紬「澪ちゃん、海の中道でイルカショーがやっているみたい」

澪「くっ!」

律「澪の中で葛藤が生まれました」

唯「イルカをとるか・・・。遊園地をとるか・・・。難しいね、あずにゃん」

梓「私はどちらでも」

紬「静・・・花さんはどちらへ行きますか?」

静花「・・・」

紬「しず・・・か・・・さん?」

夏目(降りてしまうのかな・・・)

菜々子「紬ちゃん、DVDで見たことなんだけどさ」

紬「はい・・・?」

菜々子「松本の・・・、えっと・・・場所はいいや、教師ごっこをしたでしょ?」

紬「はい」

梓「旧開智学校の教室でしたね」

菜々子「そこでお茶の話したよね」

紬「はい・・・。・・・?」

静花「?」

律「えーっと・・・。縁側にお茶がどうのこうの」

澪「面白い話だったのに、覚えてないのか」

唯「じゃじゃーん!」

梓「DVD、唯先輩が持っていたんですね」

夏目「それは・・・?」

多軌「なんですか?」

唯「私たちの旅の記憶ですよ。再生しまーす」

ウィーン

澪「あわわわ」

律「澪、諦めるのも肝心だぞ」

静花「・・・」

菜々子「・・・」

唯「スタート!」


唯『それでは教科書の34頁を開くザマス』キリ

律『普通に喋ってくれ』

唯『うん、分かった』

澪『切り替え早いな』

小麦『はい先生ー! 私たち教科書持ってませーん!』

唯『もぅ、みんなここに何しに来たの~?』ブー

律『観光しにだよ』




多軌「みなさんはなにをしているんですか?」

律「学校の授業ごっこだよ。今は唯が先生で私たちが生徒な」

静花「・・・」

菜々子「・・・」

紬「懐かしい・・・!」

梓「・・・ここは飛ばしましょう」ピッピッ

唯「あ、あずにゃん・・・」シクシク




紬『それでは相対性理論について述べるザマス』

紬「は、恥ずかしいわ~」テレテレ

梓「いえいえ、とても素晴らしい教師ですよ」キラキラ

唯「あずにゃん・・・」シクシク

律「・・・」

澪「・・・」

夏目(何を見せたいのかな・・・菜々子さん・・・)

静花「・・・」

菜々子「・・・あ、ここだね」

多軌「?」

紬『私が聞いた話によるとね、とある国ではお茶・・・飲み物が日本で言う縁側に用意されているの』

唯『お茶!?』

律『ティータイム!?』

さとみ『おかえり唯ちゃん、律さん』

愛『用意されている・・・? 家の主人が居なくても勝手に飲んでもいいのですか?』

紬『えぇ、急須のような入れ物に入ったお茶とコップとお茶請けのような食べ物もあるから、自由にお使い下さいって事ね』



静花「――ッ!」

菜々子「・・・」

紬「あら・・・?」

梓「どうしたんですか?」

紬「この話・・・どこで聞いたのか・・・思い出せそうなの」

澪「ネットで拾った情報じゃなかったのか」

紬「・・・うん。そうみたい」

菜々子「・・・誰かから聞いたことなんじゃないかな?」

紬「え・・・?」

静花「菜々子さんッ!」

菜々子「なんだよ」

静花「どこまで私をッ!」

菜々子「・・・」

紬「し、しず・・・か・・・さん、どうしたんですか?」

静花「わ、私これで失礼しますわ」

紬「え・・・?」

静花「それでは・・・。・・・さようなら」

紬「――ッ!」ドクン

夏目「っ!」

多軌「夏目くん・・・?」

菜々子「・・・」

夏目(行ってしまった・・・)

