̄ ̄ ̄ ̄
校門の前で律が来るのを待っている。
かれこれ終業のチャイムが鳴ってから一時間近く経つのに律は用事があるから待っててと言い残したきり、姿を見せない。
律のためなら何時間待っていてもいい。
制服のポケットをまさぐると、私は律から今朝渡されたハンカチを取り出した。
思わず嬉しくなって口元が緩むのを抑えられない。
このハンカチで鼻血を拭く事はしなかったので綺麗なままだった。
でも、せっかくだからちゃんと洗って返さないとな。
暫くボンヤリとしていたらしく、ようやく誰かに声を掛けられているのだと気が付いた。
「ねぇ、君今一人なの?」
えっと…誰だろ、この人?。
それは全く知らない男子生徒だった。
そもそも同性の友人すら少ない私に異性の顔見知りなんて居る筈がない。
「暇ならちょっと手伝って欲しい事があるんだけどさ、校舎裏の倉庫まで来てくれない?」
嫌な予感しかしなかった。
澪「あ、あの…連れを待ってるので…」
か細い声でそう言うが、男子生徒は無理矢理私の腕を引っ張ると嫌がる私を適当にあしらいながら校舎裏へと連れていった。
やがて私も抵抗するのをやめてしまう。
だって、嫌というほど向けられる周りの人の視線が怖かったから…。
ここで無理してでも、その手を振り払っておけばよかった。
後々…私は後悔する事になった。
 ̄ ̄ ̄ ̄
人の気配がなくなった倉庫は薄暗くて不気味だった。
澪「あ、あの…ここで何を手伝えばいいんですか?」
恐る恐る尋ねる。
すると、男子生徒は突然目に涙を浮かべてゲラゲラと笑い出した。
「ひゃはははははっ!君、まさかホントに俺がここで何かするもんだと思ってたの!?いい子だね、可愛いよ!」
澪「……っ……」
マズイ…私は本当になんてバカだったんだ!。
多くの生徒が下校し、ただでさえ人の少なくなったこの状況で…。
滅多に人が来ないこんな場所で何をするというのか。
そんなのちょっと考えれば分かりきった事なのに。
慌てて駆け出した私の足はもつれ、そのまま倒れ込んでしまう。
「………」
背後で息を飲む音がした。
振り向くと、男子生徒の視線が私の太ももに注がれているのが分かる。
「……ダメだ……我慢できねぇ……」
澪「……ひ、ひっ……こ、来ないで……」
息を荒げて迫って来る男子生徒の姿に気圧され、悲鳴の一つすら上げる事ができない。
腰を抜かしたまま這いつくばる私の体に、飢えた獣の体が覆いかぶさってきた。
律…。
律……律……。
ごめん、待ってあげられなくて。
 ̄ ̄ ̄
携帯のバイブレーションの音で目が覚める。
目を開けると、いったい何時間気を失っていたのか…既に周りは真っ暗になっていた。
体中が痛い。
首だけを動かして視線を移すと、倉庫の床にグチャグチャに踏まれた律のハンカチがあった。
澪「……り……つ……」
ハンカチにどうにか手を伸ばし、拾う。
ごめん、律…せっかく綺麗なまま洗って返そうと思ったのに。
こんなに…こんなに汚れちゃった。
呼吸をする度、鼻腔に口の中に出された白濁液の生臭いにおいが広がり吐きそうになる。
どうにか体を持ち上げると、今の惨状が月明かりに照らされてハッキリと見えた。
シャツは破かれて服としての役目を失っていて、スカートは乱雑に床に放ってある。
体中に渇ききった白濁液が張り付いて気持ち悪い。
髪にも、首にも、胸元にも、太ももにも…私が将来、互いに愛し合った人を受け入れるべき場所にも。
澪「……ひっく……ぐすっ……」
虚しかった。
ただひたすら虚しくなって、涙が溢れ出た。
膝を抱えて泣きじゃくっていると、突然倉庫のドアが乱暴に叩かれる。
律「澪!!そこにいんのか!?澪っ!!」
幻聴かと思った、私はまだ気を失っていて…まだ夢を見ているのかと思った。
どうにか這って扉まで辿り着く。
これが夢でも何でもいい…。
何でもいいから、律に会いたい。
ドアが勢いよく開かれる。
律「み、澪…お前……」
澪「……りつ……」
扉の前に座り込んでいる私を律が抱き締めた。
律「ごめん!ごめんな澪…私のせいで……こんな……」
律が泣いているのが分かった。
バカ…何で律のせいになるんだ、悪いのは全部私じゃないか。
私がもっとしっかりしてれば、こんな事には…。
澪「……りつ……ごめん……」
そう言い残すと私は律の胸に顔を埋めて目を閉じた。
暖かい体温が心地好くて、すぐにも眠気がやってきた。
あぁ…これは確かに、委員長があそこまで嫉妬するのも分かる気がするな…。
幸せ……。
最終更新:2012年08月05日 00:18