紀美「じゃー、メリークリスマース!」

さわ子「メリークリスマース」

 ――カンっ!

 私と紀美はグラスを交わし、乾杯をする。

 コタツの上には大鍋がどっかりと陣取り、脇にはケーキにつまみに酒瓶が並ぶ。

 適当につけたテレビもそう、サンタの格好をしたお笑い芸人がどこかで見たようなネタをやっていたりで、普段一人で過ごす私の居間は、いかにもな宅飲み場と化していた。


紀美「しかし、すごい量だね、こりゃあ……」

さわ子「あはは……やーっぱり作りすぎちゃったわよねぇ」

 まー、勝手に大人数が来る事を予想して作った鍋だし、こりゃー明日まで絶対に余るだろうなぁ……。

 なんて事を思いながら、私と紀美は酒を煽っては鍋に箸をつけて行く。

 ……うん、我ながら熱々のスープにトマトの酸味が効いて、それが酒によく合う味だと思う。

 もしも居酒屋で出るんなら、それなりに値の張るメニューになるだろうなぁと、そんな勝手な事を考える私だった。


紀美「うん、この鍋なかなかイケるよ、さわ子」

さわ子「ありがと、これでも結構味付けとかこだわってみたのよ……あ、そっちのお酒もう一本取って貰っていい?」

紀美「はいよ、注いであげる」

さわ子「ありがと」

 トクトクとグラスに注がれるワインを一気に飲み干す。

 酸味とアルコールが少々キツいが、でもどこか上品な味わいがして、実に美味しいと思えるワインだった。

紀美「おーおー、行くねぇ…」

さわ子「今日ぐらいは…ひっく……特別よ~」

紀美「あはは、じゃあアタシもいただくよ」

さわ子「はい、じゃあ今度は私が……」

 手頃な瓶を開け、紀美のグラスにその中身を注ぐ。

紀美「って……あんたそれウイスキー! しかも割る用のヤツ!」

さわ子「あれ? あーごめんごめん、間違えちった♪」

紀美「お前はアタシにそれを飲めってか……」

さわ子「だいじょーぶだいじょーぶ、紀美ならイケるって♪」

紀美「さわ子、酔うの早すぎだっつーの」

さわ子「あははは、今日ぐらいはいいじゃないの♪」

紀美「ま、いっか……」

 並々と注がれた琥珀色のウイスキーを、紀美は一気に口に流し込む。


紀美「………くううう……!!…うん、やっぱしキツい!」

 ウイスキーを飲み干し、そのアルコールに一気に顔を赤める紀美だった。


さわ子「ぷっ、紀美顔真っ赤~」

紀美「だーれのせいだだれの」

さわ子「それ、もうひとこえー」

紀美「だ~~~、もう、あんたは~~」

さわ子「なーんで持ってんの?」

紀美「ネタが古い! ……ええい、もう知らないわよ、どうなっても!」

 そして再び紀美はグラスの中身を一気に飲み干す。


紀美「っっっはぁぁ!! もー無理! 絶ッッ対無理!!」

 さっきよりも一層顔を赤くし、紀美は息を切らしていた。


さわ子「あはははっっ、あ~楽しい~~♪ こんなに楽しいの久々~♪」

紀美「まったく……まぁ私も、こんなに楽しく飲むのも久しぶりかも」

さわ子「紀美を誘って正解だったわよ、ありがとね」

紀美「こっちこそ、声かけてくれてありがと、さわ子♪」

さわ子「あはは、どういたしまして……♪」

 賑やかな声が部屋に響く。

 こうして、私達の密やかなクリスマス会は進んで行ったのだった……。

――――――――――――――――――

 酒のペースも進み、私達の話は途切れることなく進んでいく。

 お互いの仕事の愚痴に、私の受け持つ軽音部の話、学生時代の頃の思い出話に……恋愛の話……。

 女二人とはいえ、ことこの手の話題は幾つになっても尽きないものだった。


さわ子「しかし……来てくれたのが紀美だけとはねぇ……みんな、それなりに充実してるのねぇ~」

紀美「まー、みんないい歳してるからねぇ」

さわ子「私達もそれと同じ歳なんだけど」

紀美「ま、それもそっか……」

さわ子「そうそう、ウチの母さんなんだけどさぁ」

紀美「お母さんと何かあったの?」

さわ子「うん、昨日も久々に電話かかってきたと思ったら、やれ『早く結婚しろー』だの、『他の親戚は子供がいるのに』だのってさ~」

紀美「ははは、そりゃ災難だったねぇ」

さわ子「まーったくいつまで経ってもお節介なんだから、うっさいったりゃありゃしないっつーの……」

紀美「きっとお母さんも心配してるんだよ、さわ子の事さ」

さわ子「心配って言うか、老婆心ってやつでしょ、まさに」

