80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:00:23.38 ID:NyxJEUCoo




鏡に映る自分を確認。
これは……ちょっと、良くない。けど、整えている時間は無い。

釧路駅で人を待たせている。

昨日の夜に準備は概ね整えておいた。手荷物を持って玄関へ向かう。

っと、その前にちゃんと風子に確認をしておこう。


姫子「風子! 先に行ってるから!」

風子「うん、大丈夫」

姫子「あ、お母さん、後はお願いします」

母「釧路駅よね、大丈夫よ」

姫子「それでは後でっ!」


ガチャッ


玄関の扉を開けて車庫へ飛び出す。車があった。


姫子「あ……」

母「すぐどかすわね~」

姫子「……ふぅ」


少し落ち着こう。慌てて運転して事故でも起こしたら元も子もない。

事故だけは避けなければいけない。絶対に。

バイクの前に立って一通り確認する。
異常は無し。
昨日の夜にも点検はしていたけど、念の為。

今日からたくさんの距離を走る大切な相棒なのだから。


姫子「……よし」


母「それじゃ、後でね」

姫子「はい」



ヘルメットを被り、バイクに跨る。鍵を差込み、エンジンをかける。

もうここで寝泊りすることは無いんだなと思いながら、その場所をあとにする。


ドルルルルルルルル


81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:02:08.38 ID:NyxJEUCoo




昨晩に教えてもらった道なりを走る。
初めての土地、道路を走るのは緊張する。況してや人を待たせている。

気が緩んだせいで二度寝してしまった……。
とにかく謝ろう。



ドルルルルン

エンジンを止めて辺りを見回す。駐車場にそれらしき人物は居ない。
バイクから降りて、駅の改札口まで走ってみるけどやっぱり居ない。


姫子「どこにいるんだろう……」


彼女は深夜バスに乗って朝の6時に到着しているはず。

今の時間は……。
ポケットからケータイを取り出すけど画面が表示されなかった。
風子に落としてもらったことを思い出す。
電源を入れて再度時間を確認。9時半。
そのまま電話帳を開き、クラス名簿の一番最初に登録されている番号にかける。


プー、プー


繋がらない……。
風子も電源を落としているから、わたし達にかけても出られない。


姫子「……」


非常に不味い。

リダイヤルしてみる。

pipipipipipi

後ろから着信音が鳴った。


82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:05:32.31 ID:NyxJEUCoo




「遅いぞ」

姫子「ごめん、澪」

澪「……」


若干潤んだ瞳でわたしを睨んでいる彼女、秋山澪。
高校卒業後、札幌の大学へ進学した彼女。二年ぶりの再会がこれでは、申し訳が立たない。


姫子「本当に、ごめん……」

澪「……」

姫子「……」

澪「……」

姫子「…………」

澪「…………」



船旅の疲れを気遣って、9時の集合にしてくれた。
先に車を借りて休んでいたと思う。
それなのに……寝坊して待たせてしまった。


澪「心配…したん……だぞ……」

姫子「……うん」

澪「……」

姫子「……」


在学中、澪と喋ったことはそんなにはない。
あったとしても、それは一対一ではなく、間に誰かがいた。
二人でこうやって話すのは初めてだった。だから距離のとり方が分からない。

