若菜「ある日、いつものように『それではまた明日』と別れの言葉を口にするわたくしの手をつかんでこう言いました」

夏目「・・・な、なんと?」

若菜「『走るよ』と・・・」

静花「どきどきしてきましたわ」

光「・・・」ゴクリ

若菜「運転手から逃げるように必死に手を引っ張って、走ってくださいました
   わたくしが行ってみたいと思っていた、そこの三年坂まで・・・二人、手を繋いだまま」

静花「まぁ・・・」ウットリ

若菜「わたくしにとっては大冒険でした。見るもの全てが新鮮で、輝いていて」

光「・・・」

若菜「存分に遊びました。わたくし、あの日のことは絶対に忘れられません」

夏目「・・・」

若菜「あ、すいません。喋り過ぎてしまいましたね」

静花「それで、その方とはずっと一緒でしたのね」

若菜「いいえ。あの方は、その日からそう経たずに転校していきましたので」

光「それは・・・悲しい・・・」

若菜「はい。とても悲しくて、寂しくて・・・」

夏目「・・・」

若菜「でも、あの方と一緒に見つけたオルゴールがありましたから、
   一緒に過ごした日々を想い出すことができて、幸せでした」テレテレ

静花「ピュアですわ・・・」ハァ

光「せつなさの扉を開いてしまいましたね・・・」ハァ

若菜「・・・」カァァ

夏目「その人と待ち合わせしてるんですよね。再会できたということですね」

若菜「はい。去年の春に再び会うことができましたので」

静花「・・・再会ですか。羨ましいですわね」

夏目「?」

光「大冒険か・・・いいね。わたしも小さい頃よくしてたよ」

若菜「そうですか。胸が打つあのドキドキは忘れられません」

光「・・・うん」

静花「それで、そのお方はいつくるのかしら?」

若菜「待ち合わせ時間が10時ですから・・・」

光「もうそろそろですね」ワクワク

夏目(もしかして・・・、相手を見るつもりなんじゃ・・・あれ?)

夏目「2時間も前から待ってた・・・?」

若菜「は、はい・・・」ポッ

静花「あっつぃですわねー・・・」

光「夏ですからねー・・・」

若菜「でも、少し不安なんです・・・」

光「?」

若菜「梓弓 引かばまにまに依らめども 後の心を知りかてぬかも――」

静花「今のあなたの心境というわけですのね」

若菜「・・・はい」

光「なるほど・・・」

夏目(あれ、この言葉・・・)

