午後1時00分 214号室

免業日は昼食後の午後1時から午後3時までお昼寝が許されています。
この時間は囲碁将棋、交談は禁止。
敷布団にシーツは敷かず、パジャマではなく獄衣のまま寝ます。
寝そべっての読書はいいけど、書き物はダメ。
書き物をするのなら、必ず布団はたたんで小机を出して、その上でしなければいけないのです。

澪「……」スースー

紬「……」スヤスヤ

律「うー……」ウツラウツラ

澪ちゃんとムギちゃんは早くも夢の世界。
りっちゃんは寝そべって雑誌を読んでるけど、沈没は間近だね。
私とあずにゃんは小机を出して書き物。
私は最近、刑務所のご飯とか生活を憶えてる限り記録する事にしました。
日記みたいに後から読み返したら面白いかもしれないし。
本にして出したら、結構売れたりして。いや、まさかねー。
でも、あずにゃんはいつも何を書いてるのかな?

そんなこんなで、免業日の午後は静かに過ぎていきます。

律「……」ンガーンガー

澪「……」スースー

紬「……」スヤスヤ

梓「あの、唯先輩」

唯「なぁに?」

梓「どうしてご家族からの手紙を読まないんですか?」

唯「……」

梓「私と違って、心配してくれるご家族がいるのに…… かわいそうですよ」

唯「……午睡時間は交談禁止だよ、あずにゃん」

梓「あっ、はい…… そうですね……」

唯「……」

梓「……」カキカキ

唯「……」

梓「……」カキカキ

唯「……」

梓「……」チラッ

唯「……」

梓「……」ジーッ

唯「……私は、銃刀法違反と火薬取締法違反で捕まったんだけどね」ボソッ

梓「は、はいっ……」

唯「お巡りさんに通報したのは、妹の憂だったんだよ」

梓「えっ……?」

唯「……」

梓「で、でも…… どうして?」

唯「……」

唯「……」

唯「憂はね、明るくて、優しくて、勉強も家事も出来る、すごくえらい子だったの」

唯「それに、いつも『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って、何にも出来ないダメな私のお世話をしてくれて、
  何だか私の方が妹みたいだった」

唯「私の前ではいつも笑顔だったから。いつも元気で明るかったから。気づいてあげられなかった……
  高校でひどいいじめを受けてたって」

唯「首から下の、服で見えないとこはアザだらけ。教科書は破かれたり、イタズラ書きされてたり。
  それに、お金もいっぱい取られてた……」

梓「ひどい……」

唯「憂は優しくていい子だから…… いつも私の事を想ってくれてたから…… 心配かけたく
  なかったんだね……」

唯「両親は二人共、海外に行ったりで家にいない時の方が多かったから、それを知ってからは
  私が何とかしなくちゃって思って…… 学校に相談に行ったりしたんだ。何回も何回も」

唯「でも…… 学校側は『担任や生徒から聞き取り調査を実施したが、いじめの事実は認められなかった』
  だって」

梓「何ですか、それ! 傷や教科書が立派な証拠じゃないですか!」カーッ

唯「名門の私立校だし、いじめがあったなんて認めたら、評判に関わると思ったんだろうね」

梓「いや、でも、陰でいじめてたのが表沙汰になれば、いじめてた子達だって、もう――」

唯「ううん」フルフル

唯「もっとひどくなった。暴力とか恐喝とかは無くなったけど、今度はみんなが憂を無視するように
  なったの。まるでそこに誰もいないみたいに。先生達までだよ……?」

梓「そんな……」

唯「でもね、憂は憂のままだった。どんなにいじめられても、私といる時はいつも、笑顔で、優しくて……」

唯「それが、もう、悔しくて悔しくて……」

唯「……だからね、殺してやろうと思ったの。いじめっ子も、教師も。みんな、一人残らず」

梓「う……」

唯「インターネットで知り合った外国人さんから売ってもらったんだ。拳銃を一丁と弾をたくさん。
  日本でも、銃って簡単に買えるんだね。ビックリしちゃった」

唯「キチンと計画を立ててさ。撃つ練習は出来ないから、素早く弾倉取り替える練習をいっぱいしてさ」

唯「『さあ、明日の授業中に教室に乗り込んで、撃ちまくってやるぞ』って、銃のお手入れしてた夜に、
  お巡りさんがいっぱい来てね……」

唯「憂は、ぐすっ、ずっと謝ってた…… ううっ、ぐすっ…… 『ごめんなさい、ごめんなさい』って……」ポロポロ

唯「私がっ…… ぐすっ…… パトカーに、乗せられる時も…… 『お姉ちゃん、ごめんなさい』って……
  『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って…… ううっ……」ポロポロ