澪もそうなのかな――


83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:07:10.19 ID:NyxJEUCoo




澪「よかった……」

姫子「……え?」

澪「なにかあったんじゃないかって……」

姫子「で、電源入れ忘れていただけだよ。風子も元気だから」

澪「う、うん…安心……した……」

姫子「……」


距離を取ったのはわたしだった。
澪は、あの頃のままの澪だった。

待たせたことに怒っているんじゃなくて、心配かけたことに怒っていた。

不謹慎だけど、嬉しかった。
久しぶりの友人の再会に、
2年という月日が経っても変わらない、
あの頃のままの距離に、わたしは喜んだ。


澪「貸し……」

姫子「貸し?」

澪「一つだ」

姫子「……うん」


誰の受け売りなんだろう。
こういうこと言う子じゃないと思っていただけに驚いた。
それだけのことをしたんだから当然なんだけど。

やっぱり幼馴染かな。


澪「風子たちは?」

姫子「あー、そろそろ来るんじゃない?」

澪「そうか……。ここで待ってていいのかな」

姫子「近くの公園に移動しようか。荷物の移動もしたいし、お母さんにちゃんと挨拶もしたいから」

澪「冬たちのお母さんも来てたんだ」

姫子「うん」

澪「そうか……。久しぶりだな」

姫子「……」



話をリードしてくれる。
ちょっとだけ、ぎこちないわたしを察してくれたみたいだ。

やっぱり彼女達は面白い。


84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:08:18.78 ID:NyxJEUCoo




冬に電話をして、その旨を伝える。


姫子「――うん。分かった」

プツッ

澪「これが姫子のバイク?」

姫子「うん」

澪「おぉ……」

姫子「……」


なんだか照れてしまう。

そうだ、聞きたいことがあったんだ。


姫子「澪……」

澪「うん?」

姫子「連絡来てる?」

澪「ううん。半年前まではちゃんとメールが届いていたけど、ここ最近は全然来なくなった」

姫子「……心配じゃない?」

澪「心配だけど、アイツはあれでなんとかしていくから」

姫子「……」

澪「お調子者だから、どこでもうまくやっているよ。この遠い空の下で」

姫子「……そっか」

澪「……」


空を眺めて想うは澪の幼馴染のこと。

遥かなる空の下で、彼女らしく楽しくやっているんだろう。
澪の表情から、言葉からそれが読み取ることが出来た。
不思議と安心した。



85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:10:13.37 ID:NyxJEUCoo




――…


冬夏「「 お久しぶりですっ! 」」

澪「久しぶり、二人とも。一年振りだな」

冬「はいっ」

夏「たまには旭川まで来てくださいよー」

澪「ふふ、バイトとか忙しくてな」

夏「バイトですか! どんなバイトを!?」

澪「喫茶店のウェイトレスだけど……」

夏「なーんだ」

澪「?」

冬「夏は飲食店なんです。ラーメン店ですね」

澪「もしかして、厨房で働いてる?」

夏「そうなんです! 同じ系列なら――」

母「ほらほら、姫子さんたちに荷物移動させてないで手伝いなさい」

夏「おっと」

冬「あっ!」

澪「お久しぶりです」

母「はい。あの秋以来ですね」

澪「はい」

姫子「……」

母「澪さんも泊まってくださったらよかったのに」

澪「ありがとうございます。昨日までに提出しておきたいレポートがありましたので……」

母「そうですか。……そうですね」

姫子「色々とお世話になりました」

風子「お世話になりました」


二人で挨拶をする。


母「二人のことよろしくお願いしますね」

風子姫子澪「「「 はい 」」」

冬「お母さん、帰るんだよね」

夏「気をつけてよ」

母「はいはい。二人とも体には気をつけて、ね」

冬夏「「 うん 」」

母「……」

冬「……」

夏「……」


三人の時間が流れる。


86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:11:31.16 ID:NyxJEUCoo




母「じゃあね」

冬「うん。気をつけてね」

夏「バイバイ」


車に乗って走っていく。

いい親子だと思う。こういう家族がいることを知る事ができた。

二人はずっと見送っていた。


冬「……」

夏「……」

風子「どうして髪を切ったの?」

澪「?」


静寂を打ち破る風子の一言。
わたしも気になっていた。


夏「そうですね、去年は長かったのに……」

冬「……」

澪「こ、これは……」

姫子「……」


