琴拭屋敷居間 23時過ぎ

気が付くと蕎麦焼酎のあの素晴らしい薫香は、いつの間にか消え去っていた。

しかし、いまだ琴吹屋敷の居間では、酒盛りが終わっていない。


一方で、唯は一番先に寝てしまい、憂が眠る唯を梓と一緒に、
平沢姉妹と梓にあてがわれた寝室に運び、そのまま二人とも就寝した。

残った女性四人で様々な話に華を咲かせている。

聡は横で聞き耳を立てていたのだが、いつの間にか、
テーブルに突っ伏してウトウトし始めた。



聡「…」ウツラ…ウツラ…

律「ん?聡の奴、半分寝てやがる…」

和「しょうがないわよ、まだまだ幼いんだし。」

律「中学生でもか?」

和「ええ、十分よ。」

澪「じゃあ、私が布団敷いてある部屋まで、聡を連れてくよ。」

律「いいの?わりーなー。」

澪「ムギの具合も見てみたいし。」


紬が、焼酎の臭いに強く反応していたことを思い出す。


澪「聡、起きろ、移動するぞ。」

聡「…う…うん…」


澪は数回、聡の体を揺すって立ち上がらせたあと、
肩を支えるようにして、聡を連れていく。



琴吹屋敷の長い廊下を進む。紬専用の寝室と、
聡に割り当てられた寝室は、どちらも二階にある。


聡「ふぁ…ねむ…」

澪「成人式向かえるまでは、もう絶対に飲酒するなよ、非行の元だからな。」

聡「…うん…わかったー…ファアア…」


聡に言って聞かせる澪。
澪は昔から、田井中姉弟には色々と世話を焼いてきた。

(実は同じぐらいに、律も澪に対して心をくだいてきたのだが。)

二人が階段横の、平沢姉妹と梓が寝ている部屋の前を横切ったとき。

部屋の障子の隙間から、影色の物体が姿を現す。
そしてそれは、聡の影に飛び込み、
体(たい)の半分を床から現し、半球のかたちをとる。
大きさは直径20cmくらい。

二人はそれに気が付かない。


階段を上がって二階へ。

二階は、琴吹一族が別荘に滞在するときに寝室とする部屋が数室ある。
聡は紬の父親の寝室を割り当ててもらったのだ。

障子をあけ、紬の父親の部屋に入る。
内装は下の客間とほとんど変わらない。凝った装飾など全く見られないのだ。

正座して使うための低い机があり、その脇に布団が敷いてある。
机の上には電灯とブックホルダーに挟まれた数冊の本。
その他には衣類箪笥が一つだけ。

金持ちというものを誤解しているのかもしれない、澪はそう思った。


澪「さ、聡、寝なさい。」


かけ布団を捲ってやる澪。


その時。
聡の影から球体が垂直に上昇し、聡の背中のすぐ後ろで静止する。

澪と聡は気付かない。


そして球体は、男性器と舌のような影色の物体を無数に生やし、
聡の背後に放射線状に取り付かせる。

まるでヤザダたちの光背のようにも見える。
光り輝かず、澱んだ黒であるが。

いかにも眠そうだった聡の表情が和らぎ、微かに血色をおびる。

聡はそのまま澪に倒れ込み、彼女を布団の上に押し倒す。


澪は頭の中が、プツンと真っ白になる。
聡が何をしたのか、そして、その意図が理解出来ない。


澪「さと…」


澪の言葉は最後まで続かなかった。聡が澪の口腔に侵入したからだ。

澪は反応することが出来ない。衝撃が強すぎて。

20秒ほどで、聡は澪の口腔を犯すことを止める。しかし二人の顔は接近したまま。


聡「みおねえ…」


聡の血色と表情は熱を帯びている。

そして聡はズボン越しに膨れ上がった男性器を、澪の女性器にあてがう。
澪の腹の奥に鈍い疼きがわきあがり、熱いものが女性器から溢れだす。
澪の目尻には涙の珠がたまりはじめ、目は大きく見開かれる。


サウルウァの欲望が糸を引いていた。アーリマンにはそこまで命じられていない。

聡は意識を乗っ取られているわけではない。
密かに抱いていた澪への慕情を、サウルウァが増大させたのだ。

サウルウァは『若きの暴走』をも司る。
そしてダエーワたちの中でも、もっとも欲望に関係している一柱なのだ。

サウルウァは唯に、『礼はいらぬ…』と言った。
つまり、返礼はいらぬ、その分は自ら頂戴する、という意味であった。
これから、澪の身体を存分に味わって。


サウルウァは、聡が十分に澪を蹂躙するのを待ち、
そのあとに自らが直接、澪を楽しむつもりであった。

『若きの暴走』を眺めることは、このダエーワの悦びとするところだからだ。

だからしばらくは、聡を暴走させるにとどめる。


聡は澪のTシャツに手をかける。澪の目から涙が溢れ出す。

そのとき。



「さとし君ごめんなさい!」


ドゴッ!!


聡「ヘブッ…」


鈍い音がした。
紬が置物のようなものを持って立っている。

澪の上に倒れ込み意識を手放す聡。
サウルウァは、舌と男性器を引っ込め、部屋の外に逃げ出す。


紬「だ、大丈夫かしら…」


紬の持っていたのは木製の置き時計であった。


紬は先ほど、身体中を虫が這うような、それも今までと桁違い違いで、
体内に侵入されるのでは、という感覚を覚えて、目を覚ました。
すぐ近くに、この原因がある、と感じた紬は廊下に出て…

そのあとは、今起きた次第である。


澪は、表情無く涙を流していた。


紬「澪ちゃん…」


紬は澪を助け起そうとする。しかし…


澪「嫌っ!!」


澪は聡を押し退け、紬の手を振り払い、部屋の外へ飛び出す。


紬「澪ちゃん!待って!」


紬は心配になる。聡の後ろにいた、あの黒くて丸い『何か』が原因だ。

すぐに澪を追いたかったが、自分が殴ってしまった聡のことも気になる。
ひとまず斎藤を呼んで、彼に聡を任せることにした。



部屋から飛び出した澪は階段を下り玄関から外に出る。

自分でも分からない方向に突っ走る。

澪の身体が描く残像に沿って、涙が虚空の中に消えていった。

そして澪が辿りついたのは、屋敷の左裏手、弥勒菩薩を治めてある、あのお堂。


澪はお堂の階段に腰かけると、頭を垂れ、嗚咽を洩らしはじめる。

親友の弟、自分も弟のように可愛がってきた聡が、あのような…。

聡の男性器の感覚は、まだ澪の下腹部にあった。膣内からの分泌による湿りは、
澪の心を一層強く打ちのめす。

何も考えたくはなかった。


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