239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/19(土) 23:44:49.78 ID:orfFVqjIo



「あなたたちは同グループ?」

姫子「はい、そうです」

「そうなんだ……。そういうのもいいよね」

風子「……」


意味有り気な言葉に引っかかるものを感じる。

タオルを一枚も巻いていないことに貫禄を感じるね。

スタイルいいなぁ!


「……」

姫子「…?」

風子「……??」

澪「………???」


私たちの顔を見比べている。どうしたのかな。


「あなたがバイク乗りね?」

姫子「え、は、はい」

風子「?」

「どこまで行くの?」

姫子「えっと、行ける所まで、です」

「……ふふ」

姫子「?」

冬「どうしたんですか?」


姫ちゃんの答えにどう思ったのか、笑みで返したスタイルのいい女性。


「ちょっと、思い出し笑いしたの、ごめんね」

姫子「いえ……」

風子「……」

夏「ふぅー、やっぱり熱いな、この湯は」

澪「そうだな、少し冷まそう」


二人は湯から腰を上げて、石の上に座って体を冷まさせている。


風子「あなたは、どこまで行くのですか?」

「…そうね、適当なところまで行ってそれから適当に寝るの、どこに行くかも考えずにね…」

姫子「……」

冬「バイクで来ているんですか?」

「そうよ……。結構走ってきたかな」



だから、姫ちゃんと同じ雰囲気を持っているのかな。

バイク乗りの雰囲気。

240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/19(土) 23:46:25.07 ID:orfFVqjIo



姫子「旅に慣れているみたいですね」

「うん、まぁね」


姫ちゃんの口癖まで似ている。


夏「冬ねぇ、大丈夫?」

姫子「本当だ、顔が真っ赤だよ」

冬「はい……」

風子「そろそろ出ようか」

澪「ま、待って……」

夏「あたしたち、もう一度温まっていきますから」

風子「うん」

「んー……気持ちいいなー」


体を伸ばしている。

視線に困るよ。
いいなぁ……。


脱衣所にて水滴を拭く。


姫子「あ、近くに販売機あったよね」

風子「澪ちゃんの為に、フルーツ牛乳でも買ってこようかな」

冬「……」

姫子「冬、大丈夫?」

風子「水分補給だね、急いで買ってくる!」


急いで服を着て、私は脱衣所をあとにして駆け出す!

けど、私も少し体がだるいので、歩き直す。


風子「ゆっくりしすぎたかな……」


あ、あった。自動販売機。


風子「えーっと」


冬ちゃんにはスポーツ飲料水がいいよね。


ピッ

ガコン


風子「姫ちゃんにはお汁粉……」


やめておこう。


241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/19(土) 23:47:42.11 ID:orfFVqjIo



冷えた缶を持って脱衣所に戻ってくると、スタイルのいいお姉さんも上がっていた。

余分に買ってて良かった。


風子「はい、飲んで!」

冬「あ、ありがとうございます」

姫子「少しぼんやりとしていただけ、大丈夫みたいよ」

風子「そうなんだ……」


よかった。


澪「ふ、風子……、それは……」

風子「フルーツ牛乳だよ、どうぞ」

澪「お、おぉ……」

「?」


お姉さんが不思議な顔をしている。


姫子「じゃ、澪に音頭をとってもらおうかな」

澪「みんな、持った?」

姫子「あ、乗り気なんだ」

夏「冬ねぇとあたしは半分ずつね」

冬「うん、ありがとう」


あぁ、癒されるやりとり。


風子「お姉さんもどうぞ」

「遠慮しとく。……せっかくなのにごめんね」


断れて、私の差し出したフルーツ牛乳が行き場を失う。


姫子「名所を教えてもらったお礼ってことで」

「……そう。ありがと」


受け取ってくれた。


242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/19(土) 23:48:42.02 ID:orfFVqjIo



澪「では、腰に手を当てて――」

「そういう歳でもないんだけどな」

夏「旅の恥は――」

姫子「旅の恥は掻き捨てってことで」

「若いっていいね」

夏「……」

澪「いただきます!」

冬夏「「 いただきます! 」」

姫子「いただきます」

風子「いただきまーす」

「いただきます」


ゴクゴクゴク、並んでフルーツ牛乳を飲む私たち。


私は姫ちゃんをつつく。


姫子「……」


スッと距離を取って避けられた。残念。



澪「これだな」

冬「はぁ、おいしいです」

夏「ゴクゴク」

姫子「みんなで飲むからおいしいのかな」

風子「そうかもしれないね」

「……ふう、ごちそうさま」


お姉さんも満足したみたい。


「それじゃ、元気でね」

姫子「はい、それでは」


そのまま歩いていってしまった。

ミステリアスな雰囲気を醸し出していた女性。


夏「彼女、千歳さんって名前なんですよ」

姫子「自己紹介したんだ」

澪「うん。苗字かと思ってびっくりしたよ」


澪ちゃんが含み笑いをしている。

243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/19(土) 23:50:08.88 ID:orfFVqjIo



