皆さん、こんにちは。平沢唯受刑者です。
今日は土曜日。免業日です。
免業日というのは休日の事。
土曜日、日曜日、祝祭日は工場の刑務作業がお休みになります。
なので、免業日は平日より一時間遅い7時40分に起床して一日が始まるし、朝の点検も一時間遅いのです。
お休みの日がウキウキしちゃうのは、刑務所の中も外も変わらないんだよね。

午前7時45分 214号室

みんな、鏡の前で髪をとかしたり、整えたり。
囚人だけど女の子だもん。

唯「2級者集会だねー、今日」トカシトカシ

素行が優良な受刑者は、段階ごとに1級者~4級者と決められます。
この房では私とりっちゃんが2級者、他の三人は3級者。
2級者は毎月一回の集会があって、お菓子を食べてジュースを飲みながら、映画を観るのです。
へへ~、いいでしょ~。
あと、他に特典と言えば、本や日用品を入れる2級ボックスっていう戸棚がもらえるとか、手紙や
面会の回数が増えるとか。

澪「いいなぁ」トカシトカシ

律「映画は何だろ。先月は『ダイハード』だったよな」トカシトカシ

紬「えーっと…… 『死霊の盆踊り』って書いてあるわ」

唯「えっ」

律「えっ」

紬「ウソウソ。冗談よ。『スタンド・バイ・ミー』ですって」

唯「へー。私、見た事無いや」トカシトカシ

律「私も。面白いのかな」トカシトカシ

梓「名作よ。今、思い出しても切なくて泣けてきちゃう」ウルッ

澪「まあ、どうせ二人ともお菓子とジュースに夢中で、内容なんて頭に入らないだろうけどな」

梓「コーラを飲んだらゲップが出るのと同じくらい確実ですね」

唯「むー。失礼な」トカシトカシ

律「今回もお菓子はアルフォートかな。ビスケットにチョコレートがついててさ」

澪「うっ…… いいなぁ、2級者は。私も早く2級になりたいよ」

梓「ああ、チョコが食べたいです……」

唯「じゃあ、靴下の中に隠して持ってきてあげるよー」トカシトカシ

律「馬鹿! そんな事してバレたら即懲罰房行きだぞ!」

梓「お気持ちは嬉しいですけど、駄目ですよ。唯先輩」

唯「ちぇー、いいアイディアだと思ったんだけどなー。ぶーぶー」トカシトカシ トコトコ



唯(ふあー、窓の外はいい天気だねー。すごく爽やかーな感じ)トカシトカシ

唯(この感じ、何だか懐かしいような…… 前にもこういう感じがあったような……)トカシトカシ

テンケンンンンヨォーーーイ

唯(そうだ、思い出した。子供の頃の夏休みの朝が、こういう爽やかさだったんだ)トカシトカシ

ユイセンパイ ユイセンパイ

唯(あの頃は自分が牢屋に入るなんて、想像もしてなかったなぁ)トカシトカシ

唯(人生って不思議だね……)トカシトカシ


さわ子「こらァ!!」


唯「わひゃあっ!?」ビクッ


さわ子「お前、何やってんだ」

唯(さ、さわちゃん来てる……? い、いつの間にか、みんな正座してる……?)」アセアセ

唯「ひゃ、ひゃひゃひゃ134番、ひ、ひ、ひら、平沢、です」ペコリ

さわ子「点検用意の声が聞こえなかったのか」

唯「あ、あの、その…… くせ毛で、なんか、その、ブラシが、えっと……」ビクビク

さわ子「免業日に朝っぱらから注意受けるような事はするな!! わかったか!!」

唯「はい! すみましぇん!」ペコリ



最終話



午前8時00分 214号室

本日の朝食メニュー
 麦飯
 味噌汁(キャベツ)
 納豆
 大根おろし

唯「ひどいよ~。教えてくれればいいのに~」

梓「私、ちゃんと声かけましたよ」ジャバー マゼマゼ

