162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/05(土) 22:46:45.77 ID:I25VY44mo



姫子「冬にも来いってどういうこと?」

澪「ウィンタースポーツしようって話」

姫子「えっと……」

夏「無理してでも来て欲しいんですけど」

姫子「期待しないで待ってて」

夏「来る気ゼロだ……」

澪「遠いから、しょうがないな」

姫子「冬、か……」


でも楽しそうだ。

澪が卒業する前にもう一度来るのもありかな。



夏「パウダースノウなんですよねー」

澪「そうそう、転んでも痛くない」

姫子「へぇ……」

夏「雪質がいいんで、結構上手く滑れるんですよね。だから初心者の姫子さんでも安心ですよ」

澪「うんうん、海外のスポーツ選手も北海道に来るぐらい上質なんだ」

姫子「……」


二人の売り込みを聞いているうちに入り口へ到着する。

時刻は5時40分。


澪「あと1時間で日の入りか……。あっという間だな」

姫子「うん……」

夏「なんだか、楽しそうですね。冬ねぇとふぅちゃんさん」


確かに。

なんの話をしているんだろう。


163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/05(土) 22:50:08.73 ID:I25VY44mo



冬「クスクス」

風子「姫ちゃんがまたはしゃいじゃって」

姫子「ちょっと、なんの話をしてんの」

風子「姫ちゃんの話だよ?」

姫子「本人が聞いているんだから止めて欲しいんだけど」

風子「大丈夫だよ。それでね――」

姫子「大丈夫かどうかこっちが決めるって」

冬「大丈夫ですよ。楽しい話ばかりでしたから」

姫子「わたしにとって大丈夫じゃないよ」

夏「ほらほら、移動しますよ」

澪「うん」

風子「続きは車の中でしようね」

冬「そうですね。時間が推してますから」

姫子「ちょっと」

風子「それじゃ、あとでね」


そう言って車に向かって歩いていった。


澪「無線で少し打ち合わせしておこう」

夏「そうですね」

姫子「……うん」


なんだろう。風子の手の平で遊ばれているみたいだ。


164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/05(土) 22:52:54.70 ID:I25VY44mo




夏「あー、あたしも免許持っていたら負担を減らせたのにぃー」

澪「それじゃ、あとで」

姫子「……澪」

澪「ん?」

姫子「後悔とか感じなかった?」

澪「……」


春から冬までの間、寂しさが募っていたと思う。


姫子「高校三年間が濃い分、北海道に一人でいる時間は辛かったんじゃない?」

澪「……」


わたしは何を訊いているんだろう。

嬉しい、楽しいと言っていたのに。

それを乗り越えた事が重要なのに。


姫子「ごめん、なんでもない」

澪「……」

姫子「忘れて」

澪「……」


触れなくてもいい部分に触れてしまった。


澪「……そうだな」

姫子「?」


澪は空へと視線を送る。

空を眺めて何を想っているのだろう。


澪「高校三年間が濃かったのは間違いない。
  けど、高校三年生の夏からが大きく変わったんだ」

姫子「……」


自分に言い聞かせるように。


澪「私が札幌の大学に進学しようと決めたのは学園祭中だ。だから……」

姫子「……」


あの時間を思い出して言葉を紡いでいる。


澪「私が決めた道だから、辛いとは思っても後悔はしていない。これからもしないよ、きっと」


また、力強い笑顔になる。


165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/05(土) 22:54:30.74 ID:I25VY44mo



姫子「そっか……」

澪「……」

姫子「……」

澪「どうしてそんなことを?」


どうしてだろう。


「おーい!」


遠くで夏が呼んでいる。


姫子「ここで澪とこんな話をしていること、それが不思議に思ってさ」

澪「……確かにそうだな」



二人並んで友人達が待つ場所へ歩いて行く。



―――――



二人並んで私たちが待つ場所へ歩いてくる。



風子「どんな話をしていたの?」

夏「姫子さんとですか? 冬の北海道にも来て下さいって、勧誘していました」

冬「?」

夏「詳しくは後で話すとして、向かいましょう」

澪「お待たせ」


ドアを開けて澪ちゃんが乗ってきた。

姫ちゃんがヘルメットを被るのを確認して無線機のスイッチを入れる。


ザザッ


風子「……」

『あれ……もしもし?』

風子「……」

『スイッチ入ってない……?』

風子「聞こえてるよ」

『……あのね』

風子「はい、澪ちゃん」

澪「う、うん」


澪ちゃんに無線機を渡してエンジンをかける。

急いで和琴半島へ。

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/05(土) 22:55:40.09 ID:I25VY44mo



