328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:37:02.54 ID:cdyeIgfIo



ランタンを点けて一安心。
私と夏ちゃん、澪ちゃんの三人でテントを過ごすことに。
腕時計を確認すると9時に入るところでした。

もうちょっと火を囲んでいたかったけど、しょうがないよね。
さて、どうしようかな。


澪「せっかくの晩酌が物足りなくなったな」

風子「それじゃ、飲もうか♪」

夏「え……」

風子「慣れれば美味しく感じるよ」

夏「そ、そうですかぁ」

澪「まだ寝るには早いかな……?」

風子「疲れてない?」

澪「どうなんだろう、遊んでいる時って大抵疲れを忘れているからな」

夏「知らずのうちに溜めているかもしれませんよ」

風子「そうだね、それじゃあ……」


控えめにして、早々に寝てしまおう。
と、話をしていると、テントの入口に人の気配が。


冬「お邪魔します」

夏「どうしたの?」

冬「姫ちゃんさんの邪魔をしてはいけないと思って」

澪「あ、私も今日のことまとめておこう」


澪ちゃんは手帳とペンを取り出してランタンの前に移動している。

姫ちゃんに遠慮してここに来たんだね。


風子「それじゃ、花札しよう~」

夏「あたし、花札のルールを知りません」

風子「教えてあげるよ。と言っても、細かい採点方法は分からないけどね」

冬「わたしも大体は知ってますよ」

風子「配るね」


シュッシュッシュッと三人分の手札を配る。


澪「わ、私もやるっ」

風子「うんー、分かった。まとめ終わったら声かけてね」

澪「わ、分かった」

風子「練習しながらやってみよう」

冬「はい」

夏「よーし」

風子「冬ちゃん、どう?」


頂いたお酒を傾ける。
高いお酒なのかもしれない。飲んでもスッキリとしていて、いい感じ。

329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:41:08.18 ID:cdyeIgfIo



冬「明日に響くといけないので、少しだけ……」

夏「えー、そんなにおいしいかなぁ」

風子「おいしいよ~。多分、上等品だと思う」


冬ちゃんのグラスにゆっくりと注いでいく。
私も一緒にいただきます。


冬「いただきます」

風子「……ふぅ」


少量を口に含んだだけなのに、全身が緩んでいく。


夏「誰から始めますか?」

風子「夏ちゃんからでいいよ」

夏「それじゃスタート。……えっと、これは松ですか?」

風子「そう。同じ絵柄だから、その札を取ることができるよ」

冬「あ、ふぅさん……」


もう一つ、場には松の札があるけれど、夏ちゃんは同じ柄の札を取った。
私の手札にも松の札があるから、鶴がいる札は私のもの。


夏「それで、終わりですか?」

風子「山札から一枚取って、場にあれば取得できるよ」

夏「かるたみたいなものですね、っと。この梅ですね」

冬「鶯がいる札がいいよ」

夏「え、ペアで取るんじゃないの?」

冬「本当は、この鶴の方が点数が高いんだよ」

風子「これは、私がゲットするね。20点」

夏「20点?」

風子「夏ちゃんが取ったのは1点なんだ」

夏「えっ!? ふぅちゃんさん!?」

冬「ふぅさん、意地悪ですね」

風子「大丈夫、この方が覚えやすいでしょ?」

夏「なんだか、納得できないなぁ」


パラパラパラとテントを打つ雨。
雨音が弱くなってきたから、通り雨かな。


札を取る冬ちゃん。
杯を興味深そうに掲げている夏ちゃん。
メモ帳にペンを走らせている澪ちゃん。
私は一つ息を吸い込んで、この時間を堪能する。


楽しかった一日が終わる。


明日に期待を膨らませていく。


四日目終了

330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/25(月) 23:26:37.91 ID:5G8crL5co




