秀輝「どこで降りられるんですか」

静花「・・・次の小郡で降りますわ。用は済んでいますので、後はただの暇つぶしですから」

秀輝「それだと無関係ではいられないんです」

静花「どうしてでしょう?」

秀輝「俺は、みんなが無事に旅を終えてほしいと思っているんです」

ヒノエ『・・・』

秀輝「静花さんが降りてしまったら、そこで琴吹さんの旅は終わりを迎えられなくなってしまうんです」

静花「・・・」

夏目「・・・」

秀輝「・・・」

静花「そこまで紬さんにこだわる理由はなんですの?」

ヒノエ『そうだね、秀輝の小僧が拘るのはあの娘じゃないだろうに』

秀輝「今まで出会ってきた人との出会いを大切にしたいからです」

夏目「・・・うん」

静花「・・・」フゥ

ヒノエ『最後の一押しだよ、夏目』

夏目(そうは言ってもな・・・あ・・・そうか・・・)

夏目「笑っていてほしいからです」

秀輝「・・・爽やかに・・・・・・言ったよ・・・この子」

静花「・・・ふむ」

ヒノエ『やるね、夏目』

夏目「え・・・?」

梓「・・・」ジロ

夏目「な、中野・・・」

梓「タキがいるのに、悪い虫だ」ジト

夏目「っ!?」

梓「静花さん、展望車へ来てください」

夏目「・・・」

静花「後で参りますわ」

梓「それでは・・・」

ササッ

夏目(こういう役回りなのかな・・・)ハァ

静花「どうぞ、入ってくださいな」

秀輝夏目「「 え・・・? 」」

静花「私も聞きたいことがあります」

静花「狭いでしょうが、我慢してくださいね」

秀輝「・・・はい」

夏目(人に聞かれたくない・・・よな・・・)

ヒノエ『秀輝の小僧が邪魔だねまったく!』プンスカ

静花「中央通りで私と一緒にいらした方は、とある会社の社長です」

秀輝「・・・」

静花「カーシグループという名をご存知でしょうか」

秀輝「・・・はい」

夏目「・・・いえ」

静花「秀輝さんは北海道出身でしたわね」

秀輝「母が市議会議員なもので・・・」

静花「なるほど、合点がいきましたわ。・・・建築の分野で関わりがあったのでしょう」

秀輝「・・・はい」

ヒノエ『私たちが暮らすところは田舎だからねぇ』

夏目「・・・」

静花「地方にまで名が届くくらいの財閥でしたが、それも昔の話。
   今では一人娘に融資のお願いに出す始末。落ちぶれたものですわ」

ヒノエ『つくづく面倒だね、人の子ってやつは』

夏目「・・・」

静花「貴志さんの言うとおり、私と紬さんは以前に出会っていたんです」

秀輝「・・・」

静花「紬さんが4歳の頃に出会って、最後に会ったのが7歳の時ですから
   覚えていないのが普通なんですわ」

夏目「・・・」

静花「・・・その頃から父が経営する会社が傾き始め、今に至ります」

秀輝「・・・」

ヒノエ『この娘は覚えていたんだね』

夏目「そう言えば、京都駅で琴吹さんと会った・・・いえ、再会した時に名を呼んでいましたね」

静花「・・・そうですわね。あの時は心臓が跳ね上がりましたわ」

秀輝「琴吹グループ・・・の・・・娘さんが・・・琴吹紬・・・」

静花「そうです」

夏目「・・・?」

秀輝「・・・」

ヒノエ『おや、小僧の顔色が変わったね』

静花「秀輝さんは気づきましたわね。それが私たちが会えなくなった理由であり、私が隠している理由ですわ」

秀輝「・・・で、でも」

静花「伏せておいてくださいね。昔の事より今が大事ですから」

秀輝「・・・っ」

静花「再会できて嬉しかったですわ」

夏目「・・・」

静花「このままがよろしいのです」

ヒノエ『よく分からないね』

夏目「どうしてそれがいいのか・・・よく分かりません・・・」

秀輝「な、夏目・・・」

静花「怖いのですわ」

夏目「・・・」

静花「私、生まれてから今まで友達らしい友達もいなくて・・・、心から信頼できる人はいませんでしたの」

夏目「!」

静花「紬さんは・・・初めて会ったあの時から、今のように少しも変わらずに私に接してきてくれましたわ」

秀輝「・・・」

静花「それが崩れてしまうのが怖いんです。カーシグループが今の状態になったのは
   琴吹グループが関わっているのですから」

夏目「ッ!」

ヒノエ『・・・』

静花「敵対する両家の一人娘同士ですから、疎遠になるのが自然なんでしょうね。
   空白の時間があったからこそ、私を忘れることができたのですわ。
   それなのに、私の事を思い出してしまえば、自ずと私の家の状況に辿り着いてしまうでしょう。
   その時、私に向けられるあの子の表情を想像すると、どうしても明かすことができませんの」

