夏目「一時的ですが、力が備わってしまった為に妖が存在する世界を目の当たりにしました。
   その力を維持しておくのは危険なんです。琴吹さんが持っていていい力ではない。
   それがどういうことなのか、おれは痛いほど知っている」

多軌「夏目くん・・・」

梓「・・・」

夏目「みなさんにとっては『知らなくていい』世界なんです・・・」

ヒノエ『そういうことさ』

先生「空幻狐」

クー「・・・いいんだな」

先生「私に関することだけでいい、消してやってくれ」

クー「みんな、この手をみるんだ」

律「・・・?」

唯「手・・・?」

澪「?」

梓「・・・」

紬「・・・っ!」

先生「・・・やれやれ」

どろん

斑『手をみろ、小娘』

梓「む・・・?」

紬「・・・」

斑『おまえ達の記憶から、私が消えるだけだ。それは大したことじゃない。
  私は妖なんだからな』

紬「こんな一方的な・・・強制的な別れ・・・」

斑『出会いと別れなんて、こんなものだ』

紬「・・・!」

梓「・・・」

斑『さらばだ、娘・・・ネコ娘』

クー「斑という化け物は存在しな~い」

グルグル

律「・・・」

唯「・・・」

クー「存在しな~い・・・」

澪「・・・」

梓「・・・」

紬「・・・」

クー「存在しな~い・・・・・・」

グルグル


――・・・


美咲「・・・はっ」

昇「起きた?」

美咲「た、高上!?」

昇「よかった・・・」

美咲「ど、どうして私高上の腕の中で!?」

律「おぉ、ロミオ・・・!」

澪「うるさいぞ、スザンヌ」

律「誰だよ! ジュリエットだよ!」

紬「そうね、二人はまるでシェイクスピアね」ウンウン

唯「即席の舞台を用意したくなる雰囲気だよね」

梓「どんな雰囲気ですか」

美咲「な、なに! この人たち・・・! もしかして高上の文通相手!?
   いえいえ、落ち着くのよ美咲・・・。高上がそんな見境なく文を送るわけないわ」

昇「あ、あの・・・佐倉さん?」

律「なにか呪文を唱えだしたぞ」

美咲「はっ! ・・・私を広島へ連れてきたのはそういうことだったの・・・!?
   『おれには文通相手がいるんだから、悪いな佐倉』ってこと・・・!?
   それに可愛い人揃い・・・! 私なんて引けにとりまくり・・・!
   そ、そりゃ・・・私だって、日々高上のために精進しているつもりだけど・・・  
   なんていうか、紅葉さんみたいな、みなさんとはレベルが違うっていうか次元が違うっていうか
   あぁー、ただでさえ天弧さんやコウさんと同棲している高上なのにー!
   また五人も参戦ってどういうことなのー!」

昇「あの・・・。商店街の福引で当たって・・・父さんの分を佐倉さんに・・・聞いてるかな・・・?」

多軌「様子はどう?」

美咲「増えた!?」ガーン

律「なんか元気そうだから行こうぜ」

紬「そうね」

唯「活舌がよすぎて逆に聞き取れなかったよ・・・」

澪「・・・あ、あの二人は・・・いい間柄だと思う・・・ぞ・・・」プシュー

梓「もう一度鳥居をくぐりませんか?」

紬「そうね、潮も引いているからちょうどいいわね!」

美咲「付いてきた私だって悪いけど・・・それは高上が誘ってくれたからで・・・
   そうよ、遠くに居る相手が文通相手なら、近くに居る私にだってできることがあるはず
   文字で言葉を伝えるから・・・。そう、交換日記! これで距離を縮めることができるはず
   頑張るのよ美咲・・・!」