「わか・・・な・・・?」

若菜「あ・・・」

静花「出ましたわね、噂の彼」

光「出ましたね」

「えっと・・・?」

若菜「わたくしが絡まれているところを助けていただいたんです」

「そうか・・・。若菜を助けてくれてありがとうございます」

静花「まぁ・・・素敵な殿方ですわね」

光「わたし、こういうものです」

「これはご丁寧に。ルポライターの方なんですね」

光「はい。披露宴の招待状をそっちに送ってくだされば駆けつけますので」

若菜「ひ、光さんっ」カァァ

「そうですか。分かりました」

若菜「な、納得しないでくださいっ」

静花「・・・くっ」

光「不安は解消できたみたいですね」

若菜「は、はい」カァァ

夏目「・・・?」

静花「末永くお幸せに」

光「ごきげんよう~」ニコニコ

夏目「・・・」

俺「それではこれで」

若菜「失礼します」

スタスタ

静花「・・・いい間柄ですわね」

光「はい」

夏目「・・・」

静花「それでは私もこれで失礼しますわ」

光「はい。いい出会いでした。どこかでお会いしましょう」

静花「そうですわね、幸先のいい出会いでしたわ。ごきげんよう」

スタスタ

夏目「・・・そろそろ駅に戻らないと」

光「夏目さんも、いい旅を」

夏目「・・・それでは、失礼します」

スタスタ

光「・・・色んな出会いがあるからやめられないなぁ」ウキウキ

ドルルルルルン

「光ちゃーん、お待たせ~」

光「先輩、やっと来たんですね」

「あはは、ちょーっと時間がかかっちゃって。ごめんね」

光「いいですけど、先輩ってなんでも楽しそうですよね」

「それは能天気ってことかな~?」

光「ふふっ」

秀輝「あ、ゼルビスだ。珍しい」

光「お、私の相棒を知ってるなんて・・・キミも中々通だね」

秀輝「あはは、そうですかね。4年前に北海道で旅をしていた人と同じ型なんでビックリしました」

「4年前・・・北海道を入っていたゼルビス・・・」

光「どうかしたんですか、先輩?」

「キ、キミ・・・北海道を旅していた、その人の名前覚えてる?」

秀輝「え? ・・・えーっと・・・」

「わ、私の名前は滝沢――」



―――――ヴェガ


紬「さっきの女性ライダーのお二人格好よかったわ~」キラキラ

澪「そ、そうか・・・」

唯「見てなかったよ」

律「バイクねぇ・・・。姫子が似合いそうだな」

紬「あら、夏目さん」

夏目「今戻ったんですね。・・・お帰りなさい」

澪「おぉ・・・」

律「なにが『おぉ・・・』なんだよ」

澪「家かと思った」

律「弟いないだろ」

唯「たっだいま~。あずにゃん知らない?」

夏目「見てませんけど・・・」

唯「そっか~、どこへ行っちゃったんだろ」

澪「先に乗っているのかもな」

律「むぎの勘で探してくれ」

紬「車掌さんと一緒よ」キラン

唯「行ってくるよ!」

テッテッテ

紬「あ・・・。売店へ行ったわ」

律「適当か!」

夏目「・・・それでは」スィー

紬「うふふ」スィー

澪「また飛び乗る事になりそうだから・・・って、むぎと夏目はどこだ!?」

律「いつの間に・・・忍者ですネ」

澪「誰の真似だ」

律「忍者の衣装着てみたいよなー」

澪「さわ子先生に作ってもらえ」

律「マジで作りそうだな・・・やめとこ」

澪「それを着て演奏させられそうだな・・・」ブルブル

夏目「うわっ!」

紬「どうしたの?」

夏目「なっ、なんで付いてくるんですか・・・!?」

紬「気にしないで~、先生さんは?」

夏目「先生にさん付け・・・。個室で寝てますよ」

紬「もうお昼だけど・・・」

夏目「・・・」

紬「あら・・・あずさちゃん」

夏目「あ・・・あの人・・・」


静花「ハァッ・・・ハァッ・・・少し詰めすぎましたわね・・・」

梓「・・・」

静花「よいっしょ・・・よいっしょ・・・ふぅ」

梓「あ、あの・・・」

静花「なにかしら?」

梓「手伝いましょうか?」

静花「まぁ、ご親切に・・・。それではこの小さいほうをお願いできます?」

梓「はい。ヴェガに乗るんですか?」

静花「そうですわ。あなたも乗りますの?」

梓「はい。乗客・・・!」

静花「乗客でしたのね。助かりましたわ」

梓「・・・!」ズシッ

ポン

梓「?」

紬「私に任せて」キラン

梓「むぎ先輩」

静花「?」

紬「よいしょ」

ヒョイ

梓「・・・すごい」

紬「しゃらんらしゃらんら~」

スタスタ

静花「・・・」

梓「待ってください!」

テッテッテ

静花「つむぎ・・・ちゃん・・・」


夏目「静花さん・・・ですよね」

静花「えっ!?」ビクッ

夏目「?」

静花「い、今の聞こえまして!?」

夏目「・・・今の?」

静花「な、なんでもないですわ・・・」ホッ

夏目「静花さんもヴェガに乗車するんですね」

静花「そ、そうですわ」

夏目「おれも乗っているんです。これからよろしくお願いします」

静花「えぇ」

紬「すいませ~ん」

静花「今行きますわ! ・・・ちっとも・・・」

夏目(ちっとも・・・? ・・・なんだか嬉しそう・・・)

静花「・・・おっと、いけませんわ」コホン

スタスタ

夏目「・・・」

『 あのムスメか 』

夏目「ッ!?」ゾワッ

夏目「・・・『居る』!」

秀輝「な、夏目・・・?」

夏目「秀輝・・・!?」

秀輝「どうした、顔色が悪いけど・・・?」

夏目「いや・・・なんでもないよ」

秀輝「・・・」

律「なぁ夏目、むぎ知らないか?」

澪「夏目のあとを付けていった気がするんだが」

夏目「あっちに・・・あれ?」

律「どっち?」

夏目「さっきまで・・・。多分乗車口にいると思います」

澪「そうか・・・。ありがとう」

夏目「いえ・・・」

律「行くベさ、澪べえー」

澪「どこ育ちだおまえは」

スタスタ

『 あのムスメもそうだな 』

夏目「!」ゾワッ

シュッ

夏目(気配が消えた!?)

