夏目「じゃ、散歩してくるから・・・。タキをよろしくな、先生」

先生「む・・・そうか・・・ここから出られないのは辛いものがあるな・・・」

ヒノエ「大人しくしてな。その姿を見て、拍子に思い出されたら面倒だからね」

先生「分かっておるわ」

夏目(タキの人形ってことで誤魔化せているから、一緒に出ないといけない訳だ。先生は退屈そうだな)

先生「・・・どうしたものか」

夏目「観光ガイド買ってくるよ、待っててくれ」

先生「おぉ~」

多軌「」スヤスヤ

ヒノエ「・・・」

店員「いらっしゃいませぇ」

夏目「博多の観光ガイドをください」

店員「はい、どうぞぉ」

夏目「・・・ありがとう」

ヒノエ『夏目、これはなんだい?』

夏目「これは・・・饅頭チップスですよね」

店員「はい、好まれるお客様がいらっしゃいますので仕入れているんですぅ」

ヒノエ『おいしいのかねぇ』

夏目「一つください」

店員「ありがとうございますぅ」

ヒノエ『おや、悪いね』

夏目「・・・」

紬「あ、夏目さん」

夏目「琴吹さん・・・」

ヒノエ『・・・』

紬「静花さんを見かけませんでしたか?」

夏目「・・・いえ、見ていないです」

紬「・・・そうですか・・・。うーん・・・」

夏目「なにか、用事でも・・・?」

紬「そういうんじゃないんです、ただ・・・、お喋りしたいなぁと」

夏目「・・・そうですか」

ヒノエ『・・・ふむ』

紬「それでは~」


ガチャ

多軌「」スヤスヤ

先生「さぁ、よこせ!」

夏目「しずかにしないとダメだろ・・・」

先生「お、なんだそれは?」

ヒノエ「饅頭お菓子だそうだよ」

先生「それもよこせっ!」

夏目「しずかにしろ」ゴゴゴ

多軌「」スヤスヤ

先生「もぐもぐ」

ヒノエ「どれどれ、私もいただくよ」モグモグ

夏目「どう?」

先生「・・・」

ヒノエ「まぁまぁだね」

先生「本気で言ってるのか・・・。全部食っていいぞ」

ヒノエ「おや、饅頭同士で心が痛むのかい?」

先生「にゃんだとっ!」

夏目「しずかにしろ」グググ

先生「は、はにゃせ・・・」ムググ

多軌「」スヤスヤ

夏目「おれは客車に行ってるからな。観光ガイドでも読んで大人しくしててくれよ、先生」

先生「分かっておると何度も言わせるな」

夏目(琴吹さんに捕まったのは誰だよ・・・)ハァ

ガチャ

バタン

ガタンゴトン

夏目「部屋で大人しくしていないのか?」

ヒノエ『斑と一緒にいても退屈なだけさ』

夏目「・・・そうか」

ヒノエ『癖になる味だね』モグモグ

夏目「・・・なぁ」

ヒノエ『なんだい』モグモグ

夏目「・・・琴吹さんと話ができなくて・・・寂しくないか」

ヒノエ『どうしてだい』

夏目「おれやレイコさん以外の人と少しでも交じり会えたんだ・・・だから・・・」

ヒノエ『私は人の子が嫌いだよ。・・・寂しいなんて思うわけがないさ』モグモグ

夏目「・・・そうか」

ヒノエ『そんな顔をしてるのは、後悔なのかい?』

夏目「あの人たちは・・・知らなくていい世界なんだと思ってる。それは変わらないよ」

ヒノエ『だったら気にしなくていいさ』

夏目「・・・うん」

律「お、ここにいたか」

夏目「?」

律「どこにいたんだよ」

夏目「・・・個室にいたので」