昇「おーい、コウー!」

コウ「お呼びがかかりましたので、行ってまいります」

クー「うむ」

斑『・・・』

夏目「・・・」

ヒノエ『・・・』スゥ


紬「夏目さんも行きませんか~!」


斑『行って来い』

ヒノエ『ここで待ってるよ』プフー

夏目「あぁ・・・」

クー「お礼になにをいただこうかな」ルンルン

斑『夏目に言え』

クー「やったぁ~♪」ウキウキ

秀輝「先生・・・そこにいるの?」

斑『・・・』

クー「どうして返事をしてやらんのだ」

斑『・・・めんどくさいヤツだ』

どろん

先生「なんだ」

秀輝「俺の記憶は残っているんですけど・・・」

先生「おまえの記憶を消したらまた器が小さくなるではないか」

秀輝「・・・さ、さようですか」

多軌「みんなでくぐりましょう」

夏目「そうだな・・・」

律「あのさ、夏目のお姉さんっていつ降りたんだっけ?」

紬「挨拶してないわ」

澪「そういえば・・・」

梓「タキが乗ってきたのは大阪ですよ」

律「・・・じゃそこからか・・・?」

多軌「はい。みなさんによろしくって!」

紬「・・・」

唯「う~ん、お姉さんにちゃんと別れの言葉を言いたかったよ」

澪「・・・そうだな」

夏目「満ちてくる前にくぐりましょう」

律「だな!」

澪「・・・うん!」

唯「くぐったら異次元に辿り着きそうだよ」

澪「ヒィッ」

多軌「今のはちょっと怖かったね・・・」

夏目「・・・あぁ、神隠しだな」

律「集団神隠しか・・・怖ぇ・・・」ブルッ


紬「・・・いつか」ボソッ

梓「むぎ先輩?」

紬「なぁに?」

梓「空を眺めて・・・どうしたんですか?」

紬「まだまだ知らない空の下、どこまでも続いているんだなぁって・・・」

梓「・・・そうですね」

紬「・・・」カシャッ

梓「? 写真に残すんですか?」

紬「――うん」

梓「・・・記録ですね」

紬「――あずさちゃん」

梓「なんですか?」

紬「――この空に想いを残せたら素敵ね」



―――――中央通り


クー「なんか悪いなぁ~♪」ルンルン

昇「悪い、夏目・・・」

夏目「お礼だから気にしなくていいよ」

クー「さっそくいただきまーす」パクッ

透「クーちゃん、おいしい?」

クー「おいしいぞぉ~、透も食え食え!」

透「夏目さん、いただきます」

夏目「どうぞ」

透「はむっ」

クー「どうだ? おいしいだろ、もみじまんじゅう」

透「おいしい~」

律唯「「 かわいい~ 」」

澪「お礼って・・・?」

夏目「色々と・・・お世話になったので・・・」

澪「・・・そうか」

梓「そろそろ行きましょう」

紬「そうね、ヴェガは夕方に出発だから・・・。うん、余裕よ」キラン

唯「あ、わたしも行くよ~」

澪「律は・・・?」

律「行くぞ・・・あ」

菜々子「みんな揃ってなにしてんの?」

律「姉御も一緒に弥山にいきましょうぜ」

菜々子「もう少しで仕事なんだ。遠慮しておくよ」

律「・・・そうですかぁ」

紬「りっちゃん、行きましょう~」

律「あ、私はいいや・・・。みんなで行ってきてくれ」

唯「分かったよ」

澪「じゃあな」

梓「列車で」

律「むぎぃー・・・、誰も引き止めてくれねえー・・・」シクシク

紬「りっちゃんには私がいるわ」ヨシヨシ

律「む、むぎ・・・!」

梓「しょうがないですね」

唯「りっちゃんは甘えん坊だね」

澪「・・・そうだな」

律「み、みんな・・・!」

紬「一緒に行く?」

律「ううん、みんなで楽しんできてくれ」

唯澪梓「「「 それじゃ 」」」

紬「あとでね、りっちゃん」

律「あれー・・・、結束が固まったと思ったんだけどなー・・・」

菜々子「楽しそうだね」

秀輝「・・・夏目」

夏目「ん?」

秀輝「先生と多軌さんは?」

夏目「弥山へ・・・。みんなと鉢合わせするかも・・・」

秀輝「みんなそれぞれか・・・。じゃ、俺もここでな」

夏目「あぁ・・・」

秀輝「ちょっと一人で考えることがあるから・・・。列車で」

夏目「・・・」

律「秀輝も色々悩んでいる様子だなぁ」

菜々子「・・・」

クー「おいしい~!」モグモグ

美咲「・・・」ジュルリ

コウ「美咲様・・・涎が・・・」

美咲「は、はしたないわっ私!」

昇「佐倉も食べよう」

美咲「優しいのね高上・・・。でもダメッ!
   旅館の豪勢なご飯をたくさん食べてしまったからダメーッ!」

昇「そうですか・・・」

美咲「たっ高上が悪いわけじゃなくてっ」アセアセ

透「お兄ちゃんたちはいつ帰るの?」

夏目「夕方・・・。昇とおなじ時刻だよ」

透「そうか~。広島楽しかったね、にーちゃん」

昇「そうだな、楽しかった」

クー「食いもんもおいしかったしな!」

菜々子「そ、それじゃな、律・・・」

律「あ、姉御に聞きたいことが・・・」

菜々子「?」

夏目(えっと・・・どうしよう・・・)

