紬とアナーヒターが完全に重なったとき、
エメラルド色の強い光があたりに降注ぐ。


律「くぅっ…」


目を強く閉じ、光の威力を交わそうとする律たち。
そして、エメラルド色の光から、
スプンタマンユの発する光のみになったとき。

紬は、スプンタ・マンユの横で、空中に静止していた。
ゆっくりと閉じた瞳を開く紬。


梓「綺麗な色…」


梓は息を呑んだ。

紬の瞳の色が、透き通り青みがかった、エメラルドグリーンに変わっている。
身に着けているものも、瞳と同色のローブのみ。
アナーヒターのものと同じものだ。
そして、背後には、頭光と身光を帯びている。

背からは、まばゆくかがやく翼が生え、
肩甲骨から、目いっぱいに左右へと伸びている。
形は、鷹や鳶のそれに似る。


和「天使の形態の由来は、一つにはゾロアスター教…」


和は世界史の授業で聞いた小話を思い出す。
すぐ横のさわ子の鼻息がかなり荒くなっていることは、
気にしないことにした。


澪(どうすれば…)


澪は考える。これは最悪の展開へと進みつつあるのではないか?




『いざ、タマーヴァンド山へ。』


タローマティは全く反応しない。
口元には、はっきりとわかる笑みを浮かべている。

スプンタ・マンユからより大きな光が放たれ、
あたりが再び夕闇のもとにかえるまでに、数十秒。

そのときには、もう、唯も、紬も、
人にあらざるものたちも、姿を消していた。


紬は、どこかを浮遊していた。
スプンタ・マンユから大きな光が放たれた刹那、彼女はそこにいたのである。

所々に木々の生えた、ステップのような場所。
空間の明るさは、早朝のようにも夕方のようにも思え、ほのかに暗く
朝焼けの紫と夕闇の橙が交じり合っている。

背後からから声がする。


『よく来られました、祠堂を継ぐ方。』


そこにはセミロングの髪を蓄え、円筒状の紫の帽子を被り
横幅の広い、橙の縁取りのついたローブを着た男性がいた。
右肩から非常に長い朱色の布を、前後に垂らしている。


ウォフ・マナフ『私はウォフ・マナフ。
        善思を司るアムシャスプンタが一柱。
        アカ・マナフを滅ぼす者です。』


紬が周囲を見回すと、ウォフマナフを中心に紬に向かって
半円に開くような形で、計六名の者が空中に浮かんでいる。


『よく来られた。スラエータオナをもって、
 アジ・ダハーカをくびきに繋ぐ方。』

紬『あなたは…?』

アシャ『私はアシャ・ヴァヒシュター
    真実と正義を司るアムシャスプンタが一柱。
    ドゥルジを滅ぼす者。』

紬『スラエータオナとアジダハーカというのは…?』

アシャ『アジ・ダハーカというのは、アンラ・マンユがとる形のひとつ。
    スラエータオナは、アジ・ダハーカをくびきに繋ぐための武器。
    ヴァジュラとも、あなたのくにの言葉では、金剛杵とも呼ばれます。』


アシャは真紅のゆったりとした、ローブを身にまとっている。
炎を模した抽象的な模様が、細密に縫いこまれている。

頭の帽子は、縦線の意匠が入った、ウォフマナフとはまた別の円柱形の物。
頭髪は、ウォフマナフと同じ金髪で、ボブヘアーのように見える。
右手には、清浄に輝く炎を有し、左手には天秤を持つ。


アシャ『気を引き締めなさい。ここは私の力も、
    ドゥルジの力も及ぶ場所。』

『祠堂を継ぐものよ、敵は手ごわい。』


白髪の初老の男性が声を発する。
頭には、日輪と鳩の翼を模した黄金の冠を被り、
手には、白銀に輝く鞘に入った剣をもつ。

白色のローブの上に、黄色の上衣を纏う。
また、ウォフ・マナフやアシャと違い、豊かな顎鬚がある。


紬『あなたは…?』

クシャスラ『私はクシャスラ・ヴァイリヤ
      正しき力を司るアムシャスプンタが一柱。
      サウルウァを滅ぼすもの。』

クシャスラ『祠堂を継ぐものよ、スラエータオナをうまく扱え。
      アンラ・マンユは恐ろしく手ごわい。』

『ダエーワたちは、不敵に待ち構えています。』


中年の女性のが声を発する。


紬『あなたは…?』

アールマティ『私はアールマティ。
       清き水を司るアムシャスプンタが一柱。
       タローマティを滅ぼす者です。』


アールマティは青色と水色で彩られた、
厚手でゆるやかなローブを身に纏っている。
フードで頭部を覆い、その上に円筒形で輪状の冠を被る。


『タローマティは一部始終を見ていました。
 彼女は、これからの戦いを喜んでいるようです。』

『祠堂を継ぐ方、スラエータオナをふるう方よ。』

『私たちは、あなたの力となりましょう。』


男性と女性が並んで声を発する。

若い男性のほうは、体格にぴっちりとあった、
薄い緑色のローブを身に着けている。
木の葉の意匠をあしらった模様が描かれており、
その上から深緑の上衣を纏う。手には、何かの花を模した短い杖を持つ。
頭髪は色も形もアシャに似ている。帽子も同様に。


若い女性のほうは、水色の薄手のローブを身につけ、金色の帯をしめている。
頭には円筒状の青色の帽子。長い金色の髪を持つ。
左手に水甕をもち、その中には滔滔と清水がたたえられている。


紬『あなた方は…』


まず、先に若い男性のほうが答える。


アムルタート『私はアムルタート。
       不死を司るアムシャスプンタが一柱。
       ザリチュを滅ぼす者。』


続いて若い女性が答える。


ハルワタート『私はハルワタート。
       完全を司るアムシャスプンタが一柱。
       タルウィを滅ぼすもの。』

アムルタート『さあ、その手にスラエータオナを持ちなさい。』

ハルワタート『スラエータオナをもって、アジダハーカをくびきに繋ぐのです。』


スプンタ・マンユの声がする。


『さあ、われらとともに、ヤザダとともに、アンラ・マンユのもとへ。』


見ると周囲に様々な形の神格たちが見える。
皆、紬を注視しているようだ。


紬『そこに…唯ちゃんはいるんですね!?』

『その通りです。』

紬『アンラ・マンユという神様は、唯ちゃんを…』

『そば近くに永遠に繋ぐつもりなのか、自らの一部とするつもりなのか…
 アンラ・マンユのことは、よく理解しえません。』

紬『自分の一部…そんな…』




『さあ、アンラ・マンユのもとへ!』




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