夏目「・・・っ!」

静花「せめて、今のままで・・・いさせてほしいのです・・・」

秀輝「な、菜々子さんは・・・知っているんですよね・・・」

静花「薄々気づいていらっしゃるようですが、今となってはどうでもいいこと」

ヒノエ『・・・』

夏目「・・・」

静花「・・・。先ほど、秀輝さんが仰いましたが・・・」

秀輝「え?」

静花「私が降りることで、紬さんは旅の終わりを迎えられなくなると」

秀輝「・・・はい」

静花「私が乗り続けていても同じですわね。あの子たちの旅が複雑なものになってしまいますわ」

秀輝「・・・」

ヒノエ『それは誰が決めることなのかねぇ』

夏目「それは・・・、誰が決めるのかな・・・・・・」

秀輝「・・・」

静花「他の誰でもない、紬さん自身ですわね」

夏目「・・・」

ヒノエ『代弁してくれたのかい、夏目』

秀輝「・・・」

静花「・・・」

夏目(おれたち三人は似ている・・・)



―――――展望車


唯「あずにゃんやい」

梓「なんですか?」

唯「そんなにおいしいのかい?」

梓「はい・・・。唯先輩はそれほどでもないんですか?」

唯「おいしいけど・・・。そこまでかなぁ・・・って」

梓「珍しいですね。なんでも食べるのに」

唯「雑食みたいな表現はおよしよ!」

梓「いらないならくれませんか?」

唯「いらないとも言ってないよ~?」

梓「・・・そうですか」

紬「私の分食べる?」

梓「いえ、むぎ先輩の分までいただくわけには・・・」

唯「あれま・・・?」

律「唯のなら遠慮しないのな・・・」

澪「もぐもぐ・・・。おいしいな、もみじ饅頭」

緑「私の食べる?」

梓「・・・」

緑「・・・」

梓「・・・・・・」

緑「・・・・・・・・・」

律「なんだこの間はっ!?」

梓「遠慮しますっ!」

紬「苦渋の決断ね」

澪「私の半分でいいなら・・・」

梓「・・・」キラキラ

澪「・・・食べかけで悪いな」

梓「ありがとうございます・・・もぐもぐ」ゴクリ

唯「食べ終わったよ! あっという間だよ! そんなに好きならあげるよ! どうぞ!」

梓「気持ちだけで・・・。なんだか私が食いしん坊みたいじゃないですか」

唯「受け取ってもらえないよ! いただくけどいいんだね!?」

律「唯・・・自棄になるな・・・」

緑「・・・」モグモグ

澪「き、北上さんは・・・広島のどこを観光していらしていたんでしょうか?」

律「澪・・・緊張すんな・・・」

緑「新町通りを歩いていただけ・・・」

紬「散歩ですか?」

緑「・・・。昔・・・そこに・・・」

梓「住んでいた・・・とかですか?」

緑「・・・」

紬「お茶をどうぞ~」

緑「・・・ありがと」

唯「もぐもぐ」ハムハム

律「お好み焼きで何の話をしたんだ?」

緑「・・・?」

律「秀輝とだよ」

梓「え・・・?」

紬「りっちゃん、どういうこと?」

律「緑と二人でお好み焼き食べたんだとさ」

澪「へ、へぇ・・・」

梓「私たちと食べなかったのにですか!」

律「何に対する怒りだよ・・・」

緑「・・・別に」

律「まぁ、どうでもいいけど・・・」ニヤニヤ

澪「・・・?」

紬「あ・・・!」

秀輝「律さん・・・? どうして知っているのかな?」

律「ん? 売店のちひろさんからだけど?」

秀輝「風音さん経由か・・・!」

夏目「あ、悪いおれが話したんだ」

秀輝「おまえかっ」

緑「どうでもいいでしょ」

唯「いいような、よくないような」

紬「さ、静花さんも座ってください~」ニコニコ

静花「・・・失礼しますわね」

紬「夏目さんもどうぞ」

夏目「それじゃ、失礼して」

梓「・・・む」

律「しかし、緑と一緒にティータイムを味わえるなんてあれだな!」

緑「・・・別に。・・・ごちそうさま」スッ

澪「あ・・・」

紬「あら・・・」

唯「りっちゃんのアホっ!」

律「・・・マジか・・・私が悪いのか・・・」

秀輝「・・・」

律「いや、すまん・・・秀輝」

秀輝「どうして謝っているのか・・・・・・」ハァ

律「あからさまに落ち込んでいらっしゃるからです・・・」

唯「どゆこと?」

紬「唯ちゃん気がつかなかったのね・・・」

静花「あら、その言い方は気づいているみたいですわよ」

紬「もちろんです」キラン

夏目(確かに・・・態度があからさまだよな・・・)