律「そっか、むぎに聞いたら売店だって言っていたけど、いないから無駄に探したぜ」

夏目「・・・」

律「座るぜ、よっこらしょ」スト

ヒノエ『何しにきたんだいこの小娘は・・・。夏目との時間を奪うんでないよ』

夏目「・・・話ですか?」

律「うん。昨日の夜・・・というか、夕方にみんなで厳島神社へ行ったじゃん
  私らと夏目、タキ、秀輝・・・な?」

夏目「はい」

律「その後にお好み焼き屋に入ったのは理解できるんだけど、知らない人に奢られているのがすっきりしなくてさ」

ヒノエ『名取とかいう坊やだね』

夏目「・・・おれの知り合いですよ」

律「そう、夏目の知り合いに奢られる理由がさっぱりなんだよ」

ヒノエ『ややこしいね』

夏目「・・・」

律「それで、厳島で何をしたのかもハッキリしてなくてなー・・・」

夏目「・・・そうですか」

律「むぎも澪も唯も同じなんだよな、だから聞きにきたんだけど・・・」

夏目(妖のことも含め、呪いに関することを忘れさせられているから・・・)

ヒノエ『さて、困ったね』

夏目「・・・」コクリ

律「むー・・・?」

梓「また律先輩と一緒にいる」ジロ

夏目(なんで睨まれるんだ・・・)

律「梓も座れ、大事な話だ」

梓「なんですか?」スト

律「昨日厳島へ何しに行ったんだっけ、って話」

梓「私とむぎ先輩の提案だからですよ。ちょうど夕陽が綺麗な時刻でしたから」

律「そうだっけ?」

梓「そうですよ。律先輩観光会議に参加していませんでしたから、理由は知らないんです」

律「あり?」

ヒノエ『そこは問題解決のようだね。あとは名取の件だよ、夏目』

夏目「・・・」

律「じゃあ、夏目の知り合いにお好み焼きをご馳走になったのは?」

梓「・・・そういえば、どうしてでしょうね」

夏目「・・・それは」

ヒノエ『・・・げ』

秀輝「どうした、難しい顔を並べて」

律「なぁ、昨日のお好み焼きの件って何のための奢りだったんだ?」

秀輝「・・・それは・・・とりあえず座っていいか?」

夏目「あぁ・・・」

ヒノエ『ひぃぃぃいい! 夏目の隣は私の席だよ! どっか他所へ行きな!』シッシッ

梓「知っているんですか?」

秀輝「いいのか、夏目?」

夏目(策があるんだな・・・任せた)コクリ

律「なんで了解を得るんだよ」

秀輝「その知り合いの人って新人俳優だからだよ。慎重にならざるを得ないからだ」

梓「・・・そういうもんですかね」

ヒノエ『口が巧いねこの小僧は』

夏目「・・・そういうもんだよ」

律「で?」

秀輝「俺と夏目は知っていたんだけど、厳島神社で撮影があったんだよ」

律「ふーん」

秀輝「軽音部のみんなをさ、観光を楽しむエキストラとして映像に入れたらしいんだ」

律梓「「 えっ!? 」」

秀輝「うん、そういうリアクションになるだろうから・・・。悪いなぁ・・・って」

夏目「・・・ごめん」

律「いよいよお茶の間に流れるのか私たちは」フフン

梓「澪先輩にはどうしましょう・・・」

律「だいじょーぶ! 上手く誤魔化して放送当日にテレビの前に座らせてやるさ」

秀輝「・・・とりあえず、顔は判別できない距離だそうだから」

律「んだよ!」

梓「それなら平気ですね」

ヒノエ『ペテン師だね』

夏目(誰も傷つかないウソなのかな・・・)

