8月11日



秀輝「おはよう」

夏目「・・・」

秀輝「外に出ないか?」

夏目「・・・うん」








―――――京都駅前


秀輝「先生は?」

夏目「寝てるよ」

秀輝「・・・そうか。これ、俺のおごりだから食べてくれ」

夏目「・・・」

秀輝「今のうちに食べないと後で大変なんだよ。スケジュール的に」

夏目「・・・。あのさ・・・秀輝」

秀輝「・・・」

夏目「・・・黙っていて、すまなかった」

秀輝「・・・」

夏目「・・・」

秀輝「『あやかし』って、妖怪のことだよな」

夏目「・・・あぁ」

秀輝「そういう存在が俺の近くに居たのか・・・」

夏目「・・・ッ」

秀輝「・・・すまん。悪い方にとらないでくれ。見抜けなかったのが口惜しいっていうニュアンスで聞いてくれ」

夏目「・・・」

秀輝「娘とネコ娘って誰のこと?」

夏目「琴吹さんと中野の二人」

秀輝「知っているんだ、先生が『あやかし』だってこと」

夏目「昨日の昼後に・・・」

秀輝「琴吹さんは分かるけど、中野さんにまで比べられたのか・・・」

夏目「?」

秀輝「『器が小さい』って・・・言われただろ」

夏目「・・・」

秀輝「多分、生きててこれ以上ないほどショックを受けたと思う」

夏目「・・・」

秀輝「それを認識していたのに、また指摘されてな・・・」

夏目「それが問題だったのか・・・?」

秀輝「え?」

夏目「先生が・・・妖だという事は・・・問題じゃないのか?」

秀輝「・・・」

夏目「そういう存在が隣に『居た』んだ・・・」

秀輝「それはそれ、これはこれ。なんだと思う」

夏目「どうでもいい・・・のか・・・?」

秀輝「いや、どうでもよくないよ。ただ、・・・失礼な話だけどさ
   俺は先生が遺伝的な病気か何かだと思い込んでいたんだ
   だから年が離れていても見た目が若いんだってさ・・・。人だと信じて疑わなかった」

夏目「・・・」

秀輝「驚いたし、ショックも受けた」

夏目「・・・」

秀輝「でも、夏目と先生が松本から乗ってきて、ある程度一緒に時間を過ごしていなかったら、
   先生のことをよく知らなかったら全く別の反応をしていたんだと・・・思う」

夏目「・・・そうか」

秀輝「だけど、それより先生に言われた言葉の方がきつかった・・・。器が小さいってさ・・・」

夏目「そうか・・・。よかった」

秀輝「よくねえよ・・・」

夏目「ふふ、先生もちょっと落ち込んでいた風だから」

秀輝「なんで?」

夏目「妖と人が繋がる事なんてゼロに等しいんだよ、
   おれはレイコさんからその力を受け継いで関わっていけているだけなんだ」

秀輝「そのレイコさんというのは・・・?」

夏目「亡くなった祖母だよ」

秀輝「・・・そうか。どうして先生はその名を借りているんだ?」

夏目「先生と祖母は友人という間柄だったんだ。先生はレイコさんの容姿を借りている」

秀輝「あの姿が若かりし頃の夏目のお祖母さん・・・か」

夏目「あぁ」

秀輝「なんか、変な感じだな」

夏目「レイコさんの姿の先生を姉と呼んで、一緒に旅をしているなんて・・・」

秀輝「そっか・・・、夏目にそんな話があったのか・・・」

夏目(ここでこんな話が出来るのは・・・見知らぬ土地で見知らぬ誰かと過ごしているからだろうか・・・)

