多軌「ほんの少しだったけど、とても楽しかったよ」

夏目「・・・うん」

多軌「お使いのつもりで来たけど、こんな風に楽しめるなんて思ってなかった」

夏目「それは、おれもだよ」

多軌「夏目くんって・・・紬さんのことどう思ってるの?」

夏目「え・・・?」

多軌「澪さんや梓とは違う雰囲気で接しているから」

夏目「そう・・・見えるのか・・・?」

多軌「うん」

夏目「そうか・・・」

多軌「・・・」

夏目「先生と同じなんだと思う」

多軌「ニャンコ先生?」

夏目「・・・あぁ。ニャンコ先生が傍にいてくれるから、妖との出会いを味わえてる」

多軌「・・・」

夏目「琴吹さんがいたから、人との出会いをかみ締めることが出来ている・・・んだと思う」

多軌「そっか・・・」

夏目「軽音部の人たちがそれを教えてくれていると、そう感じているよ」

多軌「うん・・・。 ――。」

夏目「?」

レイコ「なにをしているんだ、行くぞ」

夏目「ちょっと待ってくれ」

レイコ「どうした」

夏目「琴吹さんたちと待ち合わせしているんだ」

レイコ「くだらん」イライラ

菜々子「あれ、夏目のお姉さん?」

夏目「あ・・・菜々子さん」

レイコ「なんだ?」

菜々子「いや、降りたと思っていたから驚いた」

静花「貴志さんのお姉さんでしたわね」

夏目「は、はい」

静花「・・・瓜二つですわね」

多軌「うんうん」

レイコ「お、いいところに」

美弥「あら、お姉さん・・・来ていらしたんですね」

夏目「車掌さん、私服を着ているってことは・・・」

美弥「はい、明日の朝まで休暇をいただきましたので少し観光してこようかと」

レイコ「少し待ってろ」

タッタッタ

夏目「?」

菜々子「夏目たちも一緒に行かないか?」

多軌「どちらへですか?」

静花「夕食がてら博多の街を散策ですわ」

多軌「あ・・・、それでしたら紬さんたちも来るので・・・」

静花「・・・」

レイコ「待たせたな」

美弥「その瓶は・・・?」

レイコ「京都で醸成された酒だ、約束だったはずだぞ」

美弥「そうでしたね」クスクス

夏目「約束!?」

菜々子「・・・ほぅ」

静花「京都のお酒ですか。馴染み深い味ですわ」

夏目「せ、先生!」

レイコ「お前たちは遊んでろ、私はこいつらと飲んでくる」

菜々子「いいのかい?」

レイコ「構わん、行くぞ」

静花「大人の付き合いですわね」

美弥「うふふ、それでは」

多軌「は、はい・・・」

夏目「せ、せんせいっ!」

静花「大丈夫ですわ、私がいますから」

菜々子「上品ぶってるんじゃないよ、あんた酒弱いだろ」

静花「たしなむ程度ですわよ」

スタスタ

多軌「大人の世界だね」

夏目「先生・・・迷惑をかけないでくれよ・・・!」

紬「あら・・・? 静花さん・・・?」

律「夏目のお姉さんもいるな・・・?」

澪「帰ったはずじゃなかったか?」

夏目「あ、遊びにきたそうです!」

梓「夏目を置いて・・・」

夏目「!」ギクッ

唯「それじゃ、明日は一緒に遊べるね!」

律「そうだな!」

夏目(記憶は失くしても遊んでくれるのか・・・。嬉しいな・・・)

律「ラーメンを食べに中州まで行っくぞー!」

唯「おぉー!」

澪「おー」

多軌「おー!」

夏目「・・・・・・はい」

紬「・・・」

梓「むぎ先輩、行きましょう」

紬「う、うん・・・」



―――――中州


紬「回転屋台寿司?」

夏目「え・・・」

律「なんで屋台で寿司なんだよ・・・」

「お、いらっしゃ~い。食べていきなよ、少年少女たち!」

澪「え、えぇと・・・」

唯「おぉ、お魚だよ! 仙台の塩釜魚市場以来だよ~!」

梓「試食でお腹いっぱい食べたそうですね」

唯「うん、おいしかったんだよ~」

多軌「屋台なのに回転寿司・・・」

「今はお皿回せないからね、ただの屋台寿司なんだけど」

律「屋台寿司ってなんだ・・・」

「もぅ~、いいから座んなよ」

紬「はい」

梓「ちょっ、むぎ先輩! そんな怪しい屋台に座らないでください!!」

「怪しいとは失礼ね、ネコちゃん」

梓「だ、誰がネコですか」

唯「あずにゃんです」

「女が握る寿司は不安なのかい?」

梓「そこは問題じゃないんですけど・・・」

律「まぁいいや、面白そうだから食べていこうぜ」

澪「・・・うん」

夏目「・・・」

「お、少年! こんな可愛い子たちを1人占めなんて隅におけないね~!」

唯「ね~!」

梓「乗らないでください」

夏目(テンションが高い主人だなぁ)

