8月9日


先生「おい、起きろ。夏目!」ユッサユッサ

夏目「ぅん・・・?」

先生「腹が減った、飯だ!」

夏目「いま・・・」

チッチッチ

夏目「まだ6時じゃないか・・・」モゾモゾ

先生「起きろーっ!」ピョンピョン

夏目「ぐっ・・・はねるなよっ」

店員「申し訳ありません、準備にもう少し時間がかかります」

レイコ「・・・!」

夏目「ふぁあ・・・」

レイコ「いつから食べられるんだ」

店員「7時からとなっております」

夏目「あ・・・、すいません。こっちに表示されてますね、後でまた来ます」

店員「はい。失礼します」

夏目「・・・」

レイコ「駅の売店で・・・む?」

夏目「どうした?」

レイコ「あれを見ろ、夏目」

夏目「・・・あれって・・・松浦さんだな」

レイコ「あの荷物は帰るのか」

夏目「律さんも一緒だな・・・。行ってみよう」

夏目「先生、松浦さんに憑いていた妖って・・・」

レイコ「・・・うむ」

愛「おはようございます」

律「おっはよーん!」

夏目「おはようございます・・・」

レイコ「・・・」

夏目「・・・」

愛「?」

律「な、なんだよ・・・妙な表情しやがって・・・」

夏目「あ、いえ・・・。なんでもないです」

レイコ「帰るのか?」

愛「・・・・・・・・・はい」

律「これから見送るところだぜー」

夏目「・・・そうですか・・・・・・」

愛「あの、ありがとうございました」ペコリ

夏目「え・・・?」

愛「・・・」

律「ただの挨拶だぞ」

夏目「は、はい。・・・お元気で」

愛「はい」

レイコ「・・・」

愛「私、家出してきたんです」

夏目「!」

律「・・・」

愛「私・・・何かと運が悪くて・・・」

レイコ「・・・」

愛「私の不幸で家族や友達に迷惑をかけるのがいやで、嫌われるのが怖くて・・・」

夏目「・・・」

愛「逃げてきたんです」

律「・・・っ」

愛「でも、・・・私がここにいても、律さんや秀輝さん、澪さん・・・みなさんに迷惑をかけてしまって
  私がどこにいても、それはもう避けられないんです」

夏目「・・・!」

愛「でも、私は一人で生きていけませんから・・・。そんな自分を受け入れて・・・
  これからは、人を好きになれるように・・・。人を好きな自分を好きになろうと思います」

律「~ッ!」

愛「少ししかご一緒できませんでしたけど」

夏目「・・・うん」

愛「お元気で」

夏目「うん」

愛「いい旅を」

レイコ「無力な人の子が、自分の力で祓ったか」

夏目「すごいな・・・」

レイコ「うまく退けたんだ。これからは大丈夫だろう」

夏目「先生、松浦さんを気にかけていたのか?」

レイコ「まぁな、普通の人の子がどう対処するのか興味があった」

夏目「・・・へぇ」

秀輝「お、早いな。おはよう」

夏目「秀輝・・・」

秀輝「まだ曇っているけど、昼には晴れるそうだぜ」

レイコ「・・・ふむ」

夏目「松浦さん帰るってさ」

秀輝「・・・え?」

夏目「聞いてなかったのか?」

秀輝「帰るとは聞いていたけど、朝一とは聞いてなかったな・・・」

レイコ「・・・」

秀輝「・・・挨拶してくるよ」

夏目「うん・・・」


レイコ「まだか・・・」

夏目「まだ5分も経ってないよ。・・・7時まで後30分くらいだな」

レイコ「・・・」イライラ

車掌「あら?」

夏目「あ、車掌さん。おはようございます」

レイコ「おはよう」

車掌「おはようございます」

夏目(先生が挨拶をした・・・!)

紬「車掌さ~ん・・・、おはよう夏目さん、お姉さん」

夏目「おはようございます」

レイコ「・・・」

車掌「どうかなさいましたか?」

紬「りっちゃんと愛さんの姿が見えないのですが、どこへ行ったかご存知ですか?」

車掌「愛さんが降りられましたので、お見送りにいかれましたよ」

紬「まぁ・・・!」

車掌「東京行きの3番ホームですね」

紬「ありがとうございます。私も見送りしてきます!」

テッテッテ

車掌「・・・丁度、発車の時刻なのですが」

夏目「え・・・」

レイコ「・・・」

『東京行き急行列車、只今電気系統のトラブルにより運転を見合わせています。もうしばらくそのままでお待ち下さい』

夏目「あ・・・」

車掌「これはどちらの“運”でしょうね」クスクス

レイコ「二人の“運”だな」

夏目「松浦さんの運が悪いからじゃないのか?」

レイコ「祓ったからといって、劇的に変化はせん。・・・が」

夏目「・・・が?」

レイコ「今まで奪われていた“運”が返還される。そう見ていいだろうな」

車掌「それでは、紬さんに劣らぬ“運”を・・・?」

レイコ「そうだ。この停車が何を意味するか、それは知らんが・・・」

車掌「なるほど・・・」

夏目(先生の言葉を疑いも無く聞いてる・・・)

レイコ「・・・まだか」

夏目「あと25分だから」

レイコ「・・・どうしてこうも長く感じるのだ」

車掌「うふふ、食堂車ですね」

夏目「・・・そうなんです」

車掌「もう少々お待ちくださいませ。それでは、失礼します」

夏目「はい・・・」

レイコ「・・・ふぁ」

夏目「・・・ふぁあ」

レイコ「まねをするな」

夏目「・・・イラつきすぎだぞ、先生」

レイコ「・・・まだか、夏目!」

夏目「・・・あと15分だから」

レイコ「えぇい、もう弁当にするぞっ!」

夏目「しょうがないな」

紬「あら?」

律「まだいたのか」

レイコ「・・・」

夏目(しずかになった・・・)