冬「ゴクゴク」

夏「摩周湖と神の子池、どっちから行きますか?」

風子「神の子池?」

姫子「そう、千歳さんから教えてもらった名所」

風子「神の…子……」


行ってみたい。


澪「それじゃ、多数決で決めようか」

冬「そうですね」

夏「あ、でも、時間経つと観光客が増えそうですね、摩周湖」

姫子「……たしかに、そうなりそうだね」

風子「摩周湖から行こう」

澪「そうしよう」


人ごみは避けたいよね。



車に到着して、姫ちゃんに確認する。


風子「第一摩周湖だよ、間違えないでね」

姫子「あれ、第三展望台じゃなかったっけ?」

風子「そうそう、第三だよね」

姫子「……」


疑われている。間違えただけなのに。

気を取り直して、私たちは摩周湖へ。

245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/24(木) 21:57:25.60 ID:8oo2UOh+o




――― 摩周第三展望台 ―――



到着。



夏「コタンからそんなに離れていないんですねー」

風子「名所がたくさんあるね、北海道」

澪「いいな、北の大地は……」

冬「姫ちゃんさん遅れてますね」

風子「もしかして、第一の方に行ったのかな」


私は無線機を車から取り出す。
念のために連絡しておこう。


澪「どうして?」

風子「コタンの駐車場でね、摩周第一展望台に来て、と間違えて念を押してしまったの」

夏「うーん、まさかとは思いますけど」

冬「ちょっとお借りしますね」


無線機を冬ちゃんに譲る。


冬「もしもし、もしもし?」

風子「……」


携帯電話はなるべく使わないようにしているんだけど、こっちにかけてみようかな。


夏「電話は使わないはずでは?」

風子「うん……そうだね、もう少し待ってみよう」


不便さを楽しめるようにしたいよね。


246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/24(木) 21:58:37.41 ID:8oo2UOh+o




冬「おしゃべりでもして待っていましょう」

風子「うん。……北海道の景色って本当に外国みたいだよね」

夏「たとえば?」

風子「建物の屋根が鉄板とか、ね」

夏「いいところに目がつきますね!」

澪「て、鉄板な、うん」

夏「トタン屋根といいますけど、それは雪の重さに考慮された素材なんですよ」

風子「そうなんだぁ、面白いね」


地域によって大きく変わる文化。

同じ国で違う文化。とっても面白い。


澪「あ、来たよ」

風子「……」


心配しすぎたみたいだね、よかった。

見慣れたバイクが私たちに向かってくる。


ドルルルン


姫子「おまたせ」

風子「今何時だと思ってるの?」


少し声のトーンを下げてみる。


姫子「8時でしょ。よいしょ」

風子「……」


バイクから降りて一息ついている。
うーん、軽くかわされてしまった。


247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/24(木) 22:34:48.59 ID:8oo2UOh+o



姫子「行こうか。観光バスも増えてきたよ」

風子「あ、本当だ」

夏「行きましょ、行きましょ」

冬「……」

澪「どうした、冬?」

冬「あ、いえ……。少しだけ胸がギュって締め付けられました」


笑顔で応える冬ちゃん。
私もあの記事を読んだから少しだけ切ない。

その内容は、記者とモデルの二人が旅立つ奇跡のような時間。

二人の旅は、別々の道を歩むことで終わりを迎える。
その結末に私の胸も締め付けられた。

二人で過ごした温かい時間が、別れを一層辛くしたのだと思う。
吹き荒んだ風に怯えるように、挫けそうな心へと変えていったのだと思う。

だけど、記者は別れを受け入れ、新たに歩き出している。
未来へと続く道を信じて歩いている。


寂しさは琥珀となり 密やかに輝きだす


その二人が見ていた景色がすぐそこにある。

階段を上がっていくと、両端に花の咲いた上り坂になっている。

右手を見れば、摩周湖が見えるんだけど、
私は顔をそっちへ向けないようにして展望台へ進んでいく。


澪「冬と風子はどうして見ないんだ?」

冬「どうせだから、展望台で見たいと思いまして」

風子「そうそう、今はまだお預け」

夏「あ、なんだか損したような気分」

姫子「はたから見たら変だよ二人とも」


どう見られようと構いません。


248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/24(木) 22:41:41.24 ID:8oo2UOh+o



いよいよご対面です。

私はしずかに顔を上げていく。


風子「すごい……!」

冬「うわ……!」

澪「「綺麗だ……」

夏「空の蒼とは違う濃さだ……」

姫子「吸い込まれそうな、静かな迫力があるね……」


雑誌の写真や観光ガイドでは何度も見ていたけれど、実際にこの目でみると全然違うんだね。

神秘の湖……。


風子「あの湖の真ん中に浮いている島があるよね」

姫子「行けるのかな」

澪「行けるのなら、行ってみたいな」

冬「あの島でキャンプをしてみたいですね」

夏「……」


来て良かったな。

目の前に広がる世界。景色全体が美しく見渡せる。


夏「……晴れたね」

澪「……晴れたか」

風子「……晴れちゃったね」

冬「大丈夫、育めば――」

姫子「……っ」

冬「ふぐぐ」


姫ちゃんが冬ちゃんの口を押さえていた。


風子「世界一の透明度を競うほど綺麗なんだって」

夏「ここからだと、その透明度って分かりませんね」

風子「そうだね~」

姫子「この湖は流れ込む川もなければ、流れ出る川もないんだって。
   それなのに、水位は常に一定に保たれているらしいよ」

澪「不思議な湖なんだな」

冬「……」

風子「……」


私の寂しさも琥珀になっているのかな。

輝きを持つことができるのかな。


次の神の子池へ行く前に、
私たちはしばらくこの美しい風景を眺めることにした。


249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/25(金) 20:44:52.42 ID:yPzQCM/co




