252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/25(金) 21:05:12.78 ID:yPzQCM/co




冬「あれ……」

「あ……」


冬ちゃんと外国人さんの二人が同時に一つの方向を向く。


風子「どうしたの?」

冬「……聞こえました?」

姫子「え?」

澪「風の囁きのことだな、うん。とても聞き心地がいいな」


話題を逸らそうとしている澪ちゃん。


風子「なにが聞こえたの?」

冬「鈴の音です」

澪「鈴?」

夏「鳴ったかなー?」

風子「……」


聞こえなかった。

腕時計を確認してみたけど、ちゃんと動いている。
あの音じゃないみたい。


「わたしも聞こえたわ。こっちね」

冬「そうです」

姫子「ちょっと、冬」


冬ちゃんはその外国人さんについていく。


風子「気になる」

姫子「ちょっと、風子まで」


私も冬ちゃんの後を追う。


10mほど進んでいくと、外国人さんがしゃがみ込んで、その横で冬ちゃんもしゃがんだ。
何かを拾ったみたい。

なにかな。


「こんなところに……」

冬「誰かの落し物でしょうか」

風子「……鈴」

「神の子……」


紐鈴を掌に乗せて、驚いている様子のブロンド少女。


253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/25(金) 21:07:56.84 ID:yPzQCM/co



「ねぇ、あなた」

冬「わたしですか?」

「そうよ。あなた、マブイを落としたことある?」

澪「マブイ?」


冬ちゃんの代わりに澪ちゃんが訊ねる。

姫ちゃんと夏ちゃんはここには来ないで、もといた場所で待機をしている。
あまり興味が無いみたい。


「魂のことよ」

冬「……」


魂……。


冬「えっと、わたしは体が弱くて、4年前に生死の境を……」

「そう……、ごめんね、変なことを聞いて」

冬「いえ……」

澪「……」

風子「……」

「だからあなたにもこの鈴の音が、聞こえた、のね」

冬「……」

澪「???」


澪ちゃんは不思議な顔をしているけど、私にはなんとなく分かるような気がした。
あの鈴の音を、姫ちゃんと一緒にいるのに、私だけにしか聞こえなかった鈴の音を聞いたから。


「この鈴は、幸御霊よ」

澪「サキミタマ?」

冬「一霊四魂ですね」

「よく知ってるわね」

冬「本で得た知識です」

「私も見るのは初めてよ」

冬「魂が鈴に宿っているんですか?」

「えぇ、そう捉えて構わないわ」

澪「……」

風子「……」


私と澪ちゃんを残して話を進めていく二人。


「私はカレッジで日本の神道学を研究しているの」

冬「失礼ですが、おいくつですか?」

「fourteen よ」


ニッコリと笑顔で答える彼女。
そんな無垢な表情に少しだけ羨ましく思った。


254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/25(金) 21:10:09.71 ID:yPzQCM/co



澪「14……」

「ようやく入学できたんだけどね」

風子「……」


カレッジ……。
私たちと同じ学生で14歳……。


「これ、持ってて」

冬「え……?」


紐鈴を冬ちゃんに差し出す。


冬「どうして……?」

「あのバイク乗りの人」

風子「?」


視線を私たちから逸らして、その奥、姫ちゃんたちのいる場所を見据える。


澪「……?」

冬「えっと?」

「あの人によくない風が吹いているわ」

風子「姫ちゃん……?」

「正確には悪い風を貰った……というべきね」


言っていることの意味が分からない。


風子「……」

「その子が守ってくれる、かもしれないから持っているといいわ。
 まだ眠っているけれど」


鈴を指して、その子、と呼んだ。


冬「あ、あの、風ってなんですか?」

「人に流れている風よ。私にはその良し悪しが先天的に分かるの。
 霊感のようなものね」


そう言って翻す。


「にぃにぃのせいよ、まったくぅ……」

風子「あの、悪い風って……」

「悪いけどそれだけしか言えないの。詳しくは見えないから……。
 それじゃ、ぐぶり~さびら」

風子「?」


英語ではない、どこかの方言かな。
もう一度翻し、手の平をヒラヒラとさせて去っていった。
容姿端麗 頭脳明晰。
完璧な存在でした。

255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/25(金) 21:11:53.86 ID:yPzQCM/co



