316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 21:50:27.41 ID:cdyeIgfIo



夏「真剣に投げる人を馬鹿にしているようで、少し腹が立った。って訳ですよ」

姫子「……」

風子「ふむふむ」

夏「でも、それはあたしの勘違いだと次の日に気付いたんですけどねー」

澪「それじゃ、その日でお終いだった?」

夏「いえ、キャプテンがあたしを姫子さんのパートナーに押し付けたんですよ」

姫子「そうだったの?」

夏「そうですよー」

冬「……」


わたしの一つ上の先輩だった人で、夏の二つ上。
冬がマネージャーとして入部したのは2年生の春だから、
キャプテンだったあの人のことを冬は知らない。


風子「私の知ってる人?」

姫子「ううん、知らない人」

風子「なぁんだ」

冬「どんな人?」

夏「キャプテンに任命される人は大抵、大らかな人って相場が決まっているんだよ」

冬「そうだね、本に登場する人たちはそんな雰囲気だね」

夏「あ、ごめん、適当だから」

冬「……」

澪「だ、騙された」


もう一つの鍋で作ったスープ、澪はそれを容器に移しながらショックを受けていた。


姫子「コーンスープも作ったんだ」

澪「うん。どうぞ」

姫子「ありがと」

風子「はい、ペペロンチーノ初夏の香りに乗せて~、だよ」

夏「なんですかそれ」

風子「メニューに書かれてるでしょ?」

夏「あぁ、シェフの気まぐれソース、とかですね。
  というか、初夏の具材を使ってないですよ?」

風子「私が気まぐれに名づけたからいいんじゃないかな」

姫子「作ってないでしょ」

澪「Stylish Peperoncino Mio.だ」

冬「おいしそうですね」


自分の名を入れる程の自信作らしい。

317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 21:52:23.43 ID:cdyeIgfIo



見た目は……、うん、おいしそうだ。

みんなの手元に配られたのを見届けて、


夏「いただきまーす」

冬「いただきま~す」

風子「いただきます」

姫子「いただきます」

澪「……」


パスタをソースで絡めていく。
フォークを口元へ運ぶと、ガーリックの香りが食欲をくすぐった。


夏「ん!」

冬「おいしいですっ!」

姫子「……うん」


同意。
こってりとしているけど、しつこくない。わたしに合っている。
今度はほうれん草を。


姫子「……うん」


バターで炒めたはずなのに、あっさりしていて……本当においしい。


姫子「おいしいよ」

澪「……よかった」

風子「コーンスープを作ったの私なんだよ」

姫子「うん、今はパスタを食べてるから、スープの感想は後でね」

風子「……」


感想を強請る子どもじゃないんだから。

箸が進む。フォークだけど。


冬「箸が進みますよ」

夏「フォークだけどね」

澪「ふふっ」

姫子「……」

風子「パスタの茹で具合が絶妙だよね」

澪「……そ、そうだな」


澪が困っている。
風子が自画自賛しているのだろう。

スープにも口をつけて、おいしさを噛み締めた。

318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:18:30.40 ID:cdyeIgfIo



――…


ジャブジャブと風子が温めたお湯を使って皿を洗う。
最後に冷えた手を暖める為、少しづつ使うのがコツ。


姫子「昨日サボってた分、わたし一人でいいのに」

澪「それは寂しい、ぞ」


澪は料理をしたから休んでいてもよかった。
でも、ここに一人で皿を洗っているのは寂しいだろうな。

ここのサイトは利用者が少ない。
テントが3つだけで、灯りが適度な間隔を保っている。

太陽が沈んで、辺りはすでに暗くなっていた。


澪「終わった?」


洗い終わった皿を確認。


姫子「うん、戻ろうか」

澪「……うん」


変なの。
洗っている最中は夢中になっていたからそんなことなかったのに、
今の澪は何かに脅えるようにビクビクしている。


澪「……」

姫子「……」

澪「……っ」

姫子「……っ」


いけない、わたしも少しだけ怖くなってきた。

視線を感じて、よくわからない緊張が走った。


澪「……」


視線の主は隣を歩いていた澪だった。
その不安そうな目がわたしの心を怯えさせる。


姫子「な、なに?」

澪「な、なんでもない」


スッと目を逸らされる。
思わせぶりな態度とか、やめてほしいんだけど……!