――― 神の子池 ―――



案内板を見つけて、未舗装の道を進んでいく。


入り口には大きな看板があって、
神の子池の水が摩周湖から湧き出していることや湧水量などが書かれている。


夏「へぇ、摩周湖の水なんだ」

冬「それは綺麗なんだろうね」

風子「……すごい」


摩周湖の水位が変わらないのは、神の子池に理由がある。
摩周湖の地下を通り、伏流水として一日12,000トンもの量が湧き出していると記されている。

自然の不思議な魅力に惹かれてしまった。


風子「仕組みは分かっても、想像が追いつかない……」

姫子「……うん、一日にそれだけの水が沸いているなんてね」

冬「行きましょう」


期待溢れる表情の冬ちゃん。

摩周湖の世界一を競う水がここと繋がっているのなら、
その透明度がこの目で確認できるんだね。

先に進んでいくと、


姫子「あ、あれかな――!」

澪「――!」

風子「――!」


あまりにも澄んだ水、そして静けさに包まれたこの池に、私も絶句した。


夏「この透明度……!」

冬「すごい……!」


私も、すごい、という言葉以上の表現方法が分からない。
それほどの美しさがそこにはあった。

きれい……。


250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/25(金) 20:46:36.00 ID:yPzQCM/co



姫子「水深5メートルもあるんだって……」

風子「光の屈折なのかな、浅くみえるね」

澪「はぁー……」

冬「うっとりしますね」

夏「言葉にできないよ」

姫子「蒼く光ってるね、神秘的……」

風子「うん……」

澪「素敵だ……」


しばし、時間を忘れてこの雰囲気に呑まれる。


風子「……」

冬「アイヌの先住民がこの不思議な池を、神様の贈り物として神の子池と示したそうです」

夏「へぇ……、なるほどねぇ」


神様の贈り物かぁ……。
最初にこの池を見つけた人は、とても驚いたことでしょう。


風子「……驚かずにはいられないね」

姫子「うん」


通路の方向から人の気配を感じる。
観光客だね。


「oh! fantastic!」


外国人さんだ。

日本の美しい場所を外国の美しい人が感銘を受けている場面。


「さすがね、ここも聖域として力が溢れてるわ」


池を見つめながら一人頷いていた。
日本語がとても上手。


風子「……」


ブロンドヘアの整った顔立ち。
そして、流暢な日本語。
とても魅力的な人です。

私の視線に気付いたみたい。


「ハロー」

澪「Hello」


澪ちゃんがインターナショナルになった。

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/25(金) 21:02:45.08 ID:yPzQCM/co



澪「Where are you from?」

「アメリカよ」

澪「Which part of the States?」

「アイオワ州ね」


日本人が英語で訊ねてアメリカ人が日本語で返している。

摩訶不思議な光景。

どうして出身州を聞いたのかな。


「やぁねぇ、この看板」

風子「?」


神の子池と記された看板を見て呆れた声で、呆れた顔で看板をコンコンと突く外国人さん。

サングラスを頭に乗せ、ロングヘアーを後ろで結っていて、頭を動かす度に揺れてなんだか可愛い。
年は16くらいでアーミーパンツと、半袖の白いTシャツを巧く着こなしている。

どうして呆れているのかな。


風子「どうして……?」

「だって、この池を見ればここが神の子池だって分かりきってるじゃない」

姫子「……」

冬「うんうん」

夏「そういえば、一枚の看板が自然を観光地に変えてしまうって記事があったような……」

「いいとこに気が付いたわね」


嬉しそうな彼女が目を光らせる。
この子が言っていることも分かるかもしれない。


「自然の景観が良いとされる観光地の多くは、最初は知る人ぞ知る場所であることが多いのよ」

風子「そして、時間が経つにつれ人が訪れるようになり、有名になって看板が立つそうですね」

「そうそう、名所から観光地へ変わってしまうのよねぇ」

姫子「一枚の看板が観光地になる……。複雑な話だね」


有名にならなければ、私たちはここへ来られなかったかもしれない。


夏「あたし達は人づてにここを知ったから、看板が無くても来られたけどね」

姫子「そういうことになるね」

澪「そうだな」

風子「……」


そっか。

今日の朝にこの場所があることを知った。

それは看板が無くても同じことだったということ、だよね。

良い出会いがまた一つ。



姫子「グッド・ラック」 20