「私の名前は九段下舞佳。よっろしく~」

紬「舞佳さんですね」

舞佳「そうよん。二人でこの屋台を切り盛りしてんだけどねぇ」

澪「二人・・・?」

舞佳「そう。ダーリンとね♪」

澪多軌「「 ダ、ダーリン!? 」」

舞佳「そうよん、愛しいお人さ」

澪「」ボフッ

律「そんで、そのだーりんとやらはいないのかよ」

舞佳「今出払っててねぇ、そのせいで回転できないんだけど」

唯「そっかぁ・・・。残念だよ」

夏目(また・・・妙な縁が・・・)

舞佳「新鮮なネタだから味は保障するよん! ご注文をいただこうかね?」

紬「ひらめを!」

律澪夏目「「「 渋いっ! 」」」

梓「赤身魚より白身魚ですよね。私もひらめを!」

舞佳「はいよん!」

律「あ、じゃあ・・・私も」

澪「わ、私も」

多軌「私もひらめを・・・」

唯「マグロを!」

舞佳「はいよ~。少年はどうする?」ニギニギ

夏目「えーっと・・・蛸を」

舞佳「はいよ。へい、おまち!」

紬「いただきます」パクッ

舞佳「へい、蛸おまち! いやぁ~、可愛い子達に囲まれて幸せだね、少年」

夏目「・・・」

律「コメントしろよっ!」

紬「おいしいわ~」

梓「おいしいですね。さっぱりしていて歯ごたえもあって・・・。
  シャリとネタの味わいがとてもいいです」

舞佳「あんがと!」

澪「もぐもぐ、おいしい」

律「お姉さん若いよね、よくこんな冒険染みたことできたな」

舞佳「若いからっていうのもあるけど・・・それだけじゃないんだよね~」ニギニギ

唯「どーいうこと?」

舞佳「うへへ、ダーリンと一緒だからね~♪」

多軌「・・・ごちそうさまです」

舞佳「お粗末さまです」

澪「し、幸せそうだ・・・」

舞佳「幸せよん!」

夏目「もぐもぐ」

秀輝「見慣れた後姿だと思ったら・・・夏目たちか」

律「お、一人で屋台に来た秀輝じゃねえか」

唯「悲しいお人ですねぇ」

秀輝「状況を説明しなくていいよ・・・。屋台で寿司ってすごいね」

舞佳「お、少年が増えたね」

秀輝「俺も晩御飯ここにしよ~っと」

紬「緑さんをお食事に誘わなかったの?」

秀輝「なんでっ!?」

舞佳「はいよ、お茶。なにを握ろうかね」

秀輝「た、玉子を」

舞佳「はいよ!」

律「お子様か」

秀輝「みんなはひらめ食べてるのな・・・。渋い・・・」

紬「それで、緑さんは?」

秀輝「う・・・」

梓「誘わなかったんですか?」

多軌「どうなんですか?」

秀輝「・・・さ、誘ってない・・・です・・・よ」

澪「・・・」ハァ

秀輝「秋山さんからため息が聞こえた・・・」

律「秀輝をわざわざ誘わなかったのに・・・まったく・・・」

唯「ん? 秀輝くんは緑ちゃんが好きなの?」

秀輝「ダイレクトだね・・・」

夏目紬「「 どうなの? 」」

秀輝「・・・・・・うん」

舞佳「かぁ~! 青春してるねぇ~! はい、玉子おまち!」

唯「あ、私も玉子~」

夏目「おれもお願いします」

舞佳「はいよ~!」

秀輝「・・・恥ずかしい」プシュー

澪「大村さん、鮭あるよ」

秀輝「あぁ、北海道出身だから味比べさせようとしているんだね」

舞佳「へぇ~、道産子なのね。私たちも暮らしたことあるよん。はい、おまち」

唯「た・ま・ご~!」

梓「唯先輩、わさび入ってます?」

唯「ん~! つーんってきたぁ!」ツーン

梓「・・・じゃ、いいや」ボソッ

多軌「わさび入りもおいしいよ?」

梓「・・・いい。いらないわさびは」

紬「~っ!」ツーン

秀輝「北海道のどこですか?」

舞佳「旭川辺りだねぇ。そこでラーメンも作ってたのよん」ニギニギ

夏目「もぐもぐ」

秀輝「ラーメン作りの経験があるのに、わざわざ寿司を・・・?」

舞佳「うん。そうだね~、話が少し長くなるけど、聞くかい?」

澪「だーりんさんも出てくる話ですか?」

