さわ子「………ふつつかな女ですが、よろしくお願いします……」

 私は、彼の言葉にそっと頷いた……。


 それから………2年の月日が流れた。

―――――――――――――――――

母「うん、着付けは大丈夫ね」

さわ子「母さんったら、そんなに何度も確認しなくっても大丈夫だって……」

母「なーに言ってんの、せっかくの娘の晴れ舞台なんだから、これくらいさせてちょうだい」

さわ子「はーいはい……」

 眼前の鏡を見る。


さわ子「………」

 鏡の向こうには、純白のウェディングドレスに身を包んだ私がいる。


 ……今日は、待ちに待った結婚式。

 私の、一世一代の晴れ舞台。

 私が、愛する彼と結ばれる、大事な日……。


紀美「よ~っすさわ子、みんな連れて来たよ~」

さわ子「紀美久しぶりー、来てくれてうれしいわー」

紀美「せっかくのあんたの結婚式だもん、たとえ仕事ブッチしてでも行くっつーのっ」

 控室に入ってくれた紀美を出迎える。

 その紀美の後ろには、かつての仲間のデラやジェーン、ジャニス達の姿も見えた。


デラ「さわ子おめでとう~、そのドレス、すっごく綺麗だよ」

ジェーン「まさかさわ子に先を越されるとは思わなかったなぁ~……でも、ほんと綺麗だねぇ……」

ジャニス「招待状が来た時はびっくりしたわー、まさかさわ子が、あーんなに素敵な男性と結ばれるなんてねぇ」

ミホコ「さわ子、結婚おめでとう~、これで私と同じだね~、結婚生活で困ったことがあったら、いつでも相談してくれていいからね?」


さわ子「みんなありがとう、こうしてみんなと再会できて、私もすっごく嬉しいわ」

紀美「ほい、喉渇いてると思ったからジュース買って来たよ、口紅乱れるから、ちゃんとストロー使って飲みなさいよ?」

さわ子「うんありがと、助かるー」

 紀美のジュースを受け取り、早速ストローで頂く。

 爽やかな果汁の風味が口の中に広がり、緊張で硬くなった気が少しだけ休まる気がした。


紀美「いやぁ~……しっかし、ホントに変わったよねぇ、さわ子もさ…」

さわ子「そんなに意外? 私のウェディングドレス姿」

一同「うん」

 まるで合わせたかのように揃って声を上げるみんなだった。


さわ子「……あんた達ねぇ……」

デラ「やっぱさわ子っつったらあれだよ、ド派手な衣装に観客を唸らせるあのデスボイスで……」

ジェーン「前みたいに、『お前らが来るのを待っていたー!』ってやってよ、その格好でっ」

さわ子「嫌よ、ぜーったいにやりません」

一同「あははははっっ」

 少しだけ、私は紀美たちと昔を懐かしみつつ談笑する。

 それが懐かしくて……嬉しくて……、今日来てくれたみんなに、私は何度も感謝をしていた。


 そして、少ししたその時、控室のドアが勢いよく開かれた。


 ――ガチャッ!

声「さわちゃんおめでと~~~~!!!」

声「おい唯、あんまりはしゃぐな…」

声「そうでうよ先輩、少しは落ち着いて下さい」

声「えへへ……だってだってぇ~♪」

さわ子「この声は……」

 声と共に控室に大勢の人が部屋になだれ込んで来る。

 そこには、スーツ姿の唯ちゃんや澪ちゃんや梓ちゃん、憂ちゃん達や、制服姿の菫ちゃんに直ちゃん……他にも大勢の、私がかつて教鞭を振るっていた頃に請け負った生徒がいた。