紀美「……いいじゃないの、そうやって、独立しても娘の将来の事心配してくれる親がいるってさ」

さわ子「紀美……」

紀美「アタシはさ、散々勝手やって、んで、勢いで家飛び出してきたよーなもんだからねぇ」

 そう、タバコの煙をくゆらせながら、紀美は遠い目で言う。


紀美「全然実家にも帰ってないし、そーやって気兼ねなく実家に電話できるさわ子の事、少しだけ羨ましいと思うよ」

さわ子「……ごめん」

紀美「いいっていいって。 あ、それよりもあんた、次の彼氏はどーすんのさ?」

さわ子「彼氏なんて全然よ、今は仕事でそれどころじゃないわ」

紀美「ま、初の担任で3年生なんか受け持っちゃ、そんな余裕あるわけない……か」

紀美「……一応さわ子の好みのタイプで紹介できる男ならアタシ何人か知ってるから、落ち着いたらいつでも話してくれていいからね」

さわ子「うん、ありがとね……」

 紀美の言葉がちくりと胸を刺す。

 やっぱり心配、かけてるのかな。


紀美「なーに落ちてんの、せっかくのクリスマスなんだし、今日は楽しく飲も! ほら、あんたもコレ飲む!」

さわ子「それウイスキー……しかも割ってないでしょ」

紀美「ふふふ、さっきの仕返しだ」

さわ子「おーおー、やったろーじゃないの!」

 紀美の注いだウイスキーを勢いに任せて一気に飲み干す。

 ……あまりのアルコールの濃さに若干視界がふらつくが、もう気になんてしていられなかった。

さわ子「えっぷ……っっ! き……今日は飲みまくるわよー!」

紀美「いい飲みっぷりだねぇ♪ おうよ、行ったれキャサリン!」

さわ子「おうよクリスティーナ! メリークリスマーース!!」

紀美「メリークリスマース!」


 ………二人の飲み会は続く。

 寂しさを酒と一緒に飲み込むように、私達は次々とグラスを空けて行く。

 明日も休みだし、今日は二日酔いの事なんか気にせずに飲んでやろう。

 それが、気を使って来てくれた紀美への、私に出来る恩返しだと思うから……。

 だから飲む、とにかく私は飲む。 飲んで飲んで……飲み潰れて……そして、そのまま眠りについていた。


さわ子「んん……らい…ねん……来年こそは、かっこいい男と迎えてやるんだからぁぁ……」


さわ子「まってなさいよぉ……らいえんの……くりふまふぅぅ……」


――――――――――――――――――

 それから1週間。

 年も明け、新年になった日の昼ごろ、私は久々に実家に顔を出していた。


さわ子「ただいまー、明けましておめでとー」

母「ああ、おかえりさわ子、あけましておめでとうね」

 久方ぶりに訪れた実家の戸を開けると、母が出迎えに来てくれていた。


さわ子「この時期はやっぱりどこもかしこも混んでるわね~、車がちっとも進みやしないわ、あはは」

母「お正月だし仕方ないわよ、荷物、部屋まで持ってくわよ?」

さわ子「うん、ありがと」

母「おばさん達、もう来てるからしっかり挨拶なさいよー?」

さわ子「はーい…って……いつまでも子供扱いしないでよー」

 そして母に荷物を渡し、居間に向かう。

 居間にはテレビを見ながらくつろぐ父と、伯父一家の姿が見えた。

父「さわ子、おかえり」

伯父「さわちゃん久しぶりー、また綺麗になったなぁ~」

伯母「さわ子ちゃんやっほー、元気だった?」

さわ子「お久しぶりです皆さん、明けましておめでとうございます」

 そして恒例の挨拶を済ませ、私も団欒に加わる事にしたのだった。


さわ子「父さんも久しぶり、変わりはない?」

父「ああ、おかげさまで、元気でやってるよ」

さわ子「うんうん、相変わらず元気そうで安心したわ」

伯父「さわちゃんは確か……今高校で先生をやってるんだったっけ?」

さわ子「ええ、去年初めて担任を受け持ったんですよ」

父「仕事はどうだ? 順調か?」

さわ子「ん~、さすがに3年生は大変よ、みんな揃ってやんちゃなんだから」

伯父「はっはっは、さわちゃんも昔はそうだったからなぁ」

さわ子「私はもうちょっと落ち着いてましたよー……たぶんだけど……」

一同「ははははっ、よく言うわ」

さわ子「もー、久しぶりに会ったんだしいきなりいじめなくてもいいでしょー?」


 そんな感じで、久方ぶりに山中家一同が集うお正月が始まった。

 およそ10数年ぶりの、親戚揃っての団欒の一時。

