帰り道




律「なぁ」

澪「どうした?」

律「バレてる」

澪「・・・!?」

律「・・・」

澪「誰に?どこまで?」

律「唯に。澪は中二病なんかじゃなくて怪我をしてるってとこまで」

澪「唯!?まさか、あのとき・・・」

律「え?」

澪「今日、唯に付き添ってパン買ってきただろ?」

律「あぁ、そういえば。唯のやつ、澪を誘って買いにいってたな」

澪「すごい混んでて・・・押し潰されそうになったんだ」

律「そりゃ行ったのが早い時間だったからな。ゴールデンチョコパン狙ってる子達とかち合ったんだろ」

澪「そのときに言われたんだ。腕、大丈夫?って」

律「・・・!」

澪「私、もしかしたら庇うような動きしちゃったかも」

律「・・・そっか」

澪「ごめん・・・」

律「謝るなよ。澪は悪くない」

澪「唯はなんて?」

律「あの怪我はいつ治るの?だってさ」

澪「・・・答えにくい質問だな」

律「だな・・・。まぁ、他の人に言いふらすような感じじゃなかったし・・・気付かれた原因もわかったし、ほっといても大丈夫そうだな」

澪「それもそうだな。余計なことして墓穴掘るのも嫌だし」

律「そそ。それにしても、あいつ結構鋭いな」

澪「・・・りつ」

律「どした?」

澪「今日、行っていい?」

律「・・・いいのか?」

澪「・・・」コクッ

律「・・・///」

澪「駄目って言っても、行くから」

律「駄目なんて言うわけないだろ」



・・・

・・・


律の家



律「こんな風にさ」

澪「?」

律「平日ならいない日も結構多いんだけどな」

澪「聡は?」

律「昨日から合宿だよ」

澪「あぁ、そういえばそうだったな」

律「おう。・・・あの、みお?」

澪「どうした?」

律「傷の具合どうだ?」

澪「・・・見る?」

律「あぁ」


シュル・・・


律「・・・」

澪「一番最初の傷はもう平気だよ」

律「そっか・・・ごめん」

澪「いいって」

律「でも、これ・・・跡残るんじゃないか・・・?」

澪「・・・場所、変えた方がいいのかな」

律「・・・いいよ」

澪「・・・え?」

律「もう、いいんだ。澪・・・本当にごめんな」

澪「どういうこと・・・?」

律「私のためにお前が傷付くことはないって言ってんの。この間は・・・ごめん・・・本当に酷いことをした」

澪「りつ・・・」

律「ごめん・・・ごめん・・・」

そう言って私は澪に抱きついた。
背中に程よい負荷がかかる。
これは澪の腕の感触だろう。

例えばあの日、誤って澪を死なせてしまっていたら?
私はもう二度とこの感触を味わえなかったんだ。
大袈裟なんかじゃない、素人が手首を切るなんて危ないに決まってるんだから。
知らず知らずのうちに手放しそうになっていたものの大切さに漸く気付いて、いつの間にか私は泣いていた。