さわ子「みんな……来てくれてありがとね」

唯「わぁぁ……先生、すっごく綺麗っ!」

律「少し見ない間に見違えたっつーか……この人本当にさわちゃんか?」

梓「し、失礼ですよ律先輩……」

澪「今日は良い写真、取れそうだなぁ……」

紬「ええ、素敵な結婚式になりそうねぇ~」

さわ子「……あなた達も相変わらずねぇ、でも、来てくれて嬉しいわ、ありがとうね」

 唯ちゃん達も特に変わりがないようで安心する。

 澪ちゃんに聞けば、みんな高校時代に比べて演奏も一層上手になり、それなりに明るい大学生活を送っているらしい。

 彼女達のかつての担任としては、鼻が高いと思える話だ。

和「先生、ご結婚おめでとうございます」

憂「先生おめでとうございます♪ 私もこうして、またみんなに会えて嬉しいなぁ…♪」

純「うんうん、みんな卒業してから、なかなか会えなかったもんねー」

和「唯にも久々に会ったけど……みんな相変わらずねぇ」

憂「でもお姉ちゃん、高校生の頃に比べてすっごく綺麗になったんだよ?」

和「憂も、そう言う所は変わってないわねぇ」

憂「えへへへ…♪」


菫「先生、おめでとうございますっ!」

直「私達……先生には一年しか教えてもらえませんでしたけど……今でもはっきり覚えてます、先生に教えてもらった事……たくさん……」

紬「そっか……菫ちゃん達は、一年だけさわ子先生に教えて貰ってたのよね?」

さわ子「ごめんなさい、あなた達の事、最後まで見てあげられなくて……」

菫「いいんですよ……私達もいつまでも、さわ子先生に頼ってばかりいられませんから」

梓「それから軽音部はどう? 新入部員とか、顧問の先生とか来てくれた?」

菫「はい、なんとか新入部員も入ってくれて元気に活動やってます、顧問の先生も決まったんですよ♪」

さわ子「うふふふっ、それは良かったわねぇ♪」

律「んで、誰が顧問になったの?」

堀込「私だ」

 りっちゃんの声に脇から堀込先生が顔を覗かせ、返事をする。

 その姿に、みんなが驚きの声をあげた。


純「え……? ほ、堀込……先生が??」

律「えええええ!!! 嘘だろ、なんで……??」

紀美「てか……堀センまだいたの??」

 予想外の人物の登場に、私以外のその場のみんなが固まる。

 まさか、この人が軽音部の顧問になってくれるなんて……誰しもが思わなかっただろう。

堀込「河口、お前もその口の悪さは変わっとらんな」

デラ「でもなんで? ホリーが軽音部の顧問に……」

堀込「こほん、まぁ、山中から頼まれてな」

さわ子「うん……私達やりっちゃん達がどんな音楽をやってたのかを知ってる先生と言えば、もう堀込先生ぐらいしかいないと思ったからね……」

さわ子「だから退職する直前に私、先生に頭下げてお願いしたのよ」


堀込「ま、音楽は専門外じゃから山中のように教えてはやれんが、こっちも教員歴は長い、顧問ぐらいなら何てことないわ」

直「えへへへ……私知ってるんですよ、先生、最近になってバンドの音楽聴いてくれてるの」

堀込「これ奥田、余計な事を言うなっ」


律「カタブツの先生が……なんかすっげー意外だな……」

堀込「……せっかくの教え子の晴れ舞台だしな、山中……あんまり派手をやるなよ?」

さわ子「大丈夫ですよ、もう昔みたいな無茶、できませんから……」

紬「堀込先生もさわ子先生も……すごく嬉しそうねぇ」

和「堀込先生からすれば、かつての教え子であり、また後輩……山中先生からすればその恩師で大先輩だからね」

澪「お互いに、嬉しくないなんてわけないよなぁ」

さわ子「……私がいなくても、軽音部、大丈夫そうね…………」


エリ「先生~♪ 写真、一緒に撮ろうよ」

三花「エリずるい~! 次は私も~!」

姫子「じゃあ、みんなで一緒に撮ろっか?」

いちご「……賛成」


さわ子「もーあなた達は……委員長さ~ん、みんなをまとめて~」

和「やれやれ……みんなー、あんまし先生を動かさないのー、せっかくのドレスが乱れるでしょー?」

「はーいっ!」

律「さすが元生徒会長、上手くまとめたなぁ」

澪「和も、変わってないなぁ」

さわ子「みんな、本当に昔のまんまねぇ」


 そうこうしてみんなのやり取りを見ていた時、彼が控室を訪ねてくれた。


男「さわ子ー、そろそろ時間だよーって……わ、すごい人数……」

紀美「お、新郎の登場だ」


唯「か……かっこいい旦那さんだねぇ~」

律「なんか……さわちゃんには勿体ない気がするな……」

紬「素敵な旦那様ですねぇ…」

さわ子「へへん、どうよ? 彼が私のステキな旦那様よ?」

紀美「おーおーごちそう様、新婦のヤツ、デレデレとノロケてんな」


男「……な、なんだか照れるなぁ」

 みんなが彼を見ては驚きと、絶賛の声を上げている。