秀輝「大阪、広島、博多・・・。あと4日か・・・」

夏目「秀輝の器が小さいなんてことはないよ」

秀輝「でも大きくはないんだよな」

夏目「・・・」

秀輝「ちぇっ」

夏目「ふふ」

秀輝「それ、食べないんだったら先生にあげてくれ」

夏目「分かった。そうする」

秀輝「もぐもぐ」

夏目「これから観光?」

秀輝「うん。エレナたちに比叡山に誘われているんだよ」

夏目「ふーん・・・」

小麦「秀輝くーん、澪ちゃん知らないー?」

秀輝「秋山さん? まだ出てきてないからヴェガにいるんじゃないかな?」

小麦「そっかー・・・」

秀輝「どうしたんだよ?」

小麦「ブレスレットをね、完成したから渡したいんだー。見つけたら引き止めておいてねー」

秀輝「おっけ~。俺はここで待ってるからさ」

小麦「うん! また後でー!」

テッテッテ

夏目「朝から元気だな・・・」

秀輝「うん・・・。小麦のいいところだ」

夏目「・・・どうした?」

秀輝「小麦のことでちょっとな・・・」モグモグ

夏目「・・・」

秀輝「夏目はどこへ行くんだ?」

夏目「新京極にでも行ってみようかなって・・・」

秀輝「そういえば・・・俺と一緒に観光したことないよな・・・?」

夏目「そういえばそうだな」

秀輝「・・・」モグモグ

夏目「ありがとう・・・。それじゃ戻るよ」

秀輝「いいって、そんなお礼を言われるほどの量じゃないから」

夏目(先生の件も含めてだけど・・・)

ガチャ

夏目「まだ寝てるのか・・・」

先生「ぷー、ぷー」

夏目「先生、秀輝は先生を怖れていないよ」ナデナデ

先生「ぷー」

夏目「そういえば、昨日ライドウからもらった・・・ソーマ、使ってないのかな」

先生「ぷー、ぷー」

夏目「・・・」

夏目(一人で行ってみよう)



―――――新京極


夏目(しまった・・・人が多い・・・)

「わ~、おいしそ~」

「ほんとだ、京都といったら生八ツ橋だよな」

夏目(先生になにか買おうと思ったけど、・・・一人は)

秋子「あ! 貴志さんじゃないですか~!」

夏目「あ・・・」

秋子「偶然ですね~、ここで会えるなんて!」

夏目「・・・そうですね」

秋子「人が多いのに知ってる人いなくて、少し心細かったんです~!」

夏目(・・・そうは見えない)

秋子「一緒に見て周りませんか?」

夏目「・・・はい」

秋子「きゃ~! 嬉しい~!」

夏目(ちょっと気が楽になった・・・)








――・・・


秋子「付き合ってくれてありがとうございました!」

夏目「いえ、お土産を一緒に選んでくれて・・・ありがとうございます」

秋子「いえいえ、それくらいお安い御用ですから~!」

夏目「・・・」

秋子「その四つ葉のカード、貴志さんのお母様も喜んでくれると思います!」

夏目(・・・ウソではないよな)

秋子「それではこれで、失礼しますね!」

夏目「・・・はい」

秋子「またヴェガでお会いしましょ!」

テッテッテ

夏目「今から清水寺に行って、ヴェガの発車時間に間に合うのかな・・・」

夏目(ヴェガに戻るか・・・)



―――――とある公園


夏目(あの女の人、まだ居たのか・・・1時間前にもいたよな・・・)

女の子「・・・」

夏目(昨日ここで色んな事が起こったな・・・)

「京都案内してやるって~」

「清水寺からダイビングしたつもりでさ~」

女の子「あの・・・困ります・・・」

夏目(うわ・・・絡まれた・・・)

女の子「も、申し訳ありません・・・わたしには心に決めた殿方が・・・」

「あぁ~、人が優しくしてりゃ~」

「京都の盆地よりへこむぜ~」

夏目「」ビュウウウ

「寒いですわね、もっと勉学に励みなさいな」

勉学が足りない男「あぁ!? ってでかっ!」

寒い男「胸囲的な意味ででかっ!」

「・・・」

夏目(割って入るべきだろうけど、どうにかできそうな気も・・・)