澪の髪が短くなっていた。風子と同じ長さでいたのに。


澪「願掛け……かな」

姫子「なにを願掛けたの?」

澪「腐れ縁のアイツが無事に帰ってこられるように……」

夏冬「「 ? 」」

風子「そっか……。てっきり……」

澪「てっきり……?」

風子「恋を失――」

姫子「さて、どこへ行こう」


わたしが風子の言葉を遮る。

旅をはじめよう。


―――――


姫ちゃんが私の言葉を遮る。

旅がはじまる。


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:14:43.81 ID:NyxJEUCoo




澪「まだ決めてなかったんだ……」

姫子「まぁね。最初の場所はみんなで決めたいからさ」

風子「いいこと言うね、姫ちゃんは」

冬「わぁ、なんだか楽しくなってきました!」

夏「うんうん!」

澪「そうだ、ちょっと待ってて。地図が車に……」


澪ちゃんが走って車へ向かう。


風子「地図があるなら、みんなで行きたい場所を指そうよ。多数決ね」

冬「いいですね!」

夏「賛成ー!」

姫子「夏と冬が重なったらそこに決まっちゃうじゃん」

風子「それでもいいでしょ?」

姫子「まぁ、ね」


予定をその場で決めるのが楽しいよね。



澪「お店の人が貸してくれたんだ」

姫子「へぇ……」


アスファルトの上に北海道が広がった。

これから5日間、行ける所まで行ってみたい。


風子「それじゃあ、行きたい場所を――」

澪「ここに行きたいんだ」

風子姫子夏冬「「「「 う……! 」」」」

澪「?」


先手を打たれたことで私たちの希望は潰える。


風子「お、帯広……?」

澪「幸福駅があるんだ」

風子「そ、そうなんだ……」

姫子「幸福駅……ね……」

夏「い、いいんじゃないかなー」

冬「幸福駅……」

澪「どうかな」


そんなに輝いた表情をされたら……。


88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:15:47.20 ID:NyxJEUCoo




澪「……ダメ?」

姫子「いいと思う」

冬「そうですね、そこを出発点にしましょう」

夏「もう廃駅になっているけど、敢えてそこからスタートなんだ……」

風子「……いいかも」

澪「いいの?」

風子姫子「「 行こう 」」

夏冬「「 行きましょう 」」



――…


澪ちゃんの運転で走ること5分。
目的地へ到着した私たちは冬ちゃんを先頭に活気溢れる市場へ。


冬「おぉー……」

夏「魚ー、新鮮だー」

澪「お、落ち着け、二人とも」

冬夏「「 あはは、つい~ 」」

姫子「扱いに慣れてるね」

澪「懐かしい感じだったな。似た二人がいたから」

風子「……」


鷹揚とした雰囲気を醸し出している。
これが人の成長ということなんだろうな。

札幌で一人暮らしをしている澪ちゃん。
新しい環境で、過酷な季節を通す北海道での暮らしは、ここまで人を強くするんだね。

彼女をみつめながらそんなことを感じました。


澪「勝手丼か……」

風子「澪ちゃん、初めてみるの?」

澪「うん、あまりよくは知らないんだ……」

夏「冬ねぇ、詳しく教えてくんない?」

冬「新鮮ですねー、うん?」

姫子「掻い摘んで、でいいからね」


姫ちゃんが釘を刺す。
読書が好きということで、知識が豊富なので冬ちゃんは生き字引として大活躍。


89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:18:26.11 ID:NyxJEUCoo



勝手丼とは、
貧乏旅行をしていたライダーに懐具合を配慮した店主がご飯を買ってこさせて、
その上に少しずつ海産物を提供したことが始まりだそうです。

小・中・大の器入り白ご飯を購入して、市場に並んである新鮮な切り身を購入する。
自分が食べたい具材を乗せる、これが勝手丼。

という説明を受けたはいいのだけれど……。


冬「――このシステムは青森の、のっけ丼にも活用されてですね」

姫子「お腹空いたから、そこまで」

冬「……はい」

澪「そうか、分かったよ。ありがとう、冬」

冬「いえいえ」

風子「それじゃ、さっき通ったテーブルに集合でいいかな」

姫子「うん」

澪「冬、一緒にいかないか?」

冬「はい!」

風子「それじゃ、一旦解散~」


夏ちゃんは冬ちゃんの解説を聞かずに行ってしまった。
楽しみにしていたんだろうな。

まずは小のご飯を購入。さすがに朝からはそんなに食べられないよね。


風子「……♪」


一人でご飯を片手に散策。
タラバガニ、ホタテ、えび、マグロ、ホッキ……。
新鮮でおいしそうな具材が並んでいる。
こんな気分になれるのが楽しい。地元では絶対に味わえない感覚。