姫子「さ、最近映画観た?」


テントへ辿りつくまで雑談をしよう。
他愛のない話だから大丈夫。


澪「見た。人と……妖怪が触れ合う内容の映画」


ま、また妖怪……。

319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:19:47.49 ID:cdyeIgfIo



姫子「触れ合うってことはいい映画だった?」

澪「うん。優しいストーリーだった」


それなら大丈夫かな。


澪「妖怪と人の寿命は違うから、遺された妖怪がせつないんだ」

姫子「何千年と生きるらしいからね」

澪「う……」

姫子「どうしたの?」

澪「……思い出してしまった」

姫子「なに、を――」


しまった。訊かない方が良かった。


澪「机の下から二つの目が覗いてくるんだッ……!」

姫子「言わなくていいから!」


ダッと走り出す。


澪「ま、待って!」


止める言葉を振り切り、わたしは走り続ける。
風子達はすぐそこだ。

火の灯りが見えて、安心すると同時に不安に陥る。


姫子「え――」


三人の姿はそこにはなかった。

代わりにあるのは、
冬が着ていたカーディガンと、
夏が履いていたスニーカーの片方。

その二つがゆらゆらと燃える火に照らされていた。


澪「な――」

姫子「なに、これ」


なにが起こったのか。

三人が姿が忽然と消えた。


姫子「……」


風子が座っていた場所にメガネがある。

体中の力が抜けていく。

320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:22:01.11 ID:cdyeIgfIo



澪「こ、これは一体……」

姫子「ま、いいか」

澪「よ、よくないぞ」

姫子「いいって。座ってよ」

澪「で、でも」

姫子「そろそろ出てくるんじゃないかな」


薪を拾って放り投げる。
見事に火から外れて飛んで行った。


「ダメじゃないですか、ふぅちゃんさん」


夏がその薪を拾う。

夏の肩に持たれながら風子も火に照らされる。
その横には風子が着ていたチェックのジャケットを着た冬。


風子「どうして引っかからなかったの?」

姫子「それ」

冬「?」

夏「眼鏡?」


丁寧にハンカチの上に置かれているメガネ。
違和感ありありだった。


澪「?」

姫子「次からは無造作に置いた方がいいよ」

風子「そうする」

澪「あ、そうか。そういうことか」

夏「どうして走って来たの?」

澪姫子「「 べ、別に? 」」


怖かったからとは言えず、ただ誤魔化す。


冬「どうぞ」

風子「ありがと、それじゃ、みんなでいただこうか♪」


大事そうに抱えていた瓶を風子に渡している。
スーパーで購入したお酒だ。

そして、澪は風子のメガネをなにを思ったのか、自分にかけた。


澪「うっ、チカチカするっ」

風子「度数強いから」

夏「くんくん……ふむっ!?」


注がれたコップの匂いを嗅いでいる。
アルコールがきつかったようだ。

321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:25:42.30 ID:cdyeIgfIo



姫子「飲むの?」

夏「……好奇心ですよ」

姫子「止めはしないけど」

風子「どうぞ~」

澪「あ、ありがとう」

風子「みんなに行き届いたね、それじゃカンパ~イ」


風子一人、焚き火に向かって祝杯を掲げている。

右手に持った小さな器を揺らすと、水面にゆらめく炎が反射する。
不思議と心がくすぐられたのを感じて、そのまま口へと運ぶ。


姫子「……ふぅ」


おいしい。
まろやかな香りと、喉を通り過ぎた後、胸にくる心地よい熱さ。

そういえば、
さっきの夏の反応ではお酒には慣れていなかったみたいだけど、大丈夫かな。


夏「…ッ……かはっ」

姫子「大丈夫?」

夏「だ、だいじょう…ぶ」

風子「それじゃ、二杯目注いであげるね」

夏「あ、いや、自分のペースでやりますから、平気ですっ」

風子「そう?」

夏「はい、……はい」


風子を静止させた。
澪はどうだろう。


澪「……っ」

姫子「一気!?」

澪「…………はぁ」

姫子「……」


慣れてるみたい。

風子は、


風子「……はぁ~」


幸せそうだった。

風子はこんな時間をとても楽しんでいる節がある。

気が解れるから楽しいのか、人が集まるから楽しいのか、
わたしにはその理由が分からない。
ありとあらゆる緊張を解いて満足そうにしているから、
それが移ってわたしの疲れも吹き飛んでいく。