紬「ッ・・・!」

梓「む、むぎ先輩・・・?」

澪「むぎ?」

唯「むぎちゃん、どうしたの?」

紬「・・・大切な・・・なにかを・・・忘れている・・・!」

梓「え・・・」

菜々子「私も行くわ。ごちそうさま、紬ちゃん」

律「な、菜々子さん・・・」

菜々子「喧嘩してくるよ」

夏目「!」

ヒノエ『退屈だね~』

静花「・・・」

ヒノエ『おや・・・』

菜々子「静花、待てって!」

静花「・・・もう、放っておいて下さい。あなたにも関わりたくないですわ」

菜々子「そうもいかないだろ」

静花「今さら、つむぎちゃんに親身になろうってことですの? むしがよすぎますわね」

菜々子「なんとでも言えばいい。けどな、私はもう逃げないよ」

静花「私だって、逃げていることを承知してますわ」

菜々子「あんたに当て付けで言ったわけじゃないよ」

静花「荷物をまとめますので、これで」

ガチャ

バタン

菜々子「・・・」

ヒノエ『・・・』

ガタンゴトン ガタン

ゴトン

プシュー

ヒノエ『到着だね』

車掌「津山さん、どうかなさいましたか?」

菜々子「静花のことで・・・」

車掌「・・・」

ヒノエ『夏目はどこにいるのかねぇ』

ガチャ

静花「・・・まだいましたのね」

菜々子「話が終わってないからな」

静花「いつまでもそこにいるといいですわ」

菜々子「そうもいかないんだよ」

ヒノエ『・・・』

静花「車掌さん、私ここで降りますので」

車掌「・・・」

静花「どうぞ、乗車証です」

車掌「・・・」

菜々子「ちょっとこい、静花」

静花「・・・話すことはないと」

菜々子「来いッ!」グイッ

静花「なっ!」

車掌「津山さんにお渡しください」

静花「!」

ヒノエ『夏目以外には興味ないんだけどねぇ。ちょうど退屈していたところだ、付き合ってみるとするかね』

静花「離しなさいッ!」バッ

菜々子「・・・」

静花「踏み込んでこなかったあなたに、そこまでされる義理はありませんわ!」

菜々子「私だってそんな義理を感じちゃいないよ!」

静花「なら、つむぎちゃんを利用して、自分のプライドを守ろうというのですわね」

菜々子「はぁ?」

静花「あなたは、自分の存在価値を高めたいだけですわ。哀れな私に手を差し伸べるつもりで
   つむぎちゃんと私を繋げることが出来たら、それが自分がここにいる意味になると!
   そんなつもりでいるんですわね!」

菜々子「あぁ、そうだよ!」

ヒノエ『・・・くだらないね』

静花「私とつむぎちゃんはあなたのために居るわけじゃありませんわ」

菜々子「当たり前だろ馬鹿ッ!」

静花「ッ!」

菜々子「私は私のためにやってんだよ!」

ヒノエ『・・・』

菜々子「あんたにどう思われようと知ったことじゃないよ。
    だけどね、このままあんたを降ろしてしまったら自分を許せなくなるんだよ!」

静花「・・・エゴですわ」

菜々子「そうだよ! 私は人のために動けるほど純粋じゃないんだよ!」

静花「なっ!」

菜々子「・・・紬ちゃんが離れていくことに、あんたがどれだけ恐れているのかは分からないよ」

静花「・・・」

菜々子「けど、この別れは意味をもたないじゃないか」

静花「・・・ッ!」

菜々子「・・・あんたが独りになったら・・・。私が笑ってやるよ」

静花「――ッ!」

ヒノエ『・・・』

菜々子「だから、ちゃんと再会を果たしなよ・・・静花」

静花「な・・・ッ!」


ヒノエ『夏目、そこにいたのかい』

夏目「・・・」

ヒノエ『・・・さて、どうするのかねぇ』

夏目「・・・」グィッ

ヒノエ『なんだい?』

夏目「・・・行こう」ボソッ

ヒノエ『ん? 聞こえなかったよ、もう一度言っとくれ夏目』

夏目(おれたちがこの場所にいちゃ、ダメだ)

静花「・・・本当ですか」

菜々子「なにが」

静花「私が独りになっても・・・笑ってくれますか・・・」

菜々子「あぁ。傍で笑っていてやるよ」

静花「ッ!」

菜々子「そんな顔すんなよ、らしくない」

静花「ッ・・・るさい・・・ですわ・・・よ・・・っ」ボロボロ

菜々子「へへっ、泣いてやんの」

静花「うるさ・・・いっ・・・」ボロボロ

菜々子「今なら分かるよ。静花、おまえは――」

静花「寂しかったんです・・・っ・・・。過去の想い出を支えに頑張ってきましたが・・・
   これからは本当の『独り』になってしまうことが・・・どうしようもなく寂しかったんです・・・!」グスッ

菜々子「・・・素直にならないからだろ」

静花「それはあなたにも・・・言えること・・・ですわ・・・っ」グスッ

菜々子「・・・うん」

唯「どうして降りちゃダメなの~?」

夏目「そ、それはですね・・・!」

唯「外の空気を存分に吸いたいんだよ~!」

夏目「ま、待ってください、・・・様子を・・・」チラッ

ヒノエ『やれやれ』

澪「な、なにかいるみたいな視線はやめてくれっ!」ブルブル

夏目「・・・」

多軌「・・・そっか」

澪「タキも納得しないでくれっ、怖い!」ガクガク

律「なにやってんだよ」

夏目「今降りてはダメなんです」

律「・・・分かった」

唯「りっちゃんとなっちゃんがまた心で会話したよ!」

梓「またですか」ジロ

夏目(中野になにをしたんだ、おれは・・・)