澪「しゅ、出発」

『おっけ……』

冬「あ……」

夏「どうしたの?」

冬「近くにオンネトーがあるよ。キャンプ場もそこに……」

風子「キャンプをするだけなら、そこでもいいね」

冬「温泉の滝というのもあるそうですよ」

夏「なにそれ! 面白そう!」

澪「温泉で滝なのか……」

風子「……」


3人はオンネトーに気持ちが変わりそうだね。


風子「澪ちゃん、姫ちゃんに確認してみて」

澪「うん。……姫子?」

『どうしたの? 車動いていないけど』

澪「キャンプ場が近くにあるらしいんだ」

『あぁ、オンネトーね』

冬「知っていたんですね」

風子「……」


私も知っていた。


167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/05(土) 23:00:00.53 ID:I25VY44mo



澪「和琴半島への距離を考えて、この時間ならオンネトーへ変更した方ががいいと思う」

『……ごめん。和琴半島へ行きたい』

澪「……」

風子「借りるね」


澪ちゃんから無線機を借りる。


風子「どうして?」

『……憧れている場所だから』

風子「みんな、どうする?」

夏「いいんじゃないですか? 和琴で」

冬「はい。和琴半島へ行きましょう」

澪「うん。是が非でもオンネトーという訳でもないからな」

風子「変更なしだよ」

『いいの?』

風子「それじゃ、塘路湖キャンプ場にしよう」

『それじゃ、なにかあったら連絡してね』


ザザッとノイズが走って無音になる。

私の意見は通らなかった。


冬「塘路湖キャンプ場ですか……」

夏「釧路方面ですから、完全に日が暮れますね」

澪「……」

風子「じょ、冗談だよ」


冗談も通じていなかったみたい。


さぁ、出発。


168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/15(火) 22:11:00.69 ID:cZyQGuAxo




まりも国道に乗って走り、阿寒湖横断道路へ。


夏「今見に行くと遅れたかもしれないね」

冬「なにが……?」

夏「婚期が」

澪「……」

風子「……」


私と澪ちゃんは黙り込む。


……あれ?


冬「なつ……」

夏「なに?」

冬「阿寒湖じゃなくて摩周湖だよ」

夏「え!?」

風子「あ、やっぱり」

澪「……」

夏「うわ、恥ずかしい」

風子「霧の摩周湖だよね。霧の阿寒湖じゃないよね」

冬「そうですよねー」

夏「やめてっ」

澪「そうか……婚期が……」

風子「大丈夫だよ。3年遅れるだけだから、その間に…育めば…いいんだよ……」

冬「何をですか?」

風子「っ!」


ミスを犯しました。


夏「なにを育むんですか、ふぅちゃんさん」

風子「あ、ええっと……」

冬「?」


ハッキリと言えない気恥ずかしさがある。
姫ちゃんなら言ってしまうだろうけど、私には勢いやノリがないと言えない。

どうやって誤魔化そうかな……。


169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/15(火) 22:13:05.69 ID:cZyQGuAxo



澪「こん……き……が」

風子「……?」


助手席でウトウトしている澪ちゃん。

よし、話題を逸らすには今しかない。


風子「澪ちゃん、眠たい?」

澪「……うん」

風子「テント建てたらすぐに寝る?」

澪「……でも、温泉とご飯……食べたい」

冬「温泉ですね」

夏「和琴の温泉は人目が気になりますよ、どうします?」

風子「近くに公衆浴場があるから、そこへ入ろう」


愛だよ。愛。
愛を育めばいいんだよ。

やっぱり恥ずかしいね。


そして、澪ちゃんは仮眠に入った。


釧路本線を二度跨ぐ。


冬「線路っていいですよね」

夏「どこが?」

冬「線路の向こうになにがあるのか、想像してみると、とてもワクワクする」

夏「ふーん……」

風子「……」


街から街へ運んでくれる列車の旅……。


二人向かい合ってのんびりおしゃべりして。

窓を開けると、吹き込む風が気持ちが良くて。

流れる景色を胸に、想いが募る街。そこが私たちの目的地。


それはいいかもしれない。


170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/15(火) 22:14:25.70 ID:cZyQGuAxo



冬「駅のホームで列車を待っていると、
  夏が指差して、来たよ来たよ、と言ってはしゃいでいたよ」

夏「そうだっけ?」

冬「そうだよ~」

風子「二人で乗ったの?」

冬「はい。小さなおつかいを」

夏「あったような、なかったような」

風子「……」


か、かわいい。

仲の良い姉妹。

うーん、タイムマシンはどこにあるのかな。

すぐにでも現場へかけつけるのに。


ザザッ


『着いたよ』


眠っている澪ちゃんの手の中にある無線機がそれを伝えた。


冬「一足先に到着したんですね」

夏「さっさとテント建てなきゃ」

風子「そうだね」


後ろでソワソワしている二人。


『応答して欲しいんだけど……』


スヤスヤと寝ている澪ちゃん。

一人で呼びかける姫ちゃん。

面白いね。


『また風子の悪巧み?』


し、失礼な。


澪「」スヤスヤ

夏「失礼しますよ、っと」

風子「悪巧みじゃないって伝えてね」

夏「はーい。……はい、こちら風車です」


風子の運転する車で風車……。

なるほど、なるほど。

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/15(火) 22:16:54.51 ID:cZyQGuAxo