まだまだ頑張れるって気になれる。

322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:27:07.40 ID:cdyeIgfIo



風子「冬ちゃんは飲んだことないの?」

冬「はい、ありません」

澪「だ、大丈夫?」

冬「せっかくですから、いただきますっ」

夏「ちょっ、冬ねぇ!」

姫子「澪のマネしなくても――」


くいっと傾けた。


冬「――ふぅ」


違和感。


夏「なんでそんなに落ち着いてんの?」

冬「そう?」

夏「初めて飲んだでしょ……?」

冬「うん」

風子「適正があるんだね、どうぞ~♪」

冬「あ、ありがとうございます」

澪「風子、割った方がいいんじゃないかな」

風子「そうだね」

姫子「はい、水」

風子「ありがと~♪」


アルコールに強いのかな。

と、冬をみつめていると背後から声がかかった。


「こんばんは~」


男性の声。
軽くてのんびりとした声がわたし達の視線を集める。


軽男「やぁやぁ、オレも仲間に入れて…く……れ……」

風子「……」

澪「……」

夏「……」


今までの空気が薄れていった。


軽男「うわ、ひょっとしてオレ、空気壊した? もしかして、グループで囲んでんの?」

姫子「……そうです」

軽男「あっちゃ~、悪いことしたわ。すまんね~」

澪「……」


翻して去って行こうとする。
さて、どうしようかな。

323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:28:32.36 ID:cdyeIgfIo



風子に視線を送って、判断を委ねる。


風子「……澪ちゃん、どう?」

澪「ど、どうって?」

夏「悪い人ですか?」


ヒソヒソと交わしている。

確か、見て分かるんだっけ。
良い人か、悪い人か。
印象では悪い人には見えなかったけど。


澪「……さ、さぁ?」


判断付かないみたいだ。
そういえば、昨日の夜はハイテンションだった。


風子「あの、その瓶は……?」

軽男「うん? あぁ、これは新潟のお酒だよ」


一升瓶を軽く傾けると、チャプンと音が鳴った。


姫子「どうぞ」


掌で空いているスペースへ座るように促す。


軽男「悪いね~、独りは寂しくってさぁ~、ダッハッハ!」

冬「……」


大口を空けて笑っている。
その豪快さに冬が驚いていた。

年の頃は25,6といったところかな。


軽男「飲むかい?」

澪「い、いえ、私はもういいです」

軽男「せっかくの上等酒だ、もったいないぞ~?」

澪「……う、うーん」


困っていた。


風子「あ、飲んでみたいです」

軽男「……え?」


陽気でエネルギー溢れていた男性が鳴りを潜める。

それが普通の反応かもしれない。
初対面の人は風子の外見だけで判断すると真面目な子、という印象なのだろう。
わたしがそうだったように。

324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:29:54.68 ID:cdyeIgfIo



夏「あ、注ぎます」

風子「あ、ありがとう……」


今度は風子が夏の様子に驚いている。

風子が顔を寄せてくる。


風子「夏ちゃん、どうしたの?」

姫子「夏は知らない男性には顔見知りするから」

風子「え、昨日の夜は……?」

姫子「たぶん、自分を見ているようだったから、かな」

風子「……」

夏「どうしたんですか?」

風子「ううん、なんでも」


北海道に来てから、風子のこの誤魔化すような台詞が多くなったような気がする。


軽男「――ってなヤツがいたんだよ!」

澪「そ、そうですか」

冬「そ、そうなんですかぁ」

軽男「面白いなぁ! ダッハッハ!」

姫子「何の話してんの?」

澪「北海道って、毎年変な名物ライダーが登場するらしいんだ」


わたしが話しかけたからかな、ホッとしている澪。
興味のある話だから混ぜてもらう。


姫子「わたしも聞きたいです」

軽男「あぁ、いいぞぉ~。
   去年はな、仔犬をかごに乗せて走っていたスクーター娘がいたんだよ!」

夏「へぇ……」

軽男「犬を飼うのに反対されて家出をして、そのままフェリーに乗ったらしいんだ!」


軽快に、楽しそうに話を続けている。


風子「おいしい……!」

軽男「そうかそうか、どんどん飲んでくれ!