・・・

・・・


翌日




律「おいーみぃおー」

澪「んぅ・・・んん・・・?」

律「朝」

澪「あぁ、そっか・・・」

律「学校行かないと」

澪「あぁ・・・そう、だな・・・」

律「寝ぼけてんの?」

澪「寝ぼけてないように見えるか・・・?」

律「・・・」プニッ

澪「!!?///」バッ

律「あっはっはっ、今更胸くらいどうってことないだろ?」

澪「・・・いきなりは、さすがに・・・生だったし・・・」

律「生で触られるのが嫌なら早く服着ようぜ?遅刻するぞー?」

澪「あぁ・・・うん・・・」ウトウト

律「起きろってば」モミモミ

澪「んぁ・・・こらぁ・・・!」

律「あれ?起きないのか?」アハハ

澪「誰のせいだ、誰の・・・!」

律「・・・」

澪「り、りつ・・・?」

律「なぁ」

澪「何?」

律「えっと・・・」

澪「いや・・・うん、わかるよ」



・・・

・・・


一時間目終了後



律「はよー」ガラッ

唯「りっちゃん!澪ちゃんも!」

紬「どうしたの?具合でも悪いの?」

律「あー、っと・・・まぁ、そんなところかな」アハハ

澪「あぁ。でももう大丈夫だから」

紬「そう・・・無理はしないでね?」

律「おう、心配かけてごめんな」


まさか朝っぱらからセックスしてました、なんて言えない。
罪悪感がちくりと胸を刺した。

昨日のあの誓いからもう既に二度体を重ねていた。
もちろん、その誓いは守られている。

決めたんだ。
もうこれ以上澪を傷つけないと。

みんなへの挨拶を適当に済ませ、席についた。
そして間もなくチャイムが鳴る。

ノートを開き、教科書を机に置く。
忘れてはいけないのが、真面目な表情。

これだけ用意できたら準備はオーケイ。
あとはこの時間を全て考え事に費やすだけだ。

「……。」

お題は私の欲求の意味について。

だけどそれはとても根の深いもので、
簡単に解決出来るようなものではないのは明白だった。

「……。」

澪をこれ以上傷つけたくない。
あの傷口を無理矢理に広げてそこから滴る血を口に含みたい。

対極にある感情に揺れ動きながら、視線を横に逸らした。
そこに澪の姿が映る。

「……。」

綺麗だな。
あぁ、くそ。

澪と、
澪の中を流れる血潮にぞくりと想いを馳せながら、
そんなことを考えた。



・・・

・・・


放課後、澪の家



澪「律?」

律「ん?」

澪「なんか暗いけど、大丈夫か?」

律「へっ!?暗い?私が?」

澪「あぁ、なんか・・・変だ」

律「そ、そうか?どこが?」

澪「今日の朝から、ずっとだ」

律「・・・気の、せいじゃないか?」

澪「・・・そう、かな」

律「あぁ、きっとそうだ」

澪「・・・」

律「しようぜ」

澪「りっ・・・!ちょ、ちょっと待って」

律「なんで?」

澪「・・・やっぱり、なんか変だよ」

律「・・・」

澪「ねぇ」

律「何か変?笑わせんな、まともな女は女とこんなことしないだろ」

澪「そ、そういう意味じゃ・・・!」

律「っていうか」

澪「・・・」

律「何か変だったら何?ヤっちゃいけない理由になんの?」

澪「ない、よ・・・」

律「じゃあいいだろ」

澪「あぁ・・・りっ・・・!(そうやってムキになるところが『らしくない』って言ってるんだけどな・・・)」



・・・

・・・


数週間後



あの約束をした日から、得体の知れない閉塞感が私を襲うことがある。
いや、もしかしたらずっと襲われっぱなしかも。

頭が痛くなることがある。
目の奥が痛くなることがある。
不意に、何かに噛み付きたい衝動に駆られることがある。
そして、鉄っぽい生臭いあの匂いを口の中から感じることがある。
もちろんそれは錯覚で、私の気のせいだけど。

駄目だ駄目だと自分を律する度にそれに縛り付けられていると思い知らされるんだ。
たった一度のことなのに。
何が私をそこまで駆り立てるんだ?

「……。」

たまに入り込んでくる風が気持ちいい。
ここは保健室。
情けない話だけど、体調不良でこの様だ。
ベッドを占領して申し訳ないけど、あと少しだけこのままでいさせてくれ。
午後には教室に戻るから、さ。


ガラッ


律「・・・?」

?「・・・失礼します」

律「・・・えーと、先生ならいないぞ。会議があるだかで今日は帰った」

?「その声、律?」

律「へ?あれ・・・?もしかして、いちご?」

いちご「・・・そうだけど」

律「そっか、どうしたんだ?」

いちご「・・・サボり?」

律「・・・半分当たり」

いちご「全部だと思うけど」

律「うっせー」

いちご「このカーテン、開けていい?」

律「あぁ、どうぞ」


シャッ


律「んで、いちごはどうしたんだよ?」

いちご「別に」

律「何もなかったらここにはこないだろ」

いちご「律だって何もなかったでしょう?」

律「うっ・・・私のことはいいんだよ」

いちご「別に、大したことじゃないけど」

律「だから何が・・・って、えっ!?」

いちご「大げさ」

律「大袈裟じゃないし!どうしたんだよ、それ!」

いちご「・・・」

律「あーもー!黙ってちゃわかんねぇ!」

いちご「調理実習で、その・・・」

律「まさか、包丁で?」

いちご「・・・///」プイッ

律「いちごって、料理とか駄目なんだ」

いちご「うるさい。私はこのくらい平気だったんだけど、みんなが行けってうるさくて」

律「いやそんだけ血出てりゃ保健室行かせたくなるっての」

いちご「あっそ」

律「あっそじゃなくて・・・とりあえずさ」

いちご「でも先生いないんでしょ?私、戻る」

律「・・・」

グイッ

いちご「!!?」ボフッ

律「行くなよ」

いちご「は、はぁ・・・?」


咄嗟にいちごを引き止めてしまった。
ベッドに座り込みながらいちごはこちらを睨みつけている。
そりゃ、そうなるよな。

いちご「なっ・・・!」

いちごの肩を掴んだ。
苦しそうなうめき声が聞こえたが、そんなものはお構い無し。

いちご「やっ、りつ・・・!」

律「・・・ごめんな」

いちご「ちょっと、いや・・・!」


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