渡したけど受け取り拒否されました。


夏「どうして納沙布岬に行くの?」

光「私?」

夏「他にいないでしょ」

光「あ、うん。……えっと、行きたい場所のひとつだったから……だけど」

夏「ふーん」

冬「ハマナスの花が綺麗でしたね~」

澪「うん、野付半島は良い道だ」

風子「フラワーロードと呼ばれるだけあるよね」

姫子「視界の両端に海が見えるのは、とてもいい経験だった」

光「姫子さんの後ろはとっても楽しかった!」

姫子「……うん」


嬉しそうな表情。


光「私も自分で運転してみたかったなぁ」

夏「? 頑張って免許取ればいいじゃん」

光「……そうだね」

風子「?」


寂しそうな表情。


438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/23(日) 13:17:01.12 ID:T7Yrl8t/o



冬「実質、明日が最終日ですよ。予定を確認しましょう」

光「明日で終わり……?」

夏「うん。明後日の昼にはそれぞれ住むまちへ帰って、いつもの日常に戻るってわけ」

光「……いつもの日常」


光ちゃんは日常へ戻るということに少しの不安があるのかもしれない。それは現実と向き合うこと。
隣に立ててあるギターを見て、何かできないかな、と考えてみる。


風子「カヌーの予約は何時からだっけ?」

姫子「10時に塘路湖」

風子「……午前だよね?」

姫子「うん。午前10時……午後の10時にカヌー出来ないでしょ」

夏「真っ暗だよ」


二人に呆れ気味に諭される。
そうだよね。

午後からなら、納沙布に行けたかな……。


姫子「どこか寄ってみたい所でもあるの?」

風子「最東端……とか」


光ちゃんを伺う。


光「……」

澪「……いいな!」


澪ちゃんが乗って来てくれた。


夏「10時に間に合うの?」

冬「……とっても難しい」

姫子「単純計算でここから納沙布岬へ行って、塘路湖までの道のりは4時間」

澪「5時にここから出発すれば、どう?」

姫子「それでもギリギリの計算。道中、何があるか分からないから、それに光に合わせるなら尚更厳しい」

風子「……」

光「合わせなくても、姫子さん達のペースで走ればいいかと……」


希望としては、一緒に観たい。


姫子「どうなの?」

風子「……」


私の心情を見透かしたように聞いてくる。それが嬉しい。



姫子「グッド・ラック」 34