結婚編END AFTER


 それから数年後……


紀美「お、きたきた……」

さわ子「ごめんね、遅れちゃって」

 私は、いつかのファミレスで久方ぶりに紀美と会っていた。


紀美「ううん、いいよ……あら、また大きくなったのね?」

 大きくなった私のお腹をさすりながら、紀美が言う。

 結婚して早数年……ついに念願だった子宝に恵まれ、私もまた、母親として新たな舞台に立とうとしていた。


さわ子「うん、予定日は……来月ぐらいかな?」

紀美「あんたもいよいよ母親かぁ……いやはや、アタシも、そろそろ結婚ぐらい考えないとマズいかなぁ?」

さわ子「そうよ~、でないと年なんて、あっという間に過ぎちゃうんだからね?」

紀美「結婚前まで、結婚するだ仕事を続けるだなんだで悩んでた奴にだけは言われたくないなぁ」

さわ子「あははっ、それもそっか……」

紀美「んで、旦那さんとはあれからどうなのさ?」

さわ子「それが……あの日以来、だいぶ腰が低いのよ……」

紀美「ま……あんだけの大立ち回りをやったら、普通はそうなるか……」

さわ子「まぁね~……」


 ……それは、あの結婚式の後に開かれた、二次会での出来事に遡る。


 紀美にりっちゃん、梓ちゃんら各グループのリーダー同士の提案により、私にお祝いのライブを開いてくれると言う事で、私達は式場近くのライブハウスに移動したのだった。

 ちなみに、会場の観客一同が収容できるそのライブハウスを用意してくれたのは、ムギちゃんと菫ちゃんの二人。

 琴吹家に直々に掛け合ってくれたとの事で、その行動力と家柄にはつくづく驚かされる。


司会「ではここで、新婦と共に青春を歩まれたバンドと、新婦が教職時代に愛を持って育てた二組のバンドによる、合同演奏を始めさせて頂きます!!」

司会「みなさん盛大な拍手でお出迎え下さい、DEATH DEVIL、放課後ティータイム、わかばガールズのご入場です!」

唯「みなさ~ん! 私達が『放課後デスガールズ』でーす!」


 司会の声に応え、楽器を携えた全員が観客の歓声を受け、舞台に上がる。

 三組のバンドによる合同演奏って事もあってか、12人もの人数と楽器が揃ったライブの舞台は、まさに圧巻の一言だった。

 そして一通りのメンバー紹介を終え、新旧が入れ混じった、新たな軽音部による演奏が始まろうとしていた。


 ……って言うか『放課後デスガールズ』って言うのはどうなの、唯ちゃん。

唯「今日は、さわ子先生の為に私達、精一杯歌います!」

クリス「っしゃあ!! 一曲目から飛ばして行くぞ!! まずは『光』ッッ!!」

律「ワンツースリーフォーワンツースリー!!」


 ――――ッッ♪ ―――♪

唯「何があるかなんてわかんない そんな最高のシチュエーション……!!」


 紀美の声に合わせ、唯ちゃんが精いっぱいの声を張り上げる。

 ……まさかあの子達がメタルをここまで完璧に演奏するなんて………成長したのね、みんな……。


 ――演奏は続く。

 ふわふわ時間、U&I、ラヴ、GENOM……私の思い出の名曲が、彼女達の演奏で次々と蘇る。


声「きゃあーーっっ!! DEATH DEVILかっこいいい~~!!」

声「澪ー!唯ーー!! また歌ってくれてありがとーー!放課後ティータイムさいこ~~~!!」

声「わかばガールズも素敵よ~!! 憂ちゃん、純ちゃん!梓ちゃん! みんな頑張って~~~っっっ!!」

 背後の歓声に合わせ、彼女達の演奏を聴いていく内に、私の中にも熱が宿って来る………。


さわ子(だめよ今日は……この人の前で、この人の家族の前で……私も歌いたいなんて……思っちゃダメ……!)

