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イジメのターゲットが律に移った日から、数日が経った。

私が教室に入ると、すれ違うクラスメイト全員が挨拶をしてくる。


今の私はある種の同情されるべき対象として人気者になってしまっていた。

挨拶をしてくる者の中には数日前まで私をイジメていた人間もいる。

あの日の放課後に全員が私に謝ってきた。

律から暴力を受け、仕方なくイジメに加担していたのだとか…。

しかし事情を聞いてみると率先してイジメに参加していた人物が一人、居たようだ。


委員長「お早う、秋山さん」


この気持ち悪いほど清々しい微笑で挨拶してくる委員長が、そうだったらしい。

てっきり私は嫌われたままだと思っていたが、彼女は教室で顔を合わせる度に笑顔で挨拶し、それどころか昼休みに話し掛けてくるほどになっていた。

とにかく、不気味なほど上機嫌なのだ。


適当に挨拶を返した時、教室の戸が開いてざわめきが止んだ。


律「………」


死んだ魚のような目をした律が教室に入ってきた。

静まり返った教室は、やがてドス黒い悪意に包まれる。


体中に彼等の発する嘲笑と罵倒が突き刺さっているかのように、律は声を噛み殺して泣いている。


委員長「あら~、可哀相ね田井中さん…私がまた慰めてあげましょうか?」


いやらしい笑みを浮かべた委員長が律に言った。


律「………」


律は相変わらず無言であったが、その目は怯え、体は小刻みに震えていた。

逃げるように律は自分の席へと歩いていった。


委員長「ねぇ、秋山さん?ちょっと聞きたいんだけど」

澪「何…?」

委員長「田井中さんの事、好き?」

唐突な質問だったが、すぐさま私は自分でも驚くような冷たい声で返事をかえしていた。

澪「別に、どうでもいい……」




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終業のチャイムが鳴って暫く経った後、私は図書室を出て廊下を歩いていた。

人気のなくなった廊下には私一人の足音が響いている。

階段を降りようとした時、何かが私の耳に届いた。


それは人の声だった。

気になって足音を殺して、声の聞こえた部屋の前に立つと、そっと戸を開き室内を盗み見る。

そこは使われていない空き教室で…中では二人の少女が体を密着させていた。


律と、委員長だった…。


律「うぁっ……ぁ……ぁぁ……」


委員長の舌が律の首筋を舐め回す。


委員長「ふふっ…可愛いわよ田井中さん…」


長い黒髪を揺らしながら、水音をわざとらしく大きく響かせせて委員長の指は律の秘部をいじめていた。


委員長「ねぇ、そろそろ言って?私が好きって…」

律「…ひぅっ……やだ……いやだっ!」

委員長「…秋山さんはもう忘れなさい、貴方の事好きじゃないって言ってたわよ?」

律「いやだ!…いやだぁ……みお……みおぉ……」


瞳から涙をボロボロと零し、律は私の名前を呼んでいる。

私が見てるとも知らずに…。


委員長「貴方はこれからどんどん変わるの……」


委員長は泣きじゃくる律の頬にキスをすると、優しく両手でカチューシャを外した。


律「っ……」

委員長「髪型もやっぱりこっちの方がいいわ…」

律「か、返せよ!…それは……」


それは私が律にプレゼントしたものだった。

確か中学に入った時に、同じ学校に通えるのが嬉しくて、律にあげたものだった。

焦る律の様子を見て、委員長は口元に意地の悪い笑みを浮かべた。


委員長「これって、ひょっとして…秋山さんに買ってもらったの?」


委員長の瞳が先程の優しげな雰囲気を打ち消し、嫉妬の冷たい炎を宿す。

律を突き飛ばすと、委員長は手に持ったカチューシャを、目一杯の力を込めて。


真っ二つに割った。


委員長「こんなのいらないでしょ?安心して、私がもっと貴方をきれいにしてあげるから」


律は目を見開いて、真っ二つになったカチューシャを見つめていた。


委員長「いつになったら貴方は私のものになってくれるのかしら…」


カチューシャの破片を床に放ると、委員長は溜息を吐いて身を翻した。

私は慌てて扉から離れ、廊下を走る。


何だろう、あの律の泣き顔を見ていると胸が裂けそうな…そんな感覚に襲われた。

階段を降りて、真っ先に駆け込んだのはトイレだった。

個室に入ると、すぐさま鍵を閉めた。


熱い雫が頬を伝っているのが分かる。


澪「っ……うっ……うぅぅぅぅぅぅぅっ!!……律……何で……」


何で…。

何であんな事をしたんだ。

私は、ずっと…ずっとお前を信じてたんだぞ!?。

床に崩れ落ち、私は泣いた。


ひたすら悲しくて、悔しくて。




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それは私がまだ、小学校に通っていた頃の話だ。

私達は毎回、あの公園でブランコを漕いでいた。


「こないだの作文発表会すごかったよ!あの特訓のおかげだね!」


幼い律はそう言った。

恥ずかしがり屋だった私は人前で作文を読むことが出来ず、困っていた。

そこで律は気を利かしてくれて、私にリラックスする方法を教えてくれた。


「ありがとう…りっちゃんのおかげで作文、ちゃんと読めたよ…」


律の隣でブランコを漕いでいた私は、顔を真っ赤にしながらそう言った。

勢い良くブランコを漕いでいた友人は、そのままブランコを蹴って飛んだ。

私は素直に彼女が羨ましいと思った。

私には出来ない事をする彼女が羨ましくて、どうしようもなく愛しくて…。

着地した律は、そのまま振り返ると私の双眸を真っ直ぐ見据えて言った。


「よし!わたし、みおのお嫁さんになる!」

「え、えぇぇっ!?」

「みおは何だか放っておけないからな!わたしがお嫁さんになって、ちゃんと面倒見てあげるよ!」

「り、りっちゃんがお嫁さん…」

「何でそこで不安そうな顔するんだよー!」

「ふふっ…あはは!だって、りっちゃんがお嫁さんなんて!」

「笑うなよ!わたしは本気だぞ!」


懐かしい記憶だった。

目に涙を浮かべて、あの頃は本気で律と一緒に笑い合えていた。


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