   そんでなー、風の噂でそのスクーター娘の話を聞くと、
   どんどん犬が大きくなっているんだよ!」

冬「クスクス」

姫子「色んな人がいるんですね」

軽男「そうだなー、だから旅を止められないんだけどな!」

夏「一人旅?」

軽男「おうよ! だから、さびしーくなった時はこうやって混ぜてもらってんだ!」


寂しいという言葉が似合わないと思った。

325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:32:09.51 ID:cdyeIgfIo



軽男「一人旅は常に独りだから、人に飛び込んでいかなきゃ本当に孤独になるんだよな」

姫子「……」

軽男「だからさっきは結構勇気がいったぞ~」

澪「……」


澪が静かに頷いて同意している。
わたしもそれは分かる。知らない人達の輪に入るのは勇気がいる。


冬「毎年、ここ北海道に来ているんですか?」

軽男「あぁ、今年で7年目だ。おっと、ありがとさん」

冬「いえいえ」

夏「お勧めの名所ってある?」


風子が選んだ種類のお酒を冬が男性に注いでいた。

夏がいい質問をした。


軽男「そうだなー。オレは知床が一番だなー」

風子「……!」

姫子「……」


風子の目が輝いた気がした。


―――――


私が行って見たいと思った景色。


風子「知床ですか……」

軽男「しかし、だ。ヒグマに注意! の看板が出ててくつろげなかったけどな!」

澪「く、熊……」

軽男「自然が綺麗だったぞ。さすがは世界遺産だ」

姫子「世界遺産か……。見てみたいね」

風子「……うん」


姫ちゃんに返事をして、器に入った日本酒に酔っていく。

おいしい。

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:34:33.94 ID:cdyeIgfIo



軽男「オレにも教えてくれ。
   お勧めな場所はあるかい?」

夏「……うーん」

冬「神の子池はどうでしょう」

軽男「あぁ、あの場所はよかったなぁ! 透明度が高くてな!」

姫子「北海道を走り始めて、まだ2日なので7年の方にお勧めできるような場所はないかも」

軽男「そんなこと言わずにさ、教えてくれ!」

澪「うーん……」

姫子「えっと……」

冬「そうですねぇ……」

夏「……」

風子「勝手丼は食べましたか?」

軽男「それだっ! よし、明日は釧路へ行くぞー!」

夏「……釧路ですよ?」

軽男「余裕だって、そんくらいの距離」


す、すごい。


風子「今日、私たちが走った距離はどのくらいかな?」

姫子「えっと、大体……400kmくらいだね」


姫ちゃんがメモ帳を取り出して確認をしている。

8時間くらい走ったことになるね。


軽男「うまいなー、このお酒」

風子「旭川のお酒だそうです」

軽男「ふーむ、いいなぁ」

風子「このお酒も美味しいです」

軽男「そうかそうか。地元の味だから喜んでくれると嬉しいわ」

夏「少しだけいただきます……」

冬「わたしも……」

澪「わ、私も」

軽男「勝手に注いでくれー」


気持ちの良い人だなぁ。

と思っていると、眼鏡のレンズに水滴が付いた。

327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/06/23(土) 22:35:34.24 ID:cdyeIgfIo



軽男「ありゃ?」

姫子「……雨」

軽男「強い雨が来そうだな。オレはこれで失礼するよ!
   楽しかったぞー」

風子「あ、このお酒!」

軽男「輪に入れてくれたお礼だ! 受け取ってくれい!」

風子「それじゃ、これを持っていってください」

軽男「おっとぉ、ありがたくいただくよ! それじゃーいい旅をしろよー!」

風子「……」

夏「……」


台風一過というのかな。
急にしずかになってしまったね。

ポツポツポツと雨足が強くなっていく。


冬「わっ、急いでテントに戻りましょう!」

夏「いっそげ、いっそげー」

澪「そ、それじゃ!」

姫子「おやすみ」

風子「おやすみ~!」


二手に別れてテントの中へ。


ザァー

雨音が屋根を鳴らしている。

本格的に降り出したみたい。


風子「天気予報が当たったね」

夏「夜でよかった」

澪「そうだな」


姫子「グッド・ラック」 26