律「仰るとおりですわね、私たち華の女子高生ですから、
  映像に映るとなったら色々と問題ですわ」ウフ

秀輝「あぁ・・・うん」

律「おいこら」

梓「似たような話ありましたね、HTTの新聞の件で」

律「あー、あったな」

夏目「・・・」

ヒノエ『一件落着ってところだね』

律「あ、さっきむぎが探してたぞ、梓のこと」

梓「失礼します」スッ

ササッ

ヒノエ『いい身のこなしじゃないか、ネコ娘なだけあるね』

律「ウソだけどな」

秀輝「なんでそんなウソを・・・」

夏目「?」

律「静花さんに会った?」

夏目「いえ・・・」

秀輝「いや・・・」

律「踏み込んでいい問題じゃないのは分かっているけどさ、なんか焦るんだよ」

秀輝「静花さんが次で降りるかもしれないからな・・・」

夏目「・・・」

律「それもあるけどさ、それとはちょっと違うんだ」

秀輝「どういうことだ?」

律「本来なら、私と唯は大阪で、澪と梓は広島で降りるはずだったんだ」

夏目「・・・はい」

律「ところが、全員最終駅まで乗り続けることに決まった」

秀輝「うん」

ヒノエ『何が言いたいんだい』

律「なにかがズレてしまったような気がしてな・・・」

秀輝「なんだよそれ」

律「うー・・・ん・・・、私はさ、むぎのことでちょっと不安なことがあったんだよ」

秀樹「さっき、菜々子さんに話したことだよな」

律「うん。むぎのことを菜々子さんに任せて、
  本来なら今頃、家の用事に付き合っているはずなんだ。唯も澪も梓もな」

夏目「・・・」

ヒノエ『何が言いたいのかいまいちつかめないね』

秀輝「何が言いたいのかいまいち伝わってこないぞ」

ヒノエ『ぎゃあああああああ』

夏目(同調したのがそんなに嫌なのか・・・)

律「私らが乗り続けたことで解決できたかもしれない問題が、ややこしくなってはいないかってこと」

秀輝「それが・・・琴吹さんと・・・静花さん・・・?」

律「・・・うん。絡まった糸を解そうとして余計絡ませている感じだ」

ヒノエ『・・・』

夏目「・・・」

秀輝「それは考えるだけ無駄だ」

律「・・・」

秀輝「ありもしない現実にこうなるかもしれない、ああなるかもしれない、と目を奪われるのは危険だ
   律たちが乗り続けた今のここが現実なんだから、これからどうしたいかを考えるべきだぞ」

律「・・・うん」

夏目「・・・」

秀輝「3人が乗車したんだ。琴吹さんと静花さんは出会って、静花さんと菜々子さんが再会する。これは変わらない」

律「だからさ、広島からはむぎは一人で最後の駅へ向かうはずだったんだ
  私ら4人が乗り続けることで奪われた時間が存在したんじゃないかって思うんだ」

秀輝「・・・」

律「私らが『居てもいい時間』なのかって・・・」

秀輝「いいに決まってるだろ」

律「・・・」

秀輝「さっき律が言った事の逆説だ。この時間が奪われることになるんだぞ」

律「あぁ・・・なるほど」

夏目「・・・」

ヒノエ『めんどくさいねぇ』

夏目(琴吹さんが妖を見えてしまったことで・・・それは変わってしまったのだろうか)

