̄ ̄ ̄ ̄

澪「私をお嫁にするって…あの時の約束はこういう事だったのか?」

あの時間を過ごした公園で、夜の静けさの中で私は呟いた。
答えを返してくれる人物なんて居る筈がないのに。


それでも、私が座るブランコの横に…いつも私の横に居てくれた人の返事が欲しかった。

ボンヤリと深夜の公園でブランコを漕いで、どれほどの時間が流れただろうか。

そろそろ帰ろうと思いブランコから降りると…。

いつの間にか律がすぐそこに立っていた。


律「………」

澪「……いつから居たんだ?」

律「……その……澪が独り言始めた辺りから……」

澪「盗み聞きなんて趣味が悪いな…」


再び沈黙が周りを包み込む。

トレードマークだったカチューシャを外し、前髪をダラリと下げた律はいつも以上に痛々しく見えた。


律「私…今でも澪が好きなんだ……あの時言った約束は本気だよ」

澪「好きなら何であんな事したんだ…」

律「……誰かに澪を奪われたくなかったから……ほら、イジメを受けてれば他の奴らも言い寄ったりはしてこないだろ?……」


私、最低だな…と律は自嘲した。


澪「そんな事で……」


バカ…。


このバカ律……。


私が律以外の人を選んだりするもんか。

私だって今でも、本当はお前が好きなんだ。


澪「私だって……私だって……律が--」


俯いていた私が顔を上げた瞬間、律の体が地面に崩れ落ちた。


律「…げほっ…げほっ……」

澪「り、律っ!!…」


口元を押さえた律の指から真っ赤な血が溢れ出す。

何で……何でこんな事になったんだ。


お前が…お前が好きだったんだ私は!。

あんな事されても、私にはお前が居なきゃダメなんだ!。


律「……へへ……死ぬつもりで……薬飲んで……ここに来たのになぁ……げほっ、ごほっ!」

澪「ま、待ってろ!すぐ救急車を…」


電話をかけようとした私の手が掴まれる。

血まみれの唇に優しい微笑を浮かべて、律は首を横に振った。


律「…最後まで……澪は優しいなぁ……」

澪「やだっ!!そんな事言うな!!どこにも行かないで…りつ……りつぅぅぅ!!」


律「じゃあ……最後に、私のお願い……聞いてくれるか?」

澪「いやだっ!!いやぁぁ!!……そんなの……聞こえない……」


そうだ…私には何も見えない……聞こえない!。


律「私を……」


見えない!聞こえない!見えない!聞こえない! 。


ミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイミエナイキコエナイ。





 ̄ ̄ ̄

目を開けると、自分がようやく失禁して意識を失っていたのだと分かった。

何だか、懐かしい夢を見ていた気がする…。


澪「……り……つ………」


目を開けた私はボンヤリと個室の壁を見つめたまま手を伸ばす。

私の瞳には意地悪な笑みを浮かべた愛する人の姿が見えている。


澪「んっ……」

汚物に塗れた下着に手を突っ込む。

今朝、自分で入れたローターを摘んで、愛しいソレにキスをした。


澪「りつ……好き……もっと……私をいじめて……」


誰も居ない壁に向かって、私は微笑みかけた。






 ̄ ̄ ̄

音楽室

唯「澪ちゃん、なかなか戻って来ないね…」

紬「………」

唯「そういえばさー、ずっと気になってたんだけど…」

唯「澪ちゃんが言ってる田井中律って人、どんな人なんだろねー」

紬「唯ちゃん…詳しい詮索はやめましょ…」

唯「う、うん…何だかよくわかんないけど、今まで通りその人が居るっていう設定で接すればいいんだね」

紬「ええ、それでお願い…」

唯「あ~、でもドラムの人が居ないと演奏も難しいよねぇ…今回は和ちゃんに頼み込んで特別に文化祭出れたけど」

唯「誰か入ってくれないかな~」







あの日、律が最後に言った願いは…。



「私を忘れないで」



今でも私は親友の亡霊に苛まれている。



おわり


おつかれさまでした