唯「憂…… ぐすっ…… どうして……? 私は憂の仇を討とうと…… ぐすっ、憂の為に……」ポロポロ

梓「……唯先輩は、馬鹿です」グスッ

唯「え……?」

梓「そんなの決まってるじゃないですか! 唯先輩に人殺しになってほしくなかったからです!
  そんな事もわからないんじゃ、唯先輩は馬鹿です! ダメダメお姉ちゃんです!」グスッグスッ

唯「でも……」

梓「妹さんは、たぶん、強い子だったから…… 唯先輩が考えてる以上に、強くて、お姉ちゃん想いな
  子だったから…… 唯先輩がそんな事をしなくても、楽しくて幸せな時間を過ごさせてくれれば、
  それだけで頑張れるって思ってたんじゃないでしょうか…… 私の勝手な考えですけど……」

唯「……」

梓「だから…… ドジで、おっちょこちょいで、ボーッとしてて、頼りなくて、天然で…… でも、
  一緒にいると何だか幸せな気持ちになれる唯先輩のままでいてほしかったから、通報したんです。たぶん……
  人なんか殺したら、もう戻って来れなくなるから……」

唯「そっかぁ…… 私、ダメなお姉ちゃんだね、ホントに……」グスッ

梓「私は、唯先輩の妹さんに感謝してます」

唯「……?」

梓「狂った大量殺人犯の唯先輩じゃなくて、馬鹿な考えを起こして銃を所持してただけの唯先輩に
  出会えたのは、妹さんのおかげですから」

唯「……」

梓「……私もお昼寝します。まだ午睡時間が一時間くらいあるので」サッ

唯「あ、あのっ、あずにゃん……」

梓「午睡時間は交談禁止です、唯先輩」

唯「あっ、うん…… そだね……」

梓「じゃ、おやすみなさい」ゴソゴソ

唯「おやすみなさい」

梓「……」

唯「……」

梓「……」スースー

唯「……ねえ、あずにゃん。出所したらみんなで一緒にご飯食べようね。この房のみんなと、憂の六人で」

梓「……」スースー

唯「憂の手料理、美味しいんだよ。ハンバーグも、ビーフシチューも、カレーも」

梓「……」スースー

唯「私、楽しみにしてるよ」

梓「……」

唯「……手紙、読もっかな」

免業日の午後は、静かに過ぎていきます。



午後4時40分 214号室

本日の夕食メニュー
 麦飯
 吸い物(玉子、玉葱、ほうれん草)
 トンカツ
 スパゲティサラダ

律「うは、やった! トンカツ、トンカツ!」ガツガツ

唯「テンション上がるよねー、トンカツって」モグモグ

澪「普段のご飯は塩っ気も油っ気も少ないからなぁ。油物のメニューは貴重だよ」パクパク

紬「でも、脂肪分が多いと体重が……」

澪「うっ……」

唯「あっ、そーだ。今日もお醤油ご飯しよっと」ピチャッ ピチャチャッ

律「最近、マイブームだな。醤油飯」

唯「うん! 美味しいもん!」モグモグ

澪「ソースかけたトンカツと醤油ご飯…… 見てるだけで喉が渇いてくる……」

梓「……」ジーッ

唯「どしたの? あずにゃん」

梓「唯先輩、私にもお醤油貸して下さい」

唯「え? う、うん」スッ

梓「……」ピチャッ ピチャチャッ

唯(あずにゃん……!)ジーン

律「おいおい、梓もかよー」

澪「あまり唯の真似するなよ、梓」

紬「かけ過ぎないようにね?」

梓「……」ガツガツ

唯「どう? どう?」ソワソワ

梓「……なかなかイケますね」モグモグ

唯「でしょ!? でしょ!?」

梓「はい」ガツガツ

唯「今度、ソースかけてみて? これがまたオツなんだから!」

梓「はい。やってみます」ニコッ



唯(よぉ~し! えらいぞ、あずにゃん!)