澪「じゃあ、先にシャワー浴びてくるね」


 そんなお決まりの台詞を言っても相手からの返事はとくに無い
 ただ「ああ」とか「どうぞ」とかくらいなものだ

 今までに付き合った男はやたら優しかった

 それはきっと私がその辺の女に比べて美人だったり
 胸が大きかったりしたからだろう

 私の機嫌を損ねないように丁寧に扱われていたのをひしひしと感じた

 もちろん乱暴な人は嫌いだ
 だから付き合う人は優しそうな人を選んでいたっていうのもある

 だけど、やっぱり人間というのは我侭なもので現状に刺激が足りなくなると 
 どうしたって新しい何かを欲してしまう

 そんな新しい刺激を求めて、私はいつものようにこの人と一晩を共にする

 今までの男は必ずと言っていい程一緒にお風呂に入りたがったものだ
 だけど、この人は私の裸にはまるで興味がないような素振りをみせる

 もしかしたら強がりかもしれない
 けど、私にはそんなドライさが心地よかった
 余裕を感じさせる振る舞いに惹かれた

 そしてもう一つ、私を燃え上がらせる重要な要素があった

 それは相手に家庭があるということ


 自分でいうのもなんだけど、学生時代は優等生だった

 たぶん、よくある話なんだろうけど
 そんな真面目な学生時代を過ごした人間ほどこういった火遊びをしたくなるものなのだろう

 私は「お付き合いは成人してから」なんてよく学生時代に言っていたものだ
 実際異性と始めて付き合ったのは社会人になってからだった

 そんな若いころに抑圧された何かが今になって弾けて暴走してしまっているんだ

 きっと、不倫をしている自分というものに酔っているんだと思う
 昔からは考えられない行動をとっている自分をどこからか違うところから見ていて
 お淑やかで主体性がなかった過去の私に自慢しているのだ
 相手の家庭のことも考えず、ただ自分の欲望のための行為
 そんな、いけないことをしている自分を過去の自分に対してどこか誇りに思っている歪んだ私がいるのだ

 いつもは寝間着なりをちゃんと着てから脱衣所から出ていくのだが
 ちょっとした悪戯心が芽生えあえてバスタオル姿で出ていく
 しかし、そんな格好でいても相手はさほど興味がない素振りを見せる
 さすがの私もあまりものそっけなさにプライドが傷つく

 だからもっと悪戯をしてやりたくなった

澪「ねぇ、いつ別れてくれるの?」

 さすがに少し驚いた表情を私に見せた

 お互い割りきった関係でいようと暗黙の了解でいた
 だから私の発言はこの関係を続ける上でのタブーであって気持ちの良いものではないはずだ
 私だって本気で言った訳じゃなく、ちょっと相手の反応が欲しくて言ったまでの言葉

 そんな心情を読み取ったのだろうか、相手はすぐに視線を逸せさっきの発言も聞かなかったように振る舞う
 それどころか「そんな格好でいたら風邪ひくぞ」とまでのたまう

 学生時代の私だったら相手を困らせて気を惹こうなんて考えには至らなかった
 むしろどうしたら皆の役に立つだろうか、そういう思いで日々過ごしてきた
 けど、今の私はどうにかしてこいつを困らせたい。そんな感情で支配されていた

 もしかしたら別れる対象が私だと勘違いしている可能性だってある

 だから、もうちょっと踏み込んで聞いてやるんだ


澪「いつ旦那さんと別れてくれるんだ?」

澪「ねぇ、律」

律「……」



澪「律ってばぁ~」

律「新婚生活を謳歌している人間を捕まえて何を言ってくれてるのかな?」

澪「だ、だって。今夜は一人だからって律が家に来ないかって誘ってくれたから
  だから、私はてっきりそういうことだと思って」

律「どういう思考回路をしていたらそういう考えに至るんだよ」

律「今日は旦那が出張で泊まりだから、一人だと心配だってんで来てもらっただけだから」

澪「ありがちな不倫シチュエーションだよな」

律「断じてそんな状況じゃない」

澪「照れるなよ」

律「照れてない」

澪「ケチッ! ちょっとくらい優しくしてくれてもいいじゃないかっ!」

律「面倒臭いなぁ」

律「そんなに寂しいなら早いところ男をつくれよ」

澪「ああ、ダメダメ。男なんてやっぱり駄目だよ」

澪「まず胸を見て、それから顔。その後また胸に目が行って舐められるように全身を見られる」

澪「男なんて皆こんなんなんだ」

律「まぁ、私にはそんな経験がないからなんとも言えないけどさぁ」

澪「それはお気の毒に」

律「うるせぇ!」


律「そもそも男なんてそんなもんだろ。それを利用してる女だって沢山いるだろうし」

澪「私をその辺の女と一緒にしないで」

律「そんなこと言ってるといつまで経っても独り身だぞ」

澪「私の体目当てに言い寄ってくる男に安売りなんてしてたまるもんか」

律「もういい歳なんだから、多少は妥協しないと」

澪「で、律は妥協して手頃な男と結婚したと」

律「私はちげーよ! もろ運命の人だし!」

澪「もーう!!」

律「なに怒ってんだよ」

澪「だいたい律がいけないんだぞ!」

律「なにが?」

澪「律が結婚なんてするからママから『澪ちゃんもそろそろ良い人いないの?』
  なんて聞かれるようになっちゃったし」

澪「身近な人が結婚しちゃったから、親からの催促が日に日に激しくなってくる」

律「おばさんだって心配なんだよ」

澪「余計なお世話だよぉ~」

澪「それに律以上に私のことをちゃんと見てくれて気遣ってくれる人なんていないもん!
  今まで出会った中で私を安心して任せられるのは律だけなんだ!」

律「まぁ、そう言ってくれるのは悪い気はしないけど」

澪「じゃあ、今すぐ旦那さんと別れて!」

律「ごめんなさい」

澪「もーう!!」



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