 それを見て少しだけ、優越感に浸る私だった。

さわ子「あなたにも紹介するわね、ここにいるみんなが、私の大事な教え子と…その仲間よ」


男「あ、ああ……さわ子の夫です、みなさん、よろしくお願いしますっ」

純「……しかも、すっごく紳士的……」

憂「こんなに素敵な旦那さんと結婚出来て……さわ子先生、幸せだね♪」


堀込「……ほーれみんな、そろそろ会場に行くぞ?」

和「みんなー、他のお客さんの邪魔にならない様にね~」

「はーいっ!」


 堀込先生が扇動し、それを和ちゃんが誘導する。

 それはさながら、学校行事の団体行動かのようだ。

 かつての懐かしい光景が頭をよぎり、ふと昔を思い出す。


紀美「じゃあさわ子、またあとでね」

唯「式が終わった後に私達、紀美さんやあずにゃん達みんなで演奏するんだ、楽しみにしててね~♪」

梓「さ、私達も早く行きましょう」

さわ子「ええ、それじゃあまたねー」


 ――バタンッ

 扉が閉まり、控室に彼と二人っきりになる。

 騒がしかった先程と一変し、静かな時が、私と彼の間に流れて行く……。


さわ子「みんな、来てくれてありがとう……」

男「みんな、さわ子の事が大好きなんだよ」

さわ子「あなた……」


 彼と二人っきりか……。

 それはこの二年間で何度もあった事だけど……今日は、より特別な気持ちでいられるな……。


男「さわ子……すごく、綺麗だよ……」

 若干顔を赤めながら、でも、とても強い眼差しで、彼が私を見ながら言ってくれる。


さわ子「ありがとう……あなたも、今日は一段と立派よ……」

男「絶対に幸せにするよ……僕の為に君が教師を辞めてくれた事……後悔なんて絶対にさせない」

さわ子「うん………お願い………」

男「ずっと一緒だよ……さわ子……」

さわ子「……ありがとう……私も……よ……」

さわ子「いつまでもずっと……あなたの傍にいるわ……」


 そっと、彼が私に口づける。

 私も、目を閉じて、彼の口づけを受け入れる。

 うん……大丈夫……。


 この人となら……私は……大丈夫………。

 教師を辞めた事は確かに、今も心の端に残ってはいるけど……彼となら、私は大丈夫……。

 私の苦悩を誰よりも傍で受け入れ、私を支えてくれた彼となら……絶対に…………。


 ――長い口づけの後、彼が私の手を引いてくれた。


男「行こう……」

さわ子「ええ……」

 彼の手をしっかりと掴み、私は歩く。

 そして……大勢の歓声に包まれる中、私と彼の結婚式が始まったのだった…………。

―――――――――――――――――

 式は順調に進んで行く。

 挨拶に始まり、ケーキカット、新郎新婦の友人によるスピーチ、生徒全員の合唱……。

 そして、指輪の交換……ブーケトス。


 それらに笑い、時に泣き……私と彼は、その素晴らしい一時を噛みしめるように過ごしていた。

 みんなには、一生かけても感謝しきれない。

 ありがとう……みんな……。

 彼と私の為に……本当に……ありがとう―――!!


 ――そして、そんな賑やかで幸せな一時も、気付けば既にフィナーレに差し掛かって行ったのだった。


司会「それでは、新郎新婦の退場です、みなさん、お二人の門出を、盛大な拍手でお見送りください!!」


 ―――ワーワーワーワー!!――パチパチパチパチ!!

 式場を大きな拍手と歓声が包み、私は彼と共に、ゆっくりと歩み出す。

 出口へ向かう彼と私に、大勢の生徒や仲間から、祝福の言葉が送られる。

唯「さわちゃーーんっっ!! おめでとーーーーっっ!!!」

律「さわちゃんおめでとーー!!! キレても旦那さんに怪我とかさせんなよ~!」

澪「写真は現像したら送ります!! 先生ありがとうございましたーー!! お幸せにーー!!」

紬「お二人ともおめでとうございます!! いつか、みんなでお家に遊びに行きますね~!」

梓「先生今までありがとうございました!!! たくさん幸せになって下さーい!」

憂「先生おめでとうございますっ! 今度また、私達の演奏も聴きに来てくださいっっ!!!」

純「その時は先輩達も一緒です! 絶対に、絶対に聴きに来てくださーいっっ!!」

紀美「さわ子ーー!! 幸せにねーーー!!」

エリ「旦那さんもかっこいいですよー!! さわ子先生の事、幸せにして下さーい!!」

姫子「私達、先生の生徒でホントに良かったです!! お二人とも、お幸せにーー!!」


「――おめでとうございます!! お幸せにーーーっっっ!!」

 たくさんの歓声と祝福が私達を包む……。

 一歩一歩……私達は歩く。


 ―――彼と共に……輝く未来へ……。


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