靴を浜辺に放り投げて、海に向かって歩く……


ザァ……ザァ……

「はぅっ!!……冷たいです……」

足に波が当たる……

予想以上の冷たさ……



バシャッ!


「ひゃっ!?」


太ももまで一気に水がかかった!

「ムギちゃん!?何するんですか!?」

「え?水のかけっこ。それっ!!」


バシャッ!


うわっ!冷たい!

服にかかったらどうすんのよ!?


「もぉ!!アニスちゃん、ちょっと怒ったよ!」

バシャン!

「きゃっ!?」

勢いよく海面を弾いた

水がお嬢様の方へ散乱した

「やったな~。えいっ!」
バシャッ!


「うわぁっ!もぉ!ムギちゃん!ちょっとはアニスちゃんに手加減してよ!」


バシャン!




何やってんの?

あたし達……

お嫁さんというより………はしゃぐ子供の遊びじゃん……




「いい笑顔ですね?アニスちゃん………」

「………え?……」


「今の笑顔………今日一番の笑顔じゃないでしょうか……?」


「え?………そ、そんな事ないですよ……」


「その笑顔が見たかった………。私………」


「……………。



…………だから、今日必要以上にあたしの為にお金を使ったりしてたんですね………」

「…………」


「ムギちゃん……ちょっと見損ないましたよ。
お金であたしの笑顔を釣るつもりだったんですね………」


「……………ごめんなさい………」


「………いいんですよ…。それに関しては、アニスは怒れる立場にはありませんから………」

何も間違ってないよ……

お金をくれるなら

アニスはいつだって笑顔になれる………


「………。私……その……ただ……アニスちゃんの笑顔が見たくて………」


「………もう……この話はやめませんか……?」


「でも………私に向けてくれるアニスちゃんの笑顔…………。どうしてもぎこちなさそうで………」


「ムギちゃん!……もう、帰ろうよ………」


あたしは背を向けた……

今にも泣き出しそうなお嬢様の顔………

それがムカついてムカついて…………
イライラして………


でも、あたしは怒ったりしないよ………
あたしは……お嬢様に気に入られて………


「………さ、帰ってご飯にしましょ。ムギちゃん…」

バシャッ!!


水しぶきが後ろから飛んできた

あたしの両肩の後ろから伸びた手が、あたしの胸の前で組み合った……

背中には……感触が
お嬢様の身体の感触
体熱が服を通して伝わってくる………
鼓動の振動も……


「……………」

お嬢様は何も言わないままだ

ただ、あたしに抱き付く両腕の力だけがはっきりと増していく………

どうしたの?

また、抱き付いて誤魔化そうとしてるの?

それとも、あたしに何かするの?


いいよ
何をしても

あたしはなんだって我慢出来るんだから……

お嬢様の……お金の為になら………

「いいですよ…………ムギちゃん。あたし、ムギちゃんの為なら、なんだってしますよ………」


「…………ご飯作ります………」


「………え……?」


「………あたし、アニスちゃんの為に、ご飯を作ります。家に帰って……アニスちゃんがそれを食べて……笑顔になれるように………」


「ご飯………で……?」


「だからね、アニスちゃん。もう一回……あたしにチャンスをください!」


「…………」


何言ってるの?

ご飯を作りたい?

作ればいいじゃん

食べて笑顔になる?

お嬢様が出してくれた料理で、あたしが嫌な顔をするわけないじゃない……


「本当ですか?アニスの為に、料理してくれるんですか?アニス楽しみ~♪」


「……ええ。ですから、帰りましょうか。」


例え料理がどんなに美味しくなかったとしても、あたしはお嬢様の為に一生懸命笑顔を作るよ?


心配しないで

お嬢様


アニスはできるオヨメさんなんだから………


「アニスちゃん。その……」

「はい?なんでしょうか?」

「……手を……繋いでもいいかしら……?」


「……………。
何言ってるんですか~?今日何回も繋いでたじゃないですか~。一々言わなくたって、むしろあたしの方から繋いぢゃいま~す♪」


あたしは笑顔でお嬢様の手を握った

ゆっくり……柔らかく……


どうしたの?

なんで一々そんなこと聞いてきたね?

あたしと手を繋ぐのが怖くなった?

あたしと……心の壁を感じたの?


大丈夫

そんなものはないよ

あたしはお嬢様のオヨメさんだよ?

あたしのハートはお嬢様に対してはいつだってフルオープン


「…………」


お嬢様が部屋に入ってからもう30分………


部屋で泣いてるのかな……

さっき、涙を我慢してたような気がする……

アニス……なんか悪い事でもしたの?

分かんないや


ただ
お嬢様が戻ってきたら……めいいっぱいの笑顔でむかえてあげなくちゃ




「……お待たせしました……」


お嬢様……やっと来………



「……え?」

あれ?
なんか………あれ?

「ムギちゃん………。あの………エプロン付けて……」

「はい。今から料理をするので………」

「いや……いや、その、あの、………なんで服を着てないの?」


エプロンを……

服を着ないでエプロンだけを付けた状態……


「はい……その……。新婚さんの台所では、“裸エプロン”を着たお嫁さんが包丁をふるうとか………」



…………え?
いや、まぁ、新婚ラブラブな夫婦なら、あり得なくもないような………


でも……なんで、今するの!?


あんな真剣な顔の後にこの姿は…………


「………それに、着衣を最小限に断つ事で、料理に対する精神の集中度も高くなるとか……」



いやいやいやいや!

