律「おおっ、今日もいっぱい抜けてんなぁ」

午前6時40分、起床。
布団をたたんで片付けたら、すぐに房内の掃除。
10分後の6時50分には点検だから、ちょっと忙しない。

律「なあ。これ、梓の陰毛だろ」

梓「違いますよ」

りっちゃんが毎朝毎朝、飽きる事無く繰り返す話題はいつも体毛の事。
小中学生レベルだよー、まったくもう。
でも、慣れてしまった今となっては日課みたいな感じ。

律「これは唯の陰毛だろ。なあ、そうだよな」スッ

唯「ん~?」ジーッ

唯「違う。私のじゃないよ」プイッ

律「絶対そうだって。ほら」

唯「違うよぉ! 私のじゃないってば!」

どうでもいい事をみんな必死で否定するんだよね。私も含めて。

あ、申し遅れました。私は平沢唯といいます。
見ての通り、この某女子刑務所の214号室に囚人として服役中です。
そして、私と同様に朝の清掃に励んでいる四人。

律「やっぱムギの陰毛はわっかりやすいよな。金髪だし」

掃き掃除をしながら、お決まりの体毛話を振ってくるのが田井中律ちゃん。通称、りっちゃん。
214号室の房長で頼りになる姉御って感じ。顔が広くて面倒見がいいから、他の房でも彼女を
慕う人は多いんだよね。
暴行とか傷害とか、そんなような罪状らしいけど、全然そんな風に見えないなぁ。

澪「もう! マジメにやれ、馬鹿律!」ゴチン

同じく掃き掃除をしながら、りっちゃんに拳骨したのが秋山澪ちゃん。通称、澪ちゃん。
りっちゃんとは刑務所に入る前からの友達らしくて、刑務所の中でも仲良しさん。少し羨ましいな。
罪状は大麻取締法違反、覚醒剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反と、薬物数え役満。
筋金入りのジャンキーさんだね。

紬「あらあら、今日も二人は仲良しさんね」ニコニコ

りっちゃんと澪ちゃんのやり取りを見ながら笑っている拭き掃除担当が琴吹紬ちゃん。通称、ムギちゃん。
大企業の社長令嬢らしくて、いつでもおっとりぽわぽわ。他のみんなのお世話が大好きで、
房のお母さん的存在。
ムギちゃんの罪状は何だか難しくて忘れちゃった。いろんな企業から何億円も騙し取ってたんだって。

梓「何してるんですか、先輩方。あと三分で点検ですよ。早くしないと」

便所掃除を終わらせて、房内の掃除を手伝い始めた彼女は中野梓ちゃん。通称、あずにゃん。
私達五人の中では一番年下で、ここに収監されたのも一番後。だから私達の事は必ず“先輩”って
呼ぶんだよ。気にしなくていいのに。
あずにゃんの場合は長年の間、食い逃げと食料品万引きを繰り返して、被害総額は一千万円以上。
しかも裁判では「生きていく為にやった」って一切反省の色を見せなかったから、刑期は相当
長くなっちゃったみたい。

とまあ、これが私の仲間、214号室の面々。
みんな犯罪者とは思えないくらい、いい人達ばかり。
この刑務所の、この房で本当に良かった。出所まで何とかやっていけそう。

え? 私はどうして刑務所に入る事になったのかって?
私の場合は銃砲刀剣類不法所持と火薬類取締法違反なんだけど…… ん~、その話はまた今度ね。




第一話



さわ子「点検ンンン用ォ~~~意!!」

午前6時50分。今日もさわちゃん刑務官の点検の時間。
ドアの前に五人横一列で、座布団を敷いて正座します。

律「おっと、並ぶか」

唯「正座、正座っと」

梓「しかし、ホントあの人の声ってよく通りますよね。廊下の――」ヒソヒソ

澪「梓、シッ! 交談禁止!」ヒソヒソ

シーン

コツコツコツコツ

さわ子「214号室! 番号ォ!」

律「1!」

澪「2!」

唯「3!」

紬「4!」

梓「5!」

さわ子「はい、おはよう!」

律澪唯紬梓「おはようございます!」

私達の点検は終わったけど、全室終了するまでは、入口前で一列に正座したまま。
でも、りっちゃんは身体がプルプルしてるし、私も動きたくてウズウズしてる。
だって、もうすぐ朝食だもん! フンス

さわ子「点検ンンン終了ォ~~~!!」

の声がかかると同時に!

律「ほいっ、ほいほいっ」パッ パッ

食事席の位置に素早く動かされる座布団!

澪「よいしょ!」ガッチョン

唯「はい!」ドン

電光石火で用意される折りたたみ式テーブル!

梓「これ、律先輩! これ、澪先輩! これ、唯先輩! これ、ムギ先輩!」シャーッ シャーッ

テーブルを滑る五人分の箸箱!

見よ! このスピーディーな連携プレー!
そして、すぐに配食が始まるよ!