冬「寝ていると言っていましたけど」

澪「うん……」


冬ちゃんが鈴をしずかに揺らす。


……。

音が鳴らなかった。


風子「熊よけに使えるかと思ったのにね」

澪「熊か……」

冬「そうですねぇ、いても不思議ではありませんよね」


出会ったら困るけどね。


夏「水温八度、地下を通っているから一定なのかなぁ」

姫子「水の中の倒木が鮮やかに見えるよ。綺麗だよね」


二人は宝物をみつめるように池を眺めていた。


風子「姫ちゃん、悪い風が吹いているって」

姫子「……うん?」

冬「どうぞ」


冬ちゃんが掌に鈴を置いて差し出す。


姫子「?」

風子「これは幸御霊と言って、姫ちゃんを守ってくれるそうだよ」

夏「さっきの金髪の子が言ったんですか?」

澪「うん」

姫子「悪い風ってのに繋がってるの?」

冬「そうらしいです」

姫子「……」


真剣な表情で鈴を見つめる。


256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/25(金) 21:13:33.17 ID:yPzQCM/co



姫子「買わされたわけじゃないよね」

風子「ここで見付けたものだから、変な物じゃないよ」

姫子「突然そんなこと言われてもな……」

冬「安心してください、大丈夫ですから」

夏「話を聞いていないから逆に不安だって」

姫子「あの鈴と関係あるの?」

風子「あの鈴?」

姫子「船の上で言ってた鈴の音」

風子「……」


気にかけてくれていたんだね。


風子「無いと思う。この鈴は鳴らないから」

姫子「ふーん……って、鳴らないの?」

冬「はい。だけど、お守りですよ」

姫子「……うん」


理解できたのかどうかは分からないけど、
冬ちゃんの言葉に後押しされるように姫ちゃんは鈴を受け取った。

寝ているってどういうことなんだろう。


澪「さて、次はどこへ行こうか」

夏「まだ早いですけど、昼食とりましょうか」

冬「もう……?」

風子「11時には出発して、朱鞠内湖へ向かいたいからね」

姫子「それなら、阿寒湖に行きたいな」


しょうがないなぁ。
姫ちゃんの提案に乗りましょう。


もう一度だけ神秘的な池をみつめて、その場をあとにする。
なにを食べよう。

257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/30(水) 20:01:35.71 ID:w4MT3SHDo




――― 阿寒湖 ―――



澪「このお店でいいの?」

風子「そうだよ、入ろう」

澪「ワカサギか……」

姫子「旬は冬なんだけどね」

冬「ワカサギ釣りの様子をテレビでやってますよね」


カランカランとドアの鐘が鳴る。


「いらっしゃいませー」

夏「5人です」

「こちらへどうぞー」

澪「……丁寧な案内だな、勉強になる」

風子「梟がいたね」

姫子「鳥居の上にね」

冬「大きかったです」


アイヌの風俗では、梟は村の守り神とされている。

ここ、アイヌコタンの広場には鳥居があって、
その鳥居の上から外敵が村に入ってこないように目を光らせている梟の頼もしい姿がある。
作り物なんだけど、頼りになるよね。


夏「澪さん?」

澪「つい、店員さんの動作が気になってしまって」

夏「分かる分かる。同業のよしみって感じですね」

澪「そうだな」

風子「ウェイトレスだよね」

澪「うん。……やっぱり最初は緊張しまくっていたけど」

姫子「風子も緊張していたよね」

風子「うん、初めてのアルバイトだったからね」

冬「どんなアルバイトを?」

風子「姫ちゃんと同じところだよ」

夏「へぇ……って、高校の時から同じ場所なんですか?」

姫子「うん。いくつか掛け持ちでやってるけど、風子とはコンビニで一緒にね」


大変だったなぁ。
覚えることが沢山あって、細かく決められた予定が時間きっちりに進んでいくから、
一日がとっても短く感じたよ。

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/30(水) 20:03:24.37 ID:w4MT3SHDo