紬「りっちゃんさんも気が利きますのぉ」ツンツン

律「むぎさんこそぉ」ツンツン

夏目「?」

レイコ「おい、あいつはどうなった」

律「えっと・・・?」

紬「どちらでしょうか?」

レイコ「メガネをかけた方だ」

夏目「松浦さん?」

律「愛ちゃん?」

紬「?」

レイコ「電車が動かなかっただろう、それでなにか起こったのかと聞いている」

律「特急な、特急列車」

紬「愛さんにお別れの挨拶ができました」

夏目「・・・」

律「あぁ、そう言う事か。・・・うっしっし」

レイコ「なにがあった」

紬「大村さんと愛さんを二人っきりにさせました」ニコニコ

夏目「どういう事ですか・・・?」

律「鈍いヤツだな。秀輝はな、愛ちゃんを気にかけていたわけだ」

紬「うんうん」

レイコ「・・・」

律「愛ちゃんも秀輝を気にしていたからな。私とむぎがキューピットになったのさ!」

紬「こうやって」グググッ

律「おぉ、弓がしなっております」

紬「こうっ」ビシッ

律「飛んでいったー! ってな」

紬「梓弓 引かばまにまに依らめども 後の心を知りかてぬかも――」

夏目「・・・?」

秀輝「なにしてんの?」

律「お、ちょうどいい所に。貸しを一つとってやるよ」ニヤニヤ

秀輝「マジで!?」

紬「おぉー」

レイコ「・・・」

律「マジで、マジだぞ」

秀輝「でも・・・どうして?」

律「愛ちゃんを幸せにしろよ! 色男!」

紬「クラッカーがあれば」アタフタ

秀輝「勘違いしてないか・・・?」

律紬「「 え・・・? 」」

秀輝「俺、愛ちゃんに別れの挨拶しただけだぞ?」

律「え・・・」

紬「・・・どうして」

秀輝「確かに俺は愛ちゃんを気にかけていたけどさ、それは恋ではないよ」

律「ちょっと待て! 愛ちゃんから・・・その・・・」カァ

秀輝「・・・うん。でも、受け取れなかった」

紬「そんな・・・」

秀輝「愛ちゃんに必要なのは俺じゃなくて、律のような」

律「このやろぉー!」ギュッ

秀輝「ぐっ・・・首が・・・ッ」

レイコ「・・・まぁ、落ち着け」

律「落ち着いていられるかよ!」

紬「りっちゃん。大村さんの言葉を最後まで聞きましょう」

律「・・・・・・うん」

夏目「・・・」

秀輝「げほっ」

律「聞いてやる・・・言ってみろ・・・」

秀輝「うわ・・・マジで怒ってる・・・」

夏目(黙ってみているしかないな・・・)

秀輝「琴吹さん、俺って律に似てる?」

紬「いいえ」キッパリ

律「なんだよその質問は・・・」ゴゴゴ

秀輝「律が愛ちゃんに元気を、前を向く勇気を与えたんだ」

律「はぁ?」

秀輝「俺に律を重ねていただけなんだよ。それは、恋でもなんでもないだろ」

紬「・・・うん」

律「・・・」

秀輝「それには応えられない・・・」

夏目「・・・」

レイコ「・・・ふむ」

律「で、似てるってのは?」ジロ

秀輝「俺が律に少しでも似ていたら、俺は愛ちゃんに恋をしていたと思う」

律「よく分からんこといいやがって」

秀輝「すまん、律」

律「謝るな、愛ちゃんに失礼だろ」

秀輝「・・・そうだな」

律「貸し、3つ加算だ!」

紬「まぁ・・・」

秀輝「・・・」

律「行くぞむぎ!」プンスカ

スタスタ

秀輝「・・・」フゥ

紬「りっちゃんは本気で怒っていないわ」

秀輝「そうだといいけど・・・」

紬「それじゃ、あとでね」

秀輝「名古屋城ね、みんなと行くよ」

紬「うん。夏目さんたちも、ね」

テッテッテ

夏目(せっかくだし、行ってみるか)

秀輝「・・・」

レイコ「去っていった娘はちゃんとお前に『別れ』を言えたんだ
    スッパリ忘れて前を向ける。中途半端な気持ちで応えないで正解だぞ」

秀輝「ありがとう・・・ございます・・・」

夏目「・・・」

レイコ「時間だ」

夏目「本当だ・・・よく分かったな」

秀輝「朝ごはん?」

レイコ「そうだ」

秀輝「俺も行くよ」

夏目「うん」


店員「いらっしゃいませー!」

レイコ「朝食セットだ」

夏目「おれも同じので」

秀輝「おれも・・・あ」

「・・・」

秀輝「北上さんも朝ごはん?」

緑「・・・」

スタスタ

夏目「無視されたのか・・・?」

秀輝「されたな・・・」

レイコ「はやくこい」

夏目「・・・」


店員「ありがとうございましたー!」

レイコ「うまかったぞ」

店員「あ、ありがとうございます!」

夏目(なんか、やりとりが上手になってきたな・・・)

秀輝「夏目、さとみちゃん達とも一緒に行くからさ、8時30分に駅前でどうだ?」

夏目「そうだな・・・」

レイコ「先に行くぞ」

夏目「悪い、先に行ってる」

秀輝「うん。そんじゃ、名古屋城でな」

スタスタ

レイコ「集団で歩きたくないからな」

夏目「そうだったのか」


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