関係ないでしょ!

むしろ寒さや熱さが素肌に直接くるし……

油系のなんかを作ろうものなら、かなり危なっかしい格好だわ…………


「とにかく!私は本気で作ります!だから、アニスちゃんは待っていてください!」

「え?あ、はい!」


なんか嫌なスイッチ、入ってるんじゃないかな~?

もう料理そっちのけで、なんか怖いわ………


とにかく………
ほぼ全裸の状態で料理を作るお嬢様の姿ときたら……
ぶっちゃけ
作られてる料理の方に関心がいかない

お嬢様の姿に釘付けだった

真剣な顔で……なのに裸

もうシュール過ぎて、何回も笑っちゃいそうになった

でも、それだけじゃない

真剣な表情とてきぱきした動き
それに裸がどう影響したかは分からないけど、凄く輝いていた………
ま、………悪くはないわね………




「アニスちゃん。早速食べて!」

机に並べられた料理

ハンバーグとエビフライと唐揚げといった子供が喜びそうな無難なレシピ



そう


こいつ、油を使っていた………

あたしもさすがに止めに入ろうかなと思った

だけど
顔色一つ変えずに油を熱して具材を投入姿に見惚れていた………

あきらかに素肌に油が掛かっていたハズなのに、弱音一つ吐かなかった……



「…………いただきます……」

あたしは、別に嫌いな料理があるわけじゃないし……ただ……もう料理なんか食べなくても………


お嬢様は真剣な目付きであたしの方を凝視


「…………あ~ん……ん……」

ハンバーグを口に含んだ………


普通に美味しい

普通?
………めちゃくちゃ美味しい!!
………とまではいかない

でも……なんだかんだで、お嬢様が必死でひき肉を捏ねる姿が、さらに美味しさを感じさせる……


「……美味しい。美味しいです~。さっすがはムギちゃん!」

「ほ、本当ですか!?」

「ホントだってば!ほら?」

フォークに一切れ刺して、お嬢様の方に差し出した……

「……では…………ん…」

フォークに噛り付くお嬢様………

頬っぺたをもぐもぐ動かして

「美味しいです……。本当に………。アニスちゃんが食べさせてくれたおかげで………」

「え?………てへっ♪」


今回は……アニスちゃんの負け

さすがに、色々度肝をぬかされた……


ガリッ

「うは、おいしぃ~。エビフライもサイコ~です~!」


ホント………
多分、負けた

今の私………
100%には満たないかもだけど、ほとんど笑顔になってるはず……
自然と……笑顔に……



「アニスちゃん……ごめんなさい……」


「……また謝るんですか?今度はどうしましたか?」

「私………。結果を求め過ぎていました……。アニスちゃんの笑顔という結果の為に。でも、笑顔を作るのはアニスちゃんなんだから。私は、他人である私にはアニスちゃんの笑顔が作れないって事に納得がいかなかった。それで……。」

「…………何を言ってるの?アニス……今、とっても嬉しいよ?」


「……うん。そんな気がする。だって、私も嬉しいもん。アニスちゃんがあたしの、あたしが頑張って作った料理を食べてくれて……、そして“美味しい”って言ってくれて……」


「うん。だからね、あたし、今は笑顔でしょ?嬉しいんだよ?ムギちゃんがアニスの為に料理を作ってくれて……」


「………うん。ありがとう。アニスちゃん……。あたしの為に……笑顔になってくれて………」



……………


分かったから

もう、そんな風に謝らないで………


「そ、そうだ!ムギちゃんがアニスちゃんの為に料理を作ってくれたんだもん。今度はアニスが何か作る。食後のデザートに。」


「……え………アニスちゃんが……?」

「はい~。アニス、何でも作っちゃいます!だからムギちゃん。食べたいものをなんでもどんどんリクエストしてください~♪」

「食べたいもの………」


………なんとなく、嫌な予感がした………


「………アニスちゃん。」

「…………あの、ひょっとしてアニスはからかわれているのでしょうか?」

「デザート……アニスちゃんが食べたいです……」


…………また恥ずかしそうにそんな………


って、なんで!?

ついさっきまでのシリアスモードはどこにいったの!?

裸同然の格好で、あたしを食べたい?
ただの変態じゃんか!!

何!?

もぉ!なんなのよぉ!?


「ダメ………でしょうか?」

「………は、はい。分かりました。……あたしを……た、食べてください……」


何?
この屈辱的な宣言

明日からディスト様の奴隷です~、とか言ってた方がマシじゃない?



「……あの~、あたしを食べる……って、つまりどういう事なんですか?」


「え~と……。では、とりあえず、テーブルに乗ってください。」

「は、はい………」


何?
どんな羞恥が待っているの………


「あの~………」

「あら……やっぱり全裸の方がいいかしら?じゃあ、服を脱いで貰える?」

「えっ!?」


「服を食べるわけにもいきませんわよね~。」


「……は、はい……」


言われるままに服を脱ぐ………


はいはい

お嬢様の為になら、なんだってしますよ~

でも……

さすがにテーブルの上で全裸とかは恥ずかしい……

料理されて食卓に並ぶ食材って、こんな気持ちなのかな?


いや、あたしはまだ材料のままで、なんの加工もされてないけど………



「じゃあ………。これ。」

「え?……なんですか?」

「シロップ。これで、アニスちゃんを味付けしようかな?」

「……シロップ?……アニスの体を……味付け……」




はぁあああああ!!!!?


え!?ちょ!?


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