414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/20(木) 00:23:49.61 ID:4HX1iNoco



澪「いい所だな……」

夏「静寂があるんでしょうけど、人が多いから、それも味わえないかな……」

冬「悲観的にならないで。ここは動植物の楽園として守られているんだから」

姫子「そうだね」

夏「あたし等もここに来てる訳だから文句を言える立場じゃないね」

風子「……あの人、猟師かな」

澪「……え」


散策路を歩いていると、向こう側から一人の男性が歩いてきた。


男性「ここからは立ち入り禁止だから、入らないでね」

夏「どうして?」

男性「出たんだよ」

澪「出っ……!?」


私の前で男性の話を聞いた澪ちゃんの体がビクついた。


冬「熊ですか……」

男性「あぁ。テープで塞いでおくけど、くぐってはいらないようにね」

夏「そこまでして入る人が居るの?」

男性「いるんだよ。まぁ……その人はカメラを持っていたから仕事だったのかもしれないけどね。
   出会ってからじゃ遅いんだ、相手の生息地にお邪魔していることを忘れないようにね」


そう言葉を言い残し、去って言った。


風子「……」

姫子「キツく言われたね」

澪「熊の子なら……いいな」

冬「?」

風子「相手は野生だから……いつ本能の牙をむくのか……」

澪「そ、そうだな……うん」

夏「こ、怖……」

風子「鈴はまだ持ってる?」

姫子「熊避けの鈴代わりに使うわけね。でも、どうしてか鳴らないんだけど」


鈴をポケットから取り出し、振って見せるけど、音を響かせることは無かった。


415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/20(木) 00:28:08.59 ID:4HX1iNoco



――― カムイワッカ ―――


冬「……ふうっ…………はぁっ……はぁ……」

風子「大丈夫?」

冬「だ……だいじょう……っ……ぶ…ですっ……行きましょうっ」

風子「じゃあ、休憩にしようね。姫ちゃーん!」


先を歩いている3人に声をかける。
知床半島の秘湯。
カムイワッカ湯の滝に入るため、私たちは険しい温泉の流れる滝を登っている。


冬「だいじょうぶ……って……言いましたっ……」

風子「帰りのことも考えて、ね」

姫子「休憩ね」

風子「うん」

夏「足元が滑りやすくなってるから、全身の神経を使いますよねー」

澪「雪道を歩くときと同じ感覚だな。あれは慣れるまで怖くてしょうがなかった」

夏「そうそう、足の裏全面に体重をかけるように歩くんですよね」

澪「うんうん」

姫子「それじゃあ、最初は滑ってばっかり?」

澪「人が歩く場所はツルツルになってるからな。私はそこを避けるように歩いてた」

風子「……雪道に違いがあるの?」

夏「雪の轍は人が踏みすぎて路面が凍結していたりね。
  だからあたし達は少しでも雪が積もっている箇所を歩くようにしてる」

澪「私もだ。そうすると安心するからな」

姫子「ふぅん……」

澪「辺り一面の雪景色を歩いて、振り返ると自分の足跡だけ……というのもあって、良かった」

夏「分かる分かる! ちょっと感動しますよね!」


楽しそう。冬の北海道もいいかもしれない。


冬「ふぅ……。充分に休めましたので、行けます!」

姫子「あと10分くらいで辿り着ける……かな?」

風子「うん。それくらいだと思う」


川の流れを隣に感じながら、5人で歩く道のり。
そろそろ湯気の立つ場所に辿り着けると予想。


澪「ツルっと足を奪われた時は背中がゾクっとするんだよな!」

夏「そう! 変な汗を掻きますよね、ジワ~っと」


北海道の生活を共感できて楽しそうだね。
二人をそのままにして。


風子「レッツゴー」

姫子「……」

冬「楽しんで歩けば疲れなんて感じませんよね」

416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/20(木) 00:29:42.66 ID:4HX1iNoco



――…


風子「あ~、いい気持ち~♪」

姫子「……」

夏「いいですねー、真昼から秘境で温泉!」

冬「うん~」

澪「……」

風子「どうしたの、澪ちゃん?」

澪「い、いや……」


少し恥ずかしいのかもしれない。
私たち以外にこの天然温泉を利用している人物がいた。
初対面の二人だけど、男性じゃなくて良かった。
東京から来たという、千春さんと容子さん。