女の子「あ、あの・・・」

「あなたが気に病む必要はございませんの」

女の子「は、はぁ・・・」

男1「昨日のでか女とは違って、でらべっぴんさんじゃけえ」

男2「昨日は参ったな・・・」

「放っておいて行きましょうか。時間の無駄ですわ」

女の子「よろしいのでしょうか・・・」

男1「よろしくねえよ、こっちきなお譲さん」グヘヘ

男2「あんたも俺たちと遊ばねえ?」

「この私と!? オーッホッホッホ」

女の子「・・・?」

男1「俺変な事言ったか?」

男2「言ったんじゃね?」

「この私をどこの誰とも存じず、よくも軽い口が聞けますわね~!」

女の子「・・・」

男1「・・・」

男2「いいから来いよ!」ガシッ

お嬢様「離しなさい、汚らわしい」ペシッ

男2「ぷっちん切れたぞ!」

男1「・・・嫌な予感がするから帰ろうぜ・・・」

夏目「ちょっと待っ」

「もういいでしょう、その辺にしておいてはどうですか?」

男2「あぁ!? しゃしゃりでて・・・おぉ!! 
   バンダナがイカスべっぴんさんキタけぇ!」

お嬢様「・・・これはひどい有様ですわね」

バンダナ「そうですね・・・」

男1「・・・」

夏目「あの・・・」

女の子「は、はい・・・?」

夏目「今のうちに去った方がいいと思う」

女の子「で、でも・・・わたしのせいで」オロオロ

夏目「それなら、少し離れていたほうがいいと・・・」

女の子「・・・?」

男2「モテ期来たんじゃね?」

男1「う、うん・・・」

お嬢様「ハァ・・・。ここまでおバカさんだと、将来真っ暗ですわね」

バンダナ「・・・はい」

男2「俺は怒った。よぉし、力ずくで惚れさせてやる」ポキポキ

男1「最低だコイツ・・・」

バンダナ「・・・どうぞ、来なさい」カムカム

男2「おりゃああああ」

バンダナ「・・・ッ」

シュッ ゴスッ

男2「ぐふっ」

お嬢様「空手ですの?」

バンダナ「はい、琉球空手です。寸止めのつもりが・・・すいません」

男2「て、手加減された・・・!」

お嬢様「まぁ、素敵ですわ。強い方は好きです」

バンダナ「ありがとうございます。そっちは?」

男1「改心します。すいませんでした」ペコリ

バンダナ「・・・そうですか」

お嬢様「賢明ですわね」

男1「昨日のでか女といい、もう懲り懲りだ。行こうぜ」

男2「・・・はい」

タッタッタ

お嬢様「でか女・・・嫌な方を思い出しましたわ」

バンダナ「・・・?」

お嬢様「なんでもありませんの、そこのお方」

女の子「は、はい」

お嬢様「もう大丈夫ですわよ」

夏目「・・・」ポカーン

バンダナ「あなたがその子を守っていてくれたんですね」

夏目「いや・・・。見ていただけです・・・」

女の子「わ、わたくし、綾崎若菜と申します」

お嬢様「私の名は、鹿島静花」

バンダナ「島田光といいます」

夏目「・・・」

若菜静花光「「「 ・・・ 」」」ジー

夏目「え、あ・・・夏目貴志・・・」

若菜「助けていただいたこと、誠に感謝致します」ペコリ

静花「気にする事ではないですわ」

光「うん。あの手の輩はどこにでもいるから、気をつけてね」

若菜「はい」

夏目(1時間もいたら絡まれるものかもしれないな・・・)

光「京都美人ですね」

静花「そうですわね。可愛らしいですわ」

若菜「そ、そんな・・・!」カァ

静花「まったく、ああいう輩は本当に面倒ですわ」ヤレヤレ

光「そうですね。わたしも行く先々で色んな人に出会いますから、手を焼いています」

若菜「まぁ、それでは色んな土地を?」

光「うん。南は沖縄から、北は北海道・・・にはまだ行ってないけどね」

若菜「まぁ、うふふ」

静花「逆ですわね。私はこれから南に行きますの」

光「そうなんですか、きっといい旅になるんでしょうね」

静花「そうだとよろしいのですが・・・」

夏目「?」

若菜「あの方と同じように全国を津々浦々・・・」ポッ

静花「頬を赤らめましたわね」

光「?」

夏目「心の決めた殿方・・・?」

若菜「わ、わたくしったら・・・」ポッ

静花「そこのベンチが空いていますわね」

光「飲み物買ってきます」

夏目「・・・・・・え?」

若菜「今日、ここで待ち合わせしているんです」

静花「それで、どういう人なの?」

光「詳しく聞かせてくださいな」

夏目(なんでおれまで・・・)

若菜「あの方とお会いしたのは・・・小学6年生の春が過ぎた頃です」

静花「ふむふむ」

光「なるほど」メモメモ

夏目(先生起きたかな・・・)

若菜「わたくしの家は厳格な家柄ですので、外で遊ぶ事は許されていなかったんですね」

静花「・・・」フンフン

若菜「学校が終わると車の迎えが来て、すぐに家に戻されていました」

光「・・・」フンフン

若菜「その方、転校生でしたので、そんなわたくしの家の事情なんて知らなかったのです」

夏目(・・・ヴェガの発車までにはまだ時間あるけど)

若菜「ですから、わたくしがまっすぐ家に帰ることに疑問を持っていたそうなんです」

夏目「・・・」


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