ふと、目が覚める。
外にナニカの気配を感じた。

誰かがいる。

ガサガサと物音が聞こえたのは気のせいなのか。
不安が付きまとう。

得体の知れないものが近くにいるという恐怖。


テントが揺れている。


少しだけ、耳を澄ますと気配の正体、


それは風が起こした悪戯だと知る。


不安と緊張が薄らいでいき、意識が隣で眠る二人に移る。
寝息が微かに聞こえ、自然と落ち着いていき、
鋭くなっていた神経がゆっくりと柔らかく解かれる。

どうして真夜中の目覚めはこうも人の心をかき乱すのだろうか。

小さいころの体験と似ている。
お母さんと一緒に横になってお話をしながら眠りに就くころ、
お母さんだけが先に寝てしまい、一人だけ起きているのが不安でしょうがなかった。
暗闇に私、独りだけが放り出されたような感覚に陥り、心細さが眠りを遠ざける。
早く寝てしまおうと目をギュッと閉じてしまい、それが逆効果になってしまったり。


夏「すぅー……」

澪「……すぅ」

風子「……」


今の私にはそんな焦りが薄れて無くなっていた。

早く、寝よう。



336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:21:00.16 ID:CFhswu2Go




五日目


朝、目を覚ますと澪ちゃんはいなかった。
眼鏡を探し当て、かけると同時に腕時計を手に取る。


夏「……すぅー」

風子「4時……」


1時間くらいかな、おしゃべりしながら花札を楽しんだのは。
6時間くらいの睡眠だから、少し体に重たさを感じる。
夏ちゃんを起こさないようにして、しずかにテントを出る。