千春「あぁ~、しあわせ~」

容子「はぁ~、やっぱりここはいいね~」

千春「そうだね~、んーっと!!」


両腕を天に伸ばして上半身を解している。

なんだか、私の気持ちも二人の解放的な空気につられて良くなったので話しかけたくなった。


風子「何度もここへ足を運んでいらっしゃるんですか?」

千春「まだ二回目。前に来たのは……3年前の今と同じ季節だよ」

容子「あの時も知らない人と一緒に入ったよね~」

千春「そうそう。今日と違うのは男性だった、って所だけどね」

風子「混浴……ですか?」

容子「うん、そうだよ~」

澪「っ!?」

姫子「……」

風子「今回も仕事を休まれてカムイワッカまで……?」

千春「……!」

容子「……!」


二人、驚いてお互いに顔を合わせ、


千春容子「「 あははははっ! 」」


とても楽しそうに笑いあった。


417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/20(木) 00:31:33.97 ID:4HX1iNoco



風子「?」

夏「なにがそんなに可笑しいんです?」

千春「あははっ! ごっ、ごめんね~!」

容子「私たち、前にここに来たときは会社に戻るのが嫌で、連絡もしないで遊んでたの」

冬「え……それじゃあ……」

千春「そう、二人ともクビになった♪」

澪「おぉ……」

千春「それでぇ、東京でこの不況の中、なんとか再就職してぇ」

容子「お金を貯めてぇ」

姫子「今回も……?」

千春「ううん、今回はちゃんと予定日には帰るよ」

容子「前回で懲りたもんね~」


束の間の休息。

二人はとても幸せそうな表情を浮かべている。


千春「前はあの日常に戻るのが嫌で嫌で、貯金が尽きるまで遊びまくってたね」

容子「うん。その後が大変だったけど……」

千春「そうだね……」


途端に沈む空気。

楽しかった時間のあとには、過酷な時間が待っていたのかな。
二人の表情がそれを物語っていた。


千春「でも、あの日の私たちは間違いなく輝いてた」

容子「うん。輝いてた~」


そして、二人に笑顔が戻る。


千春「容子、またあの場所へ行ってみない?」

容子「私も行きたいと思ってた」

風子「予定を決めない旅行ですか?」

千春「ううん。決めてはいるけど、今思い出したから」

容子「偶然見つけた丘なんだけど、景色がとっても綺麗でね~」

風子「……」


北海道ではそんな景色が沢山ある。


夏「楽しそう」

冬「うん」

澪「大人だな」

姫子「……」


私たちはしばらくの間、千春さんと容子さんと話をしながら天然の温泉を満喫しました。

418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/20(木) 00:34:15.00 ID:4HX1iNoco



――…


千春さん、容子さんと駐車場で別れ、次の目的地へ車を走らせる。


夏「そろそろお昼食べよう、お腹すいた」

澪「……そうだな。いい時間だ」

冬「どこで食べましょうか」


『羅臼漁港よりボタンエビが大漁に――』


風子「……」


助手席で車のナビをしていた私はラジオのボリュームを上げる。
今、耳寄りな情報が流れていたような気がする。


『――へお越しいただくと、ただいまリーズナブルな値段でボタンエビが味わえますよ』

『羅臼か~、ここからは遠いな~』


年配の男性が残念がっている。


夏「ボタンエビ……食べたい!」

澪「ボタン?」

冬「高級エビなんです」

風子「お昼は決定だね」


男性アナウンサーに代わって私たちが高級食材を堪能することにした。

後で感想のメールを送ってみようかな。


419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/20(木) 00:36:31.79 ID:4HX1iNoco