ツブ、サンマ、タラバ、ホッキを乗せて、お店の人に醤油をかけてもらいました。
みんなの丼にはどんな魚がいるのかな。


二人が先に座っている。

冬ちゃんと澪ちゃんはまだみたいだね。
夏ちゃんがまたメールを送っている。私も後で送ってみよう。


姫子「風子ー、こっちー」

夏「おいしそうでしょ……」ピッピッピ

風子「はーい」

夏「送信……っと。フフフ」

風子「二人ともはやいね」

夏「一緒に選んだので、似通ってますけどね」

姫子「わたしが釣られちゃったみたい」

風子「あはは」


確かに似通っているけど、彩りが綺麗でおいしそうだね。

隣の花は赤い。

違うかな、この場合は隣の丼はおいしそうが正しいよね。

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:19:39.49 ID:NyxJEUCoo



冬「おまたせしました~」

澪「おまたせ」

姫子「それじゃさっそく食べようか」

夏「それじゃ、いただき――」

澪「一緒だ!」

風子「?」


あ、本当だ。
夏ちゃんと冬ちゃんの丼を見比べる。

マグロ、えび、いくら、たまご、ウニ。

寸分違わずに……。うん、凄い。


夏「よくあるんですよ。いただきまーす」

姫子「いただきます」

冬「いただきまーす」

澪「い、いただきます……」

風子「いただきます」


テーブルに座って5人でいただきます。


夏冬「「 おいしぃ~ 」」

澪「うん、おいしい」

姫子「来てよかったね」

風子「うん」

冬「澪さんのおかげで安く買えましたよ」

姫子「どうして?」

夏「うまうま」

風子「?」

澪「ちょっとだけ、やってみたかったんだ……」


おいしそうに食べ続ける夏ちゃんをよそに、疑問を投げかける。


風子「もしかして、値切り交渉したの?」

澪「うん……」

姫子「え?!」

夏「ん?」

姫子「……」

冬「『もうひとこえ』って」

澪「あはは」

夏「あたしも澪さんと回ればよかったなー」

風子「……」

姫子「……」


91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) 2012/04/18(水) 21:20:50.40 ID:NyxJEUCoo



おかしい。
どう考えてもそんなことをする人じゃないはずだよね。

姫ちゃんと目を合わせるけど、謎が深まるばかりで、腑に落ちない……。

やっぱり逞しくなったってことなのかな。


姫子「ねぇ、澪……」

澪「うん……?」

風子「?」

姫子「ひょっとして、寝てないんじゃない?」

澪「うん。寝てないよ」

風子「……あ」


私たちが寝坊して、澪ちゃん独り釧路駅で待たせてしまったことを思い出す。

それと同時に、思い出す。

大切な約束を守れなかったこと、破ってしまったこと。

そして、この時計のこと。


夏「ふぅちゃんさん?」

風子「う、うん……?」

冬「どうかしたんですか?」

風子「ううん、なんでも~」

澪「私、気にしていないから……な?」

風子「う、うん。……ごめんね」

姫子「……」


気にしていないと言ってくれたのに、謝ってしまう。

いけない。みんなとの食事中にこんなことを……。


姫子「でも、どうして深夜バスを選んだの?」

澪「え、えっと……それはだな……」

冬「もっと早くてもよかったです」

夏「そうそう」

風子「……」


姫ちゃんが話を逸らしてくれた。

楽しまないといけないよね。



姫子「グッド・ラック」 8