AFTER THE AFTER


 そこは、とある公園。

 暖かな春の日、そこにスーツ姿の女性が一人、ベンチに座っては難しい顔で書類を睨んでいた。

女性「本年度の予算また引かれてるなぁ……まったく、役所ももうちょっとだけ現場の人達の事も考えて貰いたいもんよねぇ……これじゃ仕事だって手に付かないわよ…」


声「すみません、お隣、よろしいでしょうか?」

女性「ん……? あ、ええ、すみません……」

 子連れの母親が大きいお腹をさすりながら女の子の手を引き、女性の隣に座る。

 ベンチに座った母親の手を離れた女の子は、笑顔で公園の中を元気に駆けて行った。

 そんな子供の姿を、女性も母親も、優しい目で見守る――。

女の子「ママ―っ! おはなみつけた~♪」

母親「あらあら、あんまり走ると転ぶわよー?」

女の子「だーいじょーぶーっ!」

女性「うふふ、可愛いお子さんですね…」

 書類を戻しながら子供の姿を見て、女性は母親にそう話しかけていた。


母親「ええ……でも、おかげですっかりやんちゃになって……まったく誰に似たのやら……」

女性「幸せそうで、羨ましいですわ」

母親「うふふ……そちらはお仕事、お忙しいですか?」

女性「ええ、今は忙しいですけど……でも、最近になってようやく落ち着いてきたって感じですねぇ」

母親「……もし失礼でなければ、何のお仕事をしているか、伺ってもよろしいかしら?」

女性「あはは……ええ、私これでも、学校で先生をやってるんですよ」

母親「あら……実は私も、数年前まで先生だったんですよ」

女性「それはそれは……何だか奇遇ですね」

母親「……そうですねぇ」

女の子「ねえねえママー、このおばさん、ママのおともだち?」

母親「こーら、そんな失礼な事言っちゃいけません」

女性「うふふ、いいんですよ……私も、もうすっかりオバサンだしね」

母親「すみません……」

女の子「えへへへっ♪」

女性「可愛いわぁ……すみません、良かったらこの子の事、少し抱かせて貰っても宜しいかしら?」

母親「ええ……この子、抱っこ大好きですから、たくさんしてあげて下さい」

女性「じゃ、ちょっと失礼しますね~」

 母親の了承を得た女性は女の子を身体を優しく抱き、その小さな身体を持ち上げる。

 ふんわりと優しい香りが女性を包み、そこに、和やかな光景が生まれて行く……。

女性「よしよし……いいこね~」

母親「どう? お姉さんの抱っこ、気持ちいい?」

女の子「うんっ! えへへへ……ママとおなじにおいがする~♪」

女性「あら、そう?」

女の子「うんっ♪ おばさん、ママみたい♪」

母親「あらあら、この子ったら……」

女性「ママみたい……か、うん……ありがと…」

 そして女性は子供を優しく降ろし、腕時計を見て、荷物をまとめ始めた。


女性「ありがとうございます、ではすみません、仕事の時間が来たので私はこれで……」

母親「では私達も……そろそろ、お家に帰ろっか?」

女の子「うんっ! ばいば~い♪」

女性「うん、じゃあねっ」

母親「ありがとうございました……宜しければ、また、どこかでお会いできるといいですね……♪」

女性「そうですねぇ…………♪」

 そして、 一人の教師と一人の母親……互いに似通った姿の二人は背を向け、歩き出す。


 一人は、忙しくも充実した仕事が待つ職場へ……

 もう一人は、愛情に満ちた、暖かい家族が住む家へ……


女性(頑張ってね……お母さん……)

母親(頑張ってね……先生……)

 ―――それはもしかしたら……違う未来を歩んだ、自分自身の姿だったのかも知れない。

 別々の幸せを見つけ、それを輝かせる為に邁進した二人……その二人は形は違えど、共に大きな幸せを手にした。


 ――何が幸せかは問題じゃない。 どんな結果であろうと、幸せの形に一番なんて存在しない。

 いつでも、どこでも、“一番”は無数にある。


 何故なら……“一番”は、決して……一つではないのだから―――。



さわ子「結婚……かぁ」

おわり