――― 定食屋・羅臼 ―――


『それでは次のお便り~』

『えっと、ラジオネーム、ネコ娘さんから頂きましたー』


姫子「……」


姫ちゃんから視線を感じる。

私は気付かないフリをして窓から外を見つめる。


『あ、羅臼のボタンエビを食べているところらしいですよ』

『さっそくですかー!』


男性アナウンサーが悔しそうにしている。

おいしいですよ。


冬「ぷりぷりしてて」

夏「甘みがあって」

澪「お、おいしい……!」


私たちはローカルラジオから得た情報を活用し、羅臼漁港の定食屋にて舌鼓を打つ。

とってもおいしい。

定食屋にはこのお店を紹介した番組が流れていた。


『私は知床へ3人の旅仲間と訪れました』

『ははは、いいですねえ、旅ですかぁ!』


姫子「風子でしょ、これ」

風子「4人組みらしいよ?」

姫子「カモフラージュでしょ……周りに気付かれないようにって」

風子「……」


私は黙ってボタンエビの刺身を口へと運ぶ。


風子「おいしい!」

姫子「……」

420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/20(木) 00:37:20.17 ID:4HX1iNoco



『ぷりぷりしていて、甘くてとってもおいしいです! だそうですよ』

『あー、いいないいなー私も食べたいですよぉ!』


ある程度予想通りの味だったので、下書きを終えて、
一口頂いてから送信したので、味の感想に嘘はないよね。


夏「ふぅー、おいしかった」

冬「新鮮な味を堪能できて、ラッキーだね」

澪「どうして、姫子だけ貝なんだ?」

姫子「店員さんが聞き間違えた、らしい……」

夏「ボタンの刺身五つと頼めばよかったのに、わざわざ悩むから」

姫子「そうなんだけど……」

風子「ラウスバイだって。おいしい?」

姫子「まぁ、ね」


みんなからエビと貝を譲りあっていたから損はないと思うけど。


ごちそうさまでした。


421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/20(木) 00:39:45.20 ID:4HX1iNoco








ダニー『ほんと、心配性だなぁ……用は無いのにぃ……』

モモ『……』

ダニー『ふぁぁ……』

モモ『……まだ寝てるみたいだね』

ダニー『うん。……ボクも…ネムイよ……モモぉ…』

モモ『………………あの子、運が傾いてる』

ダニー『リスト……ってない…から……丈夫だ…よぉ』

モモ『……』

ダニー『ぐぅ……すぅ……』

モモ『大丈夫、だよね』

ダニー『ぴぃ……すぅ……』

モモ『……』







423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/22(土) 23:21:07.96 ID:1caGwVu4o



――…


次の目的地、野付半島へ向けてハンドルを握る。


1時間ほど走っていると、左に自転車を漕ぐ人の姿が目に入った。

充分に距離を保って追い越す。


夏「あ、あれ……!?」

冬「今の……!」

澪「どうした?」

風子「?」


左座席に座る夏ちゃんと冬ちゃんが通り過ぎた道を見送っている。


夏「あの子の目的地って聞いた? 冬ねぇ」

冬「ううん。聞いてないよ」

澪「あの子って……もしかして」


ザザッ

『風子、車を停めて待ってて』


風子「?」

澪「どうかした?」


『光を見つけた』


424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/22(土) 23:32:58.23 ID:1caGwVu4o



――― 尾岱沼キャンプ場 ―――



ログハウス風のバンガローがここにはある。

一旦荷物をここに置いてから移動することに。


姫子「よくここまで来たね」

光「大変でしたよぉー」

風子「カンバって来たんだね」

光「頑張りましたよー!」


疲れを見せないその笑顔に和んでしまう。


風子「すごいね、ここまでガンバって来たんだよ。私たちもこれからガンバロウね」

姫子「う、うん……」

風子「今日はロッジにしようか」

姫子「いや、あれはロッジじゃなくてガンバロー……う――!」


ロッジは炊事施設等がある宿泊施設。

姫ちゃんが言い間違えたバンガローはお風呂や炊事施設も無い、ただ休むだけの小屋。

ガンバローではなくバンガロー。


夏「あはは、ガンバローガンバロー」

姫子「くぅ……頑張るを強調するから変だと思っていたのに……!」


頭を抱えている姫ちゃんをよそに、光ちゃんに話しかける。

彼女はコムケで会った自転車で北海道を旅する少女。


風子「怖くなかったの?」

光「い、いえ。快適で楽しかったです……。失礼ですけど、昨日は調子が悪かったんですか?」

風子「うん。悩みを抱えていたからね」

光「……すっきりしてますね」

風子「うん。スッキリしたよ」

光「……そうですか」


姫ちゃんのバイクにロープで自転車を繋いでここまで走ってきた。
もちろん、違法行為にあたる。
話しかけると自転車の調子が悪いというので、姫ちゃんが引っ張ることになりました。