ひんやりと冷たい空気に触れて、ぼんやりとしていた意識が引き締まっていく。
……はずなんだけど、いつものような体の軽さが感じられない。

寝不足が原因ではなく、


悪い 夢 を見たからかもしれない。


体を伸ばしながら瑞々しい空気を吸い込む。


風子「ん…っと……」


少しだけ楽になったような気がした。

夜に降った雨は上がって、薄い霧が立ち込めるキャンプ場。

この景色と同じく私の心にも霞がかっているようだった。

疲れが取れていないのかもしれない。
自分の体の調子を確認していると、向かいのテントから姫ちゃんが顔を出してきた。


姫子「おはよう」

風子「おはよう」

姫子「今、何時?」

風子「4時だよ」

姫子「4時……。どうしようかな」

風子「?」

姫子「走ってこようかなって思ってさ」

風子「……」


第一サイトにはシャワーとコインランドリーが設置されているから、
ランニングをするにはちょうどいいかもしれない。

私も一緒に走りたいけど、体が少し重い。どうしようかな。

337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:25:07.53 ID:CFhswu2Go



姫子「決めた、走ってくる」

風子「……うん」

姫子「風子は3人が起きてくるの待っててよ」

風子「……分かった」

澪「おはよう」

姫子「おはよう、どこに行ってたの?」

澪「湖の方へ散歩してきた」


朝の清清しい空気のように、すっきりとした顔をしている。

後ろからテントのジッパーを降ろす音が聞こえた。


夏「はよーございま~」

姫子「おはよう」

夏「んー……冬ねぇ起こしてきま~」

風子「……」


夏ちゃんがもう一つのテントへ入っていく。

一日の始まり、みんなが活動的になったのに私の体がまだ重たく感じるのは、

……夢のせい。


「冬ねぇ~、おきてぇ~……」

風子「……」

姫子「風子」

風子「……?」

姫子「どうしたの?」

風子「……」


いけない。
黙っていては心配をかけてしまう。

338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:30:05.83 ID:CFhswu2Go



風子「こ…この霧のように……私の心も……」

澪「……霧が晴れていくな」

風子「まだ頭が覚めてないみたい」

姫子「……そう」

澪「お酒を飲んだ次の日だから、二日酔いかな?」

風子「……」

姫子「二日酔いとは違うような……」


鋭く察知してしまう姫ちゃん。


風子「眠りすぎてボンヤリしているだけだよ」


怖い夢を見たから少しだけ気分が悪い、なんて言えないよ。


姫子「……疲れたらすぐに言ってね、澪が頑張るから」

澪「私かい。……頑張るけどな!」

風子「ふふっ、……うん」


あの言葉、


― この中の誰かの命を運ぶつもりもないから。


信じてもいいんだよね。


澪「見て、入道雲」

姫子「あ、本当だ……」

風子「……」


壮大な雲が西の黒味がかった空を押しのけるように、
朝日を受けて白く輝き、もくもくと、どっしりと、
大きく、鮮やかに、とても綺麗な形をしている。

私はその大きな存在に見惚れていた。


澪「あれ、二人が出てこないな」

風子「……一緒に寝てるのかも」

姫子「着替えて走ってくるから、のんびりしてて」


そう言ってテントの中へ。


「起きて、朝だよ」

「ん~……?」

「……あ…れ、朝…ですか?」

澪「ジョギングするってこと?」

風子「うん。キャンプ場内を軽く走る程度だと思うよ」

澪「私も付いていこうっと」


澪ちゃんもテントへ戻り、私一人だけ外に取り残される。

339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:33:54.46 ID:CFhswu2Go



昨日の背筋が凍るニアミスが悪夢を招いたんだと思う。

不吉で恐ろしいあの夢を早く忘れたかった。

不思議な響きの声を疑った。

死神の声を信じていいのだろうか、と。


冬「おはようございます」

夏「あれ、霧が晴れてる」


二人の顔を確認して、私は悲観的な思考を止める。


風子「おはよう」


出来るだけ笑顔を作って朝の挨拶を言葉に出す。


冬「……」

夏「あたしもはーしろっと」


夏ちゃんも着替える為にテントの中へ。冬ちゃんは私をじっと見ている。


風子「?」

冬「なにか、あったんですか?」

風子「ううん、なにもないよ」

冬「……」


そんな目で見られたら、弱さをみせてしまいそう……。


冬「嘘は……よくないんですよ」

風子「……」

冬「心が疲れちゃいます」

風子「うん……。…………実はね――」

澪「アウトドアシューズでも大丈夫かな」

夏「うん、平気平気」

姫子「よいしょっと。行ってくるね」

風子「行ってらっしゃい」


手を振って見送る。
その後ろ姿を見て、夢だったんだと自分に言い聞かせる。


冬「……」

風子「……怖い夢を見たの」

冬「……」

風子「……」


怖い夢を見たから元気が無い。なんて、子供みたいだよね。
だけど、冬ちゃんは真剣に聞いてくれている。

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:37:53.97 ID:CFhswu2Go



冬「どんな……夢を?」

風子「ごめんね、口に出すのはとてもじゃないけど……」

冬「そうですね。……夢は夢ですよ」

風子「うん」


弱った私の心を励ましてくれる。
少しずつ元気が湧いてくるようだった。


冬「悪い風……ですか?」

風子「……うん」

冬「あの話の後にあの事故でしたから、わたしも気になっていたんです」

風子「……」


悪夢の内容が分かったみたい。


私が見たのは――姫ちゃんが、不運に見舞われる夢。


悪い風、ニアミスの事故。

死神の言葉を信じてもいいのかと疑惑が生まれた。


冬「そうだ、顔を洗ってこなきゃ」

風子「私も行くよ」

冬「タオルを取ってきますね」

風子「うん」