 正月ぐらいしか家に帰る事は無かったし、何よりも普段一人の日が多いせいか、団欒の空気がとても落ち着く。


 ―――やっぱり、家族っていいもんだなぁ……。


 そして、母と伯母の作ったおせちが広げられ、新年の挨拶が交わされた。

さわ子「はいこれ、お年玉よ?」

姪「わーい♪」

 姪っ子にお年玉袋を渡す。

 考えに考えた結果、少し奮発してしまったけど、姪っ子のその元気な笑顔を見ると、あれぐらいでも良かったかなと私は思っていた。

 うん、これで良かったのだろう、きっと。


伯母「さわ子ちゃんありがとうねぇ、わざわざお年玉まで用意してくれて」

さわ子「いいんですよ、叔父さんにも子供の頃はよく頂いてましたから」

伯父「ありがとうさわちゃん。 そっかぁ、さわちゃんももう貰う側じゃなくて、あげる歳になったのか」

さわ子「そうなっちゃいましたねぇ……あははは」

母「これからは毎年あげないとね、子供も増えるだろうし、毎年大変になるわよ?」

さわ子「あはははは……まぁ、大丈夫っしょ」

伯父「っはっはっは! 大人になるってのは、大変だからねぇ~」

――――――――――――――――――

 お酒も程よく進み、団欒の一時は続いて行く。

 私も可愛い姪っ子と存分に遊んだりで、久々の団欒を十分に満喫していた。

 ――そんな時だった。 母が持って来た年賀状から、それが起こったのは。


母「年賀状届いてるわよ、ほら、お爺ちゃん達といとこのみんなからも」

さわ子「懐かしい~、みんな元気かしら?」

父「こっちは母さんの実家だな……おお、あちらさんの長男の娘さん、また子供生まれたって」

母「こっちはお父さんの同級生からねぇ、あら、あちらの息子さんも、去年の秋に結婚したそうね?」

さわ子「…………」

 ……なーんか、まずい気がする。

 第六感と言うべきだろう、話が嫌な方向に進んでるような、そんな予感が全身に感じられた。

 そして、それは伯父のある言葉から確信へと変わった。


伯父「そーいや、さわちゃんもそろそろじゃないのかい?」

伯母「あなた……」

さわ子「えっと……な、何がでしょう?」

伯父「いや、確かさわちゃんももうそろそろ良い歳なんだし、結婚相手の一人や二人ぐらい……」

さわ子「…………」

 ……やっぱり来たか、この話……。

 ここ最近かなりの頻度で聞かれてる気がするが、それは私の考えすぎか?


母「そうなんですよ~、まったくこの子ったら、全然それらしい事言わないで……」

父「んー、確かに……さわ子もそろそろ、そういうのを考える歳ではあるよなぁ」

 それに便乗するように、母も父もその話題を口にする。

 こりゃ、もう誤魔化しきれるような状態じゃないな……


さわ子「あの……私はまだ結婚とかそういうのは……」

さわ子「今の仕事だって充実してるし、まだ結婚は早いって言うか……その……」

母「だめよ~、そうやって仕事仕事だと、あんた本当に行き遅れるわよ?」

 母も父も……特に母はそうだ、頭の硬い古風な家柄のせいか、いつまでもその古い考えが拭い切れていないでいた。

 『女は外で仕事をするよりも家で家事をし、子供の面倒を見る』 という古風な考え……別にその考えを悪く言うつもりは無い……けど。

 私も、もうそこまで親の言いなりになる様な歳じゃない。 自分の人生ぐらい、自分できっちりと責任を持って生きたい。


 ……母の気持ちも確かに分かる。

 そんな古風な家系だからこそ母も、その母の兄弟姉妹も、みんな二十歳の初め頃には結婚しては子供を産んでたし……

 その考えを基準にすれば、20後半で結婚もせずに仕事に打ち込んでる私は、その面では確かに心配されても仕方無いだろう……。


 それに、以前紀美に言われた通り、父も母も、私の将来を心配してくれているのも確かに分かる。 ……大きなお世話ではあるが。

 でも、だからこそ……そんな両親の心配を無下に扱えるほど、親不孝にはなり切れない私だった……。

 それに、私自身も、ここ最近の友達の事とかもあり、確かに焦りはしていたし…………。


伯父「そうだ、いい事思いついた」

伯父「実はさ…………」

 …………………。

さわ子「……え?」


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