風子「色んなお客さんが来て、面白いんだけど……」

冬「けど……?」

風子「みんな急いでいるみたいで、落ち着かない」

姫子「それが日本のコンビニだからね」

夏「……なんだか、重みがありますね」

澪「うん……」

店員「ご注文は決まりましたか?」


話に夢中で忘れていたね。


澪「え、えっと……」

姫子「ワカサギ天ぷら定食を」

店員「はい」

夏「あたしはざるそばでいいや、お腹空いてないし」

冬「後でお腹空いたー、って言うんだよね」

夏「言うね、絶対」

風子「途中でアイスクリーム食べようか」

夏「あ、それいいですね!」

姫子「それで、冬は?」

冬「ざるそばを……」

風子「うんうん」


そうだろうな、と思いました。


澪「私もわかさぎ天麩羅定食を」

店員「はい」

風子「私は姫鱒丼をお願いします」

澪「ヒメ…マス……?」

風子「以上です」

店員「かしこまりました~」

姫子「……」

風子「……」


美味しそうだからです。

姫ちゃんは関係ありませんよ。


259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/30(水) 20:05:40.92 ID:w4MT3SHDo



夏「ここに来る途中で硫黄山を素通りしましたよね」

姫子「行きたかったの?」

夏「そうじゃないんですけど、
  姫子さんはその硫黄山をアイヌ語でなんと呼ぶか分かります?」

姫子「あ、えっと……」

風子「雑誌で読んだことあるけど、忘れちゃった」

冬「アトサヌプリ」

夏「裸の山と呼ばれています」

澪「……硫黄の山だから、裸の山?」

夏「そうです」

姫子「……うん」

風子「……」


ガスが噴出していて、周りには草が生えていないと読んだ記憶がある。

裸の山なんて、そのままなんだけど土地の様子が素直に表されていて面白い。


風子「神の子池もそのままに表現された名前だったね」

夏「そうです。だから、なんというか……」

冬「アイヌ民族の人たちは、心が綺麗だったのでしょうね」

風子「うん、そうだね。間違いないよ。冬ちゃんの言う通りだね」

姫子「そんな、力いっぱい同意しなくてもいいでしょ」

澪「……なるほど」


料理が運び込まれるまで、クッシーの話、砂湯、川湯、裏摩周湖の話をしました。


――…


ごちそうさま。

うん、美味しかった。


澪「ごちそうさま」

夏「そんじゃ、出ましょうか」

冬「うん」

風子「美味しかった、姫鱒丼」

姫子「そう、良かったね」


260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/30(水) 20:07:53.10 ID:w4MT3SHDo




お店から出て、少しの時間だけアイヌコタンを散策することに。


夏「木材で造られた建物が多いね」

冬「落ち着く雰囲気だね」

夏「木はなぜか暖かい雰囲気を作るなぁ、どうしてだろ」

風子「人間も動物だからね」

姫子「……そうだね」

澪「民芸品が多いんだな」

風子「アイヌ民族の品が多いって話だよ」

姫子「アイヌ人と琉球人は繋がっているらしいね」

澪「琉球人って沖縄の?」

姫子「そう。詳しくは知らないけどね」

風子「私も少しだけ本で読んだよ」


日本列島の端と端の地域なのに、繋がっているという話が興味を引いた。

大昔、一つの大陸に文明があって、そこから各地へ移動したという説がある


風子「一夜にして海の底に沈んだ大陸って、なんだっけ」

澪「ヌ…ムー大陸だな」

姫子「……」

風子「うん? ぬがどうしたの?」

澪「いや、その……」

風子「姫ちゃん、アフリカで群れを成して大移動をする動物ってなんだっけ」

姫子「……ヌーでしょ」

澪「あ、お守りが売られているな。どれどれ、良い品を発掘できるかな」


澪ちゃんは私たちから離れて店先へと吸い寄せられる。


姫子「聞き流してあげなよ」

風子「拾わないともったいないよ」

姫子「別にボケようとしたわけじゃないでしょ」

風子「それもそうだね」


振り返ると少し離れた店先で夏ちゃんと冬ちゃんが土産品を見物していた。

冬ちゃんの持っている布に興味が湧いた。

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/30(水) 20:10:54.64 ID:w4MT3SHDo