男「なんか……すごいな……」

さわ子「……やっぱり、メタルは苦手?」

男「ううん……確かにあまり聴きなれてなかったけど……でも、大丈夫だよ」


 ……彼は今まで落ち着いたクラシックを好んで聴いていた。

 その反面、メタルとかロック等の激しい曲に対し、苦手意識があったと言ってたっけ。

 でも、付き合いを重ねるうちにそれもだいぶ取れ、軽いロックぐらいなら私に合わせて少しづつ聴いてくれるようになったんだった。


さわ子(……歌いたい…………)

 ……だめだ……心がうずく……。

 いけないって分かっていても、止められない……!

 でもここで歌うなんて……できっこない!

 そうして悶々とした気持ちのまま私は紀美たちの歌を聴いていた……その時だ。

クリス「ここで真打の登場だ!! 来い!! キャサリンッッ!!」

さわ子「……へ?」

 突如、舞台上のクリスティーナが私に向かい、手を差し伸べる。


唯「さわちゃ……ううん、キャサリン!! キャサリンも歌おうよ!」

律「そうだよキャサリン! やっぱここには、キャサリンがいなきゃダメだよ!!」

さわ子「みんな何を言って……ていうか私は新婦よ? そんな……歌えるわけがないじゃない!」

梓「でも、キャサリンが歌いたがってるの、私達舞台からずっと見てましたよ!!」

直「私達、もう一度先生の歌が聴きたいんです!」

純「お願いします、キャサリン!!」

 舞台上のみんなが私を呼ぶ……けど、やっぱり無理だ……みんなの気持ちは嬉しいけど……!

 でも、あああ……歌いたい…!! 歌いたい歌いたい!! 私も……舞台に上がって……みんなと歌いたい……!!


クリス「やれやれ………」

クリス「テメェラーーー!! なんか照れて奥に引っ込んでるチキンがいっから、アタシらで呼ぶぞぉぉぉ!!」

観客「―――おおおおっっっっっっ!!!!!!!」

唯「キャサリン! キャサリン! キャサリン!!」

声「――キャサリン!キャサリン!キャサリン!!!!」

声「さわ子歌ってぇぇ!! 私達、やっぱりさわ子の歌も聴きたい!!」

声「先生~~!!! お願いします!! 舞台に上がってくださいーーっっ!」

さわ子「みんな……」

 次第に会場を包むキャサリンコール。

 それは、この場の大勢の人達が、私の歌を心待ちにしてると言う何よりの証でもあった。


さわ子「……みんな……………」

男「さわ子……行ってきなよ」

さわ子「あなた……でも、私は……」

男「僕も聴いてみたい、さわ子の歌を……さわ子の……青春を、見てみたいんだ……」

さわ子「………………」

 彼が、言ってくれた。

 私の歌を聴きたいと、言ってくれた……。


さわ子「もう……仕方ないわね」

さわ子「ええ……あなたにも聴いて欲しい、私の歌を……!」

男「ああ、楽しみにしてる」

さわ子「じゃあ、行ってくるわね……♪」

男「うん、頑張れー! さわ子ーー!!」

 彼の声援に後押しされるように私は立ち上がり、舞台に上がる。


声「――きゃああぁぁ!! さわ子~~~~!! 頑張ってーーーー!!!」

クリス「……来たね、キャサリン」

さわ子「もう、私を舞台に上げた以上、どうなっても知らないわよ?」

唯「うんっ! それでこそ私達の先輩で、先生だね♪」

憂・純「先生、よろしくお願いします!」

菫「が……頑張ります!」

さわ子「全力で行くから、振り落とされないでよ、みんな!」

一同「――はいっ!!」

 沸き上がる大量の歓声の中、みんなが用意してくれたギターを構えた私は、精一杯の声を張り上げた。


キャサリン「テメエらに祝われて………アタシャ最ッッッッ高に気分がいいぜええええええッッッ!!!!!」

キャサリン「行くぜええええーーー!!!! アタシ達の歌を聴けェェェェーーーッッッ!!!」

「――きゃああああっっっっ!!!先生かっこいいいいいいい!!!!!」


クリス「テメエラもっとアゲろーーーーーっっっ!!! 夜はまだまだこっからだああああーー!!!!」

キャサリン「ウオオォォォォォォォォーーッッッ!!!!!!!!」

堀込「……まったくあいつは……」

和「でも、先生……すごく楽しそうですね♪」

堀込「……どうにもしとやかには行かんわな……あいつは……」

信代「とか何とか言って、先生もホントは嬉しいくせに~」

堀込「…何を言うか、そんなの……言うまでも無かろう」


男(さわ子かっこいいけど……ちょっと…こわいなぁ……)