425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/22(土) 23:34:23.93 ID:1caGwVu4o



光「いいんですか、私なんかに合わせて」

風子「いいのいいの。光ちゃんは人類に必要な存在だから」

光「どういう……?」

姫子「風子っ」

風子「?」

姫子「あのね……!」

夏「あたし達は、暗い暗い闇の中を歩いていた」

澪「だけど、ついに、姫子がその場所へと辿り着く」

冬「光を、見つけた。と」

光「そ、そうですかぁ……」

姫子「~っ!」


名言だったよ。

車を停めた後、誰も言葉を発することは無く、
二人が到着するまでは水を打ったような静けさだった。


姫子「ぜったい後ろに乗せないから!」

澪夏冬「「「 え――! 」」」

風子「それは……」


困ったなぁ。

姫ちゃんの後ろに載せてもらって、トドワラまで走る気分でいたのに。

あの道はとても印象に残っていると雑誌で語られていた。
私たち、特に姫ちゃんがとても楽しみにしている場所。


ここに泊まる予定の光ちゃんに合わせて私たちもここでキャンプをすることに決定。

どうせだからトドワラ、ナラワナも同行してもらう。


バンガローに荷物を放り込んで、姫ちゃんの後ろに光ちゃんが、
残った私たちは変わり映えも無く、車に乗り込んだのでした。

426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/22(土) 23:40:08.96 ID:1caGwVu4o



――― 野付半島 ―――



光「バイクって良い! すっごく良い!!」


目を煌かせて興奮気味の光ちゃん。

28kmも伸びる細い半島。
その中間地点であるナラワナでの第一声がそれだった。


姫子「うん。楽しんでくれてよかった」


ヘルメットを脱いで、圧縮された髪を振り解しながら楽しそうな表情の姫ちゃん。


風子「視界の右と左に海があるって凄い景色だよね」

姫子「どこが良かった?」

光「風を切って走ってて、とっても気持ちがよくて!」

姫子「うんうん。分かる分かる」

風子「……あれ」


無視された。


夏「風子さん……今、無視された?」

風子「された、ね」

冬「……」

澪「夢や憧れ探して、西に東に……うん。いいかも」


創作活動してる澪ちゃん。


澪「はい! 姫子!」

姫子「っ!?」


姫ちゃんに向けて右手をかざしている。これ以上の主張は無いと思う。


澪「貸しだ!」

姫子「……あ、……うん」

風子「貸し?」

姫子「えっと……」

澪「釧路駅で待ちぼうけだったからな」

夏冬風子「「「 すいませんでした 」」」

光「?」


427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/22(土) 23:54:21.87 ID:1caGwVu4o



――…


そして、トドワラに到着。


海水の浸透、潮風の影響で立ち枯れたマツが点在する荒涼とした林。
この光景も時間が経てばいつか消えてしまう。

風化。

時間は残酷にも在るもの全てを忘却の彼方へ流していく。


光「どうしたんです?」

風子「……うん」


みんなからこっそりと抜け出してきたけど、光ちゃんに見つかったみたい。


風子「寂しい風景だよね」

光「そうですね。せつなくなる、という言葉が合うような……」


二人並んで海の向こうを見つめる。


風子「どうして、一人で旅をしてるの?」


昨日の夜。
みんなで焚き火を囲んでいる時に不思議に思った。

この子は、どうしてこんなにも強いんだろう。


光「オーロラを探しています」

風子「……」


姫ちゃんが持っている雑誌の内容を思い出す。

北海道でもオーロラを観測したという記録がある。


光「10年近くも前に、雑誌を読んで得た情報だけど、不思議と心に残ってて……」

風子「でも、南に移動してない?」

光「昨日も言いましたけど、納沙布に行きたいんです!」

風子「……」


聞いてなかった。
自分のことで頭がいっぱいだった証拠だね。


納沙布岬……。

これは暗示なのかな。


光「私って、居場所が無いんですよ」

風子「――!」


突然の告白に心臓が大きく音を立てる。


姫子「グッド・ラック」 33