律「たまに怒られた方がいいんだよ。唯の場合」パクパク

澪「そうだな。唯は朝、ボーッとしてる事が多いし。いつもフォローしてもらえると思ったら
  大間違いだぞ」モグモグ

紬「まあまあまあ。今度から気をつけましょうね、唯ちゃん」

唯「はぁい……」シュン

配食係「しょゆそ~~~す」ガラガラ

律「あー、これだけあれば、まだもらわなくていいかな」

梓「律先輩、醤油ソース係みたくなってますね」

律「そう言うな。癖になってるんだよ」

澪「……配食係って作業賞与金、高いのかな」

紬「詳しくはわからないけど、大変そうだから高いかもね」

律「だよなー。朝の点検が済んだらすぐに白衣着て各房にメシ配って、それが済んだら自分達も
  ソッコーでメシ食って、すぐに空下げでまた各房回って、だもんな」

唯「私、無理かも……」

梓「」ガツガツガシュガシュハフハフズゾズゾ

紬「でも、どうして? 澪ちゃん」

澪「ん…… パパとママに、ごめんなさいの意味も込めて仕送り出来たらな、って思っただけだよ」

律「いい心がけじゃんか! えらい!」バンバン

澪「いたたっ、痛いって…… 律だって家に仕送りしてるだろ?」

律「まあねー。聡の奴、学費とかでまだまだ金がかかるからな」

紬「無駄遣いせずに賞与金を貯めて送金したら、澪ちゃんの親御さんも家計が随分助かると思うわ」

澪「うん。そうだよな」

作業賞与金は特に必要があると認められれば、家族に対する扶助、被害者に対する弁償、罰金や
訴訟費用に使う事が出来ます。
んー、でも賞与金は出所の時にしか現金支給されないので、どちらにしても私達が所内生活で
現金を扱う事はないんだよね。

毎月の賞与金支給の時も、私物の服や本を買う時も、賞与金出納帳の上で数字が上がったり
下がったりするだけ。
やっぱり、檻の中の不自由な生活なのです。
悪い事をしたんだから当たり前なんだけど。



午前9時55分 214号室

朝食が済むと免業日はすごくゆったりします。
平日の余暇時間がずーっと続く感じ。

澪「で、香車がまっすぐ進めて、桂馬がひとつ飛ばした左右の斜め前に進めるんだよ」

唯「ふんふん」

律「唯、覚悟してろよー。私がいーっぱい鍛えてやるからな」ムフフ

紬(ニューヨーク近代美術館かぁ。また行きたいな)パラリ

梓「……」カキカキ

ガラガラッ

配達係「秋山さん、田井中さん、平沢さん。お手紙です」スッ

澪「ありがとうございます」

律「聡からか。こんなチョコチョコ寄越さなくてもいいのに」

澪(パパとママからだ。嬉しい事は嬉しいんだけど、手紙読む度に罪悪感が……)

唯「……」ポイ バタン

梓「ゆ、唯先輩、読まずにボックスにしまっちゃうんですか?」

唯「うん、いいの」

梓「でも……」

唯「いいの。澪ちゃん、将棋の続き教えて~」トコトコ

澪「ああ、いいぞ」

梓「……」


さわ子「115番、真鍋。集会」

和「はい」


あっ、隣の房で和ちゃんが呼ばれてる。
2級者集会の整列の時間だ。

律「おっ、来た来た」

澪「いいなぁ」

紬「いいなぁ」

梓「いいですねぇ」

律「へへっ。さぁて、甘シャリ食ってくるか。唯」サッ

唯「うん!」サッ

ガチャン

さわ子「62番、田井中。134番、平沢。集会」

律「はい!」

唯「はいっ!」

房を出て、廊下でみんなが二列に並んでるところへ、私達も並びます。
いつもと違って、気をつけも前ならえもありません。

律(えいっ、膝カックン)カクッ

和(ちょっと!)