律「今の話でちょっと気になったことがあるんだ」

秀輝「・・・なに?」

夏目「・・・」

律「菜々子さん」

秀輝「・・・うん」

夏目「・・・?」

律「どうして、あの時動かなかったのかな・・・」

秀輝「まてまて、急ぎすぎだ。とりあえず、律は菜々子さんの様子を見てきてくれ」

律「・・・なんでだよ」

秀輝「焦りすぎだって・・・。急いで話を進めても碌なことにならないぞ」

律「・・・」

秀輝「あの場面に出くわしてしまった俺たちだけどさ、そんな俺たちだからできる事ってあるはずだろ」

律「どうするんだよ」

秀輝「俺と夏目で静花さんと話をしてくる」

夏目「え・・・」

秀輝「年下の男一人では頼りないだろ?」

夏目「二人になっても一緒じゃないのか・・・?」

秀輝「俺たちは琴吹さんとは遠い存在だから、HTTの誰かよりはマシだと思うんだ
   菜々子さんに頼りたいけど、・・・静花さんが拒絶してしまったから・・・な」

律「あぁ・・・」

夏目「・・・うん」

秀輝「とりあえず、博多まで乗っていてもらおう」

夏目「・・・できなかったら?」

秀輝「菜々子さんに頼む。降りてしまったら、もう・・・旅が終わるからな」

律「・・・おまえは誰のために動いているんだ?」

秀輝「自分のため・・・じゃダメかな・・・」

夏目「・・・」

律「・・・無事に終えることができたら見直してやる」ビシッ

秀輝「・・・うん」

ヒノエ『面白そうだね』

秀輝「本当はさ、怖かったんだよ」

夏目「え?」

秀輝「律たちが乗り続けた・・・この時間が無いほうがいい。と言われるのが」

夏目「・・・どうして?」

秀輝「5人の記憶の中から・・・先生は眠ってしまったわけだろ」

夏目「・・・うん」

秀輝「俺、友達いないからさ・・・誰かの心の中に、俺という存在が居ないんだろうなぁって思って
   それを考えたらさ、すごく寂しくなったんだよ」

夏目「・・・うん」

秀輝「ヴェガに乗らなかったら、この気持ちは知らないままだったんだろうな」

夏目「・・・」

秀輝「・・・ここか、静花さんの個室は」

夏目「・・・秀輝」

秀輝「ん?」

夏目「どうしてそう思うようになったんだ?」

秀輝「・・・多分」

夏目「・・・」

秀輝「ある人が、俺の中で大きくなっていたからかな。・・・それが嬉しいやら恥ずかしいやら」

夏目「・・・そうなのか」

秀輝「他人なんてどうでもいいと思ってたのが、ちょっともったいないって気づいた
   ヴェガに乗って、律に出会って、琴吹さんたちを見てて・・・」

夏目「・・・」

梓「・・・」

秀輝「うわ・・・いつからそこに・・・」

梓「今来たばかりですよ」

夏目(急に現れるな中野は・・・)

秀輝「・・・よかった、聞かれてなかったか」

梓「静花さんがどこにいるか知りませんか?」

秀輝「知らないけど?」

夏目「・・・」

梓「そうですか・・・。むぎ先輩が部屋に居なかったというので探していたんです」

秀輝「どうして探してるの?」

梓「展望車でお茶会を、と」

夏目「・・・」

梓「車掌さんに聞いてきます」

スタスタ

夏目「・・・」

秀輝「居ないのかな」

コンコン

ガチャ

静花「居ますわよ」

夏目「あれ・・・?」

静花「誰かと思ったら、秀輝さんですか・・・。
    人の個室の前でずっとお喋りをされても困りますわね」

秀輝「・・・すいません」

静花「なにかご用ですか?」

夏目「中野が探していました。琴吹さんが呼んでいるそうですよ」

静花「・・・どうしてですか?」

秀輝「展望車でお茶会を開くと・・・」

静花「・・・先ほどのノックは紬さんでしたのね」

夏目「・・・」

静花「電話をしていたので、対応できませんでしたの。・・・遠慮すると伝えてくださるかしら」

秀輝「・・・」

ヒノエ『やれやれ、ちっとも話が進展しないねぇ』

夏目「・・・」

静花「まだ、なにか・・・?」

秀輝「少し聞きたいことがあるんですけど・・・いいですか・・・?」

静花「・・・なんですの?」

秀輝「えっと・・・」

夏目「琴吹さんとは以前から知り合いなのではないでしょうか」

秀輝「・・・!」

静花「・・・」

夏目「・・・」

静花「仮にそうだとして、それがあなたたちとどんな関係があるのですか?」

夏目「!」

ヒノエ『本人同士の問題に首を突っ込んでいるだけだからねぇ』

秀輝「はっきり言ってしまえば関係ないですね」

静花「なら、関わらないでくれますか?」

夏目「・・・」

ヒノエ『どうすんだい、夏目』

秀輝「静花さん、勝負はどうするんですか?」

静花「・・・無効ですわ。どうでもいいことです」

夏目(勝負・・・?)

秀輝「そうですか。・・・では、もう一つだけ教えてください」

静花「・・・」


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