和「……旦那さん、やっぱり少し引いてる……」


キャサリン「そこのボブぅ……ソコノ素足ぃ…………そこの……ダンナぁぁぁ!!」

男「ぎくっ…えっと……ぼ、僕の事?」

キャサリン「そうだよテメェ!! 立ってノれええぇ!! テメェはアタシのダンナだろうがよおおお!!!!!」

男「は……はい!!」

唯「あははは……さわちゃんやっちゃってるねぇ……」

澪「でも……それでこそ私達の先生だ」

紬「やっぱり、私達の先生は…」

律「こうでなくっちゃ……な♪」

梓「えへへへ……♪」

 私は歌う。 声を張り上げ……歌う。

 輝きを失わぬよう……未来を導くように歌う。

 この場の全員に…私達の幸せを約束するように……それから私は、一心不乱に歌い続けたのだった―――。

―――――――――――――――

紀美「それから、すっかり旦那はあんたに頭が上がらなくなったと」

さわ子「まぁそんなところ………はぁ……ほんとはこうじゃなかったのになぁ……」

紀美「はっはっは!! 今更無理だって、あんたにおしとやかなんて……似合わないよ」

さわ子「もう、紀美ったら~」

紀美「……いいじゃないの、それでも受け入れてくれる旦那ができてさ」

さわ子「……まぁ……そうよね……」


 ふふふと笑みを浮かべ、私は笑う。

 それに釣られるように、紀美もまた笑顔で応えてくれた。


紀美「じゃ、そろそろ行くか」

さわ子「ええ……そうね……っと……!」


 ――がたっ!

 足元がふらつき、思わず転びそうになったが、咄嗟の所でそれを堪える。


紀美「だ、だいじょーぶ? あんま無茶しないでよ?」

さわ子「だ、大丈夫よ…………ゔ……っ!」


 その時、ある違和感が私のお腹を襲う……いや、この痛みは……!


さわ子「痛い……!! 痛い痛い痛い!!!!」

紀美「ど、どうしたのさわ子? さわ子??」

さわ子「やばい……う……産まれるかも……」

紀美「はぁ?? マジで言ってんのアンタ?」

さわ子「うん……かなりマジ……っつぅ! 痛っ……痛たたたっっ!!!」

 今まで感じたこともないぐらいお腹が痛い……予定日まだ先なのに……もう来たか……!


さわ子「ごめん、ホントに出そう……!!」

紀美「ちょちょちょちょっと待ってよ……! す、すみません!誰か救急車!! 救急車をーーー!!!」

さわ子「だめぇぇ~~、誰か……助けてえええ!!」

店員「お、お客様!! どうかなさいましたか!?」

紀美「いいから救急車! 救急車ーーっ!」


さわ子「う~ま~れ~る~~!!」


――たとえ激痛に苛まれても、私はそれが嬉しかった。

 だって、その痛みの中で私は感じられたのだから……。

 あの人の夢と、私の幸せ……その全部が、もうすぐ産まれて来てくれる事を…感じられたから。

 痛みと共に幸せが芽吹いて行く……私と彼の……大切な未来が……もうすぐ、ここに……!


 ―――私達は歩き出す。

 愛する夫と、愛しい我が子と共に。

 輝きに満ちた未来へ……幸せな家庭を築く為に……


 妻として……また、母として……

 私は、果てしない幸せな日々を生きるのだった……。


さわ子「結婚……かぁ」結婚編

おしまい



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