さわ子「はい、進んで」

集会への往復の時は、木工場や運動場の時みたいに足踏み行進をしなくてもいいのです。
気のせいだと思うけど、さわちゃん刑務官もいつもと比べて優しい感じ。
もしかしたら、私は映画やお菓子よりもこの雰囲気が好きなのかも。



午前10時00分 講堂

集会場の中ではドボルザークの『新世界』って曲が小さく流れてます(後からムギちゃんに曲名を
教えてもらいました)。
各房ごとに入場して、入ってすぐのところで、お菓子とジュースを受け取ります。

刑務官「はい」スッ

唯「ありがとうございます(アルフォートとコーラだ! やったぁ!)」ペコリ

刑務官「はい」スッ

律「ありがとうございます(K&Kのカリフォルニアコーラだw まだ売ってるんだな、これw)」ペコリ

お菓子とジュースを受け取ったら、席の前の方から順番に座っていきます。
私の左隣にはりっちゃん。その左隣には和ちゃん。あっ、一番前の方にいるあの髪型は純ちゃんだ。

さわ子「黙想!」

号令がかかったら、姿勢を正して、手を膝の上において、目をつぶります。
その間に大扉が閉じられて、カーテンが引かれて、照明が消されて……

さわ子「黙想やめ!」

目を開けると、おお、真っ暗。



~♪

唯(あ、なんか始まった。そんな事よりアルフォート、アルフォート!)ガサゴソ ビリビリ

律(ん~ん~! いい! いい! 最高!)カリコリ モグモグ

唯(甘~い! チョコレートは永遠にチョコレートだよぉ! そうだ、コーラも……)モグモグ プシッ

律(んぐっ、んぐっ…… プハーッ! コーラうめー! たまんねー!)

唯(ノドが、ノドがシュワシュワする! 忘れてたよ、こんな感覚!)ゴクゴク

和(美味しいのはいいんだけど…… 周りの食べる音で映画に集中出来ないわ……)

唯(口の中が甘々だ~。幸せ~。これがずっと続けばいいのに)モグモグ ゴクゴク

律(ひとつ、ふたつ、みっつ…… 残りあとみっつか……)ガサゴソ

唯(ここからは大事に食べよう……)ガサゴソ



~♪

律(あ~あ、無くなっちった…… ん、映画もそろそろ終わりか。結局、澪の言う通りになったな。フフッ)

『クリスは望み通り町を出た。私と同じ中学に進んだ彼は、持ち前の頑張り精神で法律学校にも合格し、
 弁護士にまでなった。
 先週、彼はレストランに入った時、目の前で男達が言い合いを始め、一人がナイフを抜いたのを見て、
 止めに入った。
 彼らしい行為だが、運悪く喉を刺され、ほとんど即死だったという。
 クリスとはもうずっと会っていなかったが、私は彼を忘れないだろう。友情は永遠のものだ。

 私は、12歳の時に持った友人に勝る友人を、その後も持った事は無い。誰もがそうなのではないだろうか。

 When the night has come. And the land is dark. And the moon is the only light we see...』

律(ん……?)チラッ

唯「……」

唯「……」

唯「(´;ω;`)ブワッ」

律(す、すげえ…… 映画のラスト2、3分だけ観て号泣しとる…… 私にゃ真似出来ねえ……)ゴクリ



午前11時50分 214号室

ガチャン

律「62番!」

唯「134番!」

さわ子「よし、入房」

ガチャン

律「フフーン」ニヤニヤ

唯「へへーん」ニコニコ

澪「どうだった?」

紬「どうだった?」

梓「どうでした?」

律「よかったぜ~。なあ? 唯」

唯「うん!」

澪「お菓子は何だった?」

唯律「ア・ル・フォー・ト」

梓「やっぱりぃ~」ヘナヘナ

澪「いいなぁ~」ヘナヘナ

律「まだ口の中に甘い余韻が…… んふ」

紬「飲み物は?」

律「コーラだよん」

澪紬梓「いいなぁ~!」ヘナヘナ


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