律「なんだよ、だーりんさんって」

舞佳「うーん、それじゃ・・・その話もしちゃおうかね♪」

紬「ぜひ」キラキラ

律「・・・」キラキラ

唯「りっちゃんも!?」

澪「意外と乙女だったりするんだ・・・りつは」

秀輝「意外な律・・・!」

舞佳「だーりんと出会ったのが、今から・・・8年・・・いや、小学二年生の時だから・・・15年前かぁ」

夏目「15年・・・」

多軌「もぐもぐ」

舞佳「15年一緒に居たわけじゃなくてね、7年の空白があるのよん。
   彼、8歳の頃に引越ししていって高校入学とともに帰ってきたのさ」ニギニギ

梓「縁があったんですね」

舞佳「そういうことさ。へい、アナゴお待ち!」

澪「どうも」

舞佳「彼は勉学に勤しむ高校生で・・・、私はバイトで忙しくも順風満帆な日々を過ごしていたのさ」

紬「歳が離れているんですね」

舞佳「そうよん。私がお姉さんね」

律「それでそれで」

舞佳「私は宅配の仕事をしていてね、届けた先が彼の自宅だったのよ。
    あのころのダーリンは何度も通販頼んでたからね~」

紬「運命ですね」キリ

舞佳「どうかなぁ、運命というより・・・偶然だったような気がするねぇ」

紬「あら・・・」

多軌「偶然が重なって運命・・・?」

舞佳「そうだね。彼が過ごした高校生活の中で、偶然出会った幾つかの場所が繋がったから運命だと思えるね」

秀輝「・・・」

舞佳「彼の通う高校・・・。私の母校でもあるんだけどね、一つの伝説があるのよん」

梓「伝説・・・?」

舞佳「学校の中庭に聳え立つ時計台、そこに取り付けられた鐘があるの」

紬「ふむふむ」

舞佳「卒業の日に告白して生まれたカップルがその鐘の音に祝福されると永遠に幸せになれる。という伝説」

紬「まぁ!」

澪「素敵だ!」

律「うん、素敵な伝説だ!」

舞佳「私が通っていた頃は鳴り響いていたんだけどね。いつしか鳴らなくなったのよ」

紬「鳴らなくなってしまったんですか・・・」

舞佳「そう。だから伝説になったのよね」

唯「鐘の音かぁ・・・」

舞佳「人が人を想う気持ち・・・、その想いが鐘を鳴らすと信じられていたのよね」

紬「人が人を想う・・・」

舞佳「彼が卒業する日にねぇ・・・。一人トボトボと歩いている姿をみて思ったのよ」

夏目「・・・」

舞佳「私と付き合うしかないな・・・と!」

律「あれ・・・。感動がなくなったぞ・・・」

舞佳「その鐘の音を私たち二人が聞いていたとしたら・・・?」

梓「おぉ・・・!」

秀輝「そ、それは凄い話だ」

夏目「・・・伝説は成就された」

舞佳「そういうこと~♪」

澪「幸せそうだ!」

紬「まぁ~・・・」ウットリ

舞佳「うへへ~。いいリアクションしてくれるじゃない。ガリをサービスしとくよ」

律「ガリですかっ!」

澪「うん・・・いい話だったなぁ・・・」

唯「そうだね。玉子お願いしやす!」

舞佳「はいよぉ!」

「ただいま、手伝うよ」

舞佳「お帰り、ダーリン♪」

紬澪多軌「「「 この人が・・・ 」」」

「・・・?」

律「聞いたぜ、二人のなり染めをな」

「な・・・! また話したの舞佳さん!?」

舞佳「いいじゃないの、減るもんじゃないし」

「そりゃそうだけど・・・」

紬「お名前は?」

「岩瀬といいます・・・」

秀輝「伝説かぁ・・・」

夏目「・・・」ジー

多軌「なるほど」ジー

梓「伝説の恋人同士ですか・・・」ジー

岩瀬「・・・うぅ、好奇な目で見られてる気がする」

律「あやかりたいもんだな、秀輝!」

秀輝「まぁ・・・うん・・・」

舞佳「頑張りなよ、少年!」

秀輝「・・・はい」

夏目(誤魔化さずに・・・自分の感情を受け入れているんだな・・・)


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