律「むぎのことなんだけどさ・・・」

菜々子「歩きながら話そうか」

夏目「・・・」

クー「じゃっあな~」

昇「見送りに行くよ」

夏目「あ、あぁ・・・」



―――――中央通り


律「昨日のお好み焼きの後・・・、静花さんから聞きました?」

菜々子「・・・なんのこと?」

律「むぎのこと」

夏目「・・・」

菜々子「聞き出そうと思ったんだけどさ、・・・踏み込めなかったよ」

律「・・・そうですかぁ」

夏目(呪いをかけた妖を介して琴吹さんと静花さんの夢を見たんだ、あれはきっと・・・過去の記憶)

菜々子「・・・」

夏目(二人は過去に会っている・・・はず・・・)

律「むぎがらしくない表情をするんですよ・・・」

菜々子「・・・うん」

律「・・・それは、どうしてかなって考えたとき」

夏目「・・・」

律「この旅で出会った人と別れた後、それが濃くなっているなと・・・思って」

菜々子「・・・そっか」

夏目(おれの口からは・・・二人が知り合いだということは絶対に言えない。
   妖を介してなんて、今の律さんには受け入れられないから)

律「・・・」

夏目「律さん、中野の心の・・・」

律「心の?」

夏目「あ、えっと・・・。琴吹さんのそういう表情って、中野も気づいて・・・?」

律「あぁ・・・。うん、気づいている。むぎと連鎖して梓も少しらしくない表情をする
  いや、してた・・・のかな・・・」

夏目(中野の心の隙はそれだったのか・・・)

菜々子「・・・」

律「菜々子さん、静花さんってどういう人ですか・・・?」

菜々子「高飛車で世間知らず・・・、口が悪くて性格も悪い。そういうヤツだから友達はゼロ」

律「・・・」

菜々子「私とアイツは波長が合わないっていうか、
    反発しあってる磁石のようなもので・・・お互いを引き付けない存在だよ」

夏目「・・・」

律「・・・嫌い?」

菜々子「当然。ことある毎にケンカしてんだ。これで仲がいいっていう人は分かっちゃいないね」

夏目「・・・」

菜々子「・・・でも、憎めない。そんなヤツだよ。鹿島静花って」

律「・・・なるほど」

夏目(仲がいいだけでは言えない事を平気で口に出せる間柄・・・とも受け取れる・・・かな)

菜々子「・・・」

秀輝「あ、あれ・・・?」

律「どうしたんだよ、こんなとこで」

菜々子「一人で観光か? 寂しいヤツだな」

夏目「・・・ほんとに」

秀輝「」グサッ

律「観光名所なだけあって、お土産店が多いな~」

菜々子「お店を覗いてみても、売ってるのは大体同じなんだよな」

律「そうそう、それに同じ値段だから意味ないですよね」ウシシ

菜々子「あはは」

夏目「・・・なにか買っていこうかな」

秀輝「親に?」

夏目「・・・うん」

律「親孝行息子だなっ!」

菜々子「うん、優しい子を持ったな」

秀輝「大人しいから手もかからないんだろうな」

夏目「あ、・・・すいません・・・。今お世話になっている人は・・・本当の親じゃないんです」

律「え・・・?」

菜々子「・・・」

夏目「おれの両親は、小さい頃に亡くなって・・・。
   今は遠縁にあたる人たちの家にお世話になっているんです」

秀輝「・・・」

律「・・・そっか」

菜々子「・・・へぇ、苦労してんだね」

夏目「・・・いえ」

秀輝「夏目って苦労してそうなのに、曲がってないよなー・・・」

律「そうだなー。秀輝だったら曲がりくねって地面に刺さるだろうな」

菜々子「どういう意味さ」

律「夏目の木は太陽に向かってまっすぐ育っていくイメージ」

秀輝「なるほど。俺の木は育つにつれて地面に還ろうとしてんだな、曲がりすぎて」

律「なにを言っているんだ、大丈夫か?」

秀輝「言い出したの誰!?」

夏目「ぷっ・・・!」

菜々子「変な漫才してんじゃないっての」

夏目「あっはははははっ!」

秀輝「・・・」

律「笑われてやんの」ウシシ

夏目「ふふっ・・・くっ・・・すまんっ・・・秀輝っ・・・」

秀輝「謝られるのも違うけどな・・・」

菜々子「・・・」


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