『駐車場で待ってるから』

夏「すぐ着くと思います」

『了解』


ザザッとノイズが走る。

濡れ衣は晴れなかった。



風子「……」

冬「澪さん、澪さん」


ユサユサと澪ちゃんを揺すっている。


澪「ん……」

冬「到着しますよ」

澪「……ん……」

風子「夏ちゃん、車掌さんの物マネできる?」

夏「えっ!? ……無茶振りですね」

風子「勘違いするかもしれないよ」

冬「ガタンゴトン」

夏「効果音まで用意するのか……ゴホン」


意外とノリはいいみたい。



「毎度ご乗車ありがとうございます。えー、次はー、鹿児島~」

澪「……え」

冬「……」

風子「……」

澪「……びっくりした」

夏「どうでした、あたしの車掌さん」

澪「似てなかったな」

夏「あらら」

冬「クスクス」

風子「えー、次はー、和琴半島~、和琴半島~。間もなく到着します」

夏「似せようとしてませんよね、ふぅちゃんさん」

風子「少し恥ずかしいよね」

夏「……」


あ……。

姫ちゃんを相手にしてるような物言いをしてしまった。

私の、この人をからかう言い方は相手を不愉快にさせる。

気をつけていたのに――

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/15(火) 22:17:57.74 ID:cZyQGuAxo



冬「えー、次はー……和……琴……」

夏「……」

冬「照れるね」

夏「……あー、あれは~、姫ちゃん~、姫ちゃん~」

澪「ブフッ」

風子「……」

冬「夏が自棄になってます」

夏「この車は間もなく停車致します。ブレーキにご注意下さい」

澪「……ふふっ」

冬「急いでキャンプ場へ向かいましょう」

風子「……そうだね」


ここで夏ちゃんに謝るのは間違いなんだよね。

不愉快にさせてしまうのは、私の性格が意地悪だから。

決して人を馬鹿にする訳じゃないんだけど……ね。


173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/15(火) 22:23:04.89 ID:cZyQGuAxo



――― 和琴半島 ―――


姫子「……」

夏「お待たせしました~。あたし達が向かう駅はキャンプ場~、キャンプ場~」

姫子「どうしたの、夏は?」

澪「あはははっ」

姫子「……?」

冬「よいしょっ」

風子「行こう」


一人ずつ荷物を持って湖のほとりへ。

姫ちゃんはバイクをそのまま押して。



姫子「車掌さんの物マネ、ねぇ……」

夏「旅の恥は掻き捨てってことで」

冬「それは旅先で出会った人たちに対しての諺なんだよ」

夏「あー、もういいよ! 無かったことにしてよ!」

澪「……」

風子「澪ちゃん、どうしたの?」

澪「いや、懐かしい夢を見ていたから……。感傷気味になっただけ」

風子「そうなんだ……」


さっきまで笑っていたから、良い夢を見ていたと思っていた。

懐かしいと言っていたから、悪い夢ではないと思う。


夏「なんとか間に合ったー」

姫子「うん」

冬「ちらほらと建っていますね」

澪「うん……」

風子「どこに建てようか」

姫子「あっちは?」


姫ちゃんが指を差した場所は私たちのテントを二つ建てるには丁度いいスペースを保っていた。

少し離れて小さなテントがある。


夏「よいしょっとー」

姫子「夏、物は大切にしないと」


ドサッと荷物を降ろした夏ちゃんに注意している。


174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/05/15(火) 22:25:50.73 ID:cZyQGuAxo




冬「よいしょっと」

澪「さぁ…今のうちに……建てよう」


気迫の無い声が零れる。

西の空にある雲が太陽の光を反射している。

今はまだ、少し明るいから大丈夫。


風子「残照もあるから――」

「あー、悪いけど、ここに建てちゃダメだよ」

姫子「?」

澪「……?」

夏「?」

冬「……あ、ツバメさん」

ツバメ「あ、キミたちか」


ツバメさんがいた。


夏「うわっ、なんでアンタがここにいんの!?」

ツバメ「……」

姫子「……」


屈斜路湖へ行くと言っていたような……?


ツバメ「ここに行くって言ったと思うけど……」

夏「そういうことじゃないっての!」

澪「な、夏?」

夏「なんでここにいるのかって訊いてんの!」



支離滅裂。

夏ちゃんがいきり立っている。


ツバメ「あれが俺の…寝床……」

夏「えッ!?」

風子「……」


テントを見て驚く夏ちゃん。

それがツバメさんのテントなんだ。


姫子「グッド・ラック」 14