風子「あっちのお店を覗いてくるね」


そう姫ちゃんに伝える。



―――――



姫子「10分後に出発しよう」

風子「はーい」


走っていく風子に時間を伝えておく。

わたしは澪の所へ。


澪「……?」


何かを持って様々な角度から眺めている。


姫子「それは?」

澪「分からない。説明書きもなくて……」

「それは、トカプチュプカムイと言うんだよ」


落ち着いた表情の男性が話しかけてきた。
店主さんかな。


澪「ト…と…とかぷ……?」

店主「トカプチュプカムイ。
   カムイは動物や植物、自然現象に宿る神とされているアイヌの言葉だよ。
   これは太陽の神だね」

澪「太陽の……」

姫子「……」


抽象的な形なのでよく分からないけど、なんとなく太陽の形をしているようにも見える。


澪「自然現象にも神が宿る……と聞きましたが、豪雪や干ばつにも神が?」

店主「干ばつか、面白いことを訊くね」


店主の頬がほころぶ。


姫子「……」

店主「最近は都合のいいことばかりを神だと崇めるみたいだけどね、
   昔の人たちは荒々しい自然の猛威にも神の存在を認めていたんだね」

澪「人に試練を与えるためですか?」

店主「いや違う。神はそこに存在するだけだよ。
   人がそこにいて、神がそこにいて、自然がそこにあるだけ。
   都合が悪くなったら神を恨むなんて変な話だね」


微笑みながら話す言葉に少しだけ胸に重みが増す。
怒られているような感覚だった。

冬は太陽の温かさに有難みを感じて、夏は太陽の暑さに嫌気がさして。
端的に言えばそういうことかもしれない。太陽はそこにあるだけなのに。

262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/30(水) 20:17:34.73 ID:w4MT3SHDo



姫子「人間は身勝手なのかな」

店主「それが人間だんだけどね。恨まずにはいられない、憎まずにはいられない。
   それらから離れていくために、我儘になって考えて生きていくのさ。
   だけど、干ばつの神に感謝する生命なんていやしないだろうね」

姫子「それもそうですね」

澪「これ、ください」

店主「はい、ありがとう。若い子にしては珍しいね、こんな話に付き合ってくれて」


商品を袋に納めながら笑顔で話す店主に、そんなに珍しいのかなと考える。


店主「太陽神に興味があるのかい?」

澪「……はい」

店主「なら、面白い話を教えよう」

姫子「?」


なんだろう。
アイヌの民話に触れたようで面白かったから、
その続きを聞けるみたいで少しワクワクする。


店主「今年は日食があったね」

澪「はい。半年まえに」

姫子「……」


太陽と月が重なり合う現象。

太陽全体が月に隠される皆既日食。

月の外側に太陽がはみ出して環が出来る金環日食。

月の一部が太陽を隠す部分日食。

半年前には日食が……どこかであった。
場所は覚えていない。


澪「ペルーで、金環日食があったと……」

店主「そうそう。
   日本では取り上げられなかったのに、よく覚えてるね」

澪「友人がそこに向かっていたので……」

店主「そうかい。それでね、
   来年はインドで皆既日食が起こるらしいよ」

澪「……」

姫子「インドの太陽神といったら、ヴィシュヌ……?」

店主「ほほっ、詳しいねぇ」

姫子「本を読んでいて、出てきた名前だったので調べていただけです」

店主「そうかい」


本当はゲームなんだけど、伏せておく。


263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/30(水) 20:21:50.03 ID:w4MT3SHDo



澪「それで……」


澪が急かし気味に促している。


店主「少しだけど、太陽が蝕まれたみたいだね」

澪「!」

姫子「え……」

店主「なんてね、ジジィの戯言だよ」


子どものように口元を緩ませて微笑んでいる。

白髪に一つもないのに、その言葉は合わない。まだまだ元気そうな雰囲気。


わたしと澪はからかわれたのだろう。

日食と日蝕。

言葉遊びなのかもしれない。


店主「あなた方といい、友人といい、楽な道を選ばないんだねぇ」

姫子「……」

澪「観光客ではないですから」

店主「うん?」

澪「私たちも、その友人も旅人なんです」

店主「そうかい、そうかい」


面白い話が聞けた。

10分経ったので、お店から出る。



澪「半年前、か……。偶然だよな……うん」

姫子「?」

澪「旅人って、かっこいいな私達」

姫子「……そうだね」


なぜか楽しそうにニコニコとしている隣人に、同意するしかなかった。
楽しそうなのは、遠い場所に居る友人と同じ旅人だと名乗れたからなのか。
風子達が近づいてきた。


風子「なにか買ったの?」

澪「うん、トチュカプカムイだ」


風子の問いに手を広げて見せる。
神の名前を間違えていた。



姫子「グッド・ラック」 21