秀輝「・・・」

澪「あれ、梓は?」

静花「先ほど席を外しましたが・・・」

紬「どこへ行ったのかな・・・?」

唯「ねぇねぇ、さっきのどういうこと?」

夏目「え・・・。おれに聞くんですか・・・」

秀輝「菜々子さんは?」ヒソヒソ

律「仕事中だってさ」ヒソヒソ

秀輝「・・・」

律「?」

秀輝「俺にも何か出来ることが残っているかも・・・。ちょっと行ってくる」

律「あ、あぁ・・・。どこへ?」

秀輝「食堂車」

律「うん・・・?」

紬「どうぞ、静・・・花さん」スッ

コト

静花「・・・ありがとう」

紬「いえいえ」ニコニコ

澪「むぎ、楽しそうだな」

紬「うふふ」

唯「もみじ饅頭をどうぞ」スッ

静花「まぁ、用意がいいですわね」

唯「むぎちゃんが買ったのですよ。なぜか二箱も」

紬「お茶請けにも合うと思ったの」

唯「お茶漬け?」

律「もみじ饅頭のお茶漬けってなんだよ・・・」

静花「ふふ」

夏目「!」

紬「うふふ」

静花「ふむ・・・。おいしいですわ」

紬「ありがとうございます」ニコニコ

澪「・・・おいしい」

多軌「こんにちは~」

夏目「・・・あ」

多軌「呼んでほしかったなぁ・・・」

夏目「・・・悪い」

多軌「なんてね」

唯「いいですな・・・春はすぐそばにあったのです」

静花「もぐもぐ」

梓「・・・カップが足りませんね」

律「梓が連れてきたのか?」

梓「はい。タキ、夏目の隣に座って」

多軌「う、うん。失礼するね」

夏目「どうぞ」

梓「タキの分も借りてきますね」

澪「梓はなにを気遣っているんだ・・・?」

律「・・・さぁ」

紬「もみじ饅頭好きなんですか?」

静花「えぇ、この奇抜なデザイン、上品な甘み・・・。
   おいしい番茶ともみじまんじゅう。まさに、至福のひと時ですわ」

紬「そうですね」ウンウン

唯「異論はないよ」モグモグ

澪「え・・・」

夏目(確かに・・・)モグモグ

律「もぐもぐ」

梓「むぎ先輩、カップ借りてきました」

紬「ありがとう~。早かったね」

梓「向かう途中で菜々子さんと会ったので・・・」

菜々子「秀輝がカップ持っていけってさ」

紬「あら、大村さんは?」

菜々子「私の変わりに皿洗いしてるよ」

紬「まぁ・・・。身代わりね」

静花「・・・」

律「アイツ・・・。要領いいのか悪いのか分からねえな」

紬「タキちゃんもどうぞ」スッ

コト

多軌「いただきます」

夏目(二人の間に溝を感じる)

菜々子「・・・」

静花「・・・」

紬「カップ借りてきてくれてありがとう~」

梓「いえいえ、当然のことですよ」キラキラ

唯「嬉しさが止まらないね・・・」

律「・・・」

澪「どうした、りつ?」

律「え、あ・・・なんでも~。むぎ、私にもおかわりお願いします」

紬「? は~い」

梓「もぐもぐ」

唯「あずにゃんおいしそうだね」

梓「はい。むぎ先輩の美味しいお茶ともみじまんじゅうの絶妙なハーモニー・・・
  まさに、至福の一時です」

多軌唯律澪「「「「 同じこと言ってる・・・ 」」」」

梓「?」

静花「・・・」

紬「菜々子さんもどうぞ」

菜々子「さんきゅ。いただくよ」

唯「どうぞ、もみじ饅頭です!」スッ

菜々子「う、うん」

律「無駄に力強く勧めたな」

夏目(ヒノエは・・・うんざりして部屋に戻ってしまったけど・・・)

静花「・・・」

菜々子「・・・」

夏目「・・・」

律「み、みお~、博多でどこ行くか決めたか~?」

澪「スペースワールドだけど」

律「この世の理のような反応ですか!?」

梓「澪先輩は決まっていたんですね」

澪「みんなで行こうな」キラキラ

律「うわ・・・。長島スパーでは足りなかったのかぁ・・・」

菜々子「名古屋のスパーランドだよね」

澪「はい! とぉーーーーっても楽しかったです! な、梓!」

梓「は、はい。それはもう」

澪「な、唯!」

唯「うん、楽しかったね~」

菜々子「DVDにあったね、そういや」

澪「あ!」ボフッ

多軌「澪さん・・・?」

律「自分のはしゃいだ姿に恥ずかしさを感じただけさ。後世まで残るんだからな」

澪「」プシュー

多軌「な、なるほど」

夏目「・・・」


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