律「ど~やって澪の腹に私との赤ちゃんが出来るっていうんだよ」

澪「まさに生命の神秘」

律「なに言ってんだ」

澪「このつわりが何よりの証拠!」

律「バカか」

澪「律がダメだって言っても、私は産むからなっ!」

律「どうぞご自由に、その歳になってまで子供が出来る原理も知らない訳じゃないだろうに」

澪「はいはい! 知ってますよ! セックスだよ! セックス!
  子供作るには膣内で精液ドピュドピュしてもらわなきゃ出来ないよ!
  だから律とあの日した貝合わせなんかじゃ私に律の赤ちゃんが宿るわけないよ!
  さっきの嘔吐だってつわりじゃなくてただの悪酔いで吐いただけだよ!
  おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」ビチャビチャ

律「おい! わかったから落ち着け! 大声出すな! 吐くな!!」

澪「うっぷ……」

律「あと、あの日した貝合わせっていったいなんだよ」

澪「この前の旦那さんの出張だった日に泊まったとき、寝ている律を起こさないようにこっそりと」

律「……」

律「なんてことを……」

澪「酔った勢いでつい、な」

澪「あと不倫とかちょ~萌えるし」

律「さっきの発言といい、学生時代のあの恥じらいのある澪はいったいどこに行ってしまったんだ……」

澪「あいつは置いてきた」

澪「この厳しい社会では戦っていけそうになかったからな」

律「そうか……」

澪「まぁ、今夜は律も身篭っていることだし夜這いをかけるのは自重しようとは思っている」

律「一応部屋には鍵を掛けて寝よう」

澪「私を信じろ」

律「それは無理だな」

澪「うっぷ……」

律「もう勘弁してくれ」



 ブーッ!! ブーッ!!

律「あ、ちょっとごめん」

律「もしもし?」

律「お疲れさま。今終わったの? 結構遅かったね」

澪(旦那さんか……)

律「うん、こっちは大丈夫。何も変わりはないよ」

澪(おっと、あんたの嫁さんが昔の恋人を連れ込んで今まさに不倫の真っ最中ですぜ)

律「え? お土産何がいいって?」

澪(お土産よりももっと心配することがありますよ、へっへっへ)

律「あなたが選んでくれたのならなんでもいいわよん、なんて」

澪(ちっ! 見せつけやがって。ここは一つ……)

澪「おーい、律。風呂上がったからお前も入ってこいよ~(飛びっきり低い声)」

澪(くっくっく。僅かな綻びから亀裂が産まれる。それが夫婦というもの。
  所詮は血の繋がりもない情という脆いもので繋がっている他人同士)

律「え? 今の? 澪だよ」

澪「おい、もっと私にワクワクさせろよ」

律「ちょっと代わろうか?」

澪「え? いや、別にいいって……」

律「ほら」

澪「ちょ……。あ、あの……こ、こんばんは! なんかすみません!」

澪「いやいや! 私の方こそいつも律さんにお世話になりっぱなしで!」

澪「いえいえ! そんな迷惑だなんて。こ、こちらこそお邪魔しています!」

澪「私なんていつも暇してますから、あ、あははは……」

澪「お土産ですか!? そ、そんな、お気遣いなく!」

澪「あの……えっと……その……」

澪「ほ、本日は本当におめでとうございました!」

澪「え? 何がって? それは律さんのお腹に……」

律「おおっと! ストップ!!」

律「もしもし? ああ、なんでもな~い」

律「澪は昔から人見知りだったからさ~。だからテンパッちゃって。なんか変なこと口走っちゃってさ
  まぁ、それを見るのが面白くて電話代わったんだけど」

律「うん、じゃあ帰りも気をつけてね。オヤスミ」


澪「おい! 急に代わられたら焦るだろ! 変な人って思われるじゃないか!」

律「今更だって」

澪「ところでさ、なんで妊娠のこと伝えないの?」

律「うん、ちょっと……な」


澪(もしかして、本当は産むかどうかを律は迷っている?)

澪(むしろ、産まないという選択寄り?)

澪(やっぱり、私への想いを断ち切れずにいるんだ)

澪(私に対してあれだけの酷い扱いも実は照れ隠しだったってことか)

澪(いいんだよ律。そんな照れ屋な律も全部私が受け止めてあげるから)

澪(だから、さぁ! 私の胸に飛び込んでおいで!)


律「やっぱり、電話じゃなくて直接伝えて旦那の喜んだ顔も見たいっていうかさ」

澪「ちくしょう! 末永くお幸せにっ!!」ダッ!!

澪(もう、いっそのこと私は律の前から消えてしまおう。どこか遠くへ行こう。きっとその方がいいんだ)

律「おい! 澪! いったいどこに行くん……!!」

澪「おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」ビチャビチャ

律「……」

澪「ううっ……酔っぱらいが急に動くととても危険……」

律「……あんまり身重の私に苦労かけんなよ」

澪「ご、ごめ……うっぷ」




 それから数ヶ月後……
 律は珠のように可愛い赤ちゃんを産んだ

 男の子だった

 よく男の子は女親に、女の子は男親に似ると言われているが
 その例に漏れずどことなく律の雰囲気を感じさせる男の子だった
 成長すればきっと律そっくりになるに違いない

 そんな赤ちゃんを抱く律の姿は
 あのがに股でドラムを叩いていたおてんば娘とはまるで別人のようだった

 赤ん坊に笑いかける律の顔はまさに母親そのものだ

 出産というのは人をこれほどまでに変えるものなのだろうか
 それとも、幸せという名の甘いキャンディーのせい?

 小学生時代から知っているどんな律よりも
 赤ん坊を抱く律は輝いていた

 そんな律を見ていると、なんだか羨ましくなって……

 こんな私でもお母さんになれるのかな……?


 律の出産から程無く
 私は運命の人に出会った

 あれだけ律に固執していた私だったが
 出会ってしまえば案外すんなりと受け入れられた自分にもビックリしている
 トントン拍子に話は進み、ついに私は彼の実家へ挨拶にいくこととなった

 緊張気味の私を優しい顔で出迎えてくれる彼のご両親

 人見知りがちな私だがまるで昔から知っていた仲のように馴染むことが出来た
 やはり私が選んだ彼のご両親だけのことはある
 少し落ち着いたところでおもむろに話を切り出す



澪「お義父さん、お義母さん。息子さんを私に下さい!」

律「何言ってんだよ」

 「バブー」と彼も澪を幸せにすると言ってくれている

澪「律自身はもう諦めるので、どうか律のDNAを色濃く受け継ぐ息子さんをっ!」

澪「必ず律っぽく育て上げますのでっ! 私好みに仕立てますのでっ!」

澪「なにとぞ、なにとぞっ!!」

律「帰れ」



 おしまい