秀輝「おい・・・夏目・・・?」

夏目「あ、あぁ・・・なんでもない」

秀輝「・・・」

緑「また食べてないの?」

夏目「え・・・?」

緑「朝食のこと」

夏目「そう言えば・・・」

緑「体が持たなくなるわよ」

スタスタ

秀輝「・・・」

夏目「それより先生のとこに行かないと・・・。じゃあ後でな」

タッタッタ

秀輝「なにか『見た』のか・・・な・・・」

prrrrrrrrr


ガチャ

夏目「・・・」

先生「ぷー、ぷー」

夏目「先生・・・先生!」ユッサユッサ

先生「ぷー」グラグラ

夏目「・・・今までずっと隠れていたのか」

『そうさ』

夏目「・・・ッ!」

『忌々しい斑の力を少しずつ奪っていたのさ』

夏目「ど、どうして先生の名を・・・!」

『怨恨を抱く相手の名を忘れるわけがないだろう』

夏目「な・・・!」

『おまえは斑の友人のようだから教えてやる。この怨みの深さを』

先生「ぷー、ぷー」

夏目「せ・・・先生の・・・!」

『私の友人をそいつは喰ったんだよ』

夏目「!!!」

先生「ぷー、ぷー」

『忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい』

夏目「――ッ!」

『  忌々しい  忌々しい  忌々しい  忌々しい  忌々しい
 忌々しい  忌々しい  忌々しい  忌々しい  忌々しい
    忌々しい  忌々しい  忌々しい  忌々しい  忌々しい
  忌々しい  忌々しい  忌々しい  忌々しい  忌々しい 』

夏目「ぐッ」グラリ

『おっと・・・今おまえに倒れてもらってはつまらん・・・』グイッ

夏目「・・・おまえっ・・・うっ」

『障気に当てられたか・・・。弱い人の子よ』

夏目「っ・・・!」

『なんならそのまま寝てしまってもいいんだぞ。起きたころには取り返しのつかない事になっているがな』

夏目「おまえっ・・・なにをっ・・・」

『あのムスメ、心に隙を持っているな』

夏目「!」

『分かりやすいヤツめ。私は知っているぞ。じっくりと・・・見てきたんだからな』

夏目「やめっ・・・ろ・・・」

『誰がやめるか。この為に力を付けてきたんだ』

夏目「おれに・・・憑けばいいだろっ・・・!」

『それも知ってる。他人を守るために、自分を犠牲にする・・・。それは人の子の持つ美学だよ』

夏目「・・・っ」

『それが崩れていく最高の光景もな!』

夏目(やばい! 今まで出会った中で最悪だッ!)

先生「ぷー、ぷー」

『ふふ、斑を潰してもつまらん。その友人であるお前を壊しても忌々しいコイツと同じ事をするだけだ、それでは足りん』

夏目「・・・やめろって言ってるだろ!」

『やめないさ。いつまでも上にいる気でいるなよ、小僧』

夏目「・・・やめろ!」

『うるさいよ。ちゃんと聞いていろ。まだ曲目を述べているだけだ』

夏目「やめろッ!」

『這いつくばっていろ!』

ドサッ

夏目「うぐッ」

『おまえらを潰してもつまらん。では、どうするか』

夏目「・・・ッ!」

『ムスメを呪ってやる』

夏目「――ッ!」

『そう、その顔さ。その顔が徐々に諦めに入っていくんだ。その瞬間はどんな味がするんだろうな』

夏目「やめ・・・ろ・・・」

『二人のうちどちらにするか、選ばせてやろうか』

夏目「・・・」

『なんだ、もう落ちるのか・・・。様子を伺うだけ時間の無駄だったようだな』

夏目(意識が・・・)

『ちっ、弱すぎるぞ』

夏目「」

『まぁいい・・・。怨みの時間だけ楽しませてもらう』

シュッ

夏目「」

先生「ぷー、ぷー」

コンコン

「夏目ー?」


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