テントの中へ入って行ったのを見送って、
一つ、体中に溜まった悪いものを押し出すように息を吐く。


風子「……ふぅ」


私もタオルを準備しなくてはいけない。

テントへ入り、鞄からタオルを取り出す。


誰かの足音が近づいてくる。
冬ちゃんのいるテントの方からではなく、反対側から聞こえてくる。


「大変大変」


夏ちゃんの声。
なにが大変なのか……。
胸の鼓動が早くなる。

気持ちが先走って、急いで外へ出る。

鼓動を抑えつつ、夏ちゃんに問いかける。


風子「どう、したの?」

夏「姫子さんが倒れた――」


目を合わせない夏ちゃんの仕草にドクンと大きく胸を打つ。

341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:43:06.19 ID:CFhswu2Go



夏「いや、倒されたのかな」

風子「姫…ちゃんは…どこ?」

夏「え?」

風子「倒れたってどういうこと……!」

夏「ふ、風子さん?」

冬「風子さん」

風子「!」


冬ちゃんの優しい声に私は自分の感情に気付く。

倒れたという予想外の言葉に気が動転していた。


冬「夏の表情を見てください」

風子「あ……」

夏「?」


深刻な顔をしていない。


冬「姫子さんがどうしたの?」

夏「……うん。
  走り始めようとした時に、澪さんの靴ひもが解けてて、
  それが原因で澪さんが、姫子さんを後ろから押し倒したって訳」

風子「……」

夏「ランニングを中止して、シャワーに向かった……から、大変だと……」

冬「……うん」

夏「変なこと言った?」

風子「ううん」


私のはやとちりだったんだね。


冬「怪我は無いんだよね」

夏「うん。二人ともよろめきながら水分の含んだ芝生の上をズサーッと、ね」

風子「……」

夏「アスファルトの上じゃなかったのが不幸中の幸いってとこかな」

冬「わたし達も一緒に行きましょう」

風子「……うん、そうだね」

夏「……?」

冬「夏、澪さんの着替えを」

夏「う、うん……。どうしたの、風子さんは」

冬「なんでもないよ。早く行かないとフェリーに乗り遅れちゃうよ」

夏「うん……」

風子「……」


私のほうが年上なのに……気を遣われた。
ううん、年のことは関係ない。同じ視線でモノを見ていかなくてはいけない。
私はそうしないとそれ以上に楽しめない……なんて、かっこいいこと言える状態じゃないよね。

342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:50:19.17 ID:CFhswu2Go



二人を待つこと数分。


姫子「お待たせ」

夏「見事なヘッドスライディングでしたよ」

姫子「狙ってやったわけじゃないけどね」

澪「……ごめん」

姫子「いいって、大したことじゃないから、そう何度も謝られると困るよ」

澪「……うん」

風子「……」

姫子「風子?」

冬「夏が、姫ちゃんさんが倒れた~、なんて言うからふぅさんが心配していたんです」

夏「だって、あれは転んだというより、倒れた、倒された~の方がしっくりくるんだもん」

風子「……」

姫子「それだけ?」

風子「……え?」


何かを察知したかのように、姫ちゃんが私の心を覗き込んでくる。


姫子「昨日の夜とで全然様子が違うからさ、気になっていたんだけど」

風子「……」


私を心配してくれている声だから、余計に胸が苦しくなる。

あの夢の姿が浮かんでくるから。


姫ちゃんの自由を奪った悪夢

壊れたバイクの横で血を流して倒れている姿――

343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:51:57.31 ID:CFhswu2Go



姫子「風子、ちょっとこっちに来て」

風子「え……?」


手を引っ張られて歩いていく。

手の温もりを感じて、私の心が落ち着いていくことに気付く。

あれは、紛れも無い夢だったと、気付かされる。


姫子「ちょっと、ここに立ってて」

風子「???」


木の下に立たされる。
どうしたんだろう。


姫子「えいっ」


どかっと木を蹴った。

ひどい。

パラパラパラと雫が落ちると同時に姫ちゃんは走って行った。


姫子「……あれ?」

澪「威力が小さいんだ」

夏「3人でやりましょう」

冬「……」

風子「……」


冬ちゃんを残して、3人が近づいてくる。

そして、


姫子夏澪 「「「 えいっ 」」」


どかっと、木を蹴ると同時に沢山の雫が、雨が降ってきた。

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:53:30.11 ID:CFhswu2Go



逃げようとする姫ちゃんの手を掴まえる。


姫子「ちょっ!」

風子「雨だね……」

姫子「シャワー浴びたばっかりなのに!」

風子「人を呪わば穴二つっていうよね」

姫子「呪ってないって!」

風子「そうだよね、姫ちゃんはそんなことしないよね」

冬「着替え持ってきますね」

夏「急いでくださいね~」


二人は駆け出していく。


澪「私たちで洗濯しておくから、シャワー入ってきて」

風子「うん」

姫子「……ハァ」


あれは夢なんだ。
私はあの声を信じることにする。

345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/09/01(土) 00:56:12.79 ID:CFhswu2Go



――…


朱鞠湖内を出発して1時間半。
ちょうど、稚内港まで半分の距離。

あと1時間北へ走ればサロベツ原野を通るね。


澪「10分経ったな」

風子「休憩終わり~」

夏「姫子さん、疲れていませんか?」

姫子「平気。朝の空気を受けて気持ちがいいくらいだよ」

冬「厳かな雰囲気で、とてもいいですよね」


冬ちゃんの言うとおり、朝の早い時間帯だから対向車も無く、とてもしずかなドライブになっている。

左手側に利尻富士を確認しつつ、綺麗な朝焼けを眺めながら車を走らせていく。



姫子「グッド・ラック」 27