ヒノエ『部屋に戻ったみたいだよ』

夏目「・・・そうか。いいですよ、平沢さん」

唯「なにがあったの!? どうして許可が下りたの!?」

多軌「ほら、梓も降りよう~」

梓「ま、まってむぎ先輩が!」

律「後で行くから、先に行ってろ」

多軌「ほらほら~」グイグイ

梓「ちょっ」

紬「・・・だめ」

律「どしたー?」

紬「・・・大事なことを思い出せないの」

律「・・・そっか」

紬「お茶の淹れ方・・・を・・・教えて・・・くれた・・・・・・人」

律「・・・」

紬「・・・っ」

律「その想い出はさ、きっと優しい想い出なんだよ」

紬「・・・優しいのに・・・私は・・・」

律「人の記憶なんてさ、長い時間が過ぎればそれは曖昧なものになるんだ」

紬「・・・うん」

律「きっと、この旅もそうなる・・・。悲しいことにな」

紬「・・・」

律「だから、想い出が言うんだ『私がいなくなる代わりに、新しい記憶を残して』って」

紬「・・・」

律「今の・・・キッツいな・・・」カァァ

紬「・・・ううん」

律「・・・だからさ、むぎがそのお茶の淹れ方を学んでくれたおかげで、今の新しい記憶が刻まれたんだぜ」

紬「りっちゃん・・・」

律「おかげでヴェガに乗車した人たちとティータイムが過ごせたんだ。それも事実だ」

紬「うん・・・!」

律「思い出そうとして辛い顔されてたら、優しい想い出じゃなくなるぞ」

紬「うん。ありがとう、りっちゃん」

律「なんてな」

紬「うふふ」

律「へへっ」

澪「りつ、歌詞書いてみないか?」

律「おわぁっ!」

紬「歌詞?」

澪「いい歌詞が書けると思うんだ」キラキラ

律「聞いてたのかっ! 書かねえよ!」

紬「私からもお願い」

律「いやだっ!」

夏目(静花さんと琴吹さんの間にある記憶は・・・優しい想い出・・・)

多軌「綺麗な夕日」

唯「うん・・・」

梓「唯先輩、どこを見ているんですか」

唯「見て、あれ」スッ

多軌「・・・あ、月ですね」

梓「・・・月を見ていたんですね」

唯「白い月から黄金の月へ移っていくよ」

多軌「いい時ですね」

梓「・・・白い月ですか」

唯「インザ、黄昏スカイ」

多軌「・・・?」

梓「黄昏の空に輝く月ですね」

唯「綺麗だね~」

多軌「・・・」

夏目「・・・?」

多軌「ほら、見て」

夏目「あぁ・・・、月を見ていたんだ・・・」

律「なーに見てんだ?」

唯「ただね~、ボーっと眺めていただけだよ~」

澪「・・・黄昏時だからな」

多軌「・・・黄昏時にたそがれる・・・私たち」

梓「・・・」

澪「ぷふっ」

律「え?」

紬「どうしたの、澪ちゃん?」ワクワク

夏目「なにか面白いことが・・・?」

澪「な、なんでも・・・ぷふっ」

唯「なになに? 気になるよ澪ちゃん!」

梓「・・・」

秀輝「よぉ、なんか楽しそうだな」

夏目「状況がつかめないけど・・・」

律「・・・どうだった」

秀輝「なんとか、大丈夫みたいだぜ。菜々子さんから話を聞いた限りではさ」

夏目「・・・よかった」

律「そっかそっか」

秀輝「少し時間をくれって静花さんから伝言」

夏目「・・・うん」

多軌「・・・」

夏目「じゃ、個室に戻るから」

秀輝「あぁ、後でな」

多軌「・・・」

夏目「先生一人だと退屈してるかもしらないからさ」

多軌「・・・うん。私、みなさんと一緒にいるね」

夏目「うん」

ヒノエ『・・・戻るとするかね』

夏目「・・・どう感じた?」

ヒノエ『あの二人かい?』

夏目「・・・あぁ」

ヒノエ『脆い子は好きじゃないね』

夏目「おれも・・・脆いんだよ。ヒノエ」

先生「・・・退屈だ」イライラ


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