配食係「はい、これとこれがB」

紬「はい、B」

配食係「はい、こっちA」

紬「はい、Aです」

廊下の配食係からご飯の器を受け取ったムギちゃんが、私達の方へどんどん回していく。
このAとかBとかは何かというと、実はAの方がご飯の量を多くしてあるのです。
立ち仕事の人はフタに赤い丸が書かれたA、座り仕事の人は青丸のBが当たります。
私もA飯が食べたいなぁ。でも立ち仕事は疲れるから嫌だし……
あ、おかずとお味噌汁は均等だよ。


律澪唯紬梓「いただきまーす」

午前7時00分、やっと朝食。
この日のメニューは、
 麦飯(麦3米7)
 味噌汁(玉葱と切り麩)
 マグロフレーク
 金時豆の佃煮

いきなりあずにゃんが金時豆とマグロフレークをご飯に放り込み、その上からお味噌汁を
ジャバーッとかける。
いわゆる“ねこまんま”。あずにゃんというニックネームの由来になった食べ方。
彼女はこの食べ方が一番好きらしい。
その横では、ムギちゃんが箸につままれた金時豆をウットリと眺めている。

紬「金時豆、甘いからビューよね」パクッ

唯「だねぇ。ビューだよねぇ」

ちなみに「ビュー」というのは「素晴らしい」「すごく良い」って意味らしいよ。方言かなのか
隠語なのか、よくわからないけど。
いずれにしても甘い物が大好きな私としては、その意見に同意だね。

梓「あー。甘納豆、洗面器いっぱい食べたいです」ガシュガシュゾフゾフ

おっ、ここにも同志が。

律「しっかしさぁ、悪事を働いたってのに、こう三度三度美味いメシを出してもらっちゃって
  いいのかねえ。こんなんじゃ張り合いがありゃしねえ」モグモグ

澪「そう思うんなら、感謝と反省を込めて、ありがたくいただけよ」パクパク

律「わかってますって。はあー、それにしても、この美味い麦飯だけは食べずにゃいられねえなぁ」ガツガツ

うん、それも同意。もぐもぐ。



午前7時40分 木工場

さてと、今日も始業の時間。
私のお仕事は鎌倉彫の彫刻。木製のティッシュ箱やゴミ箱、物入れに彫刻刀でキレイな模様を
彫っていきます。
この作業自体はわりと好きなんだけど、この環境があまり、何というか……
あ、りっちゃんが挙手してる。ちょうどいいや。ちょっと見てて。

律「願いまーす」ウィーン ドンドン

さわ子「……」

律「願いまーす!(周りの機械がうるさくて声が届かないよ)」ドォン ガリガリガリ

さわ子「……」

律「願いまぁす!!(ううっ、腹が……)」ウィィイィィイイイン

さわ子「……」

律「願いまぁあああす!!!!」

さわ子「m9(`・ω・´)」ビシッ

律(席から立ち上がったら、静かに歩いて……)スッスッスッ

律(通路の白線の中に入ったら、両手を腰に当てて小走り……)タタタタッ

律(さわちゃんの前まで来たら止まって、白い足形の上に乗って、気をつけ、脱帽、礼)ペコッ

律「用便、願います」

さわ子「何だ、朝済ませてこなかったのか」

律「も、申し訳ありません。急に腹具合が……」プルプル ゴロゴロ

さわ子「なるべく仕事中は行かないようにしろよ」

律(し、身体検査されて……)ポンポン ポンポン

さわ子「よし!」

律(れ、礼して……)ペコッ

律(ぐぁあ、帽子かぶって……)スッ

律(あああ、我慢出来ねえぇえええ! また両手腰で小走りぃいいい!)タタタタッ

律(ぬぅおおおおお!! “大便使用中”の赤い木札持って個室突撃ぃいいいいい!!)バタァン

唯(り、りっちゃん、間に合ったかな……)

唯(というわけで、私はこの『願います』が苦手なんだよね……)

澪「願いまーす!」

紬「願いまーす!」

梓「願いまーす!」

さわ子「m9(`・ω・´)」ビシッ

澪「研磨機、願います!」

さわ子「よし!」

梓「願いまーす!」

紬「願いまーす!」

さわ子「m9(`・ω・´)」ビシッ

梓「作業指導、願います!」

さわ子「よし!」

唯(いちいちさぁ~。もぉ~、やだよぉ~。私、めんどくさいの嫌なのになぁ~……)コツン コロコロ

唯(ああっ! 消しゴム落としちゃった!)

唯「ね、願います……」ウィーン ドンドン

さわ子「……」

唯「願います!」ドォン ガリガリガリ

さわ子「……」

唯「願いまぁす!!」

さわ子「m9(`・ω・´)」ビシッ

唯「けっ、け、消しゴム拾いです!」

さわ子「……よし!」

唯(なんか消しゴムひとつで馬鹿に疲れちゃうなぁ…… 精神的に……)

さわ子「作業やめぇ! 整列!」

唯(はぁ~、やっとお昼だよ)


午前11時00分 食堂

唯「ふぃ~」

律「唯、こっちこっち」

澪「お疲れ」

紬「お疲れ様」

梓「お疲れです」

唯「あう~、お疲れちゃ~ん」

律「しっかし、えらい目にあっちまったぜ。危うく大惨事だよ、ったく」

澪「でもアレだよな。出所してさ、シャバでもつい『願いまーす』って言っちゃいそうな気が
  しないか?」

紬「フフッ、わかるわかる」

梓「一発でムショ帰りってバレますね」

唯「……私、うっかり言っちゃうような気がする」

律澪紬梓(確かに……)

唯『願いまーす! 願いまーす! 三種のチーズ牛丼の並と豚汁、願いまーす!』



午後4時50分 214号室

律「62番!」

澪「124番!」

唯「134番!」

紬「128番!」

梓「222番!」

さわ子「214号室、五名異常無し! はい、ご苦労さん!」

律澪唯紬梓「お疲れ様でした!」

刑務作業が終わって房に戻り、夕方の点検を受けたら、すぐに夕食の配食が始まります。

配食係「はい、春雨スープでーす」

紬「わぁ、今夜の春雨スープはビューですよ~。ほぉら」

律「うは、すっげえ! 春雨が山盛りだ!」

唯「やったぁ!」

配食係「はい、これ最後です」

紬「こっちもビューよぉ。大きいお肉がゴロンと入ったわ」

澪「おっ、それ当たりだな」

唯「はい、当たりの春雨スープはあずにゃんに」

